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1643 余計なトラブルの予感

 結局、ビルは来なかった。


 1人で勝手に帰ったとかではない。

 衛兵の詰め所で足止めを食っていたのだ。


 あまりにも遅いからケータイの位置情報をチェックしたんだよね。

 そしたらずっと同じ場所に留まってるんだもんな。


 連絡も入れられる状況じゃなさそうなので【天眼・遠見】スキルで確かめましたよ。

 そしたら衛兵の詰め所にいた訳だ。


 取調室みたいな部屋で融通の利かなそうなオッサンと対面で座ってるんですけどね。

 なんだか疲れ切った表情をしているんですよ、これが。


 どうやら既に一通りの話をしたように見受けられる。

 それも繰り返し何度も同じことを喋った後の雰囲気が漂っていた。

 尋問を受けて説明したけど信じてもらえなかったというところか。


 この様子では簡単には釈放されないだろう。

 何がどうなったのかは分からんが、トラブルに巻き込まれたのは確実っぽい。


 思わずツッコミを入れたくなったさ。

 何やってんだぁってな。


 まあ、全力で我慢したけど。

 ここで居もしない相手にツッコミを入れるのは危ない人だけだろうし。

 古い刑事ドラマの主人公たちじゃないんだから格好いいと思ってもらえる訳はない。


 この場にいるのがミズホ組だけなら、いつもの妄想癖かと思われるだけで済むんだけど。

 護衛騎士付きの5国連合にアカーツィエ組までいる中では、ただのヤバい人だ。

 変な人認定されるなど真っ平である。


 それに、そんなことに煩わされている場合ではないからな。

 解決しなければならない問題ができてしまったのは頭の痛い問題だ。


 如何にしてビルを合流させるか。

 実に悩ましいところだ。

 この状況を知っているのは俺だけだからな。


 まあ、スマホを使って情報共有させることはできるけどさ。

 それにしたってミズホ組に限定されてしまうのがネックだ。


 うちの国民以外の面子に【天眼・遠見】スキルで見ましたなんて言える訳ないし。

 絶対にややこしくて面倒なことになるのが目に見えているもんな。


「ん?」


 不意に城門の辺りから人が近づいてくるのを感じ取って視線を向けた。

 衛兵だ。


「む、何かあったようだな」


 ハイラントが表情を硬くする。


「はいはい、、ハイラントくん。

 そんな顔をしてはいけないのだよ」


 サリュースがたしなめた。


「衛兵が萎縮してしまうだろうに」


「そうは言うがな」


「いやいや、深刻な問題が発生したとは限らないよ」


「とりあえず報告があるんだろうから話を聞けばいいじゃねえか」


「うむ、同感だ」


 ランスローの言葉にルータワーも同意する。


「まったく……

 他人事だと思って言ってくれるではないか」


 ハイラントが仏頂面で愚痴とともに溜め息を漏らす。


「とりあえず聞いた方がいいんじゃないですか」


 スタークが促した時には衛兵は目前まで迫っていた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 いかにも新人といった感じの真面目そうな衛兵は涙目になっていた。


 無理もない。

 国王陛下に自ら報告せねばならないというあり得ない状況に置かれているのだから。


 小隊長から賢者を呼んでこいと命令された。

 連れを暴漢として連行したから身元引受人として同行を促す。

 それだけのはずだったのだ。


 小隊長曰く、お使い感覚でできる簡単なお仕事である。

 新人自身もそう思っていた。


 ところが蓋を開けてみれば想像したのとは真逆の事態が発生している。

 捕らえた暴漢の言った場所に賢者は確かにいたのだが。

 国王陛下も一緒だとは想像だにしなかった。


 この時点で聞いていないと思ったのは言うまでもない。

 おまけに同盟国の王族までもが一緒だった。

 ますます話が違うと感じた。


 しかしながら、彼らを無視して任務を遂行などできる訳がない。

 必然的に王様への報告が先になった。

 予定はすっかり吹っ飛んだと言える。


 小隊長は奥の手だと言っていたが、強引に賢者を連れて行くこともできやしない。

 逆に自分の知る限りのことを洗いざらい白状させられた格好だ。


 まあ、何も悪いことをしている訳ではない。

 小隊長の思惑通りに事態が進んでいないだけのことである。


 新人はそう考え直した。

 あとで八つ当たりされそうなのが嫌なところだけれど。


 が、そろそろ我慢も限界だ。

 今までの分も含めて隊長に報告書を上げることにしようと衛兵は密かに決意していた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「本当に間の悪い男だな」


 衛兵の報告を受けた直後にハイラントが漏らした言葉がこれだ。

 ビクッと衛兵が震えた。

 そりゃあ王様にそんなこと言われてビビらない下っ端はいないだろう。


 ましてや新人である。

 ずっと緊張しっぱなしで目一杯の状態が続いていた中での一言だ。

 酷く叱責されたように感じたのではなかろうか。


 そう思うと罪悪感が湧きそうになる。

 実際にはわずかに同情しただけなんだが。


 新人くんの意識がハイラントたちに向けられていたからだろう。

 俺たちミズホ組は傍観者って訳だ。

 これなら街道の方にいる野次馬たちと変わらんな。


 ちなみに連中の中で近づいて来ようとした商人が何人かいた。

 石壁を眼前に展開して警告したら大半は引っ込んだけど。


 それでも向かってこようとした連中は静電気でビリッとしてもらいましたよ。

 警告を無視したんだから少しは痛い目を見てもらわないとね。


 それでも向かってこようとする剛の者もいたけど。

 そういう輩は麻痺だ、ドン。


 念のため魔法を使う前に鑑定したら碌な奴じゃなかったからな。

 麻痺させたついでに変装を解いて偽造の身分証は分解の魔法で消滅させた。


 手配中の犯罪者だと騒ぎにはなったが、知ったことではない。

 逮捕するのは衛兵の仕事だ。


 それより問題は連行されたビルの方である。

 引き留めている奴のせいで、こうなっているのだと思うと意趣返しを考えてしまうな。

 新人くんについては何とも思わないのだが。


「ああ、いや、お前のことではない」


 すぐに訂正するハイラント。

 新人くんの恐縮ぶりを目の当たりにして、さすがに哀れに感じたんだろうな。


「どうする、ハルト殿?」


 視線をこちらに向けて聞いてくる。

 たったそれだけのことで新人くんが震え上がった。


 ハイラントの俺に対する態度を見て察することがあったようだ。

 この様子だと新人くんに指示を出した上司は碌でもない輩っぽいな。

 少なくとも生真面目な堅物タイプではないだろう。


 身元引受人として指名されるとは思ってなかったがね。

 そう、俺を指名してきたのはビルではなく小隊長だったのだ。


「どうもこうもないさ。

 俺が迎えに行かなきゃ解放されないんだろう?」


 なんとなくだが、この先の展開が読めてきた。

 有り体に言ってしまうと罠だろうな。


 新人くんの報告によれば、ビルは暴漢として連行されたそうだし。

 大方、俺のことを暴漢の親玉か何かだと思い込んでいるのだろう。


 手柄を立てたいという思いがそうさせているのか。

 あるいは賄賂などの別の目的があるのか。

 そのあたりは読み切れないが。


「捕まるんじゃないか?」


 ランスローがそんなことを問うてきた。


「何故です!?」


 目を丸くするスタークは衛兵の報告を額面通りに受けたようだ。

 まあ、報告したのは新人くんだからな。

 その言葉を信用したくなるのも無理からぬところであろう。


 ただし、それを言わせている奴がいることを失念しているが。


「ハルト殿の連れは暴漢として連行されたんだろうが」


 実際は相手の方が悪かったようだが。

 街中でケンカをしたという事実のみで相手もろとも捕縛したそうだし。

 証言者がいたそうだが取り合わなかったとも聞いた。


 まあ、こういう情報はハイラントたちが一緒にいなければ聞き出せなかっただろう。


「だからこそ身元を保証すれば済む話ではないですか」


 真っ当な相手であればな。

 それが見抜けていないスタークの発言を耳にしてランスローは呆れ顔になっていた。


「んな訳ねえだろ。

 身元引受人なんてのは呼び出す名目にすぎねえよ」


「そんな無茶苦茶なっ」


「何処が無茶なものかよ」


 フンと鼻を鳴らすランスロー。


「だからお前は経験不足だっつうの」


「ぐっ」


 痛いところを突かれたスタークが声を詰まらせ固まってしまうのであった。


読んでくれてありがとう。

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