1640 驚きが強いからこそ受け入れがたい?
5国連合やツバイクたちアカーツィエ組だけフォローすれば良いかと思ったのだが……
その考えが甘かったことに気づかされるのはすぐだった。
事前にスリープメモライズで情報を渡していたはずのオセアンが同様な状態だったのだ。
こうならないよう細心の注意を払ったはずが茫然自失。
綺麗サッパリと言えるくらい真っ白である。
目の前に手をかざしたくらいじゃ戻ってきやしませんよ。
そのまま手を振っても同じだった。
かなりの重症である。
ウソだと言ってよと叫びたくなったさ。
夢でもウソでもなく現実なんだけど。
とにかく、どうしてこうなったのか皆目見当がつきません。
あまりに謎すぎて詳しく説明を求むと言いたいところだ。
どう考えても答えられる者がいないけどな。
おそらくオセアン自身にも説明はできないだろう。
それ以前にそういう状態ではなかったが。
まさに、どうしてこうなった状態だ。
あそこまでギリギリの調整で衝撃を受けないようにしたはずが、と思ってしまう。
あれ以上の調整は無理だ。
困難至難ではなく不可能である。
情報を譲渡しても意味をなさなくなってしまうからな。
もしかしてギリギリすぎたのか?
ふと、そんな風に考えた。
あれは夢ではなく現実だったのかとショックを受けたのだとしたら……
今になってショックを受けているのも分からなくはない。
後々の影響を考えなかった訳ではないのだ。
学校で徐々に慣らしていく中で受け止められるようにしようと考えていたからな。
こういう格好でネタバレ的に話すことになるのを想定していなかったとも言う。
俺としては刺激控えめになるようにしたつもりだったのだが。
どうやら、つもりでしかなかったようだ。
記憶の譲渡の時点で問題はなくても、いきなり掘り返されるとパニックに陥る。
今回の一件がそうだ。
これはイレギュラーと言えるだろう。
それが結果として裏目に出たのは間違いなさそうである。
が、同時に想定が甘かったと指摘されても反論の余地がない。
配慮するって難しいのな。
そう思うと同時に申し訳なさが罪悪感ゲージを跳ね上げていく。
とはいえ、どうしても通らねばならない道でもあるんだよな。
バーグラーなどを潰してきた件はミズホ国の歩んできた歴史だからね。
国民として知らぬままというのは問題があると思うのだ。
故に伝えないという選択肢はなかった。
タイミングを考えろと言われると、ぐうの音も出ないところだけどな。
とはいえ、やってしまったものは仕方がない。
時間を巻き戻すことなどできないのだから。
まあ、ポジティブに考えよう。
これを機会にオセアンには強く生きてもらいたい。
え? 豆腐メンタルの俺が言うなって?
確かに……
返す言葉もございません。
俺も精進しないとな。
豆腐メンタルがそう簡単にどうにかできるとも思えないんだけど。
さて、ラストはカエデである。
オセアンほどではないだろうという希望的観測があるのは否めない。
もし予測を大きく外していたらどうしようという不安もあるんだけどね。
そうなると離れた場所で控えているカエデを見るのが怖くなってきた。
同じように情報を渡していたオセアンが思った以上だったからなのは言うまでもない。
とにかくオセアンの様子を見る前のような余裕は何処にもなかったさ。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
あれやこれやと話をしてサリュースに覚悟を決めてもらうこととなった。
同行するのはサリュースだけのようだからな。
厳密に言えば、彼女が引き連れているインサ王国の面々もなんだけど。
とにかく5国連合の他の面子は来ない。
だったらバスの中で話をすれば良かったのではないかと言われそうだが。
そこは他の面子にも腹をくくってもらわないとならないという訳がある。
5国連合が守るという協定を結んでいる相手の膝元で暴れる予定なんだから。
そう、既に荒事になることが前提である。
サリュースたちに聞いたけど、ナンバー2がクズなんだってさ。
別の言い方をするなら老害だそうだ。
ただ、ルベルスの世界の老人は意外に若いからなぁ。
実年齢を確かめないとなんとも言えないところである。
さすがにアラフォーってことはないと思うけど。
……思い込みは危険か。
新しい時代をつくるのは老人ではないと言ったアラサー未満の人がいるくらいだし。
まあ、某アニメ作品の中での話だけどな。
「とにかく話は分かった」
表情をこわばらせたサリュースが重々しく頷いた。
彼女にしては珍しい反応と言えるが、まだマシな方だ。
5国連合の残りの面子はまさに顔面蒼白な状態になっていたからな。
それでいてランスローなどは恨みがましい目を俺に向けている。
表情から読み取るに──
「そういう話は俺のいないところでしてくれ」
とでも言いたいのではないだろうか。
周囲に他の面子がいなければ、そういう類いの抗議をしてきたと思う。
ツヴォ王国の王太子としての面子にかけてヘタレたところは見せられないって訳だ。
国を潰した話をした結果なので、そうなっても誰もヘタレとは言わない気がするけど。
言う者がいるとするなら、それは想像力が欠如していると思う。
もしくは自分の目で見たことしか信じないタイプか。
要は俺たちミズホ組の話を真に受けないということだ。
5国連合の面々は最終的に信じたけどね。
なんだかんだ言って泥棒貴族の一件が判断材料として働いたみたい。
あとハイラントが太鼓判を押したのも大きいだろう。
最終判断をする前に5人で顔をつきあわせていた中で保証したのだ。
すんなりとそこに辿り着いた訳ではないけどね。
「いくら何でも、そりゃねえって」
ランスローがごねるように、あり得ないと主張していた。
常識的に考えれば間違った考え方ではないけどね。
ただし、西方の常識だ。
ミズホ国の常識ではない。
まあ、ランスローはミズホ国民ではないからな。
そこを理解できていないのは仕方のないところである。
「決めつけは良くないと思うのだがな」
ルータワーはランスローの意見に反対する側だった。
「ハルト殿たちは、まるで底が知れんのだぞ」
酷い言われようだ。
それでは俺たちが化け物みたいじゃないか。
え? みたいじゃなくて、そう言ってる?
国ひとつ消すのが常識で片付けられるほうが普通じゃない?
そんなこと言われてもなぁ。
ミズホ国の常識は西方の非常識だからしょうがない。
俺たちにとっては普通なので化け物ではありません。
ちゃんと人間種な訳だし。
人外になるつもりもない。
人間種の枠を超えることになるとしたら亜神ってことになりそうだからね。
なんか仕事ばかりで楽しくなさそうに思えるんだよな。
まあ、ルベルスの世界の場合は何処かのおちゃらけ亜神が元凶になってるっぽいけど。
お仕置き前提で引っかき回すという神経が信じられないんですがね。
懲りない相手ほど疲れるものはないよ。
もしかして体を張って俺たちに忠告してくれているのか?
亜神になんてなるもんじゃないって。
……無いな。
そんなの体を張るにしても一度で充分だ。
「怖いことを言わないでくださいよ」
スタークがギョッとしてルータワーを見やった。
「我々の常識など軽く凌駕しているのは明らかだぞ」
「それはそうですけど……」
納得しつつも納得がいかないらしく言い淀む。
俺たちのことを見てきていないなら完全否定しているところだろう。
「いくら何でも規模が違うじゃないですか」
泥棒貴族の一件を指して言っているのは明白だ。
確かに規模は違う。
「そこだけを見ておるならな」
「どういうことです?」
「あれだけのことを平然とやってのけたのを見落としていないか」
「別にそういうことはありませんが」
「いや、お主は意図的に考えておらぬ」
「意味が分かりません」
読んでくれてありがとう。




