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1631 玄関ホールで朝食を?

 屋台で外れを引いた時でさえ、そうそうアレンジ飯なんてできやしないのだ。

 旨くないと言われて我慢していられる店主だけではないだろうからな。

 特に自尊心の強い店主の場合は。


 では、食堂で外れを引いたらどうするのか。


 マズいと文句を言う。

 これは自ら地雷原に踏み込むようなものである。

 店主によっては不発に終わる可能性だってあるかもしれないが。


 そうは言っても絶対の保証がある訳じゃない。

 誰が好き好んで自爆しようとするのか。

 押すなよの台詞を繰り返すベテラン芸人じゃあるまいし。


 それなら店主や従業員の目を気にせずアレンジ飯にする方がマシである。

 まあ、それはそれでアウトだとは思うがな。

 店側から出禁にされても文句は言えない訳だし。


 となればギリギリのラインで調味料で誤魔化すのがせいぜいか。

 やはり、それも限度はあるけどな。


 調味料で修正可能なら外れとは言わないだろうし。

 結局、どうもしないで食べきることになると思う。


 え? マズければ残せばいい?

 外れ中の外れならね。

 お残し厳禁がモットーの俺としては可能な限り食べきりますよ。


 現に日本人だった頃に食べたケチャップ味のカレーライスも完食したからね。

 あれぞ、ザ・マズメシだったさ。

 カレーの味なんて探さないと見つからないってくらい感じられなかったんだから。


 一口目のインパクトときたら……

 なんでケチャップ?

 そんな疑問が自然と湧き上がってきたからな。


 え? それのどこがカレーライスなのかだって?

 あれなら確かにケチャップライスと言われた方がしっくりきたとは思う。


 だが、しょうがない。

 喫茶店でカレーライスを注文して出されたものがそれだったのだ。


 しかもマズい。

 とにかくマズい。

 あんな腕前でよく喫茶店をする気になったなって誰でも思うはずだ。


 まあ、じきにエターナルな閉店に追い込まれていたけどね。

 故にこうして話のネタになる訳だ。

 外れを引くことも無価値ではないのである。


 あとで話題になった時に──


「あの店のあのメニューは酷かったよなぁ」


 と笑いながら思い出を語ったりもできるって訳だ。

 中にはそんなものを超越した極悪なのもあるとは思うがね。


 病院送りにされたとか。

 店主が警察に逮捕されたとか。

 弁護士案件になったとか。


 そういう意味では俺のマズメシ体験は笑い話で済むレベルだったのだろう。

 ある意味、運が良かったと言えそうだ。


 だからといって外れを毎回引くのは勘弁願いたいけどな。

 芸人じゃないんだし。


 今回の旅の様子は間違いなくテレビ放映されるから、そういうのは求められそうだけど。

 バラエティよりの番組になるか純粋な旅番組になるかは俺たちの運しだいである。


「屋台じゃないのにここで食べるんですか?」


 不思議そうな顔をしてウルメが聞いてきた。

 他のアカーツィエ組も同じような表情で頷いていたりする。

 召喚魔法風に倉庫から引っ張り出せばテーブルの椅子も自在に出せるさ。


 あるいは……


「回転寿司は屋台じゃないしな」


 という手もある。


「それはそうですが……」


 できれば勘弁してほしいと顔に書いているウルメである。


 まあ、昨日はしこたま寿司を食べていたからな。

 続けては遠慮したいと思うのも道理というものか。


 ならば寿司を除外すればいい。

 日本の回転寿司ってサイドメニューも豊富だし。


 ミズホ国ではあえて控えていたけどね。

 サイドメニューまで寿司だと勘違いされて普及するのを避けたかったからだ。


 今回の場合はサイドメニュー限定でラインナップも増やせば受け入れられると思う。

 流れるシステムが受け付けない訳ではないだろうし。


 言うなれば──


「回転寿司ならぬ回転レストランという手もある」


 ということだな。


「何ですか、それは?」


 ウルメはすぐには想像がつかなかったのか首をかしげている。


「食堂のメニューを回転寿司のように皿を流す形式で出すんだよ」


 俺としてはわかりやすく説明したつもりだった。


「……なんだか凄そうですね」


 上を見上げながら難しそうな顔をしたウルメがそんな感想を漏らした。

 そこまで大袈裟な話だろうか。


「そんなに凄くはないぞ」


 思わず苦笑してしまう。


「皿は回転寿司と同じサイズなんだし」


「あっ」


 ウルメが驚きの声を上げた。

 どうやら食堂で提供されるメニューのまんまで流れてくると思っていたようだな。


 いくら何でもそれはない。

 単品で流さないと色々と不都合が生じるのは目に見えているからな。


 デカい皿が流れてくるのは見た目にインパクトがあって面白いとは思うがね。

 そんなことを考えていると……


「回転レストランって何処かの展望台みたいよね」


 マイカがボソッと呟いた。


 それは皿ではなくフロアの方が移動する代物のことだな。

 円形の外周部が徐々に移動することで全周囲で景色を楽しめるのが売りだ。


 維持費などの都合で日本では減りつつあるようだけど。

 根強い人気はあると思う。

 知る人ぞしるって感じでね。


「そういえば、そんなのがあったっけ」


 ミズキが首をかしげている。


「新喜劇を見た後で晩ご飯を食べるために行ったりしたよね」


「そうそう、京都のとか」


「神戸のも良かったよ」


 懐かしがって盛り上がる2人。

 ホームシックにかかっている訳ではなさそうだけど。


 逆に不安になった。

 そういうのを作ろうとか言い出しそうな雰囲気を感じたのでね。


「もしもし」


 そこへトモさんが参入していく。


「何よ、トモ助」


「回転式の展望レストランは東京にもあることをお忘れなく」


 そんな指摘をしていた。

 地元が東京なのに2人が関西のネタで盛り上がっていたからか。


 負けてられないと対抗したようだ。

 トモさんは、こういうところで話を広げてくるのが上手いよな。


 確かに有名どころがあった気がする。

 しかも俺たちが生まれる前から都心の一等地にあったような。


 当然のごとく格式の高い店な訳で……

 学生時時代の俺では手を出しづらかった覚えがある。


 俺が鉄道ファンだったら気合いを入れて予約を入れたかもしれなかったけどね。

 生憎と鉄オタではない自分が予約することはなかった。


 ちなみに回転式の展望レストランはもう1軒あったはずだ。

 そちらも予約必須の高級志向だったので大学生だった頃の自分では行けなかった。


 予算的にというより、雰囲気に負けてしまうんだよな。

 地元に残ったミズキやマイカも行かなかったようだし。

 行かなきゃ話題にもできない訳で。


 え? そちらは今はフロアが固定されてる状態だって?

 知らんがな。

 俺が転生した当時は動いていたと思うんだけど。

 いずれにしても行く気はなかったし今更感はある。


「知ってるけど」


 マイカがあっさり返事をした。


「けど?」


「旅行でもないのに散財はできなかったわよ」


 予想通りの返答がカウンターで入った。


「ぐはっ」


 トモさん、KOである。

 リアルで倒れ込まなくてもいいとは思うんだけど。


 相変わらずサービス精神が旺盛だ。

 子供組なんかはキャーキャー言って喜んでいる。


 起き上がりながらトモさんはニッと笑ってVサインをした。

 一応は受けたからだろう。


「朝っぱらから子供みたいなことをしないでください」


 フェルトには怒られてしまうんだけどな。


「はい」


 最終的にシュンとして小さくなるトモさんであった。


 とはいえ、トモさんはこういう店を見つけるのが上手いよな。

 日本人だった頃には何度か世話になったものだ。

 もちろん高級店は除外してもらったけどさ。


 ああいうお店って雰囲気に気圧されて食べてる気がしないのでね。


「えーっと……」


 ツバイクが話に入ってこられずに困惑している。

 聞いていても何のことやらサッパリだっただろうし。


「……………」


 ウルメは空気を読んで沈黙潜行モードに入ってしまっていたし。


「まあ、地元ネタはそれくらいにして朝食タイムだ」


 強引に話を切り替えて回転寿司のシステムをドンと引っ張り出した。

 もちろん召喚魔法テイストなのは言うまでもない。


 おまけと言っては何だが、出た直後からバイキング風の料理が流れてもいる。

 和洋中と何でもござれだが、寿司だけは回避した格好だ。

 これで誰からも文句は出ないだろう。


 え? 寿司が食べたい面子がいるかもしれない?

 そこまでは知らん。

 いくら俺が[過保護王]でもな。


読んでくれてありがとう。

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