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1629 登録完了がそんなに凄いことなのか

 ガブローにカエデたちの転入届を受理してもらうよう頼んで電話を切った。

 スマホはあえて倉から引っ張り出して使っている。

 実際に使うところをカエデとオセアンに見せたかったのでね。


 思惑通り2人は興味深げに俺のスマホを見ていた。

 オセアンはどちらかと言えば遠慮がちにではあったけど。


 少なくとも本人はそのつもりのはずである。

 というのも、チラ見しようとして明らかに失敗している感じなのだ。


 一方でカエデは普通に見ている。

 前のめりにはなっていないけれど興味を押し隠そうとはしていない。


「今のが電話ですか?」


 確かめるように聞いてくることからも、興味津々なのは明らかだ。


「ああ」


「こうして見ていると、凄く便利ですね」


「慣れると、そういうのは意識しなくなる」


 その言葉を耳にしてオセアンが唖然としている。


「……………」


 完全に言葉を失っていたからな。

 カエデもそこまではいかないものの似たようなものだった。


「にわかには信じ難いですが……」


 とか言ってしまうくらいだ。

 物珍しさが際立っているせいなのかもな。


 見たこともない魔道具で遠く離れた場所の相手と会話ができてしまう。

 それだけでも衝撃的なんだろう。


 セールマールの世界でも初めて電話ができた時はそうだったのではないだろうか。

 特許の登録が少し遅れていれば別人が発明したことになっていたそうだけどね。


「それは慣れてないからだ」


 俺がそう言うと、カエデは一瞬だけ呆気にとられた顔をした。


「確かに」


 そして苦笑いする。


 一方でオセアンは唖然としたままだ。

 しかしながら驚きすぎとは言えないだろう。

 このあたりは個人の感覚の差があると思うからね。


 ただ、同期であるはずのカエデとは著しく違うのが不安を感じさせてくれるけど。

 今後もあれやこれやと見せたり勉強してもらったりするんだし。


 衝撃の連続で心臓が止まったなんてことにならないといいんですがね。

 さすがに、それはないか。


 ……ないと思いたいだけかもしれない。

 とにかく注意は必要だろう。

 斥候型の自動人形を貼り付けて定期的に……


 いかんな。

 どうしても[過保護王]の称号に引っ張られてしまう。


 こんなの皆に知られたらなんと言われることやら。


「大丈夫か?」


 だから、つい聞いてしまうんだよな。

 それだけでも皆からは生暖かい視線をプレゼントされてしまうんだけど。


「はい、なんとか……」


 硬い表情で返事をするオセアン。

 本当に大丈夫なのか?

 そう思わざるを得ない。


 皆も俺じゃなくてオセアンの方へと視線を変えている。

 これはいつもの過保護って訳じゃなさそうだと思い始めているようだ。

 俺の方をチラ見して申し訳なさそうな顔をする者まで出始めた。


 いや、そんな目で見られてもね。

 最初から見切っていた訳じゃないんだよと言いたくなったくらいだ。

 最初は俺も過保護コースに入ったなと思ったくらいなんだから。


 何にせよ雲行きが怪しくなってきたのは事実である。


「これから先もこういうのが目白押しになるぞ」


 念のためオセアンに警告する。


 覚悟を決めてもらわにゃならんからな。

 決して大袈裟なことではないと思う。

 これがカエデ相手であるなら、覚悟を求めるのは違和感を感じただろうけど。


「うっ」


 俺の言葉にオセアンはたじろいだ様子を見せた。

 この有様だもんな。


「まあ、気をしっかりな」


「はひ」


「大丈夫だって」


 返事を噛んでしまうオセアンに苦笑を禁じ得ない。


「驚いたくらいで死んだりするようなことにはならないから」


 心肺停止くらいはあるかもしれないが。

 その時は蘇生させればいいだけの話である。

 脳死じゃないんだから、ちゃんと生き返るさ。

 いざとなれば魔法でどうにかするまで。


 何も問題ナッシングだ。

 多分、きっと、メイビー……


「分かりました。

 頑張ります」


 決死の覚悟を決めたかのような表情で答えるオセアンであった。


 そんなやりとりをしている間にショートメッセージが届く。


[転入届の受理、完了しました]


 さほど待つこともなかったな。

 これはガブローが人任せにせず自分で処理したからだろう。


 仕事が早い。

 別に某工務店のキャッチフレーズではないが、そう言いたくなったのは事実である。


 まあ、魔道具で自動化しているからね。

 読み取らせるだけでいいように自動化されている。


 記入欄に不備がなければ数秒と待たずに受理は完了するのだ。

 届け出の受理はね。


 届け出を出せば、それで何もかもが完了すると思ってはいけない。

 まだ登録が残っているからね。


 つまり、現段階では正式に書類を受け取りましたってだけなのだ。

 住民台帳に記載されて初めて完了である。


 まあ、このあたりもミズホ国では自動化されているけどね。

 そんな訳で考え込んでいる間に処理は完了する。


 再びショートメッセージが届いた。

 受理の報告は不要だったんじゃないかなと思うようなタイミングである。


[転入届の登録、完了しました]


 これでカエデとオセアンは正式にミズホ国民となった訳だ。


「手続きは完了した。

 あとは住所が決まった時に転居届を出せばいい」


「は?」


 ポカーンとしているオセアン。


「迅速ですね」


 オセアンほどではないものの少しばかり唖然とした様子を見せているカエデ。


「まあ、ジェダイトシティの領主に仕事を頼んだからな」


「「え……」」


 今度こそカエデも呆気にとられてしまったようだ。

 オセアンは言わずもがなであろう。


「よ、よろしいのですか?」


 ビクビクしながらオセアンが聞いてきた。


「何をビクつくんだよ」


「相手は領主様なんですよね」


「俺、王様」


「あ」


 オセアンが何かに気づいたような顔をした。

 俺がミズホ国の王であることを失念していたようだ。


「アハハ、無理ないって」


 笑いながらマイカが横入りしてきた。

 どうやらフォローしてくれるつもりらしい。


「ハルは王様ってガラじゃないもんね」


 その発言には引っかかりを覚えるがな。


「悪かったな、ガラじゃなくて」


 唇をとがらせて文句を言う。

 が、本気で怒っている訳じゃない。

 どうせ文句を言いたい相手に届きはしないだろうしな。


 向こうは向こうで俺の文句を聞く前にピューッと言い逃げしてるし。


「えっと……」


 カエデが口を開きかけたが手で制した。


「慰めの言葉ならいらんぞ。

 それとも他に何かあるのか?」


「いえ、何もありませんが……」


 カエデにしては歯切れが悪い返事だ。


「どうした?」


「よろしいのですか?」


 何がどうよろしいのかは容易に想像がついた。


「不敬だとか言うつもりなら気にすることはない」


「え?」


 ウソだろって顔で固まるカエデ。


「どうせ、いつものことだからな」


「は?」


 今度は、マジでって言いたげに見える。


「これがミズホ国なんだよ」


 そうは言ったものの、オセアンは半信半疑のようだ。


「ミズホの常識、西方の非常識って言うんだよ」


 今度はトモさんが割り込んできた。

 フォローだかなんだか分からん発言である。


 だが、ミズホ組には大いに受けた。

 ドッと笑いが沸き起こったもんな。


 このノリに慣れていない2人はギョッとしていた。

 特にオセアンは信じられないものを見たって顔をしている。


「本当にそこまで驚くようなことじゃないんだぞ。

 オセアンはハイラントと顔見知りみたいだから知ってるんじゃないのか」


 とは言ってみたのだけれど。


「……………」


 即答されることはなかった。

 どう見ても納得したとは思えない。


「失礼かとは思いますが……」


 再び口を開いたかと思えば、言いにくそうにしているし。

 出だしからして反論しますよって言っているようなものだ。


 ただ、オセアンは言いにくそうに言葉を止めてしまったけどな。

 何かを言いたげにしているのは間違いなさそうだが。

 この調子では俺が何を言っても効果は薄そうだ。


読んでくれてありがとう。

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