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1628 登録するのも楽じゃない?

 カエデの質問が続く。

 先のような困惑がないのは俺の説明を信頼してくれるようになったからか。

 だとしたら嬉しいものだ。


「このゾクガラというのは何でしょう?」


 続柄のことだな。

 日本人だった頃も窓口でよく耳にした読み方だ。

 日常的に使わない単語だから無理もない。


「それはツヅキガラと読むんだ」


「っ……」


 カエデは自分のミスに気づくと照れくさそうに苦笑した。


「ミズホ語は難しいですね」


 スリープメモライズで基礎知識は流し込んだけどね。

 それでも使いこなせるかは別問題なのだ。


 あとは勉強したり日常的に見聞きして応用できるようになってもらう必要がある。

 そこまでメモライズで流し込むこともできなくはない。


 ただ、受け手が厳しいんだよね。

 一度に受ける情報量が膨大になると激しい頭痛に見舞われるようになるし。


 それよりも控えめにして頭痛を回避しても情報が定着しきれないこともある。

 この場合は数日をかけて情報が定着していくため、受け手が混乱することが多い。


 知らないはずのことを次の瞬間に理解していくなんて現象が続くからな。

 これでも改良を重ねているので以前よりは使い勝手が上がっているんだけど。


 何にせよ無理をするくらいなら実際の学習で対応した方が無難な訳だ。

 今のやりとりなどは良い事例だと言えるだろう。


「そこは慣れだから最初はしょうがないだろう」


「慣れ、ですか?」


 やや自信なさげに聞いてくるカエデ。

 ちょっと珍しいかもしれない。


「心配はいらないさ。

 学校に通えば、すぐに使いこなせるようになるって」


 なるべく負担にならないよう笑顔のオマケ付きで言っておいた。

 あえて【千両役者】スキルは使わなかったがね。

 多少の不自然さが出たかもしれないが、頼り切りになるのもどうかと考えたのだ。

 まあ、たまにはね。

 上手くいったかは分からんけど。


「はい」


 カエデが神妙な面持ちで頷いた。

 どうやら大丈夫そうだ。

 少なくとも表面上はね。


 もしかしたらスルーして流してくれているだけかもしれないが。

 そこまで考えてしまうと先に進まなくなってしまうので切り替えていこう。


 という訳で説明を続ける。


「それで続柄だがカエデの場合は世帯主と書くだけでいい」


「世帯主ですか?」


 それは何ぞやという顔で聞かれた。


 読んで字のごとしなんだが、何か特別な意味があると思ったのかもしれない。

 日常生活ではなじみのない言葉だし身構えて考えてしまうのも無理からぬところか。


「その住居における登録上の責任者みたいなものだ」


 もちろん、他に何か別の意味があったりはしない。

 小難しく言うと住む場所や生活する上での経済的活動を同じにする集まりの長か。


 世帯と言えば通常は家族のことを指す訳だが、必ずしもそうでない場合がある。

 同棲している男女とかはその代表的なものだ。


 その場合、続柄の欄には妻(未届)や夫(未届)と記入する。

 要するに内縁関係にありますよってことだな。


 こうなってくると身構えてしまう人もいるんだけど。

 そこまで深く関係性を聞いているつもりはない。


 そういう決まりだから仕方がないのだ。

 届出書には客観的な事実を記載することが求められるのでね。


 同棲している状態を赤の他人が見た場合で考えると良いのではないだろうか。

 おそらく内縁状態にあると見られることが多いと思う。

 昨今は社会の考え方も多様化してきているから一概には言い切れないんだろうけど。


 が、役所は法令遵守が基本である。

 融通が利かなかろうが決まったことを曲げる訳にはいかないのだ。


 定められたものが変われば話は別だけど。

 つまり、どうしても変えたければ法律を変えるしかない。

 容易なことではないよな。


 政治家になって自分で変えるべく動くか。

 有名な政治家に陳情するか。

 署名活動をして何処かの政党に提出するか。


 道筋は色々とあるとは思うが、どれもハードルは高い。

 仮にいずれかの形で政治家に話が通っても法律なんて簡単に変えられるものじゃない。

 緊急性が低い案件は取り上げられるかどうかも怪しいところである。


 一度、変わると事務手続きの変更などで予算も使うことになるだろうし。

 予算ということは税金である。

 無駄遣いができないのは言うまでもない。


 故にこの案件で法律が変わることはないと考えるのが妥当だ。

 まあ、窓口に来る人たちには「決まりですから」と言うしかないんだけど。


 そうなってくると届出書を書き渋る人も出てくる。

 別に結婚を前提にした付き合いじゃないんですが、とか言われたりしてね。


 窓口にいる側としては届け出に来た人を客観的に見た状態で記入してもらうだけだが。

 主観的なことを言われても困るのである。


 まあ、どうしても抵抗があるって人たちもいるのは事実だ。

 そんな場合は届け出をしに来るんじゃなかったとか言い出す人もいない訳ではない。

 あるいは同棲やーめたなんてことも……


 解決策は先に説明してあるんだけどね。

 失念してるか聞き流されたかのいずれかなのは言うまでもないだろう。


 落ち着いて考えれば、自力で解決策に辿り着くことも不可能ではないのだけど。

 そんなに難しいことではないからな。


 別々に住民登録すれば良いのだ。

 これだと同一住所に世帯主が複数存在することになる。


 が、そこは問題にはならない。

 世帯主が複数いたって構わないのである。

 ルームシェアで何人もが同居するケースだってあるしな。


 そういう場合でも世帯主は1人にしたいというなら続柄には同居人と記入する。

 届け出は世帯主の分だけ行うことになるので同居人は届け出が不要だ。


 その方が楽そうと思うかもしれないが健康保険料とかで差が出てくる。

 安易には決めない方が良いだろう。


 ミズホ国はそういう部分が簡略化されているので頭を悩ませずに済むけどな。


「単独で住民登録する場合は必ず世帯主ということになる」


「なるほど」


 小さく頷きながら記入していくカエデ。


「複数で同じ場所に住む場合は本人との関係性を書く」


 家族の場合は、夫とか妻とかな。


 子供だと子と1文字で書くのだが孫は孫とは書かない。

 子の子と記入するように定められている。


 変に思うかもしれないが法律で決められているんだからしょうがない。

 統一しておかないと管理で混乱が生じるからなんだろう。


 ちなみに配偶者の両親と同居する場合、夫の父や妻の母などのような表記となる。

 いずれも世帯主から見た関係性を厳密に書く。


 分かればいいという訳にはいかないのだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 どうにか住民登録の手続きは終わった。

 転送魔法でジェダイトシティに送ってガブローに電話連絡しておく。

 送った先が実務者ではなくガブローの所だったのでね。


 これは失敗だったが難を逃れたとも言える。


『いきなり何事かと思ったじゃないですかぁ』


 電話で文句を言われてしまったさ。


 随分と朝早くから仕事をしているのだなと思ったが、そうではなかった。

 既にジェダイトシティでは始業時間になっていたのだ。


 執務室で仕事をしていたら、いきなり目の前に書類が出現したと言うのだ。

 それはさぞや驚きであっただろう。

 事前連絡もなくいきなりだからな。


 直後に連絡はしたんだけど、フォローにはなるまい。

 不幸中の幸いだったのは実務者のところへ転送しなかったことだ。


 下手すりゃ大騒ぎである。

 アウフってところか。

 ガブロー的には完全にアウトなんだろうけど。


「おお、悪い悪い」


 謝りながらも笑いが漏れてしまう。

 騒ぎにならずに済んで良かったという安堵感が緊張の糸を緩めてしまうせいだろう。

 ガブローにしてみれば謝り方に真剣味が足りないと感じそうだけど。


「ちょっと時差のことを忘れていた」


 そんなに差がある訳でもないけどね。

 だからこそ失念していたとも言えるのだが。


『勘弁してくださいよぉ』


 情けない声の返事が聞こえてきましたよ。

 心臓に悪い思いをしたのであれば無理からぬところか。

 俺としては電話で朝食の邪魔をしてしまうかもと微妙に遠慮したつもりだったのだが。


 頃合いを見計らって電話するのを遅らせていたらガブローが大騒ぎしていたかもしれん。

 申し訳ないことをした。


 とりあえずお土産で埋め合わせはしておこう。


読んでくれてありがとう。

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