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1618 食べ過ぎた者、自制できた者

「ハイラントはっ?」


 慌てた様子で振り返るランスローだが、そこに探し求める姿はない。

 既に屋台の方へ旅立った後である。


 寿司を貪り食っていたハイラントも満足した後は執着しなかったし。

 そういう意味では寿司を貪り食った時のスイッチは軽いかもしれない。

 ツバイクの紙フェチほどではないってことだな。


 ガッツ食いしていた姿を見た後だと信じ難いところはあるけれど。


「とっくの昔に屋台の方へ行ったぞ」


 今は焼きそばの屋台の前で焼きそばパンを食べていた。

 下級のものとはいえ貴族服に身を包んだ状態だとミスマッチと言わざるを得ない。


 一心不乱に寿司を食べていた時よりはずっとマシだけどな。

 それだけ寿司の食べっぷりが酷かったとも言う。

 むしろ、そうとしか言わない。


 それでも、その出で立ちで屋台飯というのは目立っていた。

 特別上品な振る舞いをしている訳ではないのだけど違和感がある。

 焼きそばパンをどう上品に食べるのかという話もあるけどね。


 ただ、普通に食べているだけで周囲から視線を集めてしまっていたのは事実。

 ミスマッチとは実に恐ろしいものである。

 

 ちなみにハイラントの服装だけで見れば違和感が際立つようなこともなかった。

 結界の中だから皆も楽な服を着ているんだよな。


 元日本人組は学生の部活かよと言いたくなるようなラフなジャージ姿だし。

 妖精組はシノビ服だったりミズホ国の平服である和装っぽい服だったり。


 そこに貴族服が混じるとコスプレっぽく見えなくもない。

 屋台が並ぶ中でそういう集団がいると、お祭り気分になってくるから不思議なものだ。

 ちょっと気持ちが浮上するというか。

 ワクワクしてくるのは俺だけかな。


 え? そんなことより焼きそばの屋台で焼きそばパンを提供するのは何故だか気になる?

 これも工夫した結果である。


 と言っても大したことをした訳じゃない。

 パンを器がわりにしただけの話だ。

 箸も皿も使わずに手づかみで食べられるからね。

 包み紙だけならゴミも少なくて済むだろう?


 それだけじゃない。

 コッペパンを小さくして焼きそばを多めにすればボリューミーに見えるのだよ。

 見た目をプチ豪華にしつつ量も少なめにするというあたりも工夫のひとつである。


 こうすることで満足感を減らさず他のものも食べられる余裕を作った。

 独りよがりな発想かもしれないけどね。

 満足感が減ると言われてしまう恐れは大いにあるし。


 まあ、全体的にそういうコンセプトでやっている。

 故にルータワーの焼き鳥も実は小さめにしているんだよな。


 他にはサリュースが食べているリンゴ飴とかもそうだ。

 アルプス乙女のような指で摘まんで持てるサイズのリンゴを使っている。


 日本人の感覚だとソフトボール大のリンゴばかりを想像してしまいがちだけどな。

 あれは聞くところによると、日本で品種改良が進んだ結果だとも言われているそうだ。

 要は日本人の好みに合わせた訳だな。


 逆にヨーロッパでは日本でよく見かけるサイズより小さいものが好まれるのだとか。

 詳しいことは知らないが、手早く食べられる朝食としての需要があるみたい。


 実際のところがどうなのかまで確かめたことはないがね。

 そして調べるつもりもない。

 面倒くさいからなのは言うまでもないだろう。


 そんなことしなくてもリンゴは旨いのだ。

 もちろん、ここで出しているリンゴ飴もな。


 それはサリュースが2本目を頼んだことを見れば明らかである。

 何処に行っても多くの女子は甘いものが好きってことなんだろう。


 別に女子だけって訳でもないけどさ。

 現にキースが目尻を下げてリンゴ飴を味わっているし。

 まるで子供である。


 ただ、行動が子供っぽくても見た目は厳ついからな。

 強面の顔でニヤニヤされても似合わない。


 それとハリーも最初に食べているのを見かけた。

 今はスタークと並んでカレーライスを食べているが。


 こちらも立ち食いしやすいように工夫した。

 さすがに器を無しにすることはできないけど、こぼしにくくすることはできる。


 ドリンクで使うような深いカップに入れただけなんだけどな。

 深皿よりもこぼしてしまう確率が低いのは言うまでもないだろう。


 液体をこぼさないために使う器なのだから。

 とはいうものの実のところはパフェを参考にした。


 いざ盛りつけてみるとパフェなどまるで連想できなかったがね。

 あの色味では無理からぬところだ。

 パフェのようにてんこ盛りにする訳にもいかないし。


 それに難点もある。

 せせこましい形状をしているが故に、やや食べづらいのだ。

 スプーンも大きくはできなかった。


 だが、カレーの味が変わる訳ではない。

 それに他の屋台飯を腹に入れられるようスモールサイズで提供できる利点もある。

 参考にしたのは無駄ではないってことだな。


 あと持ち運びしやすいというのもあるし。

 実際にウルメがそれをしていた。

 カレーのカップを手にしたまま串カツを注文していたのだ。


 おそらくツバイクが旨そうに食べているのを見かけて我慢できなくなったのだろう。

 そういうのも見越していたから内心で『計画通り』とほくそ笑んだりもしたさ。


 カエデもそれを真似た訳ではないだろうが似たようなことをしていた。

 左手には焼き鳥、串カツ、リンゴ飴の串をくっつかないよう指の間に挟んで持っている。

 そして右手ではプチサイズのハンバーガーを持って食べていた。


 結構な欲張りさんである。

 何にせよ、皆が屋台飯を楽しんでいたのは事実だ。

 これほど喜ばしいことはない。


 それができていないのはランスローだけ。

 皆の様子を見て──


「なんてこった……」


 ようやく気付いたらしく愕然としていた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 最終的にはランスローも回転寿司以外の屋台飯を味わって回ったさ。

 本当に遅ればせながらって感じだったけどな。


 その分、片っ端から回ろうとしていたのは欲張りすぎだと思ったが。

 現に食後は苦しそうにしていたし。


 一応、胃薬は渡しておいた。

 そこまで劇的に効果のある薬ではないので、何時間かは苦しむことだろう。


 だからといって胃薬魔法ディジェストは使わない。

 効果を実感すれば、きっと頼り切りになるだろうからね。

 それこそ屋台飯の全メニューを制覇しようとしたんじゃなかろうか。


 さすがに無謀である。

 食べに食べたランスローでさえ半分も食べていないはずだからな。

 細かな部分まで観察はしていないので、実際がどうかは分からないが。


 まあ、おおよそ半分なのは間違いない。

 如何に豊富なメニューであったかが分かるだろう。

 ミズホ組以外の面子は目移りしていたしな。


「そんなことをするくらいならシェアすれば良かったのにな」


 胃薬を飲んだランスローにそう言ったら──


「なんてことだ……」


 愕然としていたさ。

 こういうのは屋台飯に慣れていない証拠だと思う。


「おやおや、それは失敗したねえ」


 少し苦しげにしているサリュースが言った。

 こちらもランスローほどではないが食べ過ぎである。

 デザートは別腹とか言って無理をした結果なんだけど。


 リンゴ飴もおかわりを重ねていたもんね。

 小さくて可食範囲が少ないといっても観賞するだけのものじゃないのだ。

 数を食べれば腹が膨れて当然。

 塵も積もれば山となる、を実践していた訳だな。


 え? 何本食べたかだって?

 そんなの最後まで数えなかったよ。

 3回目あたりのおかわりでやらかすかなぁとは思ったから──


「食べ過ぎるなよ」


 と一言だけ注意はしたけどさ。


「はいはい、了解したよ」

 なんて笑いながら返事をしていたので以後はノータッチであった。


 その結果が胃薬を必要とすることになったんだけどな。

 甘いものは別腹とは聞くが限度があった訳だ。


 まあ、いい年した大人なんだから自己責任なのは言うまでもない。

 ハイラントなどはギリギリセーフだったし。


 寿司を貪り食っていたはずなんだが、それ以後は焼きそばパンで打ち止めにしていた。

 回転寿司のコーナーに舞い戻ってきていたなら、どうなったかは不明だけどな。


 そのあたりも含めて自制できていたってことだ。

 物凄く意外に感じたさ。

 だったら貪り食うのも自制してくれよと思ったほどだ。


読んでくれてありがとう。

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