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1617 壊れている暇があるなら行けばいいのに

 待とうという俺の提案に難色を示すルータワー。

 だからといって殴って解決する訳にもいかない。


「こんな状態が何時までも続く訳じゃないだろう」


 俺は諭すように言った。


「そうだと良いのだが」


 ルータワーは不安げな面持ちでランスローに視線を向ける。


「……………」


 ジッと観察するが──


「ふぬぬぬぬぅ!」


 ランスローの唸り声は止まる気配を見せない。

 もちろんオーバーアクションな身悶えも継続中である。


 ルータワーは憮然とした面持ちで視線を戻してきた。

 とてもではないが俺の言う通りになるとは思えないと言いたげだ。


 実際、ランスローに変化は見られなかった訳だしな。

 それでも人はバグった機械じゃない。

 無限ループに陥ったままなんてことは考えられないのだ。


「結論を出さなきゃ晩御飯の時間が終わってしまうからな」


 この言葉には説得力があったみたい。


「ふむ、それもそうか」


 ルータワーはあっさりと頷いていた。


「それにランスローは移動する訳じゃないだろ」


「どういうことだ?」


「放っておいても誰かに迷惑をかけたりしないってことさ」


 他の誰かに迷惑をかけるならフォローをする必要があるけど。

 ランスローが動かないなら、それはない。


「……確かに一理あるかもな」


「だったら、俺たちが見守る必要も面倒を見る必要もないよな?」


 いい年した大人なんだし、自分で何とかしてくれって訳だ。

 結論を出せぬまま夕食の時間が終わっても自己責任である。


「だが、自分には責任がある」


「どんな責任があるって言うんだ?」


 そこまで深く受け止める必要があるのかと思ってしまうのだが。

 保護者じゃないからな。

 自国民や親類縁者というなら分からなくもないが。


 5国連合は他国より結びつきが強いようだから後者はありそうだ。

 単なる友好国よりは深い縁だと言える。


「声を掛けたのは俺の方だ。

 ならば放置するのは無責任だろう」


 そう来たか。

 律儀すぎる男である。

 無駄口を叩かず、最後まで責任を持って行動する。


 これは国民からも信頼されているだろうな。

 親しみやすさという点ではランスローに軍配が上がるとは思うが。


「それを言うならホストである俺が放置するのはもっと無責任だと思うがな」


「む、それは……」


「堅苦しく考えすぎなんだよ。

 それに結論を出すまで待ってもランスローは礼など言わんぞ」


「分かっている」


「そのうち勝手に結論を出すさ」


「それまで、あのうるさいのを放置するのもどうかと思うが」


 ルータワーが早々に何とかしたいと思うのは無理からぬところだ。

 ランスローのむさ苦しい唸り声は確かに迷惑だからな。


「しょうがない」


 俺はパチンとフィンガースナップを鳴らした。


「んぅぅぅ……」


 ランスローから聞こえてくる騒音の大きさが激減する。


「魔法で音を減じたか」


「ああ、これなら少し離れるだけで鬱陶しくなくなるだろ」


「まあな」


 肯定の返事ではあったが、あまり納得したようには見えない。

 どこまでも頑なな男である。


「ホスト側としてはルータワーにも楽しんでほしいんだが」


「っ!?」


 俺の言葉が意外だったらしく、ルータワーは目を丸くして驚いていた。

 自分がゲストであるということを失念していたのかもな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ルータワーと話し合った結果、もう少しだけランスローを待ってみることにした。

 騒音とも言うべき唸り続ける声を魔法で減衰させたのが大きい。

 やらなきゃ俺は待つ気にはなれなかったからな。


 ルータワーも俺と同じくらいウンザリはしていたようだけど。

 向こうは義務感の塊になっていたのが俺とは異なる点だ。

 そのせいで減音するしないに関係なく我慢する気だったみたい。


 まあ、主な理由のひとつだったようで魔法で減じると頑なさは和らいだ。

 そんな訳でランスローの葛藤が終わらなければ、放置プレイが始まることになった。


 で、俺たちが話し合ってから程なくして──


「んがあああぁぁぁぁぁっ」


 ランスローが頭を抱えて身悶えし始めた。

 悩み続けて結論が出せなかった結果、壊れてしまったようだ。

 考えるより動けばいいのにと俺なんかは思うんだけどね。


 見ている者は似たようなことを思うみたいだ。

 ランスローの悶えっぷりを見たルータワーが頭を振っていた。


「情けない奴だ」


 呆れたと言わんばかりに深く嘆息する。

 ガバッと振り向いて反応するランスロー。


 減音してるんじゃないのかというツッコミはなしだ。

 これは結界の一種だから音の波を減じるのは内から外に対してだけである。


 でないと、こちらが話し掛けても聞こえないなんてことになりかねない。

 結界を張ったままだと会話がしづらいだろうから既に魔法はカットしたがね。


「んだとぉ、ゴルァ」


 喧嘩腰で応じてくるランスロー。


「一国の王太子ともあろう者が取捨選択もまともにできんのか」


 動じることなく切り返すルータワー。


「うぐっ」


 あえなく返り討ちである。

 ウニの軍艦巻きを真っ先に食したランスローとは思えない敗北ぶりだ。

 だが、よくよく考えると未知のものには及び腰になる質だった。


 そう考えると食べ物にだけチャレンジャーだった訳か。

 それとも、あれは見栄を張った結果なのか。

 いまひとつ理解しかねるところだ。


 ひとつだけ確定的と言えるのは気に入ってしまうと固執する点だろう。

 未知のものに対して及び腰になることと無関係ではあるまい。


 ただ、ガチガチに凝り固まってしまう訳でもないんだよな。

 ルータワーから話を聞いて悶絶するほど葛藤するくらいには。

 見ていて飽きないというか面白いオッサンである。


 ただ、このままでは埒が明かないのも事実。

 少しばかり荒療治といこうか。


「ランスロー」


「なんだよ」


 意気消沈したままのトーンで返事をしてきた。


「しばらく回転寿司の席に座るの禁止な」


「んなっ!?」


 額前を絵に描いたような表情で固まってしまうランスロー。


「言っとくが、回転寿司で立ち食いをするなよ」


「んぐっ」


 慌てた様子で目を泳がせる。

 そういうセコいことを考えるだろうと思ったら案の定である。


 固執している上に屋台で皆が立ち食いしている姿が嫌でも目に入るからな。

 回転寿司以外では席を用意していないからだけど。

 これはスペース確保のためだ。


 まあ、普通に屋台を設置すると宿屋の玄関ホールでは入りきらないんだけど。

 影渡りを応用したり空間魔法で拡張したりはしている。


 最初、ツバイクたちアカーツィエ組は絶句していたな。

 呆然として立ち尽くす感じだった。

 しばらくすると頭を振って諦観のこもった溜め息を吐き出していた。


 ウルメも似たようなものである。

 ツバイクよりも衝撃は大きかったようだけど。

 ジェダイトシティで色々と見学していたお陰で騒ぎ立てるほどではなかったみたい。


 意外なのはカエデである。

 ちょっと驚いただけだったからな。

 思ったよりミズホ国に順応しやすい気がするのだが。

 スカウトで振られたのは残念である。


 5国連合の面々は最初からスルーしていたな。

 ツッコミを入れるだけ無駄だと思ったか。

 それとも深入りするとヤバいと回避したか。


 残るは神殿の職を辞してきたオッサン。

 こちらは無反応だったものの意外だとは思わなかった。

 気付いていないと分かったからだ。


 片付けが終わってから違和感に気付いて驚きそうな気がする。

 もしかすると結界の影響を受けているのかもしれないな。


「そういう訳だから屋台巡りをしてくるといい」


 やんわりと強制排除である。


 回転寿司のコーナーだけの話なので仲間はずれにはならない。

 それでもランスローからすれば意地悪をされたと感じるんだろうけど。


「ううっ」


 強引に促されても留まり続けようとしているし。


「こうしている間も他の皆は屋台を楽しんでいるぞ」


「なにっ!?」


 驚愕の表情を浮かべるランスロー。


「気付いていなかったのか」


 嘆息を漏らしながらルータワーが言った。

 完全に呆れ顔である。


読んでくれてありがとう。

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