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1615 変われば変わるもの?

「おー、勇者だねえ」


 ランスローが言いながら苦笑する。


「……………」


 スタークなどは絶句していたけどな。

 吐き出しはしないまでも、かなり無理をするだろうと予想していたんだろう。


 そういう様子がまったく見られなくてドン引きすることになっていたさ。

 白子は人によってゲテモノ度が変わるから仕方がない。


 個人的には、そこまでの見た目じゃないと思うがね。

 食べた時の感触まで含めると、また違ってくるのだけれど。


 ちなみにスタークは食べていない。

 見た目だけでギブアップした訳だ。


 オッサンが白子を食べきってランスローの方を見た。


「勇者って何のことですか?」


 その問いかけに苦笑するランスロー。


「気にするな。

 単なる比喩表現だ」


「はあ……」


 よく分からないとばかりに困惑しつつ首を傾げるオッサン。


『天然かっ!』


 思わず内心でツッコミを入れていたさ。

 オッサンの天然などに需要はないんですがね。


「それは、どんな感じだったんだい?」


 不意にスタークが問いかけていた。

 その表情は恐る恐るといった感じの中に意を決したものが混じっている。


 白子に興味はあるものの食べる勇気がないといったところか。

 感想だけ聞いて逃げるつもりだな、あれは。


「思ったよりしっとりしてましたね」


 オッサンはそういうことに気付かず普通に答えている。


「もう少し粘りけがあるのかと想像していたんですが、想像とは少し違いました」


 最初に顔をしかめた理由はそれか。


「どういう風に違ったのかな?」


「何と言いますか……」


 上手い言葉が見つからないのか、オッサンが首を捻って考え込む。

 スタークは緊張した面持ちで待っている。

 そんなにヤバい差があるのかと恐れ戦いているっぽい。


 密かに苦笑してしまった。

 見れば、皆も同じように苦笑いしている。

 知らぬが故にビビっているだけだと分かるからな。


 いわゆる食わず嫌いってやつだ。

 ウニやイクラが食べられるのに白子がダメっていうのもどうなんだろう。

 よりゲテモノに見えるせいかもしれないな。


 オッサンが考え込んだことでスタークがビビってしまうという状況になったのは皮肉だ。

 よりビビる結果になった訳だから。

 回避したいからこそ話を聞いて済ませようとしたのにね。


 ある意味、スタークの自業自得と言える。

 自分の質問でオッサンが考え込むことになるだろうとは予想できなかったのか。


 ちょっと考えればと思うのだけどな。

 目先のことに囚われすぎた結果であろう。


 まあ、オッサンだって永遠に考え続ける訳じゃない。

 答えを出す瞬間は訪れる。

 とはいうものの……


「本当にしっとりしてるんです」


 オッサンは同じ言葉を繰り返すに留まった。


 それを聞いてボキャ貧なんていう死語が思い浮かんださ。

 声に出しては言わなかったけどな。

 俺がオッサン呼ばわりされかねない。


 もちろん、それを言うのは元日本人組である。

 元ネタを知っているからな。


 他のミズホ組はさすがに知らないだろう。

 動画フリークのローズでさえ知らないと思う。

 たぶん……


 まあ、知っている者がいたとしても限定的なのは確かだ。

 それにオッサン呼ばわりまではしてこないだろう。

 ネタの出所は知っていたとしても歴史的な背景とかまでは理解していないはずだし。


 つまり、それをリアルタイムで知っていた面々だけがオッサン呼ばわりしてくる訳だ。

 それがブーメランで帰ってくることを理解しているかどうかで結果は変わると思うがね。


 ミズキは言わない方だろう。

 マイカは九分九厘、言う方だ。

 オバハンとかババア呼ばわりされると分かっていても言うと思う。


 トモさんはどうだろうな。

 最初から自爆してきそうだ。


「皆でオッサンになろうよ」


 とか言い出すかもしれない。

 もし、言うのなら先のことも計算に入れてるはずだ。

 俺に向かってよりマイカに向かってボケるように言いそうだよな。


「誰がオッサンかっ」


 とかツッコミで返してくるのを期待してなのは言うまでもない。


「あ、ゴメンゴメン。

 オバハンだったか」


「誰がオバハンですってっ!?」


 とマイカが吠えるあたりまでは容易に想像できる。

 あえてボケることで突っ込みを受け、周囲の笑いを誘うパターンだな。

 当然、ここで終わったりはしない。


「ならババア?」


 とかボケの追加をしてくるのはパターンと言ってもいいだろう。

 この時点でマイカもトモさんの狙いには気付いていそうだけど。


「言ってることは同じじゃないっ!」


 こんな感じでツッコミを入れずにはいられなくなっているはず。

 ヒートアップしたら簡単には止まれないって訳だ。


 更には──


「ババアでダメならBBAだね?」


 とボケ倒して締め括ってきそうだよな。

 この展開もありそうだ。


 が、そこから先はカオスとしか言い様がない。


 マイカが暴走するのか。

 それともトモさんが別方向にボケのベクトルをずらしていくのか。


 誰かが止めない限りは簡単には止まらないとは思うんだけど。

 俺とミズキでやるしかないんだよな。


 2人がかりになるのは向こうのペースに巻き込まれかねないからだ。

 本当の意味でネタを知らないミズホ組に手伝ってもらうのは危険である。

 感染しかねないからな。


 え? ウィルスじゃあるまいし感染というのは変だって?

 決して変じゃないんだよな。

 俺やミズキにとっては死語だから免疫があるような状態である。


 一方でミズホ組には新鮮なネタで抵抗感が薄い。

 下手に巻き込まれると、あっと言う間に影響されかねないのだ。

 それこそ感染と言い換えても不思議ではないほどにね。


 ……これ以上、恐ろしいことを考えるのはよそう。

 俺が愚にもつかぬことを思考している間、スタークはオッサンの言葉を反芻していた。


「しっとり、しっとり、しっとり、ねえ……」


 繰り返し呟いているのはイメージを膨らませようとしているからか。

 結局は頭を振って終わらせてしまったけれど。


「ネットリじゃないんだよね?」


 念押しするように問う始末だ。


「はい、そういう重い感じじゃなかったです」


 オッサンは即答した。

 だというのにスタークは首を傾げて──


「うぅん」


 と唸る。

 どうにも納得いかないようだ。

 もっとヤバいものを想像していたのかもしれない。


 それもこれも食べた直後にオッサンが顔をしかめたからだろうな。

 あれがスタークの警戒心を最大レベルにまで引き上げたのは間違いない。


「味の方はどうだった?」


 せめてもの抵抗といった感じでスタークが追加の質問をした。


「はい、普通に美味しかったですよ」


 これもまた平然とした様子で即答するオッサン。


「この醤油という調味料がアクセントになっていました」


 コメントも素人っぽさが抜けていた。

 最初は海苔巻きひとつにビビっていたというのに変われば変わるものである。


「……………」


 逆にスタークは言葉を失う有様だったけどね。

 こちらは微妙に保守的だよな。

 ウニはセーフで白子がアウトとはね。


 この調子だとあん肝はどっちなんだろうと考えてしまう。

 たぶんセーフなんだろう。

 白子ほどの艶やかさはないからな。


 そういう意味ではフォアグラの方がアウト寄りだと思う。

 まあ、うちの回転寿司では提供していないんだけど。


 艶々してるのがダメだというなら山芋はどうだろうか。

 山芋だけならセーフかもしれない。


 が、あれの軍艦にはウズラの生卵が乗っかっているのが定番だからな。

 あれの黄身は艶々してて生っぽさが強調されていると思うんだが。


 なんてことを考えていたらレーンの上を流れてきた。


「おっ」


 オッサンが迷わずに皿を取り、躊躇わずに食した。

 小さいとはいえウズラの生卵を平気で食べられるとはね。


 最初の戸惑いぶりは何だったのかと問いたい。

 本当に変われば変わるものである。


 スタークはオッサンの食べっぷりを見てドン引きしていた。

 こちらは変わらないって訳だ。


読んでくれてありがとう。

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