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1606 新たな客は……

「スターク、食べたい寿司があるなら注文するといいぞ」


「え?」


 困惑の表情で俺の方を見てくるスターク。

 寿司が勝手に流れてくる状態なのに注文なんてどうするのかと言いたげだ。

 握る者がいないからな。


 今度の回転寿司システムは完全オートメーション化されている。

 故に注文もそれに対応したものだ。


 店員とのやり取りも悪くないけど店員役が食べられないからね。

 雰囲気を優先させる時は手動に切り替えることもできる。


 え? 回転寿司に風情なんてないって?

 そこまでは知らん。


 とにかく俺は各席に設置された注文パネルの使い方をスタークに説明した。


「……凄すぎます」


 一通り使い方を聞いたスタークはしばし呆然としていた。


「これはこれは、素晴らしいね」


 さっそく注文している人もいたけどね。

 このあたりは人生経験の差が出てしまうようだ。


 誰だ? 亀の甲より年の功とか言ってるのは?

 八つ裂きにされても知らんぞ。

 下手すりゃ視線だけで瞬間冷凍されかねんのだからな。


「何か言ったかい?」


 目が笑っていない笑顔でサリュースが問うてきた。

 言わんこっちゃない。


「いいや」


 どうにか誤魔化して俺も自分の食べたいものを注文する。

 まずはウナギの握りから。

 注文するとレーンが流れる下の段差部分が開いて皿が押し出されるように出てきた。


 さっそく食しましたよ。

 腹が減ってしょうがなかったんだよな。

 とりあえず一口くらいは放り込んでおかないと。


「旨いっ」


 自画自賛になってしまうけど上手いんだからしょうがない。

 ウナギの脂と甘だれのマッチングが絶妙だ。


 それを見ていたスタークもようやく動き始めた。

 何処かぎこちなくはあったが、どうにか注文を完了。

 程なくしてウニの軍艦巻きを確保していた。


 さっそく食す訳だが、咀嚼した直後に微妙な表情をしていた。


「ランスローさぁん」


 どうにか食べきったスタークが呼びかける。


「何だよ」


「味はともかく、食感がぁ……」


 抗議しようとしたスタークであるが──


「そこまでは知らん」


 その一言で返り討ちに遭ってしまうのであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ウナギの握りを食した後はあまり食べられなかった。

 サリュースとスタークが注文システムの画面を見ながら俺に質問してきたからだ。


 これはどんな材料なんだとか。

 どうやって調理したものかとか。

 甘いのか辛いのかとか。


 少しはチャレンジャーなランスローを見習ってくれと言いたくなったさ。

 そんな中で不意に結界の内側に入ろうとする気配を感じた。


「ん?」


 振り返ると同時に宿屋の玄関扉が開いていく。

 まだ王城の関係者が来たのかと思ったが……


「すみません、少しよろしいでしょうか?」


 そう言いながら入ってきたのは武王大祭の戦いを支え続けてきた人物であった。


「あ、主審だー」


「ホントだね」


 マイカとミズキが真っ先に反応している。

 俺は現れた人物が意外すぎて呆気にとられていたよ。


 結界魔法は有効なままなんですがね。

 それを突破できるなど考えられない。

 ある意味、緊急事態だった。


「ん?」


 脳内スマホのメールが強制的に起動する。

 このタイミングでこういうことになるとは予想していなかった。


 が、同時に納得もする。

 差出人はルディア様だったからだ。

 それだけで現状のすべてに見当がついてしまった。


 だからといってメールを読まないという選択肢はない。

 事情は察することはできても詳細を把握できた訳じゃないからな。


 これがおちゃらけ亜神ことラソル様からのメールであったなら放置したかもしれないが。

 サクッと着信メールを読んでしまう。


 それだけで色々と納得がいった。

 要約すると、このオッサンの面倒を見てくれということだ。


 え? 要約するにしても端折りすぎ?

 ルディア様からのメールならそれで充分だと思ったんだがな。


 主審に結界が通じなかったのはルディア様が俺の魔法に干渉したからだし。

 なんか決勝戦のことで責任を感じて神殿を辞してきたとか俺にはどうでもいい話だし。


 そんなことよりルディア様の推薦があったことの方が重要である。

 要するに──


『くくっくぅ!』


 合格ぅ~っ! ということだからな。

 脳内スマホ持ちにはすべて連絡が行き届いているようだ。

 霊体モードのローズが聞くまでもなく先にチェックしてしまうくらいだし。


 え? ルディア様が推薦してきたんだから、そんなの不要じゃないのかって?

 それは言わないお約束だ。

 毎度のチェックは様式美みたいなものだからな。


 別にルディア様のことを信用していないって訳じゃないのだ。

 ラソル様なら何かしら疑うところだけどな。

 何か目論んでるんじゃないかってさ。

 差出人がルディア様だから、その心配はないんだけど。


 ただ、いつものが無いと何か寂しく感じるってのもあるだろう?

 落ち着かないっていうかさ。


『了解した。

 サンキュー』


 故に礼を言っていつもの儀式は終わりだ。

 ただ、問題がない訳ではない。


 このオッサンはイレギュラーだからな。

 ルディア様の推薦はあったが、当人はその事情を知るまい。


「何か御用ですか?」


 俺がメールを読んであれこれ考えている間にエリスが応対に出た。


「実はここに来るようにと指示されたのですが……」


 困惑の面持ちで主審が話を切り出した。

 よく分からないままに強く促されたってことか。


 一体、誰が?

 そんな風に考えたが、答えは決まっている。

 ルディア様しか考えられない。


 問題はどうやったかだ。

 まさか、西方人相手に顕現することはないはずだ。

 分からないように気配を薄めるようなことをする可能性はないとは言わないけど。


 ただ、そんなことをしている暇があるとは思えない。

 忙しいベリルママを手伝っている最中にゆったり外出などできる訳がないからな。

 真面目なルディア様がおちゃらけ亜神のように仕事を放り出したりするはずもないし。


 それでもどうにかしたいと手を打つなら取れる手立ては限られるだろう。

 最も手短に済ませる手段は誰か使者を出すことか。

 信頼できる相手でないと気が散る元だけどな。


 それに、こういう時に立候補しそうなのがラソル様だったりするし。

 ベリルママの筆頭眷属がそれでいいのかと思わなくもないが。

 ルディア様と同格なのに自ら進んで使いっ走りをするってどうなのよ。


 仕事ぶりも信用できないしな。

 言われた仕事は完璧にこなしても余計なことをするのは、ほぼ間違いないだろう。


 結果的に送り出された先の相手が混乱するのは目に見えている。

 それを思えば送り出す側もおいそれと任せていられない訳で。


 よほどの人手不足でもない限りは立候補も却下されることだろう。

 普通は下っ端の仕事だしな。


 それはそれで、ヘマをしないかとか気になってしょうがないとは思うが。

 だったら神託を下すとかの方がマシかもしれないってものだ。


 オッサンの様子を見る限りではそういう様子は見受けられないが。

 本当に謎である。


 ただ、そうやって考えている間もエリスとのやり取りは続いていた。


「はい?」


 オッサンの話が要領を得ないものだったので、エリスも困惑している。


「どなたかに紹介を受けたということでしょうか?」


 それでも応対を続けるあたりは、さすがと言うべきか。

 元冒険者ギルド職員だった頃の経験が生かされているのだと思う。

 ああいう所は臨機応変な対応が求められるからな。


「はい」


 肯定の返事をしたオッサンは肩掛けカバンから板状の札らしきものを取り出した。


「これを賢者様に渡せば分かるそうなのですが」


 オッサンがそんなことを言ったものだから、俺以外のミズホ組が一斉にそちらを見た。


「─────っ!?」


 注目を浴びて何事かと仰け反るように驚くオッサン。

 その拍子に手にした札を落としそうになって慌てていた。


読んでくれてありがとう。

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