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1605 屋内屋台は続く

 聞く耳すら持っていないハイラントが寿司を貪り食っている。

 皿が積み上がるペースが速い。


 屋台の食事も入るようにと1皿1貫にしているせいだろう。

 1貫分の寿司もやや小さめにしているしな。


「こりゃダメだ」


 肩をすくめて嘆息するランスロー。


「そんなに旨いのかよ。

 見たところ、知らん材料ばかり使っているようだが」


「そこは食べてみないと何とも言えないな」


 個人の好みの問題もある訳だし。

 酢の入ったものが苦手で酢飯がダメということもあり得る。

 日本人だった頃に何人かそういう人を見かけたことがあった。


 勿体ない話だとは思うが、嫌いとか根本的に受け付けないんじゃしょうがない。

 そこがクリアできても生の魚介がダメなパターンもある。


 これも実例を知っている。

 やはり日本人だった頃の話だが。


 こちらに来てからは、まだ見かけていない。

 ミズホ国以外で生食文化がないせいだろう。

 ランスローがなかなか寿司に手を出さないのも、そこだと思う。


 見た目から回避しているみたいだからな。


「おやおや、ランスローくん。

 眺めているだけで帰るつもりかい?」


 サリュースがさっそく見咎めている。


「見た目に抵抗があるんだろう」


 ルータワーが鋭いところを突いていた。


「これは結構いけるぞ。

 土産話にもなるはずだ」


「そうですよ」


 スタークも同意する。


「珍しいものなんだから食わず嫌いは勿体ないです」


「ぐっ」


 指摘されたランスローが、タジタジになっていた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、ランスローも寿司は食べた。

 躊躇した割には最初に手を出したのがウニの軍艦巻きなのが周囲の失笑を誘ったけどね。


「いきなり、それか」


 ルータワーが呆れている。


「男は度胸っ」


 などとランスローが吠えて口に放り込んだ。


「よく言う。

 さんざん躊躇っていたではないか」


 ルータワーのそのツッコミはタイミングがよすぎたらしい。

 ランスローが反射的にルータワーを睨もうとして振り向いた瞬間──


「ぐふっ」


 軍艦巻きを喉に詰まらせてしまったらしく咽せ混んだ。

 食べている最中に条件反射で反応するからだ。


 自業自得であるのは否めない。

 多少はルータワーにも責はあるかもしれないが。


 とはいえ、そんな悠長なことを考えている場合ではない。

 俺は咄嗟に理力魔法を使おうとした。

 ランスローが咀嚼中だったことで周辺被害を危惧したからだ。


 が、本人がどうにか口を塞いで最悪の事態は防いだ。

 その反動が本人に降りかかることになったが。


「んぐっん────────っ!」


 本格的に喉に詰まらせてしまったらしく身悶えし始めるランスロー。


「何やってんだ」


 どうにか吹き出さないようにしているのは分かるが。

 それまでのプロセスがな。

 思わず嘆息してしまう。


「ふぐぐっん───っ!」


 それどころじゃないと抗議しているかのようなランスローの悶えっぷりだ。

 窒息されても困るので理力魔法で手助けする。


 バレないよう徐々にやるのでランスローの苦しみはしばらく続いた。

 どうにか軍艦巻きを胃の中へ流し込んだ直後はグッタリしていたさ。


「し、死ぬかと思った……」


「食うなら食う。

 文句を言うのは食べきってからにするんだな」


「うっ」


 ランスローが小さくなる。


「そのくらいにしておいてくれんか」


 それを庇ったのはルータワーであった。


「自分にも責はあるのでな」


「釘を刺しただけだ。

 繰り返されても困るからな」


「ふむ、それも道理か」


「おいっ」


 ランスローがツッコミを入れてくる。


「まるで俺が学習能力のないガキみたいじゃないかよ」


「その恐れがあるから釘を刺したつもりなんだが」


「お主は安直なところがあるからな」


「くっ」


 言い返すことが満足にできなかったランスローが歯噛みした。


「まあ、行動で見返せばいいだけのことだ。

 つまらんことを気にするより食事を楽しんだ方がいいぞ」


 俺がそう言うと、ランスローが嘆息した。

 同時に覇気が抜けたような表情になる。


「それもそうか」


 言いながら再びウニの軍艦巻きに手を出す。


「おやおや、それはそんなに旨いのかい?」


 サリュースが興味深げにランスローに問いかけた。


「いや、味が分からんかったから食べ直しだ」


「チャレンジャーですね」


 エビの握りに手を出していたツバイクがボソッと呟いた。

 ウニの見た目から敬遠していたからこその発言だ。


 それともノリがダメなのか。

 イクラの軍艦もパスしていたみたいだし。


 ああ、でも鉄火巻きは普通に食べていたな。


「当然だろう」


 軍艦巻きを口に放り込みかけた手を止めてランスローが言った。

 同じ轍は踏まないとばかりにドヤ顔をしている。


 咽せ込む悪夢を回避しただけで己を自画自賛ってどうかと思うけど。

 そこまでナルシストな一面はなかったと思うんだが。


 いや、自分が未知のものに挑んでいるという自負がそういう表情をさせるのか。

 どちらにしろ同じことではあるな。

 何を自慢したいと思っているかの差でしかない。


 ただ、両方だったら痛すぎる気がする。


「……………」


 とりあえずスルーしておこう。

 変に追及して微妙な気持ちにはなりたくない。


「どうせ初めてなら誰も手を出さないものの方が面白いではないか」


 そう言って満足げな笑みを浮かべたランスローが今度こそウニの軍艦巻きを食した。

 モグモグと咀嚼していく。


 フンフンと頷いているところを見るとハズレを引いたという感じではないようだ。

 咀嚼しきって飲み込んだ後は湯飲みの茶をゴクリと一口。


「ぷはーっ」


 およそ王族とは思えない食べっぷりである。


「癖はあるが、何とも言えん味わいだ」


「それはどのような?」


 スタークが食い気味に聞いた。

 そんなにウニが気になるか。

 相変わらず手を出していないところを見ると食べる勇気はないんだろうに。


 やはり見た目のせいはあるのかもしれない。

 個人的には白子よりはマシだと思うのだが。

 初めてだと大差ないのかもしれないな。


「若干の苦みのようなものがあったかもしれん」


「苦みですか?」


 スタークが怪訝な表情をした。

 色から果物的な甘みを想像していたのかもしれない。


「ほとんど感じねえよ。

 が、それがアクセントになっているな」


「癖というのはそういうことですか」


「おお、そうだとも」


 肯定したランスローはイクラの軍艦に手を伸ばした。


「それでは味わいが何とも言えないっていうのはどうなんです?」


 スタークの質問は続く。


「勘弁してくれよ」


 ウンザリした顔で手に取った皿を手元に引き寄せながら言った。


「俺は美食家じゃねえんだぞ。

 そのくらいは自分で食って確かめりゃいいじゃねえか」


「えっ、いや、その……」


 そんな風に切り返されると思っていなかったのかスタークがタジタジになる。


「心配しなくても極端な味じゃねえよ」


 フンと鼻を鳴らしながらランスローは太鼓判を押した。


「そ、そうですか?」


 おずおずとした様子でスタークがウニの軍艦巻きを探し始めた。


「あ、あった」


 発見した次の瞬間、その皿はヒョイとハイラントに取られてしまう。


「あー……」


 と言っている間に口に放り込んで食べてしまう。

 そして次の皿を物色し始めていた。

 それをショックを受けた顔で見ているスターク。


「次こそはっ」


 気を取り直してリトライしようとするのだが……


「あーっ」


 再びハイラントに奪われてしまった。

 どうやらウニの軍艦巻きが気に入ったようだ。


 このままだとスタークに三度目の正直な展開は巡ってこない気がしてならない。

 おそらくは同じことの繰り返しになってしまうだろう。


 それを予感したのか、スタークが絶望的な顔をした。


「おやおや、回転寿司というのは妙な弱点があるね」


 苦笑するサリュース。


「片っ端から同じものばかり取るようなマナー知らずはそうそういないと思うがね」


「それは言えてるねえ」


 サリュースは返事をしながら呆れた視線をハイラントに向けた。

 視線を向けられたハイラントは気付いた様子もなく一心不乱に食べ続けている。

 鼻息も荒く、まるでフードファイターが大食い大会で争っているかのようだ。


 あの調子では聞く耳を持たないだろう。

 呼びかけに応じられるかすら怪しい感じだもんな。


読んでくれてありがとう。

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