160 色々と忙しい
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「何処に行っておったんじゃ」
ガンフォールのいる部屋に入るなり愚痴るように問われてしまった。
「ジェダイト王国よ、私は帰ってきた」
某悪夢な大尉の台詞を借用して返答する。
「何を訳の分からぬことを──」
呆れた様子でガンフォールは最後まで言い切ることができなかった。
俺の後に続いてゾロゾロと入室してくる面子を目の当たりにして言葉を失ってしまったからだ。
見覚えのある約2名とその他8名。
言わずと知れたツバキとハリー、そして月影の面々である。
「いつの間に……」
「だから言っただろう。帰ってきたと」
俺の返事にガンフォールはあり得ないとばかりに首を振っている。
これくらいで驚くとか今更だと思うのだが。
「前に言ったはずだよな、飛んで来たってさ」
一瞬でとは言ってないけど。
「それにしたって無茶苦茶じゃ!」
「まあ、そう怒るなよ」
「誰のせいじゃと思っとるか、まったく」
「王よ、どうしたのです?」
ハマーがそう言いながら入室してきた。
当然、うちの面々から注目を浴びることになる。
「ずいぶんと大きな声を出して──っとお!?」
入って来るなり大勢から振り向かれたことでビックリしてしまったらしい。
ガンフォールとは別の驚き方である。
「ツバキにハリー、それにお主らは……」
その言葉に反応してうちの面子が軽く会釈する。
ハマーも「うむ」と言いながら同じように応じた。
だが、次の瞬間には「ん?」と妙なことに気付いたような表情になる。
「久しいものだが、はて?」
いつ来たのかという疑問が徐々に湧き上がってきたようだ。
徐々に驚愕の表情に変わっていく。
「細かい説明は省くが、そういうことだ」
「全然わからんわっ!」
「知ったら後戻りできなくなるぞ」
「うっ」
俺が少し意地の悪い笑みを浮かべてそう言ってやるとハマーがたじろいだ。
「やめておこう。ワシはまだ死にたくない」
頭を振る様には実感がこもっていた。
「大袈裟だ。死にはしない」
「どこが大袈裟なものかよ。死ぬかと思うような目にあわされてばかりなんだぞ」
そういえばハマーはフリーフォールにソードホッグとの戦闘にWRC顔負けのラリードライブと結構大変だったかもな。
ドライブはガンフォールだけでも良かったけど。
こんな時でも腹は減る。
ぐうぐうお腹の虫が鳴きましたってね。
そんな訳でうちの面々を紹介しながら晩飯ということになった。
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翌日は早朝から色々と準備が進んでいった。
俺は新たに飛び地とした南の島の開発に手間取って数時間も眠っていないが。
1日くらいなら完徹でも良かったんだけどさ。
それで終わるような作業量じゃないのが分かったので何日かに分けてぼちぼちやっていく予定だ。
総面積はミズホ国より広い上に川や湖はおろか地下水脈さえなかったからね。
【諸法の理】スキルの情報によると魔族は水が必要ないらしいが、農地開拓には必須である。
最初は海水を引っ張ってきて塩分を除去する方法を考えたんだけど水道設備を敷設すると資材がやたら必要なことが判明して却下した。
内陸まで引っ張るのは無理がある訳だ。
川の偉大さを思い知らされましたよ。
そんな訳で人工的に地下水脈を張り巡らせることにした。
最初に海中で島の地下深くを横断するようにトンネルを掘って海水を通す。
そこから塩分を除去した水を地下の浅い所にまで引き上げ島中に張り巡らせる。
あとは適した場所で水を吸い上げ川や湖をつくり、地形的に適さない場所では井戸を掘るって寸法だ。
完成予定は農地開発と合わせて夜中限定の作業で6日ほどかな。
農産物の増産も急がねばならないとはいえ猶予はあるので昼間にすべきことが優先である。
まずは月影の面々をブリーズの街に向かわせる。
「本当にこの子がリーダーなんですか」
エリスが未だに信じられないという顔をしている。
「もちろんだ」
まだまだ伸び代のある自慢の弟子だからな。
「昨日、模擬戦を見せただろ」
対戦相手は若いドワーフの戦闘指導を行っている人物だった。
歴戦の強者といった多彩な攻撃を繰り出してきたが、ノエルは余裕でさばききった上で終わらせたけどね。
「模擬戦では分からないことがあるでしょう」
ピコピコハンマーだと命のやり取りをする緊張感に欠けたかもな。
かといって今からダンジョンに行く訳にもいかないし、困ったものだ。
「すべてにおいて経験が不足しているはずです」
あー、戦いの実力より冒険者としての総合力がないと言いたいのか。
「心配するな。ノエルはただ強いだけじゃない」
「ですがっ」
「ノエルはな、ずっとうちらの参謀やったんや」
「そこまでド素人じゃないわよ」
アニスやレイナからの援護が入った。
「ホントですよー。ノエルちゃんがいなかったらー、私たちここにいないですー」
ダニエラの言葉にうんうんと頷く双子たち。
ツッコミどころな気もするが話がややこしくなりそうなのでスルーした。
「私は付き合いが短いが、それでも彼女がリーダーであることに何の不満も不安も感じていない」
ルーリアも太鼓判を押している。
「そもそも我々が誰に鍛えられたと思っているんだ?」
リーシャが追い打ちをかけると何か言いたげにしていたエリスもようやく口をつぐんだ。
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「それじゃあ任せたぞ、ノエル」
「わかった」
「それから、これを」
2通の封筒を手渡す。
「賢者より商人ギルド長へ」
1通目の宛名書きを音読するノエル。
「街に着いたら最初に商人ギルドへ行って直に渡すんだ」
「ん、わかった」
ノエルが頷きながら短く返事をして重なっていた下側の封筒も見る。
「賢者より髭ダルマへ?」
「そっちは冒険者ギルド長宛だ」
「「「「「ぶはっ」」」」」
月影の他の面子が堪えきれずに吹き出した。
「わかった」
返事をしながらノエルが手紙を仕舞う。
いずれも滞在期間中の月影をよろしくねといった内容だ。
ゴードン宛の方は丁寧な文言で[うちの子をぞんざいに扱うなよ、ゴルァ!]的な文面になっている。
これで冒険者同士のトラブルが発生しないよう目を光らせてくれるはず。
そしてノエルたちが偽装馬車に乗り込んでいき出発した。
見送ったのはミズホ組とガンフォール、ガブロー、ボルトだ。
「俺たちも行こうか」
この面子でそのまま移動することになるのだがツバキとハリーはバイクを用意しているので定員問題は発生しない。
両名共にあくまでも護衛であると主張した結果だ。
「また奇妙な乗り物を用意したな」
作ったのは俺だろうと言わんばかりに話しかけてくるガンフォール。
「バイクだよ。またがって乗る」
「ふむ、馬のようなものか」
「車の方が乗り心地はいいだろうな」
「うっ」
俺の返事に青ざめた顔でうめき声を漏らすガンフォール。
そんなガンフォールの様子を見たボルトも顔色を悪くさせている。
「凄いねえ。馬なしで走る魔道具の乗り物かぁ」
ガブローは見たことのない乗り物に夢中なせいか2人のお通夜状態に気付いていないどころかワクワク顔だ。
出発すればじきに道連れにされたと気付くだろう。
すでに薄々感づいているボルトとどちらが幸せなのかね。
いつの世も何処の世界でも下っ端が苦労を背負い込まされることだけは確かだ。
まあ、ガブローは王子なんだけどさ。
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そんなこんなで1週間。
ざっと巡って来た。
結論から言えば、どの国の王も飢饉はあると読んでいた。
自然の中で生きていると魔法に頼らなくても分かるらしい。
本能に根ざした能力は彼等の方が上だもんな。
俺も鍛えようって気になった。
なお、予言の証言については思ったほど重要視されなかった。
ガンフォールがいるだけで信用されたからだ。
あとミズホ酒と米の効果もあったかもね。
読んでくれてありがとう。




