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1565 逃げられない?

「始めっ!」


 主審のコールによって試合が始まった。


 が、睨み合う2人に動きがない。

 静かに自然体でたたずむカエデ。


 こちらはデフォルトと言っていいだろう。

 前の試合もそうだったし。

 対戦相手のことは知らないが。


 こちらは冒険者風のオッサンだったが、外見以上の情報はない。

 選手紹介の時もモブみたいなものだったから、いちいち覚えるつもりがなかったのでね。

 オッサンには失礼だとは思うけど、ここまで残るとは正直なところ思っていなかった。


 で、そのオッサンはドッシリと構えている。

 自分から踏み込むつもりはないようだ。


 両脚を広げたベタ足状態だもんな。

 絶対に自分からは攻撃を仕掛けないぞという意思表示が全身からうかがい知れた。


 そのせいだろう。

 観客席からは早くも罵声が飛び出していた。


「オッサン、何やってんだぁっ!」


「にらめっこを見に来たんじゃねえぞぉっ!」


「ガンガン攻めろよな!」


「らしくねえぞ!」


「ビビってんのか、オッサン!」


 こんな具合である。

 最初の試合の影響もあるのだろうが、それにしてもオッサンに非難が集中している。

 カエデ個人に対しての文句がほとんど聞こえてこない。


 まあ、本戦も3試合目だからな。

 前の2試合でどういう戦い方をするのかを観客たちも理解したってことだろう。


「相手の男は対策しているつもりでしょうか?」


 カーラが問うてきた。


「そのつもりなんじゃないか」


 少なくともオッサンの構えを見る限りはそうだ。

 本戦2試合を見て出した結論なんだろうな。


「どういうことでしょうか?」


 ツバイクが今ひとつ理解しかねると言いたげに聞いてきた。


「あのオッサンもカエデの試合を見ていたんだろうってことだ」


「それは分かりますが、まだ何もしていませんよ」


 動きがないから対策しているとは思えないと言いたい訳か。


「あの構えが対策なんだよ」


「えっ!? あれが本来のスタイルでないということですか?」


 ツバイクが目を見開いて驚きを露わにしている。


「彼の試合は見ていませんよね?」


 続けざまに聞いてきた。

 それは確認するまでもないことなのだが。


「オッサンの戦い方がどうかは知らんよ」


 俺は見てないし特に知りたいとも思わない。


「あれが本来のスタイルだとしても、それを変えるつもりがないのは確かだ」


 追い詰められた手負いの獣のようなとでも表現すべき顔つきになっている。

 強張った表情に余裕など微塵も感じられない。


 代わりに緊張とわずかな畏縮が見受けられた。

 一見しただけでは殺気を放っていそうに見える双眸も実は違う。

 あれは、ただただ必死なだけだ。


 ツバイクには見えていないだろうから、そこまで読み取れというのは酷な話ではあるが。


「それに観客席のブーイングに耳を傾ければ違うと分かるはずだぞ」


「え?」


 一瞬、呆気にとられたツバイクだが。

 すぐにハッとした表情で周囲を見渡した。

 俺たちが少し話している間にまばらだった罵声が合唱状態になっている。


「対戦相手だけ非難されているみたいですね」


「そりゃあ戦い方を変えれば、そうなるだろう」


「なるほど、納得です」


 ツバイクはそう言いながら頷いた。

 が、その表情は言葉ほどスッキリしたものとは思えない状態だ。


「納得しきれていないようだが?」


 再び頷くツバイク。


「本来のスタイルでないのは分かりました。

 ですが、そのことと対策とがどう結びつくのかが分かりません」


「カエデの戦いぶりを見てどう思った?」


 それはツバイクにとっては意表を突かれるような質問だったらしい。


「え?」


 怪訝な表情で首を傾げている。

 困惑しながらも考え込む様子を見せたので大きな動揺ではなかったようだ。


「あっ」


 ツバイクが目を丸くさせて驚きの声を上げた。

 どうやら気付いたようだ。


「2試合とも相手に攻撃させて反撃する形でした」


 ツバイクの表情が驚きから真剣味を帯びたものへと変じていく。


「自分から攻撃する手がないと相手は読んだのですね?」


「そんなところだな。

 皆無とは思っちゃいないだろうが、得意ではないと判断したんじゃないか」


「つまり、攻めさせれば勝ち目があると」


 なるほどと目を見開いて軽い驚きを見せるツバイク。

 盲点だと思ったのだろう。


「オッサンはそう考えたようだな」


 が、それは思い込みというものだ。


「違うのですか?」


 ツバイクは目を丸くさせた。

 そう思ってしまうのも無理からぬところかもしれないが。

 カエデは本戦で2戦続けて同じような戦い方をしているからな。


 とはいえ本人は得意とも苦手とも言っていない。

 試合では受けから投げに転じる姿しか見せていないだけだ。


 それだけで引き出しを小さく見積もるのはいかがなものか。

 カエデのことを侮っていると言わざるを得ない。


 ツバイクはともかく武王大祭の本戦出場者がそれではね。


「仮にも秘伝を有するような武術の伝承者だぞ」


 オッサンにはその情報はないがな。

 それでもカエデの試合を見たのであれば只者でないことは感じ取れたはず。

 感じ取れなかった時点で実力のほどはお察しレベルということになってしまう訳だ。


 オッサンは微妙なラインといったところか。

 試合前は感じ取れていなかったのは間違いあるまい。

 ただ、実際に対峙してみて初めてヤバいと気付かされた風ではあった。


 未だにビビったままだしな。

 舞台に上がる前に棄権しておくんだったと後悔していそうだ。

 それでも試合前の方針を変えないということは戦う意志を残している訳で。


 だからといって勝つために舞台上に立っているとは限らない。

 実際は破れかぶれになるかどうかの瀬戸際あたりにいるのではないだろうか。

 無様に負けたくないという思いにすがっているだけかもな。


 あと、自分から攻めても勝ち目がないことだけは確信しているものと思われる。


「そんなに凄いのですか?」


 ツバイクが目を丸くさせた。

 試合を見てそれなのかと思いかけたが、考え直した。

 2回の試合だけで、そこまでの見極めを求める方が酷なのかもしれない。


「技の引き出しはいくつもあるだろうよ。

 で、今までそのうちのひとつしか使っていない」


「なっ」


 ツバイクは短く言葉を発したきり固まってしまった。


「そう驚くことでもないぞ。

 今までの相手が弱すぎたんだ」


「あれでですか……?」


 呆然と呟くツバイク。


 まあ、スピード派の真似なんて誰にでもできることじゃないだろうしな。

 信じられないと思ってしまうのも無理からぬところか。


「世の中、上には上がいるんだよ」


 俺がそう言うと、ツバイクはハッとして妙に納得していた。


「確かにそうですね」


 おまけに苦笑までしている。

 俺の方を見ながらというのが失礼だと思うのだが。


 怒るほどのことではないんだが、思うところがない訳ではない。

 俺が非常識な存在だから納得できたと言われているような気がしたからな。


 そこはせめてミズホの常識は西方の非常識的な感覚で見てほしいと思うのだ。

 俺だけが非常識だと思われるのって凄く寂しいぞ。


 こういう時に察してくれるのが実はシーザーズのリーダー格であるシーダなんだよな。

 こういう街中では猫サイズでいるから目立たないんだけど。

 俺の脚に体をすりつけてゴロゴロ喉を鳴らしている。

 シーダなりに慰めてくれているようだ。


 ちょっと元気が出た。

 と思ったら、マリカとかノエルが寄って来てギュッとしがみついてきた。


「おおぅ」


 何事かと思ったさ。


「ハル兄、ちょっとションボリさんだった」


 ノエルがボソッと呟いたので理由は分かったけどな。

 シーダと同じという訳だ。


 うむ、実に嬉しいことではないか。

 背後には子供組が待ち構えているしな。

 言うまでもなくノエルたちと入れ替わりに幼女アーマー状態でベッタリ密着された。


「いやあ、子供に大人気ですなぁ」


 マイカがニヤけながら言ってきた。


「YLNTな紳士ではありませんぞぉ」


 妙な口振りで冷やかしてくる。


「俺から触れにいった訳じゃない。

 それと俺はロリコンじゃなくて保護者だ」


「何という逃げ口上」


「言ってろ」


 付き合ってられん。


読んでくれてありがとう。

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