1563 弁当づくりにサプライズは必要ない
翌日の試合展開はそれなりになるであろうことが予想されていた。
仮にも各国から人が集まる武王大祭の本戦だ。
しかも残っている面子はベスト8である。
運だけで勝ち上がれるはずはない。
それでも約3名は突出しているけどな。
そのうち2名はウルメとカエデであるのは言うまでもなかろう。
残りは得体の知れない覆面男。
得体が知れないのは、どういうところかというと……
すかした感じを演出しようとしているのが所々で透けて見えるのが大きいと言える。
派手なパフォーマンスを好まなかったり。
試合展開もスマートだったり。
そういう点ではポイントを稼いでいるのだが減点要素は少なくない。
まず、覆面がダサい。
適当に用意しました感が否めない。
しかも、この事実を自分で認めてしまっている。
本戦出場決定後の選手紹介時に仮面を被ってきたからな。
仮面を被ったまま試合はできないのはルール上の問題だから分かるのだが。
見る側からすると覆面の間に合わせました感がどうしても拭えなかったのだ。
覆面男としては仮面の姿こそが本来の自分であると主張したかったんだろうけど。
やはり覆面の雑さで損をしていた。
そこまで雑にするなら、あえてそうしていると振る舞えば良かったものを。
最初は舐められるかもしれないがね。
余裕で勝つ実力があるなら逆に格好良く見えてきたりもするのだ。
所詮はなんちゃってである。
前日の試合では性格的にも残念な部分が垣間見られたしな。
観客を意識するあまり対戦相手を怒らせてなだめにかかるという笑えない展開だった。
怒らせてしまうのは仕方がなかったとしても、なだめる必要はなかっただろう。
少なくとも、すかしキャラを演出しようとしているのならば。
一般の観客たちにはスマートな試合運びぶりに見えていたようだけど。
我々の目は誤魔化せないのだよ。
それはそれとして本日の予定であるが、試合会場に缶詰されることが決定。
カエデとウルメの試合が午前と午後に分かれてしまったからだ。
昼前の試合と最終試合なんだよな。
間に覆面男の試合が入っているのだけど。
覆面男はカエデとウルメのどちらかと当たらなければ、どうでもいいんだが。
出場しない俺たちが見ても参考にならないし。
癖や弱点をカエデやウルメに伝えるつもりもない。
そういうのは自分で見つけないと強くなれないからね。
2人とも勝つためだけに出場しているんじゃないんだし。
カエデは修行と言い切っているし。
ウルメもそれは否定しない。
なるたけ多くの相手と戦いたいと言っているのでカエデほど修行感はないけど。
それはともかく、試合のタイミングが微妙だ。
早めに会場入りして終わるまで出られない。
缶詰と言ったのは伊達ではないのだ。
え? カエデは昼前の試合だから朝はノンビリできるって?
とんでもない。
武王大祭の準々決勝なんだ。
観客の入りが良くなることはあっても逆はない。
座席の確保だって苦労するのは目に見えている。
うちは大所帯だしな。
だからカエデの試合にタイミングを合わせて入場してもアウトだ。
皆がバラバラになるどころの話ではない。
分散したって座れるかどうか怪しいところである。
もちろん、そんなのを確かめようとは思わない。
最後までゆったりした気分で観戦したいからね。
そんな訳で朝イチから座席取りですよ。
ツバイクなどは眠そうにしていた。
だが、我々はずっと早起きだったのだ。
昼ご飯の仕込みをしていたのでね。
前日のような現地調達式は時間の無駄が多いことに気付かされたが故である。
宿屋の厨房を借りて作った方が効率が良いもんな。
外で作るとなるとメニューが限られてしまうし。
その割にメニューはサンドイッチとかホットドッグとかのファストフードだけど。
え? それなら昨日のオープンサンドとさして変わらない?
おまけに仕込みで時間がかかることもないって?
コンボでツッコミですか。
新手ですな。
だが、甘い。
すっごく甘いと言わざるを得ないのだよ。
何かにたとえようと思ったけど大惨事になりそうだからキャンセルしたくらい甘いから。
頭の中でだけとはいえ味覚を崩壊させたくはないだろう?
具材には時間をかけているのだ。
ホットドッグだって単にソーセージを挟むだけじゃないのである。
千切りしたキャベツを挟むなんてのは序の口だ。
オムレツの中にソーセージを入れたり。
芋サラと一緒に挟み込んだり。
焼きそばを入れたりもした。
え? それはもうホットドッグじゃなくて単なる焼きそばパンだって?
いいえ、ホットドッグなのです。
フランクフルト級のを上にドーンと乗せているのでね。
さすがにボロニアソーセージは太すぎて焼きそばと一緒にするのは不採用になったけど。
一応、単体では採用した。
半分は冗談というかネタだ。
味覚の上でパンとのミスマッチになるのが目に見えているのでね。
味より量だと言うなら満足するかもしれないが。
サンドイッチの方も頑張りましたよ。
唐揚げとかエビ天とか揚げ物が多かったので時間がかかったさ。
フライドポテトサンドなんてのも作った。
そしたらポテチサンドなんて際物を作った人がいましたよ。
さすがに揚げたものを直にパンに挟むことはしなかったけどな。
砕いてサウザンドアイランドソースで和えてパンに挟んだので味はそれなりだった。
まあ、これもネタとして包んである。
食感がちょっと面白かったのでね。
それと際物は他にもありましたよ。
カレーパンサンド。
カレーパンで充分じゃね?
なんでパンで挟む必要があるんだと犯人に問いましたよ。
そしたら胸を反らせてドヤ顔で──
「手が汚れにくくなるでしょ」
などとマイカさんは宣いましたよ。
その通りだとは思うのだけど、何かが違うよな。
本人はホットサンドにしようとしていたけど。
「だってカレーが漏れたりしなくなるでしょ」
二重になるからということらしい。
「んな訳あるか」
俺は否定した。
大惨事になることしか想像できなかったからな。
仮に不幸な事故が起きなくても意味不明だし。
単に奇をてらっているだけだとしか思えない。
あえて言うなら、意表を突かれた誰かの反応を楽しもうとしているっぽい。
「悪いこと言わないからやめておけ」
俺は碌なことにならないと思ったから忠告した。
「いいの、いいのぉ。
問題ナッシング~」
マイカは鼻歌交じりで返事をする始末だ。
「せめてドライカレーにしておけ」
妥協案を提示するも──
「ノンノン」
人差し指を立てて軽く振りながら否定されてしまった。
「カレーパンと言えば欧風カレーが基本でしょ」
言いながらホットサンドのプレートを引っ張り出してきた。
こうなると、もはや止められない。
「レッツ、トライ!」
パンでカレーパンを挟み込んでプレス。
結果は言わずもがな。
プレスした瞬間にカレールーの茶色いのが漏れましたよ。
ブシャッと。
あえて具体的な表現を避けたくなるくらいヤバい感じでね。
「ギャーッ!」
飛んでくる茶色い飛沫を避けるべくマイカが飛び退いた。
こうなることを予測できなかったとは未熟者め。
事前に予測できたから指摘もしたというのに。
人の忠告に聞く耳を持たないからこういうことになるのだ。
危うく宿屋の厨房をカレーの茶色い染みで汚染するところだったさ。
あれって染み付くと落ちにくいんだよな。
今回は理力魔法でブロックしたから被害はなかったけど。
グシャってグズグズになった残骸をカウントしなければね。
3秒ルールとか言う以前に落としていないので見た目以外はセーフである。
そんな訳で倉庫を経由して集めてひとまとめにしておいた。
お陰で見た目が酷いことになりましたよ。
でも、食べ物を粗末にしてはいけません。
マイカには後で責任を持って食べてもらおう。
さすがに試合会場では出さないけど。
周囲に与える心理的影響がバカにならないので。
なんにせよマイカがトライした結果は惨敗と言う他あるまい。
カレーパンのホットサンド化は却下するまでもなくボツとなったのである。
読んでくれてありがとう。




