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1557 スピード派、勝負をかける

 ランサーが試合が動くと言って間もなくのこと。

 スピード派が今までと同じようにフェイント攻撃を仕掛けた。


「今までと違う?」


 そう言ったのはツバイクである。

 他の面子も気付いたようだ。


「姿勢が低い」


「何かやる気だ」


 ランサーとタワーがツバイクとほぼ変わらぬタイミングで呟いていたからな。


「「「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」」」」


 観客席が沸き上がった。


 それまでと違ってスピード派が退かなかったからだ。

 低い姿勢を維持しながら上下にパンチを散らしている。


 ただし、上方向への攻撃は極端に少ない。

 下から突き上げるようなジャブが連続攻撃の合間に入る程度である。


 単調な攻撃にならないように織り交ぜているといったところか。

 読まれやすくなるからな。


「完全に場外狙いだな」


「うむ」


 ランサーの言葉にタワーが同意する。


「姿勢を低くしたのは投げ技を警戒しているんだろうが」


「英断だ。

 その程度で対処できるとは思わぬ方がいい」


 タワーはスピード派のことを贔屓目に見ていた割に手厳しい。

 油断するなというエールか?


「だろうな」


 元よりカエデが勝つと信じて疑わないランサーが辛口なのは言うまでもないだろう。


「だからこそギリギリまでこの展開に持ち込まなかったとも言えるが」


 どう思う、と問いかけるような口調でランサーが言った。


「それで間違いあるまい。

 体力は消耗するが低リスクで追い込めるだけ追い込んだ訳だからな」


「けどよ、ここからはもっとキツいぜ」


「神経をすり減らす作業になるからな」


 2人の見方は的を射ている。

 確かにそういう展開だ。


 スピード派が歯を食いしばって連続突きを繰り出していた。

 姿勢を低くして左右に小刻みに動きながら。


 投げ技だけは食らうまいと最大限に警戒しているつもりだろう。

 その割りには押せ押せな気配が濃厚だったが。

 とにかく少しでも早く舞台の際まで追い込みたいという意思が透けて見える。


 いや、あからさまと言ってもいいくらいだ。

 気付いている者はミズホ組以外には見当たらないけれど。


「そろそろ体力が尽きそうなのかしらね」


「そんな感じかな。

 歯を食いしばっているし」


 ABコンビがそんな会話をしている。


「集中力が乱れないといいんだけど」


 リオンが残念そうな視線を向けている。

 じきに集中力が切れると言わんばかりだ。


「あら、カエデを応援しているんじゃないの?」


 レオーネが聞いた。


「そうだけど、尻切れトンボに試合が終わるのは残念だなって」


「「「「「あー……」」」」」


 リオンの返答にレオーネだけでなく周囲の面々が落胆混じりの同意をした。


 確かにスタミナ切れでの敗北は格好がつかないかもな。

 ペース配分を考えていなかったとも言える訳だし。

 そうせざるを得ない強敵だったとも考えられるのだが。


 ただ、そうなった時に観客がどう判断するかは微妙なところだ。

 これまでカエデは一切反撃していないからな。


 一般人からすればタイミング良く回避するだけと受け取られていることだろう。

 それがスピード派の自爆的な敗北という結末になれば不満を抱きかねない。

 素人目にはカエデの勝利は棚ぼたにしか見えないはずだからな。


 リオンはそのあたりを危惧したって訳だ。

 実際、まさにそういう展開になっていた。

 スピード派の顔が苦しそうに歪んでいる。


 それを隠そうとさえしていないということは、もはや限界だろう。

 体力的にも精神的にも。

 根性で粘っているだけだ。


 が、舞台の縁まではまだ微妙に距離が残っていた。

 攻撃で押しきって落とすには無理がある。


「一歩及ばず、か」


 ツバキが呟いた。


「その割りには諦めていませんよ」


 カーラはまだ何かありそうだと感じているようだ。


「問題は、次の手を使うだけの体力が残っておるかじゃな」


 シヅカもこのままではスピード派が何もできずに終わると見ているらしい。


「あー、盛り上がりに欠けた終わり方になりそうやなぁ」


「しょうがないじゃない。

 無理したツケが回ってきたようなもんなんだし」


 アニスとレイナも呆気ない幕切れを信じて疑わないみたいだな。


「そうとは限らない」


 ノエルが言った。

 ミズホ組が一斉にノエルの方を見る。

 それだけ意外な発言だった訳だ。


「どういうことだ?」


 リーシャが代表するように問いかけた。


「動く」


 ノエルはリーシャの問いには答えずに舞台の方を指差しながら言った。

 皆が舞台の方へ視線を戻した瞬間。

 試合の流れを変える動きがあった。


 スピード派がスタミナ切れで止まった訳ではない。

 まだ何とか持っている。


 動いたのはカエデの方だ。

 スピード派の突き上げるジャブに合わせて後ろへ大きく飛び退いた。


 上手いものだ。

 詰められた距離の中での猛攻に耐えられなくなったと見る者も少なくなさそうだ。

 カエデの着地位置は舞台の際まであと一歩という所である。


「っ!」


 スピード派がギラリと瞳を光らせた。

 ここしかないと反射的に思ったのだろう。

 脚に力がこもっている。


 小細工も何もない前ダッシュと見た。


「うおぉりゃ─────っ!」


 裂帛の気合いを込めた叫びとともに前へと飛び出すスピード派。

 これがただの前ダッシュであったなら、ただのカモである。


「「「「「おお─────っ!」」」」」


 観客席から驚きの声が上がった。

 カエデの周囲を回っていた時のような素早さでいきなりダッシュしたからな。


 一瞬、見失った者たちも少なからずいるようだ。

 更に低い姿勢になったことも関係しているだろう。


 それこそがスピード派の出した答えであった。

 掴めないほど低い姿勢ならば投げられることはない。

 そこから己の速さを生かした攻撃をするために選んだ方法が──


「スライディングタックルとはっ」


 トモさんに先に言われてしまった。


 まあ、競っている訳ではないのだけど。

 あの口振りでは某サッカー漫画のシーンが頭の中でリフレインしているに違いない。


 とにかく、スピード派はスライディングタックルでカエデに襲いかかる。


 考えたものだ。

 腕を取られれば勝ち目はないと前の試合を見て思ったのかもしれない。


 そこから導き出したとしか思えない戦法だからな。

 特に最後の詰めはそうだ。


 何がなんでも腕を取らせない。

 腕を取られなければ投げられることもない。

 だからこそのスライディングタックルという訳だ。


 普通のタックルと違って姿勢が極端に低いからな。

 腕の位置も遠くなる。


 まずはスライディングを止める必要があるとスピード派は考えたのだろう。

 舞台の際ならば、それもままならないとも。


 勢いをつけたタックルで相手のバランスを崩させて押し込めば楽に場外へ落とせる。

 スピード派はそう結論づけたようだ。


 ひとつ見落としているけどな。

 今の今まで攻撃をすべて躱されているということを。

 そして残念なミスをいくつかしていることにも気付いていない。


 トップスピードに乗せるために溜めを作ったのも。

 ダッシュに入る時に叫んだのも。

 真正面から飛び込んだのも。


 カエデからすればカモにしてくれといっているようなものだ。


 だが、致命的なミスは試合が始まる前にやらかしている。

 カエデの見極めだ。

 強者であると認めているようで肝心なところでそうではない。


 おそらく対戦相手が女であると頭の何処かで引っ掛かっているのだろう。

 舐めていると言ってしまえばそれまでだが、そう単純なものでもないと思う。

 頭では分かっているはずなのだ。


 でなければ、ここまで作戦を練ったりはしなかっただろう。

 先入観がブレーキをかけてしまっているといったところか。


 そこから抜け出すのは容易なことではないが。

 今回の対戦はスピード派にとって勝ち負けに関係なく大きな糧となりそうである。


 カエデがスルリと横に避けた。


「ちっ」


 スピード派は脚を広げて追いすがろうとするが限度がある。


「くっ」


 このままの勢いでは場外に落ちてしまう。

 スピード派は咄嗟の判断で踵や手を使ってブレーキをかけた。


 それは自ら場外へ転落してしまうのを回避するという点では意味があったかもしれない。

 が、大幅に減速しなければならない状況に追い込まれては他の行動は取りづらくなる。


 膝をついたカエデに容易く腕を取られてしまっても為す術はなかった。


読んでくれてありがとう。

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