1543 救出済みだったりする
「事実かどうかを知りたいなら被害者に聞くことだな」
それだけで泥棒貴族の一族の命運が決まる。
これが日本なら裏付け捜査なども必要になってくるがね。
だが、ここはルベルスの世界。
セールマールの世界の常識は通用しない。
王様を怒らせた時点で詰む訳だ。
まあ、ハイラントは気分だけでホイホイと処分を決めたりはしないだろうが。
とはいえ今回は他の罪において言い逃れしようのない証拠が色々とそろっている。
誘拐監禁に関しての証拠が不十分でもサクッと決めてしまうだろう。
「では、被害者に話を聞かねばな」
そう言いながらハイラントが俺の方を見てきた。
気の早いことだ。
さっさと連れて来いというのだろう。
「被害者の監禁されている場所へ連れて行ってくれるか」
「ん?」
何か誤解しているようだ。
おそらく今もまだ監禁されたままだと思っているのだろう。
無理からぬことだ。
俺も今し方SNSのウィスパーで報告を受けたばかりだからな。
どうりで黒猫3兄弟と別々に帰ってきた訳だ。
「既に監禁されてはいないぞ」
「なにっ!?」
ハイラントが慌てた様子を見せた。
「まさか、こちらの動きを気取られたのかっ?」
「なんでそうなる?」
「ええっ!?」
ハイラントが困惑している。
想定が外れたが故だとしても、もう少し落ち着いてほしいものだ。
「思い込みが激しすぎるんだよ。
監禁されていた人たちは救出済みだ」
「「「「「なんですとぉ!?」」」」」
ハイラントだけでなく5国連合の面々までもが驚きの声を上げた。
「どうやって!?」
ハイラントが詰め寄ってくる。
「影渡りを使えば、そう難しいことじゃないさ」
暑苦しいのは御免被るので押し退けながら答えた。
「うぅむ……」
苦り切った顔で唸るハイラントである。
「そうそう乱用する訳ないだろ」
ハイラントはそのあたりを心配しているのだろう。
その気になれば、やりたい放題できるからな。
「今回は、非常事態だから使ってるけどな」
「そうは言うがな」
「少なくとも、うちの面子以外には使えんよ。
宮廷魔導師クラスでも、あっと言う間に魔力が枯渇するからな」
「「「「「っ!?」」」」」
影渡りで移動してきた面々が驚愕の表情で俺の方を見た。
どうやら簡単に使えるものとばかり思っていたらしい。
「試しにお抱えの魔導師に教えてみるか?
まあ、制御もまともにできずに終わるだろうが」
放出系の魔法しか使えないんじゃね。
影に干渉する段階で四苦八苦するのが目に見えている。
「おいおい、ハルト殿。
君の部下は往復しているじゃないか」
呆れた感じでサリュースが指摘してくる。
残りの5国連合の面子も激しく頷いて同意していた。
「うちのトップクラスの人員だからな」
「「「「「……………」」」」」
言葉を失っている。
今更ながら桁が違うことに気付いたようだ。
「それと、ひとつ訂正がある」
「「「「「っ?」」」」」
まだ何かあるのかとサリュースたちが目を見開いていた。
「カーラは部下ではなく、俺の奥さんの1人だ」
「「「「「っ!」」」」」
一言ごとに驚かれている気がするんですが。
それとカエデも驚いている。
やっぱり部下だと思われていたんだろうか。
しょうがない部分もあるとは思うが、ちょっとションボリだ。
ガックリレベルじゃないにしても肩も落ちるってものですよ。
そのタイミングで部屋に入ってくる面子がいた。
「ハル兄ー」
トテテと駆け寄ってくる桃髪天使様。
「おかえりー」
「ただいま、ハル兄」
満面の笑みを浮かべるノエルさん。
ああ、癒やされる……
え? ほとんど表情が変わってないって?
それは他の人を基準にしているからだね。
慣れれば分かるようになるさ。
現にミズホ組の面々には通じている。
まだ仕事は終わっていないながらも和やかな雰囲気になっていたよ。
「で、監禁されていた一般人を救出してきたんだって」
「ん」
コクリと頷くノエル。
「魔法で眠らせてる」
救出する前からの処置だろう。
何かの拍子に騒がれちゃ、こちらの隠密行動が台無しになるし。
宿屋に戻ってきてもパニックを起こされたんじゃ収拾がつかなくなる恐れがある。
「ひと部屋じゃ足りないよな」
再び頷くノエル。
SNS上で受けた報告によれば両手両脚で一度に数え切れない人数だったからな。
「分散させた」
だとしても宿屋のベッドに全員を寝かせることはできない。
俺がそのことを考えていると読んだのだろう。
「マットを並べて寝かせてる」
俺が問う前からどういう状態にしているかノエルが言ってきた。
「事情を聞きたがっているオジさんがいるんだけど」
ノエルは両手の人差し指をクロスさせてバッテンを作った。
ダメってことだろう。
「休ませるの優先」
「だよな」
眠らせてる間に治癒とか魔法でのメンタルのケアもしておけば後が楽だし。
それを中断させるなど被害者を蔑ろにしていると言わざるを得ない。
「ということだから、もうしばらくの辛抱な」
俺はハイラントに向けて言った。
「え? ええっ!?」
訳が分かっていない様子で困惑しきりのハイラント。
「おいおい、ハイラントくん。
君がしっかりしないとダメじゃないか」
サリュースに発破をかけられている。
「お、おう……」
どうにか返事はしたが、まだまだ動揺は収まっていないようだ。
「なあ」
俺はコソッとした感じでランスローに呼びかけた。
「何だ?」
「あれって、どういう状態か分かるか?」
「ハイラントが腑抜けみたいになっていることか?」
ランスローは察し良く気付いてくれた。
「そうそう」
「ハルト殿たちのせいだろう」
呆れた感じの視線を向けられてしまった。
「えっ、俺たちの?」
「奥方が宮廷魔導師を超えるような魔法をいとも容易く使っていたじゃないか」
「まあ、そういうことになるんだろうな」
「精鋭の1人というなら分からんでもないが、奥方だぞ」
ランスローは「奥方」を強調して言った。
その手前に「よりにもよって」とかが付いてきそうな口振りだ。
「そんなこと言われてもなぁ……」
「できて当然とでも言うのかよ?」
ランスローがジト目で聞いてくる。
「同行している面子はな」
「おい、冗談はよせ」
「冗談を言ってどうするんだよ」
「子供もいるじゃないか」
ランスローが子供組の方を見た。
ノエルの方を見ていたら、どうなっていたか。
今ピクッと反応しかけたからな。
やぶ蛇になるのは嫌なので俺もツッコミを入れたりはしない。
「見た目で侮るなよ」
「……マジなのか?」
「ウソを言ってどうするんだよ」
「なんてこった」
処置なしとばかりに上を見上げるランスロー。
「ランスロー、ハイラントは今のやり取りをするまでもなく察したのだろう」
声を掛けてきたのはルータワーであった。
スタークはランスローとの話を聞いている間に燃え尽きた感じになっている。
「あのハイラントがぁ?」
懐疑的な調子で問い返すランスロー。
「ハイラントの方が先にハルト殿と出会っているではないか」
「あー、判断材料は俺たちより多かったか」
切り返されて、すぐに納得はしていたが。
「そんな訳だ」
ランスローが言ってきたが、意味不明だ。
「どんな訳だよ」
ツッコミを入れざるを得ない。
「ここまでやらかせば納得するしかないってことだ」
「だから何をだ?」
「今夜中に終わらせるというのもホラではないということだよ」
「信じてなかったのかよ」
「信じる方がどうかしているだろうが」
フンと鼻を鳴らしながら不機嫌そうに言われてしまった。
だが、腹は立たない。
やりすぎている自覚があるからな。
皆でやらかす結果になったのは想定外だったけど。
救出済みだからいいだろって言い訳してもクレームがつきそうなのが微妙である。
せめてもの救いはカエデとツバイクが遠い目をしていることか。
あと、サリュースが静かなのも地味にありがたい。
嵐の前の静けさとかじゃないことを祈るばかりだ。
読んでくれてありがとう。




