1542 信じるか信じないかは……
続いて戻ってきたのはキースたち。
影渡りで現れる時から片膝状態という外連味を感じさせる登場の仕方をしていた。
当人たちに、そういう意識はないんだろうけどね。
忍者モードのスイッチが入っているからしょうがない。
「ただいま戻りました」
「はい、お疲れ~」
「首尾はどうだったの?」
待ちきれない様子でマイカが聞いている。
「特に障害はありませんでした」
「それは分かるんだけどさー」
もどかしげな様子を見せるマイカ。
「はいよ、細かな報告は後でな」
「え~っ」
「あ・と・で・な」
マイカにズイッと額を寄せて短く区切りながら言った。
はた目には念押ししているように見えたことだろう。
実際には上級スキルの【腹話術】を応用的に使ったのだが。
それ故、唇の動きは台詞とは別物だった。
『キャクジンガイルノヲワスレルナ』
客人がいるのを忘れるな、と釘を刺した訳だ。
熟練度がカンストしていなければ不可能な芸当である。
あと読み取る側も同じ上級スキルの【読唇術】が必要になるのはお約束と言えよう。
こちらは熟練度をカンストさせていなくても大丈夫なんだけど。
前に興味本位でスキルを習得して練習していたのを見ていたので試しに使ってみたのだ。
「へーい」
不服そうな返事ではあったが、マイカは素直に引き下がった。
効果はあったってことだな。
「いやいや、次から次へと来るものだね」
サリュースが感心しながら話し掛けてきた。
「それで、彼らにはどんな仕事を任せていたのかな?」
興味深いと顔に書いたままで聞いてくる。
他の5国連合の面々にも注目されていた。
言うまでもなく耳は超高感度状態にセットされている。
「そんな大層なことはしてないぞ。
逃がすと面倒な末端組織を先に潰しにいってもらっただけだからな」
「「「「「……………」」」」」
ジト目の一斉射撃が飛んできた。
「片手間みたいに言ってくれるじゃないか。
どう考えたって、大層なことのはずなのだよ」
呆れた顔でサリュースにツッコミを入れられた。
「どの口が言うのか」
ハイラントも続いた。
「まったくだ」
そして、ランスローが同意する。
ルータワーとスタークは言葉こそ発しなかったが頷いていた。
「そんなことを言われてもなぁ」
俺たちからすると控えめにしているつもりである。
もちろん、そんなことは5国連合の面々には言える訳がないのだけど。
「本命を捕まえるのは、これからだし」
「おいおい、まるで日付が変わる前に終わらせるみたいなノリじゃないか」
更に唖然とした顔でサリュースが言ってきた。
残りの5国連合の面子は「さすがにそれはない」という顔をしていた。
「元よりそのつもりだぞ」
引き継いだ後にどれだけ時間がかかるかまでは考慮していないがね。
「「「「「なんですとぉーっ!?」」」」」
室内に5国連合の叫びが響き渡った。
山間で発したなら確実に木霊していたくらいの大音量だ。
「あー、うるさい」
両手で耳を塞ぐ。
「いやいやいやいやいや、いくら何でもあり得ないだろう?」
興奮したままのサリュースが聞いてくる。
「そうだともっ、一網打尽にする必要があるんだぞ」
ハイラントがサリュースの疑問に同意しながら言った。
「秘密裏に騎士団を動員してとなると、どうにか動員するので精一杯ではないか?」
ランスローがハイラントに問いかける。
それに頷きを返しつつ──
「日付が変わる前後でとなると、それくらいだろう」
ハイラントが答えた。
「そもそも、それ以前に証拠が集まらん」
そこへ付け加えるようにルータワーが断じた。
「ですよね」
スタークが渋い表情で頷いている。
「正規の手順だと罪状を確定させられるものを集めるだけでも難しいですよ」
「そんなことしてられるか」
すかさずハイラントのツッコミがあった。
「武王大祭の期間中ですもんね」
そこはスタークも分かっているようだ。
「短期間でけりをつけるなら強制的に乗り込んで片っ端から押収していくしかありません」
「それも難しいんだぞ」
スターク以上の渋面を浮かべているハイラントだ。
「分かっていますよ」
スタークが小さく嘆息した。
「武王大祭にはうちからも人員が出ているじゃないですか」
人手不足で大変なのはスタークもよく分かっているのだ。
前回はフィア王国で行われているが故に。
その時はデュラ王国とフュン王国から人員が送られている。
前回の大祭を経験した国と次に大祭を執り行う国から応援の人手が出る決まりだからだ。
引き継ぎのことも考えられたシステムだと言えよう。
まあ、俺たちには関係のない話である。
「ハルト殿、いくら何でも無茶を言わないでくれ」
ハイラントが堪えきれないとばかりにクレームをつけてきた。
「心配はいらないよ。
任せてくれれば宣言通りに黒幕捕縛まで終わらせる」
「ふぁっ!?」
ハイラントから素っ頓狂な声が出ていた。
「おやおや、豪語するね」
目を丸くさせたサリュースが芝居っ気たっぷりな身振りを交えながら言った。
「別に豪語しなきゃならんほど大事じゃない」
貴族家のひとつを相手にするだけだからな。
ゲテモノポーションで黒幕が魔物になる訳でもないし。
街を簡単に壊滅させるような大型の魔物が出てくることもない。
あるいは人を操る悪魔が潜んでいたりもしない。
もちろん、戦えない者たちが魔物の集団に追い回されたりなんてこともない。
5国連合の面々は俺たちがやってきたことを知らんからな。
俺の返答に唖然とするばかりだ。
一方でカエデは沈黙を守っている。
頬ずりモードは終了したらしい。
ハイラントたちとのやり取りを淡々とした様子で見ていた。
今までの態度と天と地ほどのギャップがあるが、それを指摘するのは酷だろう。
とりあえずカエデが冷静なのは助かる。
今は5国連合の相手をするだけで手一杯だ。
俺の言葉をまるで信じていないように見えるからね。
実に面倒な状況である。
説得や説明に尽力するよりサクッと終わらせた方がいいだろう。
「「「戻りましたー」」」
ちょうど良いタイミングで黒猫3兄弟が戻ってきてくれた。
キースたちと違って忍者モードの状態は深くないようだ。
「はいよ、お疲れ。
月影とは合流しなかったんだな」
「いいえ、集めた証拠の最終確認で合流しました」
長男であるニャスケが答えた。
「証拠集めの後に手伝いを少々」
次男のニャンゾウが報告を追加する。
それらについてはSNSのウィスパーでは報告を受けていない。
戻ってくる直前のことなのかもしれないが。
「手伝いだって?」
「奴隷目的の誘拐監禁がありましたので」
末っ子のニャタロウが俺の問いに答えた。
予想していたとはいえ本当にやっているとはね。
「「「「「な、なんだって─────!?」」」」」
何処かで聞いたような台詞で驚きを露わにする5国連合の一同。
それを見た元日本人組がヒソヒソ話を始める。
AAがどうとか。
断言口調から入らなかったのにとか。
微妙に疑問形なのが驚き切れてなくて惜しいとか。
ネタが濃すぎて他のミズホ組が入っていけそうにない。
だからこその内緒話なんだろう。
そのうち浸透しそうな気もするけど。
なんにせよ、5国連合の面々の驚きはかなりのものであった。
それだけ違法な奴隷売買が重罪ということだ。
まともな国では当然の認識と言えるので、それを見ても意外だとは思わない。
違法を承知で手を出した奴隷商人が処刑されていた事例を知っているしな。
ただ、ニャタロウは違法であるとは報告していない。
それでも誘拐監禁の一言があったから、その線は濃厚だと誰もが思ったはず。
ツバイクも絶句する形ではあるが驚いていたし。
ミズホ組以外で驚いていないのはカエデくらいのものだ。
やはりと言いたげに苦虫を噛み潰したような顔をしていたがね。
もしかすると被害者サイドで身に覚えがあるのかもしれない。
カエデだと狙われても返り討ちにするだろうけど。
その結果、逆恨みされて今の状況になっているとかはありそうだ。
「もちろん違法だよな」
「「「はい」」」
3兄弟がそろって答えた。
『あー、やっちゃった』
泥棒貴族は小物のくせに欲をかいてしまった訳だ。
これでどんなに言い逃れをしようとも極刑は免れない。
加担している者すべてだから、一族で残る者はいないものと思われる。
「隠し扉の奥にある地下牢に監禁する理由が他にあれば話は別ですが」
ニャスケの言葉に全員が「ああ……」と静かに納得の表情を浮かべていた。
そんな場所に監禁する時点で後ろめたいことをしていますと宣言しているようなものだ。
「それが事実なら断じて許す訳にはいかんな」
ハイラントが唸るように言った。
読んでくれてありがとう。




