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1540 密かに動いていますが何か?

 ハイラントによるカエデの事情聴取が行われている。

 ハイラントたちの正体は明かさぬままだったがカエデが渋ることはなかった。

 カーラが連れて来た相手だというのが大きいようだ。


 話が進むにつれハイラントの表情が険しくなっていく。

 お目付役を無理やり買って出た面々も渋面を浮かべながら聞き入っている。


 ランスローが忌々しげに唸ったりするが口出しはしていない。

 刺した釘は抜けていないようだ。


 一通りの話が終わると、今度はハイラントが幾つか質問していった。

 残りの5国連合の面々はやはり聞き手に徹している。


 ハイラントは、それなりに時間をかけていたんだけどね。

 なかなか辛抱強いものだ。


 とはいえ、ハイラントたちにとって状況は始まったばかりとも言える。

 今の段階で口出しするようなら話にもならないだろう。

 各々が責任ある立場の者として自覚を持っているということか。


 まあ、当たり前のことではあるな。

 今回の黒幕はそういうのが不向きなように思えるが。


 手当たり次第に悪事を働く輩が辛抱なんて言葉を知っているのかってことだ。

 知っていたとしても毛嫌いするパターンだろうな。


 もちろん俺たちも口出しはしていない。

 お陰で室内は静まり返っていた。


 そんな中でツバイクがヌルッと近寄ってきた。

 間近に寄って来たところで強い視線を向けられる。


「ハルト殿」


 ヒソヒソ声で呼びかけてきた。


「何かな?」


 応じる俺もヒソヒソ声だ。

 念話を使う訳にもいかないからな。

 一応、風魔法で他に聞かれないようにはしたんだけどね。


「大丈夫でしょうか?」


「何がかな?」


「武王大祭ですよ」


「この一件が影響するかもって?」


「当然じゃないですか」


 声は潜めてはいるもののツバイクが興奮し始めていた。

 気持ちは分からんではないがな。

 それだけカエデの受けた被害に憤っているんだろうし。


 窃盗被害として金額だけで見た場合は莫大なものではないのだが。

 カエデにとってはお金に換えられない家宝である。

 プライスレスってやつだな。


 それに黒幕があまりにも執拗で事情を知れば知るほど苛立ちが積み増していく。

 このままだとツバイクが声を荒げかねない。


「落ち着けよ」


 とりあえず簡単に止めてみた。

 これで自重してくれるなら助かるんだが……


「ですがっ」


 俺がなだめてみてもツバイクは止まらなかった。

 まあ、落ち着けと言われて落ち着けるなら端から興奮したりはしないか。


「手は打ってある。

 今夜中に方がつくさ」


「へ?」


 間の抜けた声を出すツバイク。


「どういうことでしょうか?」


 慌てた様子で聞いてくる。


「ツバイクを使いに出している間に色々と動き始めていたってことだ」


 そう言うと、ツバイクが唖然とした顔で俺を見てきた。


「早過ぎませんか!?」


「そうでもない」


「そうでもないって……」


「ハイラントの許可が得られたら今夜中にけりをつけるつもりだからな」


「なっ!?」


 大声を出しかけて慌てて両手で口を塞ぐツバイク。


「証拠も集まりつつある」


 スマホのSNSウィスパー上に報告が逐次上がってきている。

 詳細なものは後でまとめたものがメールされてくるだろうけど。

 言ってみれば速報版だ。


「ふぁっ!?」


 ツバイクが驚きの声を上げた。

 口を手で押さえたままだったので、くぐもった声になったけどな。


「あああ集まりつつあるって、どういうことですか?」


「どうもこうもないよ。

 ミズホ国が本気を出せばこうなるってだけ」


「────────っ!?」


 カクーンと音がしそうなくらいツバイクの顎が落ちた。

 両目も開ききっている。


「おいおい、さっきから何だい?

 ツバイク殿は変顔ばかりして」


 目敏くもサリュースに気付かれていたようだ。

 いくら静かにしてもツバイクのオーバーアクションは目立ってしまうからな。

 幻影魔法は使っていなかったし。


 俺は一方通行だった風魔法の結界を解除した。

 ちょうど事情聴取も終わったところのようだしな。


 ハイラントが少し考え込み始めたのに合わせてサリュースが声を掛けてきた訳だ。


「少しばかり内緒話をしていただけだが」


「おやおや、何を企んでいるのかな?」


 楽しげな笑みを浮かべて追及してくる。


「ツバイクが心配していただけだ。

 武王大祭がどうなるか気になっていたようでな」


 その言葉を受けてサリュースの表情から笑みが消えた。


「あー、それは難しい問題だね。

 場合によっては何日か休みを入れることもあるかもしれない」


 普通なら衛兵を動かさなければならんからな。


「中止はさすがにないと思うけどね」


 大きな祭りだからな。

 途中で取りやめることになったら暴動が起きてもおかしくはない。


「ただ、日程を延期するだけでも少なからぬ影響はあるのだよ」


 サリュースはそう言って嘆息した。


 如何なる形であれ武王大祭に関わる者たちは日程がずれ込むことで不満を抱く。

 その矛先は黒幕へと向けられるように誘導されるはずだ。


 でなければ延期を決定した者が批判に晒されるからな。

 それは言うまでもなくハイラントということになる。


 が、武王大祭という巨大な催しに対して黒幕の悪事はそこまで大きな規模ではない。

 単純に比して良いものでないとは思うが無意識に考える者たちは少なくないだろう。


 不満を抱く者の大半は被害者でもなければ、その関係者でもない。

 そうなると「この程度のことで」などと不謹慎な発想に至ることも充分に考えられる。


 黒幕が世間を揺るがすような巨悪であるなら人々の不満を受けきれたはずなのだが。

 民衆を震え上がらせるような凶悪さがないだけに微妙なところだった。

 義賊ではないので充分に疎まれ恨まれることになるとは思うがね。


 別の言い方をするなら大物ぶった犯罪組織の頭目か。

 貴族という身分が付随しなければ大きめの山賊や野盗の集団をまとめる頭と大差ない。


 ノエルが第2の禿げ豚と言ったが、劣化コピーもいいところだろう。

 脅威は感じないが疎ましさは同等だったりするのだけど。


 だからこそ、より嫌悪感が増したと言えるかもしれないな。

 台所でGの気配を感じ取るのに近い。

 ノエルが嫌悪するのも無理はないというものだ。


「それは承知している。

 心配していたのはツバイクだけだ」


「ほうほう」


 何が楽しいのかサリュースが笑っている。


「ハルト殿はまるで延期がないと確信しているように見受けられるが?」


「どうしてそう思う?」


「ツバイク殿は変顔の連続だったが──」


 随分な言われようだ。

 まあ、驚きの連続ではあったみたいだけど。


「ハルト殿はずっと落ち着いていただろう」


 それだけを根拠とするのは些か弱いと言わざるを得ないが。


「ふーん、そんなものかね」


 思わずジト目で見てしまう。

 とはいえ、あれこれ駆け引きするのは面倒だ。


「色々と面倒なことになるのは嫌だから手を打ったのは事実だが」


 さっさとサリュースの質問に対して肯定と受け取れる返事をしておく。


「あらら、あっさり風味だね。

 もっと追及してくるのかと思ったのだよ?」


「カーラが影渡りを見せただろう」


「ほうほう、あれはそういう名前の魔法なのか」


「あんなの使えば他で何もしていないと言っても信じる奴はいない」


 カーラを送り出した時点では不明なことだらけだったからな。

 情報収集のために動くくらいの動きは読まれて当然。


「アハハ、そりゃそうだ」


 サリュースは楽しげに声を上げて笑った。


「で、どんな手を打ったのかな?」


 興味深げに聞いている。


「犯罪者を断罪するには証拠が必要だろう?」


 貴族が相手なら特にな。


「確かにそうだね」


「それと余罪を見逃すわけにはいかんよな」


「もっともなのだよ」


 うんうんと頷いているサリュース。


「ついでに──」


「まだあるのかい?」


 サリュースが意外だとばかりに目を丸くさせていた。


「あるぞ。

 頭を潰しても下は勝手に動くだろうからな」


「なるほどなるほど、実働部隊は外の犯罪組織ということだね」


「そうだ」


「それを先に潰してしまうと?」


「潜伏されると面倒だろ」


「まったくだ」


 サリュースはしみじみと頷いていた。


読んでくれてありがとう。

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