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1538 皆にも仕事を

 とりあえず具体例を挙げてみる。


「ある日、家の者が目を離した隙に神隠しにあうとか」


 一瞬、何をバカなという顔をしたカエデだったが──


「っ!」


 何かに気付いたように表情を一変させた。


「カーラ殿がいるんだったな」


 そして何かを察したように重苦しい表情で呟く。


「別にカーラでなくても、ここにいる面子ならどうとでもできるが」


「なっ!?」


「だが、後々の処理が面倒だよな。

 突然の病で治療する間もなく急死してくれる方が楽か」


「っ!?」


「あー、でも悪党の巣窟みたいだからなぁ。

 家ごと何処かに消えてもらう方が後腐れはないか」


「「「「「強制スローライフー!」」」」」


 子供組がワクワク顔で一斉に歓声を上げた。


「そこまでするほどの悪党か?」


 今まで強制スローライフーの刑に処してきた連中と比べればだけどな。

 隠れてコソコソ悪事を働くとか実に小物っぽい。


「大陸東方の適当な場所にポイで良くないか?」


「ゴミの不法投棄は良くないよ」


 トモさんがツッコミを入れてきた。

 天然ボケを装っているあたり芸が細かい。


「不燃ゴミなんてないんだから、そのうち朽ちるわよ」


 マイカがツッコミ返しをしている。


「生ゴミは魔物が処分してくれるし」


 ミズキも追い打ちした。

 トモさんは予想通りの展開になったとばかりに御満悦である。


 身内だけにしか通じないノリで通すのは勘弁してほしいんですがね。

 現にカエデが唖然とした表情のままで固まってしまっている。

 何処までが冗談なのかが読み切れないのだろう。


 フォローするのは骨が折れそうだ。

 面倒だから何事もなかったように話を進めることにした。


「できないことは言ってないぞ」


 ウソはついていない。

 実行に移すかどうかは別だがな。


 カエデの表情は渋い。

 信じていないという感じでもないがな。

 つい今し方のノリが影響しているのは間違いないだろう。


 探るようにこちらを見てきている。

 何処まで本気でやるつもりか見極めようとしているのだろう。


 ならば方針を示さないとな。


「まずは証拠集めだ」


「問答無用じゃないんですね?」


 エリスが確認するように聞いてきた。


「それをするとランドに負担がかかるからな」


 腐りきっているとはいえ貴族家がなくなるのはね。

 表向きは黒幕も真面目にやってるみたいだし。


 その分の仕事が他に回されるとなると国王ハイラントとして差配しなければならない。

 武王大祭の期間中にそれを処理しなきゃならんのは可哀相な気がしなくもない。

 俺たちに絡んできた魔法貴族の後始末も終わってはいないだろうし。


「そうでしたね」


 クックと喉を鳴らしてエリスが笑った。

 なかなかに意地が悪い。

 王族としての大変さを理解しているからこそ漏れ出たんだろうが……


『ああ、エリスも怒っているのか』


 その矛先はハイラントに対してってことなんだろう。

 カエデの敵に対しても憤りを感じているとは思う。


 が、俺たちが動かざるを得ない状況を作った責任はハイラントにあると言いたいようだ。

 魔法貴族に続いて泥棒貴族まで野放しにしていた訳だからな。

 ハイラントにそのつもりはないんだろうけどね。


 俺もハイラントを責めるつもりはないんだが。

 なんたって[トラブル解決人]の称号持ちだからね。


 前の[トラブルサモナー]から進化してるあたりに不安を感じなくもない。

 よりトラブルに巻き込まれやすくなったとかだったら断固抗議したいところである。


『くぅー』


 正解~、とローズが答えた。


『エリスも本気って訳じゃないんだろ』


『くー』


 肯定、だそうだ。


 ならば俺からは何も言わない。

 マリアも、しょうがないって感じで嘆息しているし。

 クリスは「大変ですねえ」と他人事のように呟いていた。


 ハイラントのことを言っているんだろうが、こちらの負担は考慮していない。

 するまでもないと考えていそうだ。


 まあ、本腰を入れてかかるほどのことでないのは事実だけれど。

 これも天然ボケなんだろう。


「黒猫組」


「「「はっ、ここに」」」


 ササッと俺の前に出てきた黒猫3兄弟。

 片膝をついて待機する。


 忍者モード丸出しですかい。

 シノビ装束は纏ってないけど、やる気は満々だ。


「泥棒貴族が悪事を働いた証拠を集めてきてくれるか」


「「「御意」」」


 3兄弟が返事をするのと何人かが「ぶほっ」と吹き出すのがほぼ同時だった。

 そのうちの1人であるツバキを見た。


「珍しいな」


「まあな」


 ばつが悪そうに赤面して目をそらすツバキ。


「旦那のネーミングセンスのせいだからな」


 唇を尖らせて抗議してくる。


「ん? ああ、泥棒貴族か」


「っ……」


 またも吹き出しそうになったツバキだが懸命に耐えていた。


「秀逸すぎるだろう」


「そうかぁ?」


 オリジナリティはないんだけどな。

 俺が元ネタにしたのは古い刑事ドラマなのでタイトル的には正反対ではあるが。

 まあ、ネタ話をしている場合ではない。


「月影の面々も証拠集めを頼む」


 口々に了解の返事があった。

 こちらはお仕事モードには入っていない。


 まあ、黒猫3兄弟には勅令を出す機会が少ないからな。

 俺から命令されるのが嬉しくて堪らないっぽい。


 月影の面々は慣れてるから差が出てしまうのだろう。

 今回は片手間な仕事になりそうだしな。


「それと保護すべき対象がいた場合、月影はそちらを優先してくれ。

 黒猫組は月影に連絡を入れて証拠集めを続行。

 向こうにバレないよう控えめにな。

 ゴーサインはランドから依頼を受けた上でってことになる。

 それまでは報告するだけに留めるように。

 ただし、緊急を要する場合はその限りではないので各自で判断してくれ」


「「「はっ!」」」


 ビシッと返事を揃える3兄弟。

 月影の面々はやはりバラバラなままだった。

 モチベーションに問題はなさそうなので──


「では、さっそく仕事にかかってくれ」


 と言うだけで全員がシュッとその場から消えた。


「─────っ!?」


 飛び上がらんばかりに驚愕するカエデ。

 そのあたりはしょうがない。

 自重していたら明日の朝までに仕事が終わりそうにないし。


 まあ、そこまで時間をかけるつもりもないけどな。

 日付が変わるまでには終わらせたいものだ。


「それからキース」


「はっ、ここに」


 前に出てきたキースくんも3兄弟と同じように片膝をついた。


「何人か率いて泥棒貴族が使ってる裏組織を潰してきてくれるか」


「はっ」


「外に出ている輩が多いだろうから漏らさないよう気を付けろ」


 裏組織もピンキリであるのは分かっている。

 必要悪として黙認できる連中なら見逃しもするが、今回は確実に潰す。

 泥棒貴族に使われたり手を貸したりする時点で仁義もクソもない連中だと分かるからな。


 上がまともじゃないなら末端も碌なもんじゃない。

 野放しにするわけにはいかんだろう。


「ははっ」


 返事をしたキースにゴーサインを出すと、妖精組の何名かを引き連れて消えた。


「っ!」


 相変わらずカエデには刺激が強いようだ。

 まあ、仕方あるまい。

 ホイホイ簡単に順応できる方が特別だと思うべきだろう。


 誰だって未知のものに順応するのには時間がかかるものだ。

 個人差があったりはするけどな。


「あとはカーラが戻ってくるのを待たないといけないか」


「見張りはつけておかないのですか?」


 レオーネが聞いてきた。


「泥棒貴族にか?」


「はい」


「それなら斥候部隊を既に動かしている」


 斥候型自動人形たちのことだ。

 【多重思考】スキルで呼び出したもう1人の俺たちが監視している。

 皆に仕事を割り振りはしたものの、自分でも何かしていないと落ち着かないんだよな。


「ちょっと残念です」


 リオンがションボリ気味にそう言った。

 レオーネも何も言わないが落胆しているように見える。

 2人とも仕事を割り振ってほしかったのだろう。


「すまんな。

 次はレオーネとリオンに頼もうか」


「「はい」」


 2人が返事をした声には張りがあった。

 気合いが入ったというところか。

 モチベーションを上げてくれるなら言うことはない。


 ただ、ABコンビとかがガックリしているんだよな。

 あちら立てればこちらが立たぬ、か?


「今待機状態の者たちは次で働いてもらおうか」


「「「「「おーっ」」」」」


 途端に復活する一同である。

 現金なものだ。

 ミズホ国民らしいとも言えるけどね。


 一方、このノリに付いて来られないのがカエデだ。


「……………」


 完全に言葉を失い呆然とした面持ちで俺たちを見ていた。


読んでくれてありがとう。

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