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1534 警戒されているものだとばかり思っていたのだけど

 あれこれと考えている最中のことであった。


「ちょっと、いいか」


 カエデが俺に声を掛けてきた。


「ん? 何かな」


「そちらの話を聞きたいのだが」


『なんですと!?』


 よく声に出さなかったものだと思う。

 一瞬、夢かと思ったからな。


 向こうは警戒感バリバリだったのに、この変わりよう。

 何事かと俺の方が警戒しそうになったくらいだ。


 怪しい雰囲気は感じられないので問題ないだろうけど。

 それだけ方針転換ぶりが際立っていたと言える。

 聞き間違いかと思うようなレベルだ。


 だが、カエデの発言は現実だった。

 ログを確認すれば、そのあたりはすぐに分かるので疑いようがない。


「そうか」


 【千両役者】スキルで何事もなかったように振る舞っておく。


「込み入った話になるが、構わないか?」


「問題ない」


 カエデは躊躇うこともなく即答した。


「ならば場所を変えるとしよう」


「分かった」


 了承を得る。


 続いて亭主の後ろでお座りしたままだった斥候型自動人形を動かした。

 今度は普通の猫と変わらぬスピードだ。


 ピクリとカエデが反応した。

 やや緊張がうかがえる。

 何かあったのかと警戒しているっぽい感じだ。


「あれは先触れみたいなものだ」


「先触れ?」


 カエデが困惑の表情で聞き返してきた。

 連れがいることまで想像がつかなかったらしい。

 ヒントは耳にしていたはずなんだがな。


 ツバイクを使者にしたのを聞き漏らしたか。

 あるいは失念しているか。


「うちは大所帯でな。

 宿に泊まっている時はそれぞれ自由にくつろいでいるんだよ」


「はあ」


 気の抜けた返事をするカエデ。


「客人を迎える時に無様な姿は見せられんだろう?」


「そう……なのか」


 カエデは困惑気味に返事をしてきた。

 呆気にとられているようだ。

 おそらく想像がつかないが故だとは思うのだが。


 それを想像した時、悲しい結論を導き出してしまった。

 わざわざ指摘することではないのだが……


「ぼっちレーダーに感あり」


 とかトモさんが言ってしまった。

 まあ、俺が思いついた結論も同じなので否定しようがないんだけどな。


「ちょっと、アナタ」


 フェルトがトモさんにチョップを入れている。


「カエデさんに失礼ですよ」


 そういう指摘はできるか。


「はい、スミマセンター」


 トモさんが謝っている。

 が、すみませんでしたとなるはずの部分をわざと崩してきた。


「真面目にっ」


 再びチョップが入る。


「フヒヒ、サーセン」


「もうっ」


 更にチョップ。

 どう考えてもループパターンだ。


「そのくらいにしておこうか」


 故に俺が割り込みをかけておいた。

 でないと、何時まで続けるやら。

 さすがに無限ループじゃないとは思うけどね。


 それでもグダグダになるまではやりそうなのが怖いところだ。

 トモさんにも思惑があるんだろうけどね。

 掴み所がないせいで、そのあたりが読み切れない。


 少なくとも半分はカエデの緊張を解そうとしてボケたのだと思うのだが。


『楽しんでやってるっぽいのがなぁ』


『くー』


 正解、だそうです。

 ローズが言うんだから間違いない。


『で、単なるおふざけでもないんだろう?』


『くっくうー』


 それも正解、と来ましたよ。

 どうやら俺の推測は当たっていたようだ。


 残り半分には退屈モードの発散が含まれていると思う。


 何にせよカエデは唖然としていた。

 トモさんの目論見は上手くいったと言えるだろう。

 復帰させる手間を考えなければだが。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 俺たちの部屋へとカエデを案内することになった。

 亭主をなだめるのに苦労させられたがね。

 バイオレンスな手段で黙ってもらう訳にもいかないしな。


 仕方がないので、しばらく眠ってもらうことにした。

 穏便に済ませる方法はそれぐらいしか思いつかなかったのだ。


「おいっ、大丈夫なのか!?」


 表情を険しくさせたカエデが問い詰めるように鋭い声で聞いてきた。


「別に眠ってもらっただけだから命に別状はないぞ」


「そういう問題ではないだろう」


 何故か憤った様子を見せるカエデ。

 が、怒る理由に見当がつかない。


「そうか?」


 故に俺としては首を傾げて問うしかできない。


「よくそんな暖気なことを言っていられるな」


 鼻息まで荒くなってきた。


「そんなこと言われてもなぁ」


 どうしてカエデが怒っているのか分からないのでは、どうしようもないだろう。

 俺にどうしろと?


「毒薬を使って人を昏倒させることが重罪だと知らぬ訳ではあるまい」


 問い詰めてきたカエデに対し──


「は?」


 間抜け面をさらしてしまったさ。

 あまりに意外な発言だったからな。


 まあ、お陰で誤解されていることに気付けた訳だが。


「毒どころか薬すら使ってないぞ」


「そんな■■■■」


 カエデが声を荒げかけたが、途中で無音になった。

 口パクしているので本人は喋っているつもりだろうけどな。


 聞こえなかった部分は「バカなっ」であった。

 あまり使わない【読唇術】スキルを有効活用してみたよ。


 なおも口パクするカエデ。

 自分の声が聞こえなくなったことに驚いているようだ。


「これが毒や薬のせいだと思うか?」


 俺が問いかけると、カエデはハッとした表情を浮かべた。


「■■■、■■!?」


 今度は「まさか、魔法!?」と聞いてきたようだ。


 問い返されてしまうとはね。

 まあ、声は聞こえないままなんだけど。


「その通り、魔法だ。

 カエデの声のみ誰にも伝わらないようにした」


「■!」


 愕然とするカエデ。


「これで俺が無詠唱で魔法が使えることを理解できたかな?」


 カエデはコクコクと頷いた。

 声が届かないなら喋っても意味がないと考えたようだ。

 それは正しくもあり間違ってもいる。


 カエデもすぐにそのことに気付いたらしく目を見張っている。


「■■■■、■■■■……」


 動揺したのか思わずといった様子でカエデは再び口を開いていた。


「いま「どうして、分かった……」と言っただろう」


「■!」


 またも愕然とするカエデ。


「唇の動きを読み取っているんだよ」


 一瞬、大きく目を見開いたカエデだったが、すぐに落ち着いた表情に戻った。

 そしてジト目で俺を見てくる。

 その目は、何時までこのままにしておくつもりかと抗議していた。


「ああ、悪い悪い。

 すぐに解除する」


 言葉通り、カエデにかけていた音声遮断の魔法は解除した。


「……………」


 ジト目は継続したままだ。

 そりゃ、そうか。

 ミズホ国民じゃあるまいし、魔法が使われたかどうかなど分かるはずもない。


「もう解除してるんだが」


 俺の言葉を受けて、カエデは──


「え?」


 キョトンとした表情で声を漏らした。


「あっ」


 続いて声が出たことに驚いている。


「いつの間に……」


 思わずそう言ってしまうのも無理からぬところなんだろう。


「すぐ解除するって言っただろ?」


「っ!」


 俺の問いかけに目を見張って驚くカエデ。


「いくら無詠唱と言っても──」


「何らかのアクションや魔方陣を必要とするなど本当の無詠唱じゃないってことだ」


 カエデの言葉を途中で遮って説明しておいた。


「なんという……」


 唖然とするカエデ。

 そこから復帰するのに、そこそこ時間を要したのは仕方のないところだ。


 その間に色々と魔法を使っておく。


 まずは宿の外から覗かれても大丈夫なように幻影魔法。

 それから外で捕まえた連中は影渡りで素敵な場所に移動させておいた。


 鉄格子付きの別荘なんて黒幕の手下には上等すぎたかな。

 まあ、すぐに取り調べを受けられるようにという忖度が働いた結果なんだけど。


 どういう罪があるかを板に書き付けて首から提げさせている。

 取り調べも確認するだけの簡単なお仕事状態で終わるというアシストを入れた。

 あとでフォローするのは面倒だからね。


 続いてゴーレムを召喚した。

 これは亭主や従業員たちを空き部屋に運ぶためである。

 理力魔法の方が楽なんだけどね。


 だけど、理力魔法はカエデの目の前で使う訳にはいかない。

 風魔法で声が伝わらないようにしただけで、あの有様だからな。

 眠っている人が浮いたり動いたりするのは刺激が強すぎるだろう。


 その点、ゴーレムなら目に見えるものだから人を運ぶのに使っても刺激は少ないはず。

 たぶん……


読んでくれてありがとう。

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