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1531 ハルト、動き始める

 黒幕を懲らしめるのは後回しにすることにした。


 え? 不甲斐ない?

 そうだな、それは否定しない。


 ただ、フォローしないといけない相手はいる訳だ。

 主に被害者のカエデ。


 それと宿屋の主人。

 黒幕の圧力に屈していることでオッサン呼ばわりしていたが宿屋の主人に罪はない。

 むしろ被害者だしな。


 一般人が身分のある相手に逆らうなど普通はできないだろう。

 故にどうにかして黒幕から報復を受けないようにするのが優先だ。


 何日か世話になっていることから考えても宿屋には義理がある。

 それ以前に丁寧なサービスが気に入っているので積極的に動くつもりだ。

 こういう宿が被害を被るのは忍びないからな。


 言うまでもないことだが、宿が無くなるなど断じてあってはならない。

 もちろん、そんな真似をしようとする輩を許すつもりなど毛頭ない。

 たとえ脅しだけであろうと実行に移そうとした時点でギルティだ。


 あとは本当に実行させないようにしないとな。

 むざむざ宿を潰させてしまったのが俺たちということになったらシャレにもならん。

 悪いのは黒幕だが、俺たちも対処を間違えたことを責められるだろう。


 人の噂というのは恐ろしいものである。

 蔑ろにすると、思わぬところで足をすくわれることもあるからな。


 そのためにも防御策を用意する必要がある。

 とりあえず物理的に防御力を上げておく。

 馬車を突っ込ませるとかアホな真似をしてこないとも限らんし。


 黒幕をどうにかするまでの期間限定だがね。

 あと悪意のある連中が関与している時のみ発動する形にしておく。

 王都なんかだと魔力感知に長けた魔導師もいるかもしれんしな。


 それが黒幕の関係者だったりしたら対策しようとすることも考えられる。

 あるいは潜伏したり逃亡したり。

 いずれにせよ用心に越したことはない。


 まあ、仕事としては楽な方だ。

 可変結界をちょっとだけ応用的に適用するだけだからな。


 条件付けは必要なものの魔法を1回だけ発動して終了するだけ。

 簡単だろ?


 ちなみに黒幕の処分も条件に含まれる。

 故に解除も自動で行われる訳だ。


 術式を【多重思考】スキルで呼び出したもう1人の俺たちで複数チェック。

 問題ないことを確認し合って魔法を発動。


 密かにやるから、いつもの光の魔方陣による過剰演出はなしだ。

 フィンガースナップもしない。

 とはいえミズホ組にはバレバレだけどな。


 そこまで巧妙に隠蔽する必要もないだろう。

 見抜ける奴が敵サイドにいるなら割とヤバそうだけど。


 それは別口で警戒しておけば、敵の驚異度を推し量る指標にはなるかもな。

 宿屋全体が結界に覆われた。


「「「『っ……』」」」


 ミズホ組は気付いたようだけど、わずかに反応するだけだ。

 特に口を挟んでくる者は誰もいなかった。


 物理的な防御は他にも行う。

 斥候型の自動人形を宿屋の各所に配置。

 もう1人の俺たちでバックアップ体制を取りつつ監視する。


 押し込み強盗を装う輩には侵入すら許さん。

 放火魔は火をつける前に潰す。


 あと主人と従業員にも自動人形を張り付けた。

 誘拐や危害を加える行為のすべてをブロックだ。


 彼らの家族にも張り付けるべく情報収集は開始している。

 確認できしだい転送魔法で送り込む。


 他にもできることはすべてやる。


「カーラ」


 背後に控えている奥さんに声を掛けた。


「はい」


 スッと間近に寄ってくる。


「ツバイクを呼んできてくれ」


「使いを頼むのですね」


 友好国とはいえ他国の王子様をパシリにするのもどうかと思うがね。


 だが、この場合の適任者はツバイクだろう。

 門前払いされる恐れはないはずだ。

 もし、そういうことがあるなら直に乗り込むことになるけど。


「ああ」


 察しが良くて助かる。

 ならば用件を伝えてしまってもいいだろう。


「ランドに大至急の話があると」


「心得ました」


「うん」


「では、我々が送り届けます」


 その言葉に一瞬ではあるものの返事を躊躇した。

 俺が「大至急」と言ってしまったのが影響しているのは明白だったからだ。

 同時に何でもありで仕事しそうな雰囲気も感じ取ってしまった。


「頼んだ」


 結局は任せることにしたけどね。

 躊躇ったことで事態が悪化したりするのは嫌だし。


「はっ」


 この返事の仕方は忍者モードのスイッチが入っているな。

 そう思っている間にカーラはササッと離れていった。


「っ!」


 わずかだがカエデが反応した。

 表情が強張っている。

 カーラの動きに驚愕したみたい。


 かなりセーブしていたので3桁レベルのそれではなかったんだけどな。

 カエデからすると倍以上のレベルの動きではあったかもしれないが。


 些かやりすぎだったか。

 西方では英雄と呼ばれるくらいのレベルだもんな。


 とはいえ今更キャンセルはできないし。

 変に取り繕うより何もなかったようにスルーしておくのが無難だろう。


「さて、亭主」


 宿屋の主人に話し掛ける。


「はっ、はひっ」


 ビシッと直立不動になった。

 何でだよとツッコミを入れたいところだったが、やめておいた。

 それはそれで面倒くさいやり取りが追加される気がしたからだ。


「心配しなくても悪いようにはしない」


 直立姿勢から急にフニャッと力が抜ける亭主。


「ですが……」


 不安げな面持ちで何かを言おうとした。


 が、そこから先の言葉が出てこない。

 言いたいことの見当はつくがな。


 その表情が先に訴えていたし。

 抗う術も勇気もないのだと。


 貴族に逆らうなんてできはしない。

 そんな真似をすれば、どんな目にあわされるか。

 次々と良くないこと恐ろしいことを考えてしまうようだ。


 だから小刻みに震えているのだろう。


「今朝のことを思い返してみるといい」


「っ!!」


 ビクッと身震いする亭主。

 さすがに直立姿勢するまでには至らなかったが。

 王城から俺たちが呼び出されたのは、それだけインパクトがあった訳だ。


 宿屋に帰ってきた時は物凄く心配された。

 こっちがドン引きするくらいだったのだが……

 今にして思えば、カエデのことで先に脅されていた心労があったものと考えられるが。


「ほ、本当に大丈夫なのですか……?」


 おずおずといった感じで聞いてくる。


「ああ、心配は無用だ。

 俺たちが責任を持って対処しよう。

 この件で圧力をかけてる輩には何もさせんよ」


「で、ですがっ」


 亭主も簡単には安心できないようだ。

 言葉は続かないけどな。

 何を言っていいのか頭の中がグシャグシャなんだろう。


 が、必死な様子であるのは手に取るように分かった。

 焦りと不安がスパイラルで襲いかかってきているのかもな。


 簡単に落ち着ける訳がない。

 宿屋と従業員たちの命運がかかっているんだし。


「とりあえず、ここを見張っていた輩は捕まえた」


「え?」


 困惑の表情を浮かべる亭主から視線を外して下を見る。

 釣られて亭主が俺の視線の先を見た。

 黙ってことの成り行きを見守っているカエデも同様だ。


 そこには黒猫がいた。


 3兄弟のことではないし、本物の猫でもない。

 リアルっぽく偽装した斥候用自動人形だ。


「いつの間に……」


 亭主が唖然としている。

 玄関は閉じられており誰かが入ってきた形跡はない。


「これは俺のところで使っている使い魔みたいなものだ」


「猫……にしか見えませんが」


 亭主が困惑しているので少しデモンストレーションをすることにした。

 まあ、大掛かりなことはしないし一瞬で終わる程度のことだが。


 黒猫に擬態している斥候型自動人形をしばらく見つめる。

 はた目には指示を出しているように見えないのがミソだ。


 そこから視線を外すと自動人形が動いた。


「え? 消えた……」


 呆然としながら黒猫がいたはずの場所を見つめる亭主。


「後ろだ」


「は?」


 訳が分からないとばかりに間抜けな声を出す亭主である。


 が、カエデが信じられないものを見たという顔をしているのを見て視線の先を追った。


 亭主の背後の床だ。

 そこには黒猫がいた。


 亭主はギョッとした顔で固まってしまった。


「いつの間に……?」


「つい今し方に決まっているだろう。

 指示を出しているところも見せていたんだが、気付かなかったか?」


 問いかけるも返事はない。

 聞こえているのかすら怪しく思えるほど亭主は固まってしまっていた。


読んでくれてありがとう。

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