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1521 根性で勝てるのか

 グルグルアタックはなおも続いた。

 もちろん女子選手には擦りもしていない。


「なんだよ、攻撃できるんじゃねえか」


「もっと早く使えよな」


「ほら、さっさと追い込め」


 などという無責任なヤジもチョビ髭には届いていないだろう。

 ただただ必死である。

 やらなければ負けるというレベルではないと本能的に悟ってしまったが故に。


 生き残るためには勝つしかない。

 チョビ髭を突き動かしているのは、その一心からだ。


 他のことに構っている余裕などありはしなかった。

 故に見えないことがある。


 女子選手が余裕を持って回避しているということに。

 しかも主審がそれを認識し同情的な視線を送ってきていた。


 そのことにも気付けていないチョビ髭の勝機は限りなく薄い。


 追い詰めろ追い詰めろ追い詰めろ追い詰めろ追い詰めろ追い詰めろ。


 ひたすらそれだけを念じて踏み込み回転し追い込んでいく。

 限界は近い。


 多用すれば目を回すことは分かっていた。

 それでも踏ん張り歯を食いしばる。


 死ぬ気になれば何でもできる。

 死にたくないが故の必死さであるところは皮肉だ。


 が、そんなことを気にしている場合ではない。

 敵を追い込んで場外へ落とすことの方が遥かに大事だ。

 ふらつきはピークに達しているが命に関わると思えば耐えられる。


 どんなに無様でも構わない。

 何としてでも生き残ってみせる。

 もう一息なのだ。


 次で場外ギリギリに追い込めるところまで来た。

 その後は腕力任せで押し出してしまえばいい。

 体格差を利用すれば何とかなるはずだ。


 が、今までと同じリズムではマズい。

 さすがに押し出すモーションを見られれば対処される恐れがある。


 ならば考える余裕を与えない。


 今までよりも早く回転する。

 今までのようにブレーキをかけない。

 回転したまま押し出しのモーションに入る。


 これならば、あの美女も対処できまい。

 もう一踏ん張り!


「ぬうおおおおおああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 腕が痺れるように痛んだが、千切れるほどの痛みじゃない。

 むしろ、目眩を感じる己に活が入った。


 美女をギリギリまで追い込む。

 一瞬、視界の片隅に舞台の端が見えた気がした。


 ここしかないっ!


 体を傾け回転の勢いを残したまま突進する。

 一緒に場外へ落ちてしまうだろうが構わない。

 先に落ちた方が負けなのだ。


 このまま行くっ!

 更に踏み出した次の瞬間、腕に激痛が走った。


「がっ!」


 何事かと思う間もなく体が宙に浮く。

 どちらが上か下か一瞬で分からなくなった。


 ひとつだけ確実に分かったのは場外に落ちるということだ。

 美女が先か自分が先かも分からない。


 それでも決着がつく。

 どうやら死なずに済みそうだ。

 そのことに安堵を覚えた。


 緊張の糸が切れたと言い換えても良いだろう。

 目の前が真っ白になって何も分からなくなった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 チョビ髭が何度もグルグルを繰り返しているのを見て──


「いやー、根性だねえ」


 トモさんが真顔で感心していた。


「あれだけ回って目を回してるのに、まだやるつもりですよ」


 フェルトは引き気味にそんなことを言った。


「うん、それも根性だね」


「他にも何かあるんですか?」


 フェルトが不思議そうに聞いていた。


「あるよ」


 某ドラマのバーのマスター風味で物真似を入れてくるトモさんである。


 それがフェルト以外の面子の興味を引いたのだろう。

 ミズホ組の大半が興味深げにトモさんの方をチラ見してきた。


 それに触発されたのかキリリと表情を引き締めるトモさん。

 どこかおふざけが入っている気もするけどね。


「チョビ髭おじさんの腕を見てごらん」


 喋り方までキザっぽいし。


「腕ですか?」


 促されて、チョビ髭の腕を見るフェルト。

 目を凝らして観察し……


「あっ」


 何かに気付いて声を上げた。


「腕の毛細血管がボロボロになってます」


「ホントだわ」


 フェルトの言葉に追随したのはアンネだった。


「内出血してるじゃない」


「痛々しいわね」


 ベリーが顔をしかめながら言った。

 まあ、見ていて気持ちの良いものではないな。


「それだけチョビ髭のグルグルが本気だってことだ」


「だから根性だと言ったんですね」


「その通り」


 フッとトモさんが笑う。


「ホント痛々しいわね」


 意味ありげにトモさんを見ながらマイカが言った。


「そうですか?」


 ちょっとムッとした表情でフェルトが問う。

 夫の悪口は許さないと言いたいのだろう。


「誰もトモ助のことだとは言ってないわよ」


「えっ?」


「ほら、あのチョビ髭筋肉オヤジよ。

 見た目もそうだけど必至すぎるのも痛々しいでしょ」


「─────っ!」


 マイカにからかわれて赤面するフェルト。


「そのくらいにしておこうか」


 そう言いながら、さり気なくトモさんがスーッと間に入ってきた。

 これ以上の追撃はさせないということだろう。


「いやー、夫婦愛ですなぁ」


「バカ言ってる場合じゃないよ」


「言ってくれるじゃない」


 バカと言われて少しむくれた感じで対抗しようとするマイカ。

 本気ではなくじゃれる感じなのだが、トモさんが真顔のままなのを見て表情を戻した。

 そして試合場の方を見る。


「なるほど、もうすぐ最終局面な訳ね」


「うん、そう」


「手負いの獣みたいな顔になってるわね」


 マイカが表情を渋くさせながら言った。

 チョビ髭が見ていてツラくなってくるような顔をしている。

 そこまでしなければならないのは何故なのかと問いたくなったほどだ。


 真剣勝負をしているというのは分かる。

 武王大祭は月の女神に奉納する神前試合という位置づけだからな。


 が、命のやり取りをする訳じゃない。

 何でもありの戦場じゃないんだ。

 あくまでルールという限られた枠の中で全力を出すことが求められる。


 それは分かっているはずなのだが。

 今のチョビ髭を見る限りでは怪しいところだ。

 そのあたりに気付いているのは俺だけではない。


「ちょっと、マズいんとちゃう?」


 アニスがやや顔色を悪くさせながら言った。


「同感ね」


 神妙な表情でレイナが同意する。


「あのオッサン、下手したら殺しかねない顔をしてるわよ」


「それは大丈夫だろう」


 リーシャはレイナの考えを問題ないと見ているようだ。


「いや、あの相手なら万が一はないのは分かるんだけどさぁ」


 レイナもそれは分かっているようだ。


「試合が終わっても気付かずに暴れたりしないでしょうねってことを言いたいの」


 縁起でもないことを言うものだ。


 が、それは否定できそうにない。

 目が血走ってしまっているからな。

 表情も常軌を逸した感じになりつつある。


「あー、それな」


 アニスが嫌そうな顔をしながら同意した。


「しゃーないわ。

 えらい精神的に追い込まれてしもてるみたいやし」


「「大丈夫かなぁ」」


 ちょっと不安げな表情を見せているメリーとリリー。


「いざとなったら我々が止めに行くしかあるまい」


 そう言ったルーリアが思い詰めたような表情をしている。


「そこまでする必要はないだろう」


 レオーネが言った。


「ここの衛兵は迅速に対処できているから大丈夫だと思う」


「いや、しかし……」


 レオーネに問題ないと言われてもなお、ルーリアが渋っている。


「あの女子選手にルーリアが責任を感じる必要も義理もないと思うがな」


「っ!?」


 俺の言葉にビクリとルーリアが震えた。


「元は同じシンサー流だから、そんな風に感じているんだろう」


「─────っ!」


 声を出すのを堪える感じでルーリアが呻いた。

 図星と言っているようなものである。


『生真面目すぎだろう』


 度を超してしまうと長所も短所になる典型例だと思った。


「あれがシンサー流と決まった訳じゃない。

 仮にそうだったとしても、繋がりがないだろう。

 大昔に分かれた流派なら別物と言うべきだ」


「……………」


 返事はない。

 ルーリアの表情から察するに、己の中で折り合いをつけようとしているように見えた。


読んでくれてありがとう。

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