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1518 古い時代の……

 リオンが固まったまま動かない。

 テンパった挙げ句に予想外の展開になってオーバーヒートしたといったところか。

 ポンコツな結果になってしまった。


 が、そこが可愛いと思えてしまう。

 これもまた才能と言えるのではないだろうか。

 マイカあたりが同じ状態に陥っても可愛いとは言われないと思うからな。


「それで、あの構えは何に似ていると?」


 レオーネがリオンに代わって尋ねていた。

 さすがは姉だ。

 妹のポンコツのタイミングや復帰に要する時間は体で覚えているらしい。


「シンサー流だよ」


「「「「「えっ!?」」」」」


 ミズホ組の面々がそろって驚いていた。


 それはそうだろう。

 シンサー流はルーリアがシンサー家最後の伝承者だったはずなのだ。


 今でこそミズホ国の正式剣術として多くの国民が修練を積むようになっているがな。


 つまり、西方人でシンサー流の使い手はいないことになる。

 ミズホ国民なら誰もが知っている事実だ。

 故に驚きの声が上がった訳で。


「言ってる意味が分からないんだが」


 レオーネが困惑をルーリアに伝える。


「そもそも、あの構えは習った覚えがない」


 レオーネは既に免許皆伝である。

 知らない構えや技などあろうはずがないのだが。

 だからこそ困惑を訴えた後も表情が晴れることはない。


 が、ルーリアもそれは予測できていたようだ。


「そうだろうな」


 さも当然とばかりに頷いている。


「どういうこと?」


「あれは今ではもう使われていない古い時代のシンサー流の構えなのだ」


「古い時代の……」


 レオーネが呟いた。

 使われなくなったから伝授されない。

 伝授されなかったのでは知っているはずもない訳で。


 もっともな理由だと言えよう。

 皆も一応は納得したようだ。


「どれくらい古いのー?」


 キョトンとした表情のマリカがルーリアを見上げながら聞いた。


「初代から数代までの間で廃れたはずだ」


「ふーん」


 事実確認をした後は素っ気ないものだ。

 元々から長生きする種族だからな。

 百年単位で過去のことでも感覚的に「そうなんだ」で済んでしまうらしい。


 そういう訳にいかないのが人間種の面々である。

 特にリアルでは長命種に縁のない元日本人組が敏感に反応していると言えるだろう。


「初代って百年単位で昔の話じゃないのかい?」


 ちょっと芝居がかった感じでトモさんが目を丸くさせている。


 だが、半分以上は本気だろう。

 よく見れば目が泳いでいるからな。


 現にフェルトがトモさんを見て苦笑していた。

 口出しするつもりはないようだが。


「随分と古い話じゃないの」


 呆れたように感心しているマイカ。


「古武術って感じがするよね」


 ミズキは瞳を輝かせて喜んでいる。


「今度の新作でそのあたりの要素を入れてみようかな」


「ここでチキズミー先生を引っ張り出してくるのか、アンタは」


 ちょっと引き気味にマイカがツッコミを入れる。


「厨二病設定をてんこ盛りにするつもりでしょう」


「ウッフッフー、分かるぅ?」


 ミズキのテンションが変だ。

 ぶっ壊れたとまで言ってしまうと言い過ぎかもしれないが。

 それでもハイになっているのは確実っぽい。


 とにかく、いつものミズキではないのだ。

 執筆モードとでも言えばいいのだろうか。

 ツバイクの紙フェチよりはマシっぽく思えるが、違和感がハンパない。


『ええい、何処でスイッチが入った』


 某赤い人のように「冗談ではない」とか言いたいところだ。

 暴走すると碌なことがなさそうだしな。


「分からいでかっ」


 マイカがツッコミを入れる表情に余裕がない。

 俺と似たような心境のようだ。

 これ以上の暴走は試合観戦どころではないと承知しているからだろう。


 だというのに……


「古代の暗殺術にして最強の古武術って燃えない?」


 ミズキがこう言うと、マイカはたじろいでしまう。

 別に気圧された訳ではない。

 単に興味を引かれる話だっただけのことだ。


 状況を正しく理解し自分を律すれば堪えられると思ったのだけど……

 そうはいかなかったようで、マイカはトーンダウンしてしまった。


「燃えるっちゃ燃えるけどさー……」


 どうにか堪えてはいるようだ。


「それを現代に生きる主人公が伝承してってところまでは考えたんだけどぉ」


「まだ盛るのぉ?

 普通に強敵を出しておけば充分でしょうが」


「タイムスリップして御先祖様や過去の強者と戦うなんて考えついちゃった」


「おおっ、凄いじゃないっ」


『あ、食いついた』


 これでストッパーはいなくなったと思っていい。


 だが、俺は止めない。

 トモさんも止めるつもりがないようだ。

 その間にもルーリアの話は進んでいたからな。


 とりあえず2人には専用の認識阻害をかけておく。

 あとは放置するしかないだろう。

 いつ復帰してくるか分かったもんじゃないからな。


 とにかく、ルーリアの話によると女子選手の構えは秘伝書に書かれていたものらしい。

 それは誰にも分からなかったのも道理というものだ。

 さすがに見せてもらったことはないからな。


 というより、里を出る時に焼却処分してきたそうだ。

 結構な量になる上に帰るつもりもなかったと言うし。


 実際、帰ってはいない。

 なんにせよ、ルーリアの記憶にしかないものを見るのは不可能だ。


「ひとつルーリアさんに質問があるのですが……」


 フェルトが申し訳なさそうにしながらも発言する。


「何だろうか?」


「あの方のことは御存じないのですよね」


 ルーリアは神妙な表情で頷いた。


「ああ、見覚えさえない」


 だからこそ考え込んでしまったのだろう。

 記憶を掘り起こして薄い縁を探っていたものと思われる。


「では、分家筋の方という線は消えてしまいますね」


「おそらくは……」


 ルーリアもそう思っているようだ。

 煮え切らない返事なのは確信が持てないからだろう。


「でも、古い時代の構えをしているのでしょう?」


 アンネがこれまでに得られた情報を再確認している。


「そうだな。

 徐々に廃れていったようだ」


「それは何故?」


 レオーネが問う。


「ここでは人より魔物と戦う頻度が高いからだ」


 ルーリアの言う「ここ」とはルベルスの世界のことだろう。

 ハッキリと言わなかったのはミズホ国以外の面子に聞かれることを懸念したか。


 まあ、半ば本能的なものだと思われる。

 認識阻害の結界は働いているのはルーリアも承知している訳だし。


「あの構えは対人戦のみを想定したものだ。

 最適化されていると考えてくれればいい」


「ふむ、魔物相手だと都合の悪いことがある訳か」


 レオーネが顎に手を当てて考え込む。


「そこまで深刻に考えなくてもいいんじゃないかしら」


 苦笑いしながらエリスが言った。


「話の本質から外れていますからね」


 マリアが補足するように続く。


「それよりも、あの方が何者かが問題ですよね」


 クリスがフンスと力を込めて言った。

 鼻息まで出てしまったのは力技で流れを引き戻すぞという意思表示の強さの表れか。


「聞いた話からすると分家説が最有力なんじゃないかしら」


 アンネが己の推理を提示した。


「それもルーリアの知らない御先祖様の代で分かれたとか」


 ベリーが補足する。

 ABコンビの話は推測の域を出ないが可能性は高そうだ。

 それを確認する術がないがな。


 あの女子選手と話をすれば違ってくるのかもしれないが。

 向こうが知っているとは限らないので何とも言えないところである。


 いずれにせよ今は試合中だから話を聞くなどできはしない。

 試合が終わった後でも接触するのは躊躇われるがね。


 俺たちは出場選手であるウルメの関係者な訳だし。

 どちらかが敗退するのを待つしかないだろう。


 この試合で彼女が敗れるとは思えないけれど。


 俺たちがこうしている間も、チョビ髭は追い詰められていたし。

 1歩も動かぬままにというのが皮肉だ。


 女子選手から殺気を浴びせ続けられて疲弊しているだけではない。

 その殺気が周囲には悟られにくいのが筋肉オヤジを孤立させていた。

 観客は試合が動かないことに苛立っていたからな。


 罵声を浴びせる連中が徐々に増えている。

 そこから感じる重圧も並大抵のものではないはず。


 チョビ髭は限界に達しようとしていた。


読んでくれてありがとう。

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