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1517 貸し出しますよ?

 5国連合の面々がオペラグラスを借りたいと言ってきた。

 そこに否やはない。


 もちろん、全員に行き渡る数は用意できる。

 でなければ現物を見せたりはしないだろう。


 だというのにツバイクはモジモジしていた。

 貸してほしいと言い出せずにいるみたいだな。


『そういや試してもいないもんな』


 あの様子からすると使いたくないとは思っていないようだが。

 むしろ興味津々のはず。

 おそらくは手持ちが足りるかとか、そういう心配をしているのだろう。


 そのあたりはスタンと似たようなものか。

 向こうは恐縮しながらも遠慮はしていないが。


『紙でも巻き付けてやればいいのか?』


 レンズを収める筒の部分に装飾代わりとして千代紙なんかを巻けば反応も変わると思う。

 間違いなく食いついてくるはずだ。


 スイッチが入って発作を起こされる恐れがあるけどね。

 それを考えると迂闊な真似はできない。


 この方法を採用するのは結局やめることにした。

 そんなことをするくらいなら一声かけるだけの方が手間がかからないだろう。


「ツバイクの分もあるぞ」


「えっ、あのっ……」


「遠慮することはない」


「そう言われてもですね……」


 ツバイクは妙に遠慮しているようだ。


「別にヤバい代物じゃないぞ」


 使い続けると寿命でも吸い取られるとでも思っているのだろうか。

 そんな訳はないと信じたいところである。

 盗難対策にしたって、そこまではしていないしな。


 重罪人が盗もうとした場合でさえ痛みが永続する程度だし。

 徐々に痛みが増していき最終的には軽く触れるだけで激痛が走るようになる仕様だ。


 一気に痛みの度合いを引き上げないのがミソである。

 簡単にショック死されたんじゃ、今までの被害者たちが納得しないだろう。


 無念が晴れるかどうかまでは責任が持てないが。

 少しは納得してもらえるようにしたつもりだ。


「そうではなくてですね……」


「何だよ?」


「売り物じゃないと聞いてしまっては……」


「あー、そういうことか」


 一体どれほどの価値のものなのか見当もつけられずビビってしまったようだ。

 バスに乗ってこの国に乗り込んでおいて、そんなことを言うのかと思ったけどな。

 何処か頓珍漢なところがあるな、この王子様は。


「現物を見せておいて使わせないとか言うと思ったか?」


「っ!」


 ツバイクが驚きに目を見張る。

 気付いていなかったことを指摘されたからだろう。

 失敗したと言わんばかりに渋面を浮かべていた。


「数を用意できないとかも言わんぞ」


「面目次第もありません」


 ションボリするツバイクであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 オペラグラスのハンドルを握った面々が歓声を上げていた。


「おーおー、デカいのに気は小さいのかぁ?」


 サリーが選手を煽るようなことを言っている。


 が、その言葉は結界で減衰させるまでもない。

 周囲に対する配慮は忘れていないようだ。


「慎重に様子を見ていると言えんのか」


 諦観を感じさせる表情を浮かべながらランドが言った。


「表情から察するに、押されているのは男の方だぞ」


 ランサーがツッコミを入れたが……


「だからこそ様子を見ないと負ける」


 タワーが被せるようにツッコミを入れたことで矛先が変わってしまった。


「ぐっ」


 ブーメランのようにツッコミ返しされたことでランサーが呻く。


「まあまあ」


 すかさずスタンが間に入った。


「喧嘩は良くないですよ」


 取り成そうとしているようだ。

 とはいうものの、全員がオペラグラスを覗いたままである。

 話している間も試合場の方に釘付けになっていた。


「喧嘩なんてしてないぞ」


「うむ、していない」


 ランサーの否定にタワーが同意する。


「そんな暇があったら、彼奴らの駆け引きを見るに限るだろう」


 更にランドが付け足すように言ってきた。

 スタンの方は見向きもしない。


「いや、それなら良いのですが……」


 嘆息混じりに言ったスタンも同様に試合場に注目したままだ。


『君ら、必死すぎだろ』


 まだ大きな動きがあった訳じゃないというのに。

 そのせいで観客席からはヤジが飛び始めていた。


「何やってんだぁ!」


「手を出せよぉ!」

「さっきから少しも動いてないじゃないかぁ!」


 衛兵に連行されていった連中のような下品な言葉はなかったが。


「俺たちゃお見合いを見に来てるんじゃないんだぞぉ!」


「美女と野獣だなぁ!」


 そこでドッと笑いが起きた。

 でなければ、もっとギスギスした雰囲気に包まれていたことだろう。

 現にこのヤジが飛び出した観客席から離れた場所では、かなり空気が悪くなっている。


「言いたい放題ね」


「ちょっとウンザリ」


 ABコンビが辟易したと言わんばかりに顔を見合わせて嘆息していた。


「しょうがないわ」


 2人を見ながら苦笑するエリス。


「彼女の殺気に誰も気付いてないんだから」


 女子選手から普通に漏れ出していた殺気も今はコントロールされている。

 最初は何か感じていたらしい5国連合の面々も今では感知できないようだ。

 間近にいるはずの主審でさえ感じ取ることができているのかどうか怪しいしな。


 その代わりチョビ髭は大変なことになっていた。

 1人だけ殺気をまともにぶつけられているからな。

 まるでホースの先を指で押し潰して勢いを増した水を浴びせられているかのようだ。


「思った以上に手練れでしたね」


 アンネがそんな感想を漏らした。


「隠すのが上手いというか」


 ベリーも頷いて賛同しつつ己の考えを述べた。


「そうね」


 エリスが同意する。


「本来のスタイルで戦えばチョビ髭さんは瞬殺じゃないかしら」


 その言葉にクリスが首を傾げた。


「本来の、ですか?」


「あの選手は普段から無手で戦っている訳ではないと、仰りたいようですよ」


 マリアが補足説明した。


「言われてみれば、そうね」


 コクコクと頷くクリス。


「あまりに馴染んだ構えだから、あれが普段のスタイルかと思ってしまいました」


 ちょっと困った感じの顔をして笑うクリス。


「武器も持たずに丸腰で戦うのはおかしいですものね」


 ある意味、ブーメラン的な発言だ。

 自虐ネタにはならないかもしれないが、そんなニュアンスがあった。

 故にあの表情で笑ったのだろう。


「西方の冒険者であれば、という条件がつきますが」


 マリアも苦笑しながら追随する。

 他の面子も概ねそうだった。


 1人だけ笑うことなくジッと試合場を見つめる者がいたが。

 いち早くそれに気付いたのはリオンであった。


「ルーリアさん?」


 呼びかけられたルーリアがハッと我に返る。

 ミズホ組の面々もそろってルーリアやリオンの方を見た。


「んっ? ……っと、どうした?」


「いえ、ちょっと……」


 リオンはそこで言い淀んでしまった。

 皆に見られていることで言いづらくなってしまったようだ。

 俯き加減になって言いにくそうに体を小刻みに揺すっている。


 苦笑したレオーネが──


「ほら、大丈夫だから」


 軽くポンと背中を叩いて促さなかったら、ずっとモジモジしたままだったろう。


「その……」


 どうにかといった感じでリオンが口を開く。


「険しい感じの表情をされていたので……」


 そこで急にアタフタとし始める。


「あのっ、ちょっとだけですよっ……」


 顔の前あたりでワタワタと両手を振っていた。


「そんな気がしたというかっ……」


 表情も必死さが滲み出ていて微笑ましいやらおかしいやら。

 とにかく、慌てっぷりがよく分かった。

 皆も温かく愛でるような視線で見守っている。


 試合をしている選手たちの雰囲気とは大違いだ。

 1人だけ真顔だったルーリアも穏やかな笑みになっていた。


「ととっ、とにかく、どうしたのかなって」


「すまない。

 心配させてしまったようだな」


「いっ、いえっ、そんな……」


「あの構えが似ていたので戸惑っていたんだ」


「えっ?」


 明確な答えがあるとは思っていなかったのかリオンは惚けた顔をした。

 そのまま固まってしまっている。

 この様子だと、しばらくこのままのような気がするんだが……


読んでくれてありがとう。

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