表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1525/1785

1512 対戦相手はオッサンである

 ウルメの試合は終わったが次の試合も観戦していくことにした。

 ミズホ組の皆も反対する者はいない。

 ツバイクも苦笑しながら席に戻ってきた。


「どうです?」


 そしてツバイクが席に着くなり聞いてくる。


「どう、とは?」


 具体性に欠ける質問だと答えようがない。

 何を聞かれているのか分からないんじゃね。


 試合の結果予想なのか。

 それとも女子選手の強さが気になるのか。


 場合によってはチョビ髭オールバックに興味を抱いているとも考えられる。

 話の流れからして、それは無いとは思うけど。


 いずれにせよ適当に予想して答えることはできる。

 が、それだと外した時がカッコ悪い。

 それに話がチグハグになって混乱することも考えられる。


 ツバイクもそれに気付いたのだろう。


「強そうですか?」


 慌てて付け足すように聞いてきた。


「どっちが?」


「もちろん女性の方ですよ」


「強そう、ではあるな」


 俺の返答にツバイクが呆気にとられたようにキョトンとする。


「随分と含みを持たせますね」


 勘弁してくださいよと言わんばかりに苦笑していた。


「他意はないぞ。

 そっちが強そうかと聞いてきたんじゃないか」


 ツバイクが「あ」と言いそうな顔をした。

 次の瞬間には脱力していたけどな。


「敵わないですねえ……」


 それからピシッと姿勢を正して表情を引き締めた。


「では聞き直します。

 彼女は強いですか?」


「随分と気にするんだな」


「次の試合でウルメと当たる可能性がありますからね」


 確かに次の対戦相手が誰になるのかは現状では不明だ。

 全選手の初戦が終わらないと決まらないからな。


 そのタイミングでクジ引きをするというのは、それなりにドキドキさせられるものだ。

 焦れったく感じるだけという者もいるだろうけどな。


 俺はありだと思うがね。


 で、ウルメと当たった場合をツバイクが懸念している訳だ。

 そういう予測をしているからにはツバイクも彼女を強者だと思っているはずなんだが。

 その根拠が何処に由来するかが問題か。


 単に俺が興味を抱いたから警戒心を抱いただけということも考えられる。

 だとすると、相手がどれほどの強さかを感覚的に掴めなくても不思議はない。


 逆に自分で感じたのであれば、直感的ではあっても比較はできるだろう。

 何となく相手の方が強そうな気がするとかな。


 そういう手応えのようなものがないからツバイクは俺に聞いてくる訳だ。


「ウルメと対戦するなら、どっちが勝ってもおかしくないくらいには強いかもな」


「っ!」


 ツバイクは凍り付いてしまった。

 ウルメと同等以上と言われたことが、よほどショックだったみたいだ。


 ある程度は覚悟していたとは思うが……


「おいおい、聞いておいてそれかよ」


 実際に聞くのとでは大違いってことなんだろう。

 ツバイクが驚愕の表情のまま完全に固まってしまっていた。

 ツッコミを入れたのに返事すらないからな。


「まだ次の試合で当たると決まった訳じゃないだろう」


 運が良ければ決勝まで当たらないことだって考えられる。

 もちろん、対戦することなくどちらかが敗退することもあり得る。


 この女子選手が見かけ倒しだとは言わない。

 が、対戦相手との相性で負けることは充分に考えられるのだ。


 俺はウルメと対戦するパターンについては言及した。

 しかしながら他の相手との試合については考慮していない。


 今からあの女子選手が戦うチョビ髭オヤジなんて体格面では最悪の相手と言っていい。

 パワーでは絶対に勝てないからな。


 レベル差が顕著なら話は別だが。

 とはいえ、そこまで大きな開きがあるようには見えない。


 鑑定した訳じゃないがな。

 チョビ髭の方はポージングで動きまくってたからレベルを推測するのも難しくない。


 おそらく40代前半といったところだろう。

 パワーだけで言えば、レベルが50代後半の相手でも通用する可能性がある。


 一方で女子選手のレベルは40後半くらいじゃないかと思う。

 どんなに逆立ちしようが、まともに力比べをしても勝てるはずがない。


 技術やスピードで補ったとして何処まで通用するか。

 通用したとして、どれほど消耗するか。

 勝敗の鍵はそのあたりになるだろう。


 それが見ていて面白いかは別問題である。

 慎重派のチマチマした戦い方に近いなら誰も楽しめまい。

 少なくともミズホ組はそうだ。


 もしも、そのパターンになるなら残念ではあるな。

 カーラには悪いが残ったことを後悔するだろう。


 その時は残念だが試合の途中で退座することになる。

 カーラが落ち込みそうだ。


 そこは可哀相だと思うが仕方ない。

 同情して最後まで残っても意味はないからな。


 とはいえ、そうはならないだろうという予感がある。

 明確な根拠はないのだが。

 強いて言うなら、あの女子選手から感じる雰囲気か。


 あからさまにアピールしているチョビ髭オヤジからは何も感じられない。

 感じるのは女子選手の方だ。


 レベルは普通のベテラン冒険者といったところだと思われるが、何かが違う。

 若く見えるのだが妙に落ち着き払っているのだ。

 試合の始まる前から観客席の方は結構な騒ぎになっているというのに。


 この状況と空気に飲まれたとしても誰も不思議には思うまい。

 であるにもかかわらず、女子選手は静かに佇むのみだ。


 たまに聞こえてくるヤジも彼女を動揺させるには至らない。


「オッサン、負けんじゃねえぞぉ!」


「そうだそうだぁ!」


「ひねり潰しても俺たちが許す!」


「そりゃ反則負けになっちまう」


「ゲハハハハ! そうだったそうだった」


「反則にならねえ程度に揉んでやれやぁ!」


「モミモミなんっつってなぁ!」


「「「「「グハハハハハッ!!」」」」」


 下品なヤジが多いことこの上ない。

 が、この程度のヤジはまだ可愛い方だ。

 可愛くないヤジは聞くに堪えない代物である。


 試合中に服をはだけさせ相手を動揺させて勝つんだろうとか。

 あるいは女性であることを利用した八百長で勝ち上がったとか。

 要するに枕営業的なことをしたと言っているのだ。


 舐めたことを言っているせいで俺たちミズホ組の方が不機嫌になっていく。

 実に失礼極まりない連中だ。


 おそらくは対戦相手であるオッサンに賭けている連中だろう。

 執拗に同じヤジを繰り返しているからな。

 女子選手を動揺させて十全な状態で試合に臨めないようにという意図が透けて見える。


 が、女子選手は何も変わらなかった。

 もしかしたら彼女には聞こえていなかったのかもな。


 会場は相当に広いし他の観客だってワーワーと騒がしい。

 女子選手を愚弄するヤジは他の観客の歓声にかき消されていたと思いたいところだ。


 聞こえていたのだとしたら鋼の精神を持っているのではなかろうか。

 怒るなり動揺するなりしてもおかしくないんだが。

 とてもじゃないが若い女性には見えない落ち着きっぷりだ。


 いや、その発想も失礼だとは思うんだけどね。

 なんにせよ女子選手には聞こえていたと思う。

 チョビ髭オヤジが反応していたからな。


 女子選手を揶揄するヤジが発せられるたびにビクッと体を震わせて赤面してたし。

 怒っているのと恥ずかしがっているのが半々と言ったところか。

 他人のことなんだが相手の心配をしているように見受けられた。


 ただ、試合前では下手に声を掛けられないようではある。

 どうにかしたいという気持ちが、ふとした拍子のもどかしげな所作に表れていた。

 強面のガチムチにしては神経が細やかだ。


 中身は紳士らしい。

 それを見ていなければ俺が魔法で見苦しい連中を黙らせていたと思う。


 ただ、オッサンに対してはどっちが年上なのかとツッコミを入れたくなったがな。

 これなら見ていて胸糞の悪い試合展開にはならないだろうと思った。


 ルール上そういう展開にはなりづらいんだけどさ。

 それでも、おかしな奴は一度スイッチが入ると何をしでかすか読めないからな。


 願わくばクリーンなファイトを期待したい。

 熱く楽しませてくれるなら、なお良しだ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ