1511 予定変更?
「これは使えるねえ」
サリーは顎に手をやって頷いた。
どうやら俺の気のせいではないようだ。
おそらくは騎士や兵の訓練に応用しようとか考えているんだろう。
もしくは文官たちなどの運動不足解消になりそうだとか。
だとするなら、付き合わされるインサ王国の面々には同情を禁じ得ない。
体が資本な騎士や兵はともかく文官にはハードだと思われるからね。
だが、それだけだ。
仮にインサ王国が正式に友好国となったとしても、下っ端の心配までしてられない。
危機的状況に陥って命に関わるとかいうのであるなら話は別だが。
「その辺は好きにしてくれ」
そんなことより今は未知の屋台をチェックする方が重要である。
「ウルメの試合は終わったんだから屋台巡りに行くぞ」
今度こそ移動するとばかりに宣言した。
試合場に背を向けて歩き出しかけたのだが……
「ハルト様」
不意にカーラが呼び止めてきた。
俺は立ち止まり振り返る。
「ほいよ、どうした?」
「あれを」
俺の方を見ながらも試合場の方を指差すカーラ。
「ん~?」
促されて舞台の上に上がった選手たちを見る。
片方はチョビ髭で髪型はオールバックなオッサンだ。
筋骨隆々たる体を誇るようにポージングしていて、まるでボディビルダーである。
思いっ切り目立ちまくっているはずなんだが……
「完全に視線はあっちに奪われているな」
チョビ髭の方が派手派手しいんだけどな。
対戦相手は地味な服装に身を包んでいるし。
オッサンのように数秒ごとにポーズを変えたりなんてこともせず静かに佇んでいる。
若い女であるということだけで皆の注目を集めていたのだ。
「スゲーな、女だぜ」
「ホントに本戦に出場してたんだな」
「女が出るって聞いた時は絶対にウソだと思ったんだが」
「マジだもんなぁ」
観客たちも、あちこちで女性選手の登場に驚きを露わにしていた。
「あんなゴツいの相手にどうすんだ?」
「ハハハ、まったくだ」
「すぐに負けてしまうだろ」
「そいつはどうかな?」
「何だよ、女の方が強いってのか?」
「どっちが強いかは知らんよ。
だが、仮にも本戦出場者だぞ」
「だよなー」
「うっ、そうだった」
「どうやって勝ち上がったのか興味あるぜ」
「おう、それな」
観客たちが女性選手の登場に盛り上がる。
『それについては俺も同意するよ』
大柄でムキムキな感じなら想像もつくんだが、そういうタイプじゃない。
和服でも似合いそうな黒髪でスラッとした感じの美人さんである。
背丈も特別高いということもない。
俺よりは確実に低い。
そんな体格で本戦に駆け上がってきたのだから大したものだ。
どういう戦い方をするのか是非とも見せてもらいたい。
ただ、予選で注目されていなかったのはどういうことか。
『予選の時はすぐに負けるだろって言われてたぞ』
『ウルメみたいな勝ち方してたからな』
もう1人の俺たちが教えてくれた。
が、しかし……
『見てたんなら、どうして情報共有しないんだよ』
文句のひとつも言いたくなる。
『サプライズ?』
そんなサプライズはいらん。
それに疑問形だし。
『冗談だ』
……まったく我ながらいい性格をしている。
『美人だから知らない方がいいと判断したんだよ』
『何だよ、それ』
『独身の美人とは知り合わない方がいいぞ』
『何だよ、それ』
奇しくも同じ台詞を続けてしまった。
訳が分からないんだからしょうがない。
『身辺調査が済む前に知り合わない方がいいと言うべきだな』
いや、さすが俺だ。
たった一言で言いたいことが分かってしまった。
これも以心伝心の類だろうか。
『俺が接触すると国民にしてしまうって?』
念のために確認してみた。
『『そゆこと』』
即答で肯定されてしまったさ。
『くっ』
否定したいところだが、過去を振り返ってみると否定できない。
最初は引き込まなかったシャーリーとかも、結局は引き込んだからな。
他にも食堂3姉妹とか。
考えれば考えただけ分が悪い気がする。
そんなこんなで有耶無耶になってしまった。
まあ、本気で追及した訳じゃないしな。
何にせよ、観客たちの女子選手への興味は尽きない訳で。
先程そば耳を立てたのとは異なる観客たちも勝ち上がった方法を話題にしていた。
「武王大祭じゃ八百長は無理だしなぁ」
1人がぼやくように言うと──
「そうなのか?」
ぼやいたのとは別の観客が首を傾げて聞いていた。
「対戦相手に金を払えばいいだけだろ?」
それ以外にやりようなどあるまいと聞いた男は勝ち誇るが……
「そりゃ、ねえな」
即座に否定された。
「なんでだよっ?」
自信があっただけに食って掛かる男だったが──
「月の女神様の天罰が下るんだと」
やはり、あっさりと否定された。
「マジで!?」
今度は驚きでもって受け止められる。
これが現代日本なら鼻で笑われて終わるだろう。
もしくはオカルト話に突入するかだ。
が、ここは現代日本からすると異世界である。
神様は現実の存在として信仰の対象になっていた。
まあ、実際は本物の神様ではなく亜神だけどな。
「マジなんだよ、これが。
今回も予選でやらかそうとした奴が神託であぶり出されたらしいぜ」
「「「「「何それ、怖いっ」」」」」
周囲で話を聞いていた者たちも含めて一斉に震え上がる。
俺も同感だった。
見ていないようでルディア様が仕事をしている話をこんな形で知ることになろうとは。
『夢にも思わなかったぜ』
ガクブルものだ。
まあ、当然のことなんだけどさ。
生真面目なルディア様が仕事をサボる訳がない。
イタズラ好きなおちゃらけ亜神とは違うのだ。
『双子なのに偉い違いだよな』
とはいえ、ルディア様たちはまだまだ忙しいと聞き及んでいる。
ベリルママですら脳内スマホの電話でちょこっと話す程度なのだ。
ルディア様とは連絡を控えているのが現状である。
前は近況報告的に電話したりしてたんだがな。
おちゃらけ亜神の動向に探りを入れる必要があるからさ。
そういう状況でもチェックを疎かにしないのは、さすがと言うべきだろう。
何処かの誰かさんには爪の垢を煎じて飲ませたいと切実に思う。
飲ませても効果がないであろうというのは、お約束だとは思うけどな。
何にせよ俺だって女性選手が本戦に出るということだけは知っていた。
選手紹介イベントも見てきた訳だし。
結構な数の観客が知らないようではあるけれど。
それはイベントが強制的に参加させられるものじゃないからだろう。
故に今日が初めてという観客もいる訳で。
その割りには空席はそこそこあるけどな。
大きく空いた席はないけれど、まだ満席とは言い切れないような状況だ。
まだ2試合目だからというのはあると思う。
目の肥えた客が増えるのはこれからなんだろう。
「見ていきたいと」
「はい……」
申し訳なさそうにしているカーラ。
屋台巡りを中断させてしまうことに気が引けているのか。
「いや、気にすることはないぞ」
カーラは滅多なことでワガママを言わないからな。
もっと言ってくれていいのにと思うくらいだ。
「旦那の言う通りだ」
ツバキが俺に続けて言った。
「西方女子の意地を見てみたくなった」
なかなか面白い言い方をするものだ。
そのまま席に着く。
「そうじゃな、クジ引きの時から気になっておったのじゃ」
シヅカもそれに続いた。
俺も頷いて同意する。
ただし、シヅカのようにクジ引きの時から注目していた訳じゃない。
あまり強そうに見えなかったからな。
今にして思うと意図的に影が薄くなるようにしていたんじゃないだろうか。
そんなことができるなら、西方じゃ結構な強者だと思う。
実際のレベルで推し量れる以上の実力があってもおかしくない。
幻の6番目な少年みたいなものだ。
『意外とスキル持ちかもな』
鑑定もしてないし、する気もないけど。
雰囲気のある者だけが強者って訳じゃない。
むしろ、そうでない者の方が達人だったりするからな。
そういう相手を鑑定で暴いても試合観戦がつまらなくなるだけだ。
これが武王大祭じゃなくて何かのトラブルとかだったら鑑定してるとは思うけど。
読んでくれてありがとう。




