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1510 次はどうする

「あーあー……」


 試合会場全体に主審の声が響き渡った。


『マイクテストか』


 これが日本なら「ただいまマイクのテスト中」とか続けるんだろうけど。

 さすがにそういうのはない。


 一瞬だが試合会場に静寂が訪れた。

 そして一斉にザワつきかけたところで──


「会場にご来場の皆さん、聞こえますでしょうかー」


 主審が話し始めた。

 均等に隅々まで行き渡っているようだ。


『これは単に拡声されているのとは違うな』


 会場のあちこちに分散配置された魔道具の子機から声が出力されている。

 西方に出回っている魔道具の中では高度なものが使われているのは明白だった。


 それが証拠に──


「「「「「おおぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


 観客席が大きくうねる驚きの声によって埋め尽くされた。


「ご静粛にお願いしますー!」


 主審が魔道具によって拡声した声で静めようと奮闘するものの効果は薄い。

 魔道具なんて西方ではそうそう出回るものじゃないからな。


「何だ何だっ!?」


「審判の声がハッキリ聞こえるぞ」


「スゲー……」


「マジなんだよな」


「どうなってんだ?」


「そういう魔道具なんだろう」


「「「「「スゲ─────ッ!」」」」」


 観客席のそこかしこで大騒ぎされていた。

 会話の内容に差はあっても、驚きっぷりは何処もほぼ同じ。

 ミズホ組が醒めた感じでいたのが浮いていたくらいだからな。


 結局、しばし待たされることとなったのは言うまでもない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「それでは説明させていただきます」


 固唾をのんで聞き入る観客たち。

 まずはウルメの攻撃によって対戦相手がどのような状態になったのかが告げられた。


「マジか……」


「顔が腫れ上がるって……」


「目も開けていられないくらいって、どんだけだよ」


「スゲえ奴が出てきたもんだな」


「あのドワーフ、優勝すんじゃねえか?」


「いやいや、分かんねえぞ」


「どうしてだ?

 圧倒的だったじゃないか」


「まだ審判から勝者だと言われてないだろう」


 そう、説明が先で勝者の発表はされていないのだ。


「……言われてみれば、そうだな」


「そうは言うが、あれだけ圧倒的だったんだぞ?」


「だよなぁ」


「ドワーフの勝ちが分かりきってるから言わないだけじゃないのか?」


「んな訳ねえだろー。

 月の女神様の神殿が主催してるんだぞ。

 絶対にそんないい加減なことはしねえよ」


「じゃあ、何か問題でもあんのか?」


「顔が腫れ上がったのが問題視されたんだろ」


「でも、血は流れてないぞ」


「おお、それは審判も言ってたよな」


「骨折もしてないそうだしな」


「だけど、治癒魔法を使わなきゃならん状態だよな」


「それかー」


「あり得そうだよなー」


 会場中が同じような騒ぎを広げていく。

 またも待たされることになったが、今度は主審が呼びかける前に収束した。


 続いて主審が対戦相手の状態から審判団が協議に入った旨を説明していく。

 一部の観客たちで言われていたような懸念事項についても話し合われたことも含めて。

 どう判断するかで、すぐに終わった話だがな。


「これにより流血がなかったことを踏まえ──」


 新版の説明は続く。


「審判団はウルメ選手が手加減していたものと判断します」


『ほう、反則ではないということか』


「したがって、反則とは見なしません!」


 思った通りの事実を主審がキッチリと言い切った。


「なお、これはすべての審判が同意の上での決定事項です」


 異議は認めないって訳だ。

 観客の中の何人かは忌々しそうに舌打ちしていた。


 まあ、全体の1割にも満たない数だが。

 対戦相手に賭けていた連中だろう。


 数が少ないこともある上に、その面子だけで集まっている風でもない。

 これなら問題行動を起こしても暴動には発展しないものと思われる。


 特に混乱が生じないなら衛兵に任せておけばいい。

 それよりも大事なのはウルメが勝ったのかどうかだ。


 ほぼ決まったようなものだが、確定した訳じゃない。


「これにより第1試合の勝者をウルメ選手とします!」


 そう、やはり勝利の宣告を聞かないことにはね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ウルメが勝った。

 張り手作戦は上手くいった訳だ。

 これで次から対戦相手は顔面ガードを徹底してくることだろう。


 それがウルメの次戦に向けた前振りだと気付いている者はいるだろうか。

 実は、この試合で用いた手はメインで使う予定はない。


 とはいえ派手にやったから多くの者たちが次の試合でも使ってくると思い込むはずだ。

 観客はもちろん、他の出場選手たちもな。


 中には裏があると疑ってかかる選手もいるかもしれないが。


 現にミズホ組の面々は俺が何も言わなくても気付いている。

 スマホを使ってあーだこーだとチャットで議論していたので間違いない。


 他に気付いているのはビルくらいだろう。

 まるで合流してこないけど。


 アイツの場合は気付いているというより知っていると言った方が正しいか。

 特訓の練習相手としてウルメに付き合ったからな。

 細かな作戦内容についてもすべて把握している。


 だからといって情報漏洩の心配はしていないが。

 義理堅い男だからな。


 まあ、この場にいないんじゃあれこれ気にしても仕方ない。

 それよりも祭りを楽しまないと。


 とりあえずウルメの試合も終わったことだし、屋台を回ってみるのもありだろう。

 前日までとは違う店舗もある。

 出店の権利を得るために補償金を支払わないといけないからな。


 連日のように店を出せるのは金を持っている大きな店だけだ。


「それじゃあ一旦、外に出ようかぁ」


 俺は皆に声を掛けた。

 特に告げなくても、何を目的としているかなどミズホ組なら分かっている。


「やったニャー」


 諸手を挙げてミーニャが喜ぶ。


「屋台巡りなのー」


 ルーシーはクルクル回って踊り出すし。


「新しいお店が楽しみだね」


 シェリーも引き寄せられるように踊り始めた。


「「美味しい店があるかなぁ?」」


 ハッピーとチーは派手な動きをしないが、期待感が高まっているのが分かる。

 ゴクリゴクリと何度も喉を鳴らしていた。

 どんだけ涎が出てるんだよとツッコミを入れたくなったさ。


「ほうほう、それは楽しそうなのだよ」


 軽戦士サリーが子供組の輪に近寄っていく。


「「「「「キャーッ」」」」」


 子供組がクモの子を散らすような感じでパッと散る。

 人見知りを発揮した訳ではなく、その場のノリだ。

 その証拠に楽しげに笑っているからな。


「鬼ごっこかよ」


 ノリノリで子供組を追い回していたサリーがピタリと止まった。


「おやおやぁ? 聞いたこともない知らない言葉だよ」


 こちらに振り返るなりニカッと笑って歩み寄ってきた。


「その鬼ごっこというのは何なのかな?」


 興味津々と言った様子で聞いてくる。


「子供の遊びだよ」


「それは興味深い話だね」


 うんうんと頷いているサリー。


「そうかい」


 興味深いと言われるほど大層な遊びでもないと思うんだがな。


「是非とも教えてもらいたいものだよ」


 まあ、知識欲を満たす意味合いがあるのだろう。


「追いかける側を鬼に見立てて逃げる相手に触れるだけの単純な遊びだ」


「ほうほう、駆けっこができるくらいの子供にも理解しやすいか」


「どうだろうな。

 触れられると鬼と入れ替わるとか逃げる範囲を決めなければならないとかあるからな」


「むむ? 触れられた者は鬼になるのではないのか?」


「それは派生したルールで、増え鬼と呼ばれる遊び方だな」


「なるほど、色々な遊び方があるようだ」


「衛兵と盗賊のチームに分かれるエイゾクなんてのもある」


 言うまでもなくケイドロのことだ。

 ルベルスの世界には警察も刑事も存在しないからな。

 異世界風に言い換えたって訳だ。


「ほほう、それはまた面白そうな」


「そうか? 単純な子供の遊びだぞ」


「いやいや、そうでもないと思うのだがね」


 不敵な笑みを向けてくるサリー。

 碌でもないことを考えているっぽく見えてしまうのは穿った見方をしすぎか。


読んでくれてありがとう。

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