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1507 最初の相手は犠牲者か

「あれの何処が本気でなかったと言うのだ?」


 ランドが根掘り葉掘り聞いてこようとするが──


「これ以上の話は聞いていられんぞ」


 それどころではないのでシャットアウトにかかる。


「なぬぅ?」


「試合が始まるのが分からんか」


「ぐぬぬ」


 ランドが悔しそうに唸ったところで試合が始まった。


「「「「「おおっ!?」」」」」


 ツバイクたちが驚きの声を上げた。

 目を見張ってさえいる。

 他の観客たちも驚いている者が多い。


「「「「「突進したぁっ!?」」」」」


 試合開始の合図と共にウルメがダッシュしたのだ。

 そう聞くと無謀な突進のように思えるかもしれない。

 武王大祭は対戦相手を骨折させてしまうと反則負けだからな。


 突進からのタックルとは相性がよろしくない。


「「「「「おお──────────っ!」」」」」


 再び驚きの歓声が上がった。


 パパパパパパパパッ!


 下から突き上げるような張り手の連続。

 相手は若手だったのでスピード派だと思われたが、まともに貰っている。

 低い姿勢で突っ込んできたウルメに不意を突かれる格好になったようだ。


「スゲえーっ!」


「何だよ、あんなの見たことねえよ」


「一方的じゃないの」


「相手が反応できてなかったからな」


 観客も目を白黒させて驚いている。


 パパパパパパパパッ!


 それでもウルメの張り手は止まる気配を見せない。


「反撃しろよぉ」


「難しいんじゃないか」


「なんでだよっ」


「下から突き上げられてる」


『ほう』


 一般の観客の中にも目の肥えた者が混じっているみたいだな。

 どうやらベテラン冒険者のようだが。


「そのくらいで──」


 反論を試みようとする方もベテランっぽいが、こっちは脳筋っぽい見た目だ。


「バーカ、お前みたいに気合いとか根性でどうにかできる問題じゃないんだよ」


「んだとぉ!」


「上体が浮かされてるのが分からんか?」


「それがどうした」


 脳筋の方は大した問題ではないと思っているようだ。

 戦闘は気合いと根性でどうにかできると思っているタイプなのは間違いなさそうである。


「体勢を整えないと、まともに反撃なんてできるもんか」


「まともじゃなくてもいいから手を出さなきゃ、どうにもならんだろうが」


「それこそ、あのドワーフの思う壺じゃねえか」


「何だって?」


「体勢を崩したまま反撃すれば余計にバランスを悪くするだろうが。

 そうなったら致命的な隙ができて、あっと言う間に場外へ押し出されるのがオチだ」


「けどよぉ、あのままでも場外へ落とされるじゃないか」


 脳筋の言うことも、もっともである。


「今のままならな。

 どうにか抜け出せば体勢を整えられるかもしれん」


「どうにかって、どうするんだよ。

 踏ん張って堪えるので精一杯みたいな状態なんだぞ」


「そこまで知るか。

 案外、スタミナ切れを待ってるのかもしれんがな」


「あの連打が止まるのを待ってるのか?」


「どうにか耐えようとしてるみたいだから、そうなんだろう」


「無理だろ。

 あのドワーフ、まだまだ余裕があるぞ」


 脳筋の方もウルメのスタミナくらいは見積もれるらしい。


「みたいだな」


 投げ遣りに返事をするベテラン。


「みたいだって……」


 脳筋は呆れたように口をアングリと開けていた。


「それじゃあ、あの連打をまともに食らった時点でヤバかったんじゃねえか」


「そうだな。

 あのドワーフの作戦勝ちだ」


「どういうことだ?」


「アイツ、予選の間は徹底して受けに回ってたんだよ」


「はあっ?」


 訳が分からないという顔をする脳筋。


「スゲー攻撃してるじゃねえか」


 パパパパパパパパッ!


 脳筋が言うようにウルメの猛攻は続いていた。

 相手の若手選手はどうにか耐えてはいるが、ジリジリと後退させられている。


 上体が浮かされることで踏ん張りが利きづらくなっているのだろう。

 予選と同じ試合場なら既に場外に押し出されて勝敗は決しているような状態だ。


 だが、今は本戦である。

 まだまだ場外には至らない。


 対戦相手はそこに一縷の望みを託しているのかもしれんな。


「作戦だろ」


 脳筋の言葉を受けてもベテランは素っ気ない返事をするだけだ。


「本戦に出てくる連中は一癖二癖ある奴らが多い。

 奥の手を見せずに勝ち上がれるなら、そうするだろうぜ」


「ふーん、頭使ってるんだな」


「お前が使わなさすぎなだけだ」


「うるせえ、性に合わねえんだよ」


 口喧嘩が始まってしまった。

 見ていても意味がなさそうなので、他の観客に目を向ける。

 もちろん【多重思考】と【天眼・遠見】のスキルコンボでウルメの試合を見ながらだ。


「あんなに殴って大丈夫なのか?」


「知らねえよ」


「だけど、流血はしてないぜ」


「ホントだぁ」


「どうなってる?」


「何でだ?」


「知るかよっ」


 張り手であることに気付いていない者も少なくないようだ。


「ほうほう、面白いものだね」


 サリーが楽しげに喉を鳴らして笑っていた。


「そうか?」


 憮然とした表情のランサーとは対照的である。


「一方的すぎて終わりが見えているではないか」


「そこは否定しないがね」


「何か別のことが面白いのか」


 タワーが表情を変えずに言った。


「そうそう、そうだよ。

 発想が素晴らしいじゃないか」


「どういうことでしょうか?」


 首を傾げながらスタンが問うた。


「おやおや、分からないのかい?」


「残念ながら」


 特に残念さや悔しさを滲ませることなく淡々とスタンは答えていた。

 それを見たサリーがランドを見る。


「掌で殴っていることか?」


「その通りだよ」


 サリーが満足げに頷いた。


「ランサーは気付かなかったのかい」


「そのくらいは見りゃ分かる」


 サリーもランサーもそこそこのレベルがあることで一般の観客より目がいいようだ。

 ギリギリで分かるかどうかぐらいだとは思うがね。


「何を意図しているかも?」


「何っ?」


「その様子では分かっていないようだね」


「ぐっ」


 悔しそうにサリーを睨みつけるランサー。


「掌なら柔らかいから強めで殴っても骨折や流血の恐れが無くなる」


 タワーがボソリと呟くように言った。


「正解だよ、タワー」


「ん」


 タワーは特に感慨を抱くこともないらしく表情を変えずに頷いた。


「ぐぎぎ」


 歯ぎしりしながらランサーが唸る。

 気付いていなかったのか、単に言いそびれただけなのかは不明だ。


「しかも、だ」


 サリーが悔しげなランサーを見もせずに話を続ける。


「私の見立てが正しいなら、もうじき試合は終わるのだよ」


『へえ』


 ウルメが張り手の連打を繰り返す本当の狙いに気付いたようだ。


「どういうことだっ?」


 ランサーが吠えるように疑問を投げかける。


「場外までまだまだ離れているぞ」


 指摘されてもサリーは余裕の表情だ。


「フフン」


 それどころか鼻で笑ってすらいる。


「ぐわぁーっ、腹立つぅーっ」


 ダンダンと地団駄を踏むランサー。


『おいおい、面倒なことをしてくれるなよ』


 せっかく周囲に迷惑がかからないように結界を構築してるのに。

 振動まで考慮してなかったぞ。


 もちろん、咄嗟に打ち消したけどさ。


「ランサーは余裕がないねえ」


「誰のせいだと思っている、誰のっ!」


 憤慨したランサーが抗議するもののサリーは何処吹く風といった様子だ。


「試合を見てないと終わるわよ」


「だから、まだ場外には届かないと」


「そろそろ連打が止まって、そこから一気に勝負が決まるのだよ」


「はあっ?」


 素っ頓狂な声を出して訝しむランサー。

 いや、タワーやスタンも唖然としている。

 サリーの予言めいた言葉に面食らっているのは間違いあるまい。


「おやおや、さすがのタワーもここまでは見切れなかったかな」


「ん」


 先程と同じように短く返事をしたタワーだが、明らかに様子が異なっていた。

 表情はあまり変わらないものの不満げな空気を漂わせている。

 挑発されて怒ったというよりは見切れなかった己が不甲斐ないと感じているっぽい。


 パン!


「あっ!」


 スタンが驚きの声を上げた。

 ウルメの連打が止まったからだろう。

 余所の観客を含め驚いている者たちは多い。


 平然としていたのはミズホ組くらいのもの。

 あとはサリーとランドか。


 サリーは自分なりに予想していたから驚かないのも道理だ。

 ランドもというのは、ちょっと驚きだけどな。


読んでくれてありがとう。

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