152 久々に顔を出してみた
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「「んぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
ハイペースで山道を駆け下った際の後部座席から聞こえてきた悲鳴は、ほぼこんな感じだった。
間に「死ぬ」を連呼したり「殺す気か」と喚いてもいたな。
故にというか何というか、ブリーズの街に到着した時には魂が抜けかけているような有様だったのは無理からぬことなのか。
上級スキルである【運転総合】の熟練度がMAXでこれだもんなぁ。
下位互換の【自動車】スキルでは抜け殻状態ではすまなかった気がする。
後部座席を汚さずにすんで俺も一安心だ。
問題は帰りだな。
時間的には本気で走ることができれば所要時間は変わらないと思うが、セーブしてあの状態だったからなぁ。
下りの恐怖がないことに期待するしかあるまい。
「おーい、生きてるかー?」
正門前の列に並んで衛兵の審査待ちをしているタイミングで具合を確認すべく声を掛けてみた。
ちなみに騒がれたくないのでゴーレム馬を出して幻影魔法で車を引っ張らせているように見せている。
「誰のせいじゃと思うておるか」
「無茶苦茶だ」
「これくらいかっ飛ばさないと日帰りは無理だろ」
「「ぐぬぬ」」
2人は悔しそうに歯噛みしている。
「ちなみに帰りは同乗者が増えるからな」
「なんじゃと?」
「保険だよ。何事も予定通りに進められるとは限らないからな」
「どういう──」
ガンフォールが言葉を発しかけたところで──
「失礼」
不意に外から声を掛けられた。
前の方の審査は終わっていないようなんだが板を手にした衛兵がいる。
窓は開けていなかったので遮音されていたがシステムがセンサーで外部の音声を拾ってくれた。
国で働いている自動人形を改良し続けてきた成果である。
とにかく衛兵が来たなら応対しなければなるまい。
俺は窓をスライドさせながら──
「前はまだ途中のようだが?」
身分証を見せつつ聞いてみた。
「これは賢者様」
どうやら俺のことを知っているようだ。
「あちらが終わるのを待つと日が暮れてしまいますよ」
「外国の商人か」
「ええ、まあ……」
衛兵は言葉を濁した。
ブラックリスト入りしているから念入りにチェックすると言っているようなものだ。
日が暮れるという話も納得である。
なんにせよ並行して審査してくれるなら俺たちが気にする必要はない。
先に門をくぐることになるだろう。
融通の利く衛兵の対応が有り難い。
身分証を返却してきた衛兵が板に書き込みをしながら質問をしてきた。
「本日の予定は商談ですか?」
身分証が商人ギルド発行のものなら普通はそう思うよな。
「商談の前の話し合いだ。問題が起きたのでギルド側と話を詰める必要が出てきたんだよ」
ウソではないな。
これからのことを思うと気分が重い。
「それは御愁傷様です」
衛兵は俺の辟易した表情を見て苦笑いをしつつ応じてきた。
だが、次の瞬間には凍り付くことになる。
「同乗者の方は……っ!?」
覗き込むようにして後部座席を見た衛兵が固まってしまった。
「今日はお忍びというやつだ。騒ぎ立てるのは無しで頼むぞ」
重々しくハマーが語っている。
ついさっきまでグダグダ言ってたのは何かってくらい威厳を放っていた。
もちろんガンフォールもだ。
変わり身の早いことで。
衛兵の方はというとコクコクと頷いている。
「大変失礼いたしました」
素早く板に何か書き込んだ。
「どうぞ先に行っていただいて結構です」
衛兵が一礼してから前方の方に合図を出すと、別の衛兵が誘導に現れた。
おそらく前の商人と揉めないためにそうしているのだろう。
お陰で隊商の連中から絡まれることなく街の中に入ることができた。
衛兵様々である。
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街の中へ入った後は商人ギルドへ向かってシャーリーとアーキンを呼び出し強制連行。
徒歩で冒険者ギルドへと向かう。
商人ギルドに用がなくても馬車を置きっ放しにしておける金クラスの特権を利用して車は置いていく。
もちろん偽装は継続中である。
「緊急の用件で冒険者ギルドですか?」
「先生のことですから依頼をしに行くという訳ではなさそうですが」
「説明は後だ。二度手間になるからな」
「「はあ」」
シャーリーとアーキンは顔を見合わせるが要領を得ないとばかりに首をかしげるばかりだ。
緊急と言われたことで気になって仕方ないのだろう。
じきに分かる話なのでスルーしておく。
目と鼻の先の距離なので徒歩でもサクッと到着だ。
さっさと用件を言って新たな保険の要員を連行するとしよう。
まあ、言うほど大袈裟なことでもないんだけど。
俺の予言についてお姫様に説明するってだけなんだから。
来月頭に来るだろうという話は聞いたが、あくまで予定だ。
予定は未定。
ガンフォールが南部地域を回っている間にお姫様たちが来訪することが無いとは言えない。
そこでゴードンを残しておき俺の予言を説明させるのだ。
冒険者ギルド長なら相応の信用を得ることはできると思う。
耳を貸さないということはないはずだ。
問題はゴードンの方かな。
貴族ならば応対したことがあっても王族を相手にした経験はさすがにないだろうし。
そこは頑張ってくれとしか言えない。
ドアを開けて建物の中へと入っていく。
食堂でたむろしている連中の視線が一斉に集まった。
無遠慮にジロジロと見られるのはドワーフや商人ギルドの幹部を引き連れてきたからか。
その連中は無視して受付に向かう。
「──────っ!」
奥にいたオッサンが立ち上がり頬を引きつらせている。
ガンフォールのことを知っているらしい。
ゴードンには使いっ走りにされる程度の中間管理職な男が知っているとは意外だ。
名前はハンスだったっけ?
侮れないなと思ったら視線の先が俺である。
さてはトラブルメーカーが来たと思ってるな。
実際、トラブルを持ち込むのは事実だから否定できないのが癪だ。
内心でイラッとしていると、近づいてくる女性がいた。
「ようこそ冒険者ギルドへ、賢者様」
こちらは、にこやかに挨拶してくれる。
親切な受付のお姉さんだ。
「やあ、久しぶり」
名前はまだない。
じゃなくて、まだ聞いていないので知らない。
「ギルド長はいるかい?」
「はい、何か特別な御用件ですか」
「そうだな。とびきり特別な用件だ」
俺は軽い口調でそう言ったが、ガンフォールやハマーの雰囲気は重苦しいままだ。
それを見たお姉さんが目を丸くさせた。
「では、ご案内します」
驚きながらも即決で行動できるあたり、ただ者ではない。
ハンスは俺の話を耳にして頭を抱え机に突っ伏しているというのに。
どっちが管理職なんだか。
ギルド長の執務室の前に来た。
お姉さんが3回ノックしてから返事を待たず中に入っていく。
ああ、ハンスどころかゴードンまで軽んじられているな。
本当にこのお姉さんは裏のギルド長かも知れない。
「おい、返事くらい──」
ゴードンも黙って言いなりになるような玉ではないけどな。
もっとも、彼女の後ろに続く面々を見て呆気にとられてはいたが。
「久しぶりだな、ゴードン」
「…………………………」
「おいおい、俺のことを忘れたのか?」
冗談めかして緊張感をほぐそうとしたのだけれど、その甲斐なくゴードンは椅子から飛び出してきた。
「御無沙汰しております!」
土下座でもすんのかというような勢いでガンフォールに深々と頭を下げる。
最敬礼ってやつだな。
「相変わらずうるさい奴じゃな。もそっと静かにできんのか」
「し、失礼しました……」
萎れるように小さくなっていくゴードン。
珍しいものを見てしまった。
お姉さんも同じように感じているらしい。
いや、ハマー以外は全員同じ感想を抱いたようだ。
「今からそんな状態だと心臓が止まっても知らんぞ」
俺の皮肉にゴードンが恨めしそうな視線を送ってくる。
「どういう用件なんだ。ジェダイト王まで引っ張ってくるとはただ事ではあるまい」
急かすような目で見られるが気にしない。
「まずは座ろうぜ。立ち話で終わるような単純な用事じゃないし」
一瞬にして絶望したと言わんばかりの表情になるゴードン。
「厄介ごとなのか」
「察しがいいな。解決するために協力してもらうことになる」
「何だと!?」
読んでくれてありがとう。