1506 試合会場へ
妥協の末に5国連合のトップが変装した冒険者パーティ名が決まったらしい。
らしいというのは、5人が密談して決定したからだ。
聞こうと思えば聞けたけどね。
伊達にエルダーヒューマンではないのだ。
スキルに頼るまでもなく基本ステータスが高いので聞けてしまう。
だから、あえて聞かないようにした。
パーティ名に興味はなかったし。
盗み聞きする格好になるのは趣味が良くないからな。
どうしても必要というなら聞き耳も立てたが、そういう状況ではないし。
そんな訳で、スルーした後はさっさと朝食を済ませてしまう。
そして街へと向かうこととなった。
商人が使うような幌馬車の荷台に乗り込んで出て行く。
ガタゴトと石畳の上を揺られる感触は気分の良いものではない。
俺は理力魔法でその問題をクリアしているがね。
ミズホ組も俺の真似をしている。
割と高度な制御を要求されるんだけど。
学校に通い始めたばかりの生徒だと長くは持たないくらいかな。
微妙に浮きながらリアルタイムで衝撃を吸収するよう調節する必要があるからね。
まあ、同行している面子だと無意識でイレギュラーなバウンドにも対応しているが。
一方でツバイクたちには厳しい条件となる。
魔法という時点でどうにもならない面子ばかりだし。
ただ、馬車での移動に離れているみたいなので平然としていたけれど。
ならば問題ないのかというと、そうでもない。
こういうのに慣れていない面子がいるからだ。
言うまでもないことだが5国連合の面々である。
既に慣れつつある剣士ランドは落ち着いたものだが。
5国連合の他の面々は居心地が悪そうだ。
移動を始めた途端にギャーギャーと騒ぎ始めたからな。
「何だ何だ、付き上がるぅっ」
軽戦士サリーが吠えるように悲鳴を上げた。
「ぐおおぉぉぉっ、尻がぁっ」
槍士ランサーがどうにか尻を防御しようと奮闘する。
「耐えがたいものがある」
などと言いながら重戦士タワーは腕組みをして耐えようとしていた。
「っん! 不意打ちのように来る突き上げがキツいですねえ」
魔法使いスタンは、ほとほと困り果てた感を顔面に出して諦観を滲ませていた。
やはり、王族が乗るような馬車とは乗り心地が格段に違うようだ。
藁束をクッションにすることで、どうにか耐えることができるようになったがね。
そうなると今度は別の問題が浮上してくる。
「いやいや、城の外に出ると緊張するねえ」
サリーがとても緊張しているとは思えない楽しげな顔をしている。
ただし、荷物の影に隠れるように外をチラ見したりしていたが。
端的に言うとコソコソしていて挙動不審だ。
「仕方あるまい」
フンと鼻を鳴らすランサー。
こちらも外の様子は気になるようだ。
チラチラと外の様子をうかがっている。
「城からそのまま冒険者の集団が出てくれば色々と勘繰られる」
タワーがボソリと言った。
チラ見の頻度は先の2人ほどではない。
が、それは自制しているからのように思えた。
やはり気になるのはサリーやランサーと変わらないのだろう。
「そのために、こんなコソコソした出方をするんじゃないですか」
スタンが呆れたように嘆息していた。
意外なことに、チラ見はほとんどしていない。
タワーのようにウズウズした様子も見られなかった。
神経質なように見えて剛胆なところがあるようだ。
「そうでしょ、ランドさん?」
「ああ、その通りだ」
問いかけに答えるランドはスタン以上に落ち着いていた。
何度か同じ手で城を抜け出しているからな。
数は少ないが連日のように繰り返せば、やはり慣れるものだ。
同盟国の4人よりも数日分のアドバンテージがあるのは大きい。
無様な姿は見せられないという意識も働いていそうだが。
そんなこんなで適当な裏道を通って王家御用達商家の集荷場近くで下車する。
「こういう場所だとさすがに人は少ないようだな」
キョロキョロとあたりを見渡しながらランサーが言った。
「挙動不審ですよ、ランサーさん」
スタンがすかさず注意した。
「うむ、迂闊だ」
タワーもそれに同意する。
「おおっ、悪い悪い」
あまり悪びれずにランサーが謝っていた。
さっそくロールプレイで成りきっているようだ。
それとも、こちらがツヴォ王国の王太子であるランスローとしての素なのか。
だとしたらオッサン臭い容姿をしている割にチャラい。
実年齢は日本人だった頃の俺より数年ばかり上なのにねえ。
ちょっと古くさい言い方になるが、中身はチョイ悪オヤジなのかもしれない。
「本当に反省して──」
スタンが苦言を呈しようとするが……
「長居は無用だ」
タワーがぶった切った。
「アハハ、その通りだね」
他人事のように笑うサリー。
「でないと、置いて行かれるよ」
指差す先には先に移動し始めたミズホ組とツバイクたち一行。
ランドでさえ他人の振りをしつつ、その場を離れようとしていたからな。
「くっ、薄情なっ」
文句を言いながらも置いて行かれてはたまらんと慌てて追ってくるランサー。
「むぅわたんくわぁっ」
待たんか、と言っているんだろう。
何のスイッチが入ったのかと思うような溜めた喋り方をする。
まるで綿本盛男さんが気合いの入ったシーンを演じているかのようだった。
突っ込んでくるかのような勢いで駆け寄ってくるランサーにピッタリである。
が、些かうるさくて鬱陶しい。
これが大通りだったらと思うと先が思いやられるよ。
思いっ切り目立って衛兵に目をつけられること間違いなしだ。
「うるさいよ」
「お主らが待たぬからだろうがっ」
ランサーが吠えた。
「静かに喋れ。
でないとマジで置いていくからな」
「ぐっ」
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
その後は比較的静かに移動できたと思う。
5人組がワイワイやっていたが、問題ありそうな発言はしてなかったのでスルーした。
で、特に問題も発生せず試合場に到着。
無事に着けたのは良かったのだが……
「なんだかんだでギリギリだったな」
もうすぐウルメの試合が始まろうとしている。
そんなタイミングまで観客席をうろうろしてしまったさ。
「これだけの人数ですからね」
俺の呟きにカーラが苦笑している。
彼女が言うように俺たちは大所帯と言っていい集まりだ。
ミズホ組だけでも結構な数だからな。
そこにツバイクたち一行もいる訳だし。
そして今日はランドたち5人組も一緒である。
大幅に面子が増えた訳ではないが、元々が多いからな。
しかも本戦2日目だ。
観客は増えてくる。
昨日の盛り上がった試合の話を聞きつけて朝から入場してくる観客も増えたようだし。
分散せずに観戦しようと思うと席を確保するのは簡単ではなかった訳だ。
微妙な席が多かったんだよね。
人数分にあと少し足りなかったり。
少人数のグループによって分断されてたり。
運良く何とか確保できた時は安堵したものである。
「いや、すまぬ。
読みが甘かった」
ランドが謝ってきたが、間に合ったので目くじらは立てない。
「そんなのはどうでもいい。
今はウルメの試合が一番だ」
「おっと、そうだったな」
そんなやり取りをしている間に試合開始前の礼が終わっていた。
「さぁて、いよいよウルメの本気が見られるか」
「何だとっ?」
ランドが耳聡く聞きつけて吠えているが知らん。
「どうでしょうね。
それは相手しだいじゃないですか?」
ツバイクも相手にしていない。
「相手の情報は仕入れてないから何とも言えないな」
「おいっ」
ランドが噛みつくように呼びかけてくる。
「何だよ、うるさいなぁ」
「無視するからだ」
「見て分かんなかったのか。
予選の試合はどれも息を乱してなかっただろう」
「いや、だって……
予選最後の試合もなのか?」
「もちろん、本気の訳ないだろ」
相応の技を最後の最後で使いはした。
が、それで全力を出したとは言えない。
全般を通して様子見してるような状態だったからな。
そこを説明すると──
「なんてことだ」
そう言ったきり、しばらく呆然としていた。
読んでくれてありがとう。




