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1501 本戦の初日が終わって

 8試合目が終了して、本戦初日が終了した。


「結局、見所のある試合はふたつだけだったか」


 呟くようにルーリアが言った。


「それは違う」


 ルーリアの発言を否定したのはノエルであった。


「違う?」


 そう問いながらルーリアが困惑気味に首を傾げている。

 そんなはずはないのだがと顔に書かれていた。


「前評判からすれば、ふたつもと言うべき」


「ああ、そういうことか」


 苦笑いしつつもルーリアは納得の表情を浮かべた。


「確かにそうだな」


「そうかしら?」


 疑問を呈したのはレイナである。


「2試合目だって、そこそこの試合だったわよ」


「せやな」


 アニスが同意した。

 普段はノリツッコミな感じで言い合うことが多いけどな。

 こういう息の合うところもある訳だ。


「勝った選手がウルメはんにとって強敵か言われたら首傾げてまうけど」


 ノエルが俺の方を見た。

 レイナとアニスも。

 どっちが正しいのかとジャッジを求めている訳だ。


『勘弁してくれよぉーっ』


 とは思うが、顔には出さない。

 【千両役者】スキルがなければ、ノエルには見抜かれていたかもな。


「どちらも正解だ」


 どちらかを選ぶなんてできる訳がない。

 日和ったとか言うことなかれ、だ。

 優柔不断であるのは認めざるを得ないがな。


「何やねん、それ」


「ホントよ」


 アニスとレイナがすかさずツッコミを入れてくる。

 ノエルはジーッと俺を見てくるだけだ。

 とりあえず話を聞いてから判断しようというのだろう。


 これじゃあ、どっちが大人か分からんな。


「シビアに見れば2試合目は見所があるとは言えない」


 ミズホ国民の目線からすれば、ノエルやルーリアの意見に近いはずだ。

 ビルもこちら側だろうな。


「が、西方人の基準で見れば話は変わってくる」


 本戦ともなればハイラントも剣士ランドで気軽に出歩くことは不可能だ。

 迎えた諸外国の要人を持て成さなきゃならないからな。

 ホスト国であるフュン王国が招いている訳だし。


 持て成す内容は持ち回り国の間で慣例化しているようではあるけれど。


 その点、俺やツバイクは勝手に来ている身だ。

 出迎えを受けたり持て成しされたりは必要はない。


 その割りには国王自ら連日のように持て成してくれたが。

 お忍びがバレたら大騒ぎになっていただろうに……


『そういう緊張感はゼロだったもんなぁ』


 むしろ、開放感たっぷりで遊びまくっている感じだった。

 どっちが持て成してるんだかと思う瞬間すらあったし。

 屋台の行列にまっしぐらだったりさ。


 まあ、ああいうのは滅多に楽しめない味わえない立場だからしょうがないんだろうけど。


「見方を変えれば、正解なんてコロコロ変わるものだ」


「「えー……」」


 不服そうなアニスとレイナであったが。


「分かった」


 ノエルが納得すれば──


「「……………」」


 引き下がらざるを得ない。

 どうにか有耶無耶で終わらせることができた。


『やれやれ……』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 翌日、早朝から起こされることになった。

 気配で目を覚ましていたので叩き起こされた訳ではないけどな。


 まあ、ミズホ組だけだが。

 別室のツバイクたちのことまでは知らん。


 俺たちが宿泊していたのは奥まった所にある大部屋だ。

 それでも全員が一緒にというのは無理があったので分散している。

 奥の方は大部屋ばかりで、ほとんど貸し切りみたいな状態になっていた。


 宿屋の主人によると大人数の商人が来た時用に確保しているそうだが。

 最近は使っていないとも聞いた。


 昔は景気が良くて、稼働率も良かったみたいだな。

 この辺りは宿の食事が影響していると思う。


 ぶっちゃけ高めの値段なのだ。

 味は良いから納得できるんだがね。


 それでも大人数で泊まるとなるとバカにできない料金になる。

 結果として少人数の客ばかりになってしまったということのようだ。


 俺たちからすれば、好都合ではあったがな。

 向こうにしても金払いが良い客だから歓迎された。


 宿泊中は掃除などは不要と条件をつけたが、それでいいのかと逆に驚かれたしな。

 単に人払いしたかっただけなんだが。

 宿の従業員が来るたびに応対するのが面倒だからさ。


 故に、そうそう人は来ないはずなんだが。

 今回は例外だったようだ。

 おまけに普通は起き出さないような時間である。


「泥棒だろうか?」


 ツバキがそう言うのも無理はない。


「それなら、侵入を試みるのは早朝より深夜だと思いますが」


 カーラがツッコミを入れた。


「それもそうだな」


 こんな具合にヒソヒソ声でのやりとりがあったくらいである。

 結局、やって来たのは宿屋の主人だったんだけどな。

 申し訳なさそうにノックして来たのですぐにドアを開けたんだが……


「ひいっ!」


 腰を抜かしそうになっていた。

 まあ、俺たちが起きているとは夢にも思わなかったのだろう。

 その後も凄く申し訳なさそうにしていたけどね。


 どうにか話を聞いたところによると、王城から呼び出しがあるとのことだった。

 そりゃあ主人がビビる訳だ。

 普通に宿泊させた客のはずが、密かに王城から招待されるような相手だった訳だからな。


 どうにか落ち着かせて話を聞いた。

 しきりに恐縮するので、そこそこ時間がかかったが仕方あるまい。

 どうやらハイラントに呼び出しを受けているということのようだ。


 王城関係者どころか王様から直々とは宿屋の関係者もビビったことだろう。

 しかも寝ているところを起こすのだから丁重にという注文つき。


 従業員じゃなく宿屋の主人が直々に来る訳だ。

 その主人もビクビクしてるけど。


「それは、すまなかったな。

 残りは俺たちで起こすから使者にもう少し待つように伝えてくれるか?」


「よろしいのですか?」


「ああ、手間をかけさせる」


「そんなっ、滅相もございませんっ」


 平伏せんばかりに謝ってくる宿屋の主人。

 王城からの使者が何を言ったのか気になってしょうがない。


 まあ、ここでグダグダしてても何も解決はしないだろう。

 宿屋の主人を行かせて、各部屋を回った。


 ツバイクたちを叩き起こすのが面倒かと思ったが、そうでもなかった。

 俺と宿屋の主人のやりとりのお陰で目が覚めていたようだ。


 程なくして宿屋の前に全員が集合。


「「「「「あー……」」」」」


 全員が脱力気味の声を出して納得した。

 宰相と近衛騎士が使者だったのだ。


 宿屋の主人がビビるのも当然というものである。

 肩書きを告げなくても見た目で要人と分かるしな。


 威圧的にならないように気を遣ってはいたけれど、そういう問題じゃない。

 宰相が使いっ走りのようなことをさせられる時点で何事かってことになるからな。


 もちろん、クレームをつけたさ。

 俺たちが気兼ねなく宿屋を利用できなくなりかねないんだから。


 いや、既に手遅れと言うべきか。

 あれだけビビられてちゃ、影響なしなんて考えられない。


 帰ってきた時がどうなるか……

 宰相は可能な限りフォローするとは言ってたがね。

 今から憂鬱で仕方がない。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「いやあ、スマンスマン」


 ハッハッハと笑いながらハイラントが出迎えた。

 なぜか剣士ランドの格好である。

 それを見た宰相がゲンナリした顔を見せていた。


「おい、まさか来賓をほったらかしで俺たちと祭りを楽しもうってんじゃないだろうな?」


 状況的に見て確認するまでもない感じだが聞かずにはいられなかったさ。

 やめておけという忠告を言外に込めたつもりだ。


「大丈夫、大丈夫、何の問題もない」


 ハイラントは気にした風もなく返事をした。

 俺の忠告など微塵も通じていないようだ。


『ちょっとは空気を読めよ、この大雑把王がっ!』


 内心で思いっ切り吠えておいた。

 でないと、リアルで食ってかかりそうになったからな。


「何処が何の問題もないんだよ。

 宰相が頭を抱えているだろうが」


「大丈夫だって。

 彼奴は心配性なだけだ」


「何処がだよ」


 俺は宰相に同意するけどな。


「国にとって重要な客をほったらかしにしようとすれば、嫌でもああなるぞ」


「ん? ああ、いや、それは誤解だ。

 彼奴が頭を抱えているのは別件だよ」


「は?」


「それよりも素晴らしいアイデアがあってな」


 上機嫌でそんなことを言い出すハイラントに物凄く嫌な予感がした。


読んでくれてありがとう。

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