表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1513/1785

1500 試合は続く

 3試合目は若手対ベテランの構図になった。

 スピード派と慎重派の対決だな。


 これは一方的な展開だった。

 スピード派が的確に攻撃を当てられたからだろう。

 受けに回った慎重派だが、顔を腫らして視界が奪われればどうしようもない。


 これ以上、試合を続けるのは危険ということで審判に止められる格好で決着した。

 流血はなかったのでスピード派の勝ちである。

 観客たちも騒然としていた。


「スゲーな」


「ボコボコに腫れ上がってたぞ」


「あんな軽そうなパンチだったのにな」


「最後はキョロキョロしてたぞ」


「腫れてるせいで、ほとんど見えなかったんだろ」


 パンチが軽いからと侮ったのがベテランの敗因だ。


 試合場から落とせば勝てると端に追い込もうと躍起になりすぎた。

 ついに最後までそれはできなかったがな。


 重いパンチが来るとかならプレッシャーもかかったんだろうが。

 何の重圧もないままに追い込もうとしてもね。

 おまけに防御も回避もしないとくれば、当て放題である。


 まあ、それだけでベテランが顔を腫らすことになった訳ではない。

 単に軽いジャブを当てたのでは、あの結果にはならないからな。

 スピード派の技術があればこそ。


 そのために、かなりの修練を積んだはずである。

 優勝が狙える実力者と言えるのではないだろうか。

 この男は2試合目の選手たちのように防御を疎かにもしていなかったし。


『ウルメに強敵現る、だな』


 そう思っていたのだが……


「おわーっ!」


「すんげえなっ」


「まるで鞭みたいだぜ」


 4試合目はもっと盛り上がった。

 この試合も一方的な展開だったのだが。


「バシーッて音がしたぞ」


「太もも痛そー」


 蹴り技を主体にした若手が現れたのだ。

 相手も若手だったがパンチ主体ではリーチが違う。


 スピードで翻弄しようにも蹴り技を駆使する男のステップワークも軽やかだった。

 ならばパワー勝負と言いたいところだが、パンチでは色々と不利だからな。


 まず、そもそもの破壊力が違う。

 脚の方が筋力があるんだから当然だ。

 その上、リーチも影響するし。


 武王大祭はルールが厳しいから単純比較はしづらいがね。

 骨折や流血をさせないような攻撃をしないといけないのが何よりの枷になる。

 ここで差が出たと言って良いだろう。


 どちらにとっても条件が同じように思えるかもしれないが、実は違っていた。

 パンチでは狙いづらい部位でも蹴りなら狙えるのだ。


 蹴り技の男もそれは熟知しているようだった。

 ひたすら相手の脚ばかり蹴り込んでいたからな。

 細かく言うなら、ふくらはぎや太ももである。


 膝関節などは狙わない。

 この部分は蹴り込む角度しだいでは、蹴り足に力がなくても簡単に壊れるからな。


 肘や膝の損傷は骨折扱いとなる。

 つまり、ここを攻撃してしまうと一発で反則負けとなる恐れがある訳だ。


 しかしながら筋肉の分厚いふくらはぎや太ももは骨折や流血の心配がない。

 内出血はするけどな。


 ただ、流血とは違うので反則にはならない。

 ここばかりをひたすら狙われた男は試合後には顔をしかめて神官の治療を受けていた。

 相当、痛かったのだろう。


 パンチでは出来ない芸当である。

 重い一撃で反撃しようにも骨折や流血させることを覚悟しないといけない。

 反則負けのリスクが念頭にあると踏み込めない訳だ。


 そのせいで躊躇っていたみたいだしな。

 懐に入ることを躊躇した結果、一方的にボコボコにされたがね。


 特に集中して狙われた左の太ももはパンパンに膨れ上がっていた。

 右とは明らかに違う太さになっていたからな。

 よく我慢できたものだと思う。


 何にせよ碌に反撃も出来ないという最悪のパターンで負けてしまった訳だ。

 勝った蹴り男は間違いなく強い。

 3試合目の勝者であるスピード派ほどの素早さはなかったが。


 それ故に、この2人が直接対決すればどうなるのか興味が湧いてくる。

 組み合わせがどうなるかは現状では不透明。

 単純なトーナメント式ではないからな。


 全員の試合が終わると、勝ち残った者たちだけで再び抽選が行われる。

 そこで初めて対戦相手が決まるという寸法だ。


 相手との組み合わせが読めないのはスリリングだろう。

 観客も出場する選手たちも。

 八百長や賭を公式のもの以外は認めないとしているから運営側もかな。


 その点については間違いの無い仕事をしてくれると思う。

 この手の大会では不正とかはびこりそうだけど、そういう話はまるで聞かないし。


 やはり月の女神様を祀る神殿が主催すると違うようだ。

 未遂の段階で天罰とか下りそうだし。


 何にせよ、1試合目に感じていたほど退屈な試合が続く訳じゃなさそうである。


 ちょっとホッとしていたら5試合目は1試合目と同じ展開になった。

 まあ、しょうがないよなと皆で苦笑い。


 6試合目も同じような展開。

 続くこともあるよねと、やっぱり苦笑する。


 7試合目になると笑えなかったけど。

 皆で無表情になっっていたさ。

 3試合連続で退屈な試合を延々と見せられたからな。


「この調子で続くと分かっていたならお昼を食べに行けば良かったですね」


 リオンが言った。

 アニスやレイナがギョッとした顔でリオンを見ている。

 自分たちが言おうとしていたことを先に言われたというのはあると思う。


 が、普段はそういう毒を吐き出さないリオンが言ったとことの方が大きいのだろう。


「そんなの分かる訳ないでしょう。

 予知能力者じゃないんだから」


 レオーネがたしなめるように言った。


「そんなことないわよ」


 そう言ったのはマイカである。


「選手紹介の時に流さずに見ていればだけど」


「そうだね」


 と同意したのはミズキだ。


「組み合わせも何試合目かも分かっていたんだし」


 確かにその通りである。

 そのための組み合わせ抽選会だったからな。


 ならば、後は選手をよく観察するだけ。

 体付きや所作を見れば予選を見ていなくても、ある程度のことは分かる。


 特に慎重派の選手は見当がつけやすい。

 老けたオッサンが多いからな。

 さすがに爺さんって感じの選手はいなかったけど。


 何にせよ、そういうベテラン風なオッサン同士の試合は要注意と分かる。

 皆もそのことに気付いたのだろう。


「「「「「あー……」」」」」


 と残念そうな顔をして声を漏らしていた。


「ウルメくんが紹介された時くらいしか見てなかったわね」


 エリスでさえそんなことを言う始末だ。

 確かに皆で雑談に夢中になっていたな。


 俺もそうだった。

 人のことを言えたものではない。


 とにかく、見ていない聞いていないものを分析するのは不可能だ。

 ログを確認すれば調べることは出来るとは思うけど。


 そこまでするつもりは毛頭ない。

 面倒くさいもんな。

 絶対にしなきゃならんものでもないし。


 そんな訳で口は挟まない。

 が、皆の機嫌とテンションが悪化しているのも事実だ。


『腹が減ると碌なことにならんな』


 そんな訳でお弁当タイムである。

 8試合目が始まろうとしていたが、どうでもいい。

 それは皆も同じようで、ほとんどの面子が見向きもしていなかった。


 自分のポーチに手を突っ込んで物色している。

 どれをお弁当にするかで迷っているのだろう。


「ど・れ・に・しようかな~」


 などと楽しげに選んでいるダニエラ。


「次の試合が見応えあるかどうかよね」


 悩ましげに考え込むリーシャ。


「お姉ちゃんは何が食べたい?」


「そうだなぁ」


 リオンとレオーネは2人で何にするか相談中。


「ここはPバーにしておくのが良いと思うんだが、どうだろう?」


 アンネは無難な選択をしようとベリーに持ちかけている。


「いやいやいや、それは試合観戦が盛り上がることを前提にした選択ではないか?」


 問われたベリーは考え直すように説得するつもりのようだ。


「それもそうよねえ」


 皆が皆、こんな具合であった。

 試合のことなど丸っきり無視している。


「どうやらベテラン同士のマッタリ試合のようですね」


 クリスがそう言うとますます拍車がかかってしまった。

 お重まで出す者がいたからな。

 俺たちの周りだけピクニックか何かの状態である。


 まあ、観客席がガラガラになっていたから問題はないんだけど。

 つまらん試合が続くのも悪いことばかりではないようだ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ