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1498 ツバイクの仕入れてきた情報

 本戦の2試合目は1試合目と違って、それなりに見られるものだった。


 互いに時計回りに動きつつジャブで牽制しあう展開。

 重い一撃はないものの、ちゃんと回避もしている。

 ジャブとはいえども蓄積すればダメージは残るからな。


 リズムを変えたりフェイントを入れたりと、それなりに見応えがある。


「優勝候補が早々にぶつかったかな」


「いやいや、まだ他にも強豪がいるかもしれませんよ」


 1試合目の途中から消えていたツバイクが戻ってくるなり言ってきた。

 したり顔であるところを見ると、何か知っているようにも思える。


「何だ? 出場選手の情報でも仕入れてきたのか?」


「いえいえ、用足しに行っただけですよ」


 そう言う割にはニヤニヤが止められていない。

 地味にムカつくんですがね。


 そもそも用足しにしては長すぎる。

 座る方だったとしてもな。


 腹を下していたと言うのなら話は別だが。

 余裕の表情を見る限りは、そういうこともない。


「じゃあ、そのしたり顔は何だ?」


「えっ!?」


 驚いたツバイクがペタペタと両手で己の顔を触っていく。


「本気で隠してつもりだったのかよ」


「いやはや、面目ない」


 照れくさそうに笑いながらツバイクは頭をかいた。


「用足しに行った帰りのことだったんですけどね」


 そして、そのまま話し始める。


「ちょうど角の所で人の話し声が聞こえてきたんですよ」


 要するに盗み聞きをする格好になった訳だ。

 そう考えていると……


「あ、御心配なく。

 陰謀とかそういう話はありませんので」


 先に懸念を潰してきた。


「賭をするなら誰にするかという話ですので」


「あー、そういうことか」


 ホッと一安心だ。

 自分が[トラブルサモナー]の称号持ちだから、つい警戒してしまったさ。

 今回もヒステリー神官や肉塊が出てきたしな。


 まあ、神官の方は俺が直接的に絡まれた訳じゃないけどね。

 肉塊の方はなんだかんだで相手をせざるを得なかったが。


 それも小物だったから予兆みたいなものかとビビっていたのは内緒である。

 あれでも充分に俺のメンタルを削ってくれたからな。


 そっち方面では竜種とか悪魔みたいな大物を相手にする時よりダメージがあった。

 ああいうのは相手をし終わった後に何かをゴッソリ持って行かれた気になるんだよな。

 人の寿命でも吸い取っているんじゃなかろうかと勘繰りたくなるくらいに。


 そういう事実はないんだけど。

 ログを見て確認しているから間違いない。

 ないんだけど、錯覚させられる。


『奴の相手はもうこりごりだな』


 ハイラントの話によれば、そういうこともないようだけど。


 ただ、世の中にはああいうのと同類なのがまだまだいる訳で。

 これからもきっと俺たちの前に現れることだろう。


 それも頻度は他の者より多いはず。

 なんたって[トラブルサモナー]だからな。


 まあ、称号がこれだけじゃないのが救いではある。

 山ほどあるのが、逆にありがたく感じるくらいだ。


 とはいえ、嬉しくはない。

 こんなに増えなければ称号のことで悩ましい思いをせずに済んだはずだし。

 そろそろ打ち止めになってもいいんじゃないかと言いたい。


『ん?』


 テキストログに新着メッセージがある。

 地味に嫌な予感がした。

 できれば見たくないところだ。


 が、そうも言っていられまい。


『……………』


 逡巡の後にログを確認してみた。

 そして、見たことを後悔した。

 称号が進化してるんですがね。


 [トラブルサモナー]が[トラブル解決人]に。

 呼び寄せてしまうだけなら逃げ続けておけば良かったのだ。

 それが潰していく間に解決する者として神のシステムに認識されるに至ると。


『ふざけんなあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 内心で絶叫させていただきましたよ。

 冗談じゃないっての。


 え? 自業自得だって?

 ……返す言葉もない。


 が、遅かれ早かれいずれこうなっていたはずだ。

 国民や友達を置いて逃げる訳にはいかないしな。

 苦々しい思いしかないが、これは諦めるしかないだろう。


 皆を守れたと思えば少しは気が楽だ。

 そんなこんなで脳内1人会議をしている間もツバイクの話は続いていた。


 が、特には困らない。

 いざとなればテキストログを【速読】スキルで読み込めば一瞬で確認できるからな。

 それ以前に【多重思考】で聞いているから問題ないけどね。


 この程度なら、もう1人の俺に手伝ってもらうまでもない。

 そんな訳でツバイクの話もちゃんと頭に入っている。

 要約すると、賭の話をしていた者たちと情報交換してきたということだった。


「ウルメの情報を出したのか」


「すみません」


 ちょっとだけションボリした様子を見せてツバイクが謝った。


「それはウルメに言うべき言葉だな」


 特訓などの情報が漏れると対戦相手からのマークが厳しくなる訳だし。


「一応は調節したつもりなんですが」


「調節?」


「誰でも知りうるようなことだけに絞りましたから」


 特訓のことは言わなかった訳か。

 考えてみれば当然のことかもな。


 ツバイクは正体を伏せてこの場にいる訳だし。

 特訓の情報を漏らせば、そこから正体を悟られかねない。

 正解には辿り着かなくてもニアピンはあり得そうだ。


 そうなってくると騒ぎになったりトラブルが起こったりと面倒事が増えかねない。

 賢明な判断だったと言えるだろう。

 代わりに入ってくる情報も相応のものになったとは思うが。


「意外に食い付きが良かったですよ」


 ウルメの試合を見ていなかったようだ。


「倍率が高いというのもありましたからね」


「大穴の需要がある訳か」


「そこまでの倍率じゃないのは御存じでしょうに」


 ツバイクが苦笑しながら言った。


「単なる言葉の綾だ」


 ツバイクも生真面目くんだ。

 紙フェチのスイッチが入らなければ冗談が通じない。


 いや、紙フェチの時の方が通じないか。


「これは失礼しました」


 苦笑するツバイク。

 説明すれば分かるようなので、丸っきり通じないわけでもない。


「で、どういう情報を仕入れてきたんだ」


「今回のトレンドでしょうか」


 この場合は流行というよりは最先端の動向といったところか。

 それはまた大きく出たものだ。


「前回の大祭で慎重派ばかりが本戦出場を獲得したことで受けが悪かったようです」


「そりゃそうだろうな」


 1試合目のようなダレダレな試合の連続だと観客もフラストレーションが溜まるだろう。


「そこで一部ではスピードで相手を翻弄しようというスタイルが模索されていたんだとか」


「10年も研究されていたとはね」


 付け焼き刃なウルメの特訓とは大違いだ。

 が、誰でも出来る訳じゃない。


「ベテランにはツラいな」


「あ、分かりますか?

 彼らもそんなことを言ってました。

 若手が採用するケースが多かったと」


 そう言ってツバイクが首を捻る。


「どうしてなんでしょう?」


「ちょっと考えれば分かるだろ。

 武王大祭は10年に一度しか開かれないんだぞ。

 ベテランなんかは衰えないようにするのが精一杯だ」


「あ、スタミナが持たないんですね」


 さすがにツバイクも気付いたようだ。


「そゆこと」


 つまり、ベテランは受けが悪かろうとスタイルを変えられない。


「若手の大半が新しいスタイルを取り入れるなら、ガラッと変わりそうだな」


「そうでしょうか?

 ベテランは侮れませんよ」


「観客からのブーイングはバカに出来ないぞ」


 1試合目でもそうだったからな。

 割と平然とした顔で試合をしていたがね。


 それでも勝ち上がるほどに風当たりは強くなるのは目に見えている。

 メンタルのタフさも要求される訳だ。

 支持率が低いと、たとえ優勝できても大きな顔はできまい。


 それにスピード派が受ければ風当たりはもっと強くなるはず。

 昔ながらのスタイルだけで通そうとするベテランの多くは引退を余儀なくされるだろう。

 どのみち年齢的に次の大会に参加できない者は多いと思うが。


 とはいえ、今回は若手も多く勝ち残っている。

 2試合目が終わっても退屈せずに済むかもしれないな。


読んでくれてありがとう。

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