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1497 本戦が始まったけれど……

「「「「「………………………………………」」」」」


 開会式だの何だのとイベントが続いて俺たちはダレ気味だった。

 これでも選手紹介は前日に済ませてしまっているからマシなんだろうけど。


「ようやく最初の試合か」


「まったくだね」


 トモさんと2人で嘆息した。

 他の皆も気持ちは同じようだ。

 ウンザリという顔をしていたからな。


「どうして来賓の挨拶って長くなるんだろうね」


 問いかけるように言ったのはトモさんだった。


「あー、分かるー」


 怠そうにしながらも同意するマイカ。


「しょうがないよ。

 招かれてるのに一言で終わらせたら恥ずかしいじゃない」


 ミズキもゲンナリはしているが理解を示していた。


「卒業式あるあるだよねー」


「校長先生のお話が何人も続く感じだね」


「小学校の時なんかはあったわね」


「夏休み前の終業式の時なんかだと倒れる子がいたりね」


 元日本人組にしか分からない話でテンションの低い盛り上がり方をしている。


「よく分からん話をしているな?」


 呆れたようにツバキが聞いてきた。


「気にしなくていいさ。

 昔の愚痴を言っているだけだから」


「似たような経験をたくさんしてきているということか」


「まあ、そんなところだ。

 招かれる側にも対面というものがあるから挨拶の話も短くはできないんだよ」


「下らんことを気にするものだ」


 ツバキが不機嫌さを隠そうともせずフンと鼻を鳴らした。


「ですね。

 簡潔明瞭にお願いしたいです」


 カーラもそれに同意する。


「まあまあ、皆さん。

 これからの試合に期待しましょうよ」


 ツバイクがフォローを入れてきたことで愚痴大会は終了した。

 とりあえずは……


 実際には別の問題で不満が噴出することになる。


「退屈ニャ~」


「つまんないのー」


「暇だよぉ」


「「ジャブジャブ、ストレートじゃなくてジャブでグダグダ~」」


 外部には聞かれないようにしているからトラブルとは無縁だが、子供組が辛辣だ。

 いつもの愛らしい彼女たちは何処に行ったと言いたい。


 まあ、それくらい退屈な試合な訳だ。

 延々とジャブの応酬が続いているからな。


 応酬というと聞こえはいいが、連打は少ない。

 良くて3連打くらいまでだ。


 まるでストレートのようと思わせるような重いジャブもない。

 子供組が評したように、退屈で暇でつまらない試合展開である。


 ハッピーとチーの冗談だか本気だか分からない発言が皆に受けるくらいだからな。

 本戦出場者の試合ということで期待していただけあって外すとこういうことになる。


 で、結局はその展開で延々と試合は続き……


「時間切れとは予想外だった」


 とはルーリアの感想だ。

 その言葉通りの何とも締まらない結末であった。

 退屈な試合展開にはお似合いかもしれないがね。


 で、結果は判定でやや手数の多かった方が勝った。


「そうだろうか?」


 ルーリアの言葉に疑問形で応じたのはレオーネである。


「本戦出場するような選手なら辛抱強さもあるだろう」


 確かにレオーネの言う通りではあるのだが。


「ヤジが凄かっただろう」


「そうだな」


 返事をしたルーリアの表情がやや渋い。


「それに揺さぶられて動くかと思ったんだが」


 読みが外れたからのようだ。


「深読みしすぎたな」


「かもしれん」


 2人がこんな話をしている間に次の試合準備が進む。


 ただし、すぐには始まらない。

 予選の時とはテンポがまるで違う。


「何だか、マッタリしてますね」


 アクビを噛み殺しながらリオンが言った。

 真面目でちょっと小心なところのある彼女にしては珍しい。


 まあ、それだけ退屈していた訳だ。

 他の皆などはダレきっている面子までいるくらいだからな。


「ルールで縛りすぎなのよ」


 苦笑いしながらエリスが応じた。


「同感ね」


 リーシャも頷いている。


「そうは言ってもな」


 ルーリアが嘆息した。


「興行ではなく神事として扱われているのでは、変えるのは難しいだろう」


「確かにな」


 試合を神事として神様に奉納するのが大祭の目的だ。

 大きな変化は特に受け入れられないはず。

 人が傷つくことを煽ったりする方へ流れかねない訳だし。


 勝敗の掛け率が抑えられているのも頷ける話である。


「まさかルディア様にお願いする訳にもいかんだろ」


 ガババババババッ!


 俺の言葉に溶けきったように突っ伏していた面々が起き上がった。


「「「「「それだっ!」」」」」


 一斉に詰め寄ってくる。


「おわっ!?」


 シャレにならん反応だ。

 幻影魔法と遮音結界で部外者に知られないようにしていなかったら、どうなっていたか。


「なあなあ、頼むわー。

 こんなん見てても疲れるだけやで、ハルトはん」


「そうよそうよ、あの見所のなさは退屈地獄なんだから」


 アニスとレイナがお強請りなんだかクレームなんだか分からんことを言ってくる。


「無茶を言うなよぉ」


 ルディア様にそんな要望できる訳がない。

 くだらんことを言ってくるなと叱られるのが目に見えている。

 下手をすれば、お仕置きすらあり得るだろう。


 今はベリルママが連絡する頻度を減らすくらい忙しいのだ。

 当然、補佐をするルディア様だって忙しい。


「無茶は承知の上やで」


 フンスと鼻息を荒くするアニス。


「ひとこと言うだけじゃないの」


 レイナも気合いが入っている。

 他の詰め寄ってきた面々も一緒になって入れ込んだ状態になっていた。


 が、しかし……


「よすのじゃな」


 おもむろにシヅカが言った。


「その要求が通るかどうかの前に空気を読めと主が叱られてしまうとは思わんのか?」


「「「「「………………………………………」」」」」


 前のめりになっていた面子がしおしおと萎れていった。


「お主ら、調子に乗りすぎじゃ。

 主がいかに過保護と言えど、限度というものがあるじゃろ」


「返す言葉もあらへんわ……」


 ショボーンと落ち込んでいるアニス。


「面目ない。

 さすがにおんぶに抱っこが過ぎたわ」


 レイナも反省しているようだ。


「そのくらいにしておけ」


「主がそう言うのであれば」


 シヅカがお小言モードをキャンセルした。


 とはいえ、ショボーンは伝染する。

 すっかり暗くなってしまったのは如何ともしがたい。


 俺はお笑い芸人じゃないからな。

 皆を笑わせるようなネタなんてないのだ。


 そこに思わぬところから援護が入った。


「そろそろ次の試合が始まるよー」


 マリカだ。

 特に面白いことを言った訳ではない。

 皆の意識が試合場へと向いただけなのだが……


 それだけで空気が変わった。

 華やかな明るい雰囲気になった訳ではないものの暗い雰囲気は払拭されている。


 思わず安堵の吐息が漏れ出たさ。

 別のことに集中するだけでも空気は変えられるものだとはね。


 気付かなかったというか、ちょっと勉強になった。


「サンキュー」


 教えてくれたマリカに礼を言ったが。


「何がー?」


 と聞かれてしまった。

 マリカさんは無意識だった模様。


「何でもない」


 俺は笑って、そう答えた。


「それより試合が始まっているぞ」


 そう言って試合に集中するように促す。


「んー」


 返事をして前を向くマリカ。

 俺も試合場の方を見る。


 今度の展開は予想に反してスピード勝負だった。

 1試合目とはまるで異なる展開だ。


「ちょっとはマシじゃないですか~?」


 ダニエラが溶けていた面子に問いかけている。


「相変わらずジャブしか出さないけどねー」


 とツッコミを入れているマイカ。

 ただし、目線はダニエラの方じゃなくてエリスの方を向いていた。

 アイコンタクトを取っている。


「でも、さっきよりは見応えあるわよ」


 エリスがマイカにアイコンタクトを返しながら言った。


「止まらないから決着も早いんじゃないかしら」


『マイカめ、これを見越してツッコミを入れたな』


 空気の悪くなったことを俺が気にしていたから連携したようだ。

 自分をちょっと悪者にしてというところが姐御肌なマイカらしい。


 完全に悪者に成りきらないよう芝居くさい仕草を入れていたのがセコいと思うけどな。

 まあ、そこは御愛嬌である。


 とりあえずサムズアップだけしておいた。


「っ!?」


 それだけかという顔をされてしまったが、これ見よがしなアシストは減点対象である。

 ショートメッセージで送っておいた。


 ぐぬぬな顔のスタンプを送りつけられましたよ。

 ドドドドドドドドドドドッと連続でね。


 もちろんスルーしたさ。

 今は試合を見ないといけない時間だろ?


読んでくれてありがとう。

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