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1495 ウルメの弱点?

 ウルメの予選が終わった翌日も予選会は続いた。

 審判が確保できないが故、試合場を増やせないのが原因だ。


 参加人数が多いと審判も大変である。

 無理をしないような人員配置を行っているとは聞いたけどな。


 過労で倒れるような審判はいないようだから事実なんだろう。

 結果として日程などにしわ寄せが来るのは仕方あるまい。


 その次の日は休養日。

 本戦出場選手が疲れを残さないようにという配慮から設定されたものだそうだ。

 審判を休ませて誤審をなくすようにするためだとは思うけど。


 まあ、表向きは選手主体の理由にする必要があるのも分かる。

 何処からクレームがつくか分からんからな。


 ウルメのように先に本戦出場が決定した選手との不公平を無くす意味合いもあるそうだ。

 もっともらしい理由があればケチをつけてくる輩も減るだろう。


 ただ、先に試合が終わった面々とは1日の差があるため不公平さは残ってしまう。

 それでも休養日があると無いでは雲泥の差があるのも事実である。


 とはいえ本戦出場選手以外にとっては、待ち遠しくて仕方がない時間だ。

 無駄とまでは言わないがな。


 早く試合が見たいと思うのは観客からすれば当然の気持ちだろう。

 そういう面々を飽きさせない工夫が必要になるのは言うまでもない。


 もちろん、そういう行事もふたつほど用意されている


 ひとつは月の女神を称える仮装パレードと審査。

 もうひとつは本戦の組み合わせ抽選会である。


 これで盛り上がらないなら、運営を主催している神殿は無能の集団だろう。

 さすがにそういうことはなかったがね。


 ノウハウが蓄積されているのが大きいみたい。

 マニュアルを徹底させて実行しているような状態だ。


 開催の間隔が空くのも下手な慣れを生じさせないことに一役買っている。

 地元での開催は50年に一度だからね。

 10年に1回の持ち回りにも意味はあるという訳だ。


 引き継ぎが記憶だよりにならないようになっている。

 そのあたりは単なる偶然みたいだけどな。


 開催間隔は予算の都合の方が理由としては大きいようだし。

 何にせよ、長く続けられてきた歴史あるお祭りなだけはある。


 俺たちは試合会場に来ていた。

 試合は明日からなんだけど、イベントはあるのだ。


「ウルメは大変だな」


 思わず声に出してしまったさ。

 舞台上でカチコチになって緊張しているウルメがいたからな。


 今日は出場選手にとっては休養日だが、だからといって何もしなくていい訳ではない。

 試合をしないだけだ。


 対戦相手を決める抽選は観客の前で行われる。

 ついでに選手の紹介も行われる訳で……


「昨日とは大違いだ」


 本戦出場を早々に決めたことで丸1日フリーとなったウルメは祭りを満喫した。

 真っ先に屋台巡りを希望したのは事前に皆から話を聞かされていたからだろう。


 もちろん露店だけでは終わらない。

 露店で土産も買っていたし。

 あちこち回って存分に楽しんでいたと思う。


「珍しくノビノビしてましたからね」


 ツバイクの言うことも決して大袈裟ではない。


「そうなのか?」


 珍しくという部分を除けばだが。

 そんなに意外なのだろうか。

 確かに、ぼっちの気はあった。


 しかしながらコミュ障ではないし。

 出不精みたいなこともない。


「ええ、普段はもっと緊張感がありますよ」


 言われてみると、そんなものかとは思う。

 隙を見せまいと頑張っているように見えるんだよな。

 ピリピリした感じはしないのだけれど。


 こういうあたりは要修行だろう。

 まあ、舞台の上の現状よりは遥かにマシだとは思うが。


「仕方ありませんよ。

 本戦出場者なんですから」


 緊張しっぱなしのウルメに苦笑を禁じ得ないツバイク。


「予選の時だって充分に周囲の視線が集まっていたはずなんだがなぁ」


 俺の感想にツバイクが更に苦笑の度合いを深めていく。


「試合と選手紹介じゃ緊張感の種類が違うのでしょう」


「言いたいことは分からなくもない」


 それにしたって差がありすぎだろう。

 試合の時はどんな状況に陥ってもクールでいたというのに。


 今は周りの状況が見えているのかすら怪しいほどだ。

 まるで別人である。


 だが、仕方あるまい。

 戦う修行は積んでいても、こういう場に出ることは無かっただろうし。


『ぼっち系格闘家はこういう時に弱いな』


 既に紹介された後なので、残る仕事はクジを引くだけだ。

 その前に全員が紹介されるまで待たなきゃならんがな。


 ちなみに紹介された瞬間はブリキのおもちゃみたいなぎこちない動きをしていた。


「もっと人前に出して慣れさせておくべきだったな」


「ハハハ、耳に痛いですね」


 困り顔で声に出して笑うツバイク。


「今度からそうします。

 本人は嫌がるでしょうけど」


「そうした方がいいな。

 ベスト8ぐらいに入れば嫌でも注目されるようになるんだろ?」


 ここから2回は勝たなければいけない勘定だ。


 本戦に出場するだけでも一般には知れ渡ることになるみたいだが。

 運だけで本戦出場を果たせるほど甘くはないからな。

 場合によっては二つ名を得ることになったりするそうだし。


 それでも勝ち上がったブロックのレベルが低いこともある。

 記念出場する参加者も多いから仕方がない。


 それもメッキじみた実力では本戦で2回も戦えはしない。

 ベスト8として残れば相当な実力者ということになる訳だ。


「そのようですね」


 俺の疑問に肯定で答えるツバイク。

 だが、あまり自信がある返答には思えない。


「身近にそういう者がいませんでしたから実感は湧きませんが。

 もしもウルメがベスト8に残ったとしても、どうなるのかは見当もつきません」


 納得の理由であった。


「それもそうか」


「何にせよ、今はどうしようもありませんよ」


「確かに」


 今度は俺が苦笑する番であった。

 現場に出ている者に今から訓練しろと言っても意味がないからな。

 せめて今回のことが訓練1回分に相当する経験となることを願うばかりである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「ううっ」


 宿屋に戻ってくるなりウルメはベッドに突っ伏した。

 絵に描いたようなグッタリぶりである。

 予選の試合が終わった後でも、こんな風にはならなかったのにな。


 こんな調子で本戦の試合に臨めるのだろうかと、いらぬ心配までしてしまう。


「おーい、大丈夫かー?」


「……あんまり大丈夫じゃありません」


 突っ伏したままの返事はくぐもっていたものの聞き取ることに支障はなかった。

 声には一応の張りがある。


 ただ、問いかけに対するレスポンスは良くない。

 腹に力を入れて返事をしたってところか。


『どんだけ耐性がないんだよ』


 体育会系の家で育っていなかったらコミュ障で引きこもりになっていたかもな。


「そんなんで明日の試合は大丈夫か?」


「……今夜中には何とかします」


 ツバイクの方を見た。

 が、頭を振られてしまう。


「こんな状態のウルメを見たのは初めてです」


「そりゃ、そうだろうよ。

 ウルメの爺さんがいたら尻を蹴り上げてでも起こすんじゃないか?」


 ガバッ!


 ウルメが勢いよく跳ね起きた。

 今までのグダグダぶりは何だったのかと思うくらいの変わり身だ。


 ベッドの上でガチガチになって正座している。

 このまま土下座でもするんじゃないかってくらい表情が強張っていた。


「そんなに爺さんが怖いのかよ」


「いえ、そういう訳では……」


 言葉を濁すように弁解するウルメ。

 どうにも本当のこととは思えないのでツバイクの方を見た。


「こんな反応も初めて見ましたよ」


 最初は呆気にとられていたツバイクが苦笑している。


「武術指南で補佐をしている時はもっとビシッとしてますよ」


 その言葉にウソはないだろう。

 だとするなら、何かトラウマでも刺激したのかもしれない。


「子供の頃に厳しい指導が入ったのかもな」


 俺の「子供の頃」という言葉にウルメがガクブルし始めた。

 どうやらビンゴだったようだ。


 だが、嬉しくはない。

 藪を突いて蛇を出したも同然だからな。


「んー、何かスマン」


 謝ったのだが、ウルメに反応はない。

 かなりの重症かもしれない。


 こんなんで本当に明日の試合は大丈夫だろうか。

 本人は何とかすると言ってたけど。

 俺が余計なことを口走る前の話だし。


 凄く不安になってきたんですけど……


読んでくれてありがとう。

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