1494 後始末はお任せで
結局、肉塊は肉塊で通すことにした。
オーク貴族の方が護衛たちには耐えがたかったらしい。
『内心では誰もがオーク呼ばわりしていたってことだよな』
人としてあるまじき行動を取り続けていたら、影でそう呼ばれても仕方あるまい。
「とにかく彼奴は犯罪奴隷として処分した」
おもむろにハイラントが言った。
「へえ」
あれこれと並ぶ罪状を見る限りでは、処刑されてもおかしくないのだが。
「変な横槍が入ったかな」
思わず目を細めてしまう。
ハイラントが相手でなければ、確実に殺気立っていたと思う。
他の者からは冷ややかな感じに見えたことだろう。
3回は処刑台に立たなければならないくらいの重犯罪者に寛大すぎる処分だからな。
それでも俺たちが関わっていなければ、どうでも良かったが。
ウルメが下手をすればズルギツネ以上の拷問を受けていたかと思うと、そうもいかない。
納得のいく話がなければ、追加の処分を要求するつもりである。
「いやいやいや、それはない」
焦ったように否定するハイラント。
「で、どういうことか説明してもらえるのかな?」
「もちろんだ」
コクコクと頷くハイラント。
「まず、あれは釈放されることはない」
「当然だな」
「恩赦も与えない」
「それもだ」
「その上で償いをさせる」
「ほう?」
「被害者に賠償しなければならんからな」
「本人に直接やらせる訳か」
処刑して没収した財産で賠償するという形にしてもいいと思うのだが。
「もちろん、没収した財産は賠償に回すが足りんのでな」
「あー」
それは仕方がない。
足りないから我慢しろと言われるよりは幾分かはマシだろう。
ただ、今の肉塊にできることなどたかがしれている。
金銭的な補償とは考えにくい。
被害者の心情が少しでも晴れるようにという考えだと思われる。
「おそらく、すぐに自害しようとするだろうがな」
「プライドの高さ故か」
「そうだ」
俺の思いつきの言葉をハイラントが肯定した。
推理や推測というほどのものでもない。
肉塊は自己中な奴だったしな。
思い通りにならないと瞬間的にキレていたし。
プライドが見上げるほど高いというのは誰の目にも明らかだった。
そんな奴が下に見ていた者たちに奉仕しなければならないのだ。
血の涙を流してもおかしくはあるまい。
通常の犯罪奴隷は自害できないからな。
意図的にその部分をキャンセルする場合もあるみたいだが。
そんなことを考えていたら……
「今回は例外的に自害できるようにしてある」
ハイラントがそんな風に言ってきた。
「それはそれで甘いんじゃないか」
下手をすれば被害者の前に出る前に死んでしまいかねないし。
「期限が来るまでは自害できんようになっている」
「時限式か」
「よく知っているな」
ハイラントが軽く驚きを露わにした。
それだけレアな事例だからだろう。
「色々と事情があるんだよ」
違法な奴隷も何度か見てきているしな。
レオーネやブルースなんかの元奴隷組なんかがそうだ。
あるいはバスでの移動で国境を越えようとした時に出会った違法奴隷たち。
フランク一家のナトレもスパイとして使い潰されようとしていた。
規模や事情は違えど、本人たちからすれば不幸以外の何物でもない。
犯罪行為をしていないのに罪人以下の扱いを受けるなど碌なもんじゃないだろう。
「色々って……」
遠い目をして嘆息するハイラント。
「苦労してるんだなぁ」
何故か同情されてしまった。
「別に苦労と言うほどのことは何もないが」
「……………」
俺の返事に対してハイラントは訳知り顔をした。
分かっているから何も言うな的な感じのやつだ。
『何かムカつく』
が、ここで言えば言うほど泥沼にはまっていきそうだ。
腹立たしくはあるものの、傷口を広げないためにはスルーしておくのが正解だろう。
そんな訳で話を進めることにした。
「事実上の処刑だな」
それも肉塊にとっては最も屈辱的な形の。
「ああ、それくらいはせんと納得できぬ者も少なくないのでな」
「ならば言うことは何もない」
うちの被害など、たかがしれている。
迷惑行為と犯罪の未遂だけだ。
実際に被害を受けているこの国の面々からすれば無しに等しい。
怪音波も最初こそ受けたが、あれも半減させていたし。
日常的にフルで聞かされている者たちからすれば温すぎるだろう。
なのにハイラントは苦笑いで嘆息した。
「普通は被害を強調して強気で交渉してくるものだぞ」
「友好国が相手でもか?」
「ああ、ケジメをつける意味でもな」
とか言っている割に言葉に重みを感じない。
思わずジト目で見てしまったさ。
「ハハハ、そこは建前だ」
ハイラントが苦笑いを顔に張り付けたまま声に出して笑った。
「仕方あるまい。
何処の国だって一枚岩じゃないからな」
「うちは、そういうドロドロしたところはないぞ」
「うらやましいよ」
ハイラントが疲れ切ったように肩を落とした。
「その様子だと、肉塊を擁護する連中がいた訳だな」
俺が指摘すると──
「まあな」
溜まった鬱憤を吐き出すようにハイラントが返事をした。
「利益供与を受けていた腰巾着どもだ」
その表情は忌々しいものを見ているかのようである。
きっと頭の中では、当該する腰巾着どもが並んでいることだろう。
なかなか腹立たしい光景だ。
どちらかと言えば俺たちも被害者なんだが、同情してしまったさ。
「その連中も処分したんだろう?」
「ああ、証拠は腐るほどあったのでな」
「肉塊が残してたんだな」
「よく分かるな」
「でなきゃ、とっくに証拠など処分されているだろ」
腰巾着たちだって己の首を絞めるようなものは残しておきたくないだろうし。
「仲間が多いほど、綻びは出やすいから縛り付けておかないとな」
その方法が共犯として金を握らせた上でその証拠も押さえておくという飴と鞭だ。
「うむ、その通りだった」
さすが悪党。
肉塊は自分が不利になる状況を極力作らないように動いていたようだ。
腰巾着程度の連中が裏切らないはずがないと読んでいたみたいだな。
であれば首根っこを押さえて反逆を阻止するしかない訳で。
あるいは余計な真似をさせないことでボロを出さないようにというのもあるか。
保身のために手を尽くしたつもりなんだろうが……
『結果はお粗末だよな』
こちらとしては証拠を残してくれてありがとうな感じだ。
間違っても肉塊に礼を言ったりはしないがね。
何にせよ自分が捕まったんじゃ、脅迫材料を用意していても意味がない。
証拠を押さえられないよう隠蔽しておけば言い逃れもできたかもしれんがな。
聞くところによると、金庫には入っていたようだが隠されてはいなかったようだ。
盗難防止用の魔道具は設置されていたみたいだけど。
もっとも、仕組みは単純な警報式だけだったという。
防犯的にはそれで充分だったのだろう。
あとは用心棒を待機させておけば対処できるからな。
ただし、泥棒やスパイが相手の場合に限るのだが。
逮捕後の家宅捜索では意味がない。
雇い主が捕まったんじゃ金庫を守るための用心棒も動けない訳だし。
今まで捜査の手が己のテリトリーに及ばなかったからと油断した結果がこれである。
手を出す相手のことを碌に調べもしなかった奴自身のミスだ。
とにかく、証拠のお陰で一族郎党が一網打尽。
方々から恨まれていた奴が同情されることはない。
ザマアと言われはするだろうがな。
その後は想像通りの結末を迎えることになった。
これは別の話になるが、しばらくの後に肉塊が死んだ旨を聞かされた。
「早過ぎないか?」
「自害ではないからな」
ハイラントは淡々と答えた。
「なるほど、病死の口か。
不摂生の塊だったからな」
だとすれば納得の理由である。
どうせなら、もっと早く症状が出ても良かったのにとは思ったがね。
それだけ被害も減っただろうから。
あるいは殺害されたことを伏せるための口実ということもあり得るか。
重罪人を殺しても犯罪にはならないだろうが。
「それも違うな」
ハイラントは頭を振って否定した。
「どういうことだ?」
「憤死だよ」
「あー」
それは確かに自害ではないからキャンセルできない。
ある意味、病死以上に納得の理由だ。
キレすぎて死んでしまうとは、実に奴らしいと思った。
読んでくれてありがとう。




