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1488 ウルメの予選結果に不服あり?

 ウルメも倒れ込んでいた。

 まあ、一応は巴投げをした訳だからね。


「……………」


 ツバイクが言葉を失っていた。


「……………」


 ランドも同様である。


「別に倒れたら負けって訳じゃないんだからさ」


 俺が声を掛けると──


「あ……、ああ、そうでしたね」


 ようやくツバイクが我に返った。


「珍妙な技を使ったものだな」


 よく分からんという顔をしてランドが唸った。


「何処が珍妙なんだよ」


 思わずツッコミを入れてしまう。


「相手が吹っ飛ばされていたであろう」


「膝を入れて蹴り上げたから、ああなったんだよ」


「なにぃっ!?」


「いつの間に……」


 ランドが驚愕し、ツバイクが呆然と呟いた。


「相手の足を蹴り飛ばした直後だな」


「彼奴め、そんなことをしておったのかっ?」


 目を丸くさせるランド。


「そんなことって騒ぐほどの技じゃないだろう」


「倒れ込みながらグルッと横に回ったようにしか見えなかったぞ」


 鼻息も荒くランドが断言した。


『ドヤ顔で言うことじゃないだろう……』


 変に見栄を張るよりはマシかもしれないが。


「足を蹴っていたとは気付きませんでした」


 ツバイクもランドに同意する。


「バランスを崩させるために蹴ったんだよ。

 でなきゃ、あんな風にもつれ込むような倒れ方にはならなかったよ」


「むう」


「言われてみれば……」


 2人が記憶を反芻するように考え込む。


「ハルさんや」


 ここでトモさんが声を掛けてきた。


「どうしたんだい?」


「なにやら揉めているっぽいよ」


 見ればウルメたちの試合場の周りに審判が集まって何やら話し込んでいる。

 試合中の審判以外は待機組も含めてすべて集められた感じだ。


 そこから導き出される答えはひとつしかあるまい。


「あー、反則がなかったか話し合っているんだろう」


 ルールが厳格だからな。

 とはいえ、あの決着のつき方で揉めるだろうかという疑問は湧き上がってくる。


「物言いがついたってことかな?」


 トモさんが確信を持てないように聞いてくるのも、俺と同じ疑問を抱いたからだろう。


「それ以外に揉める要因はないからね」


 ウルメは倒れ込んだが場外ラインを割ってはいない。

 対戦相手は確実に外れていた。


 そりゃ、ゴロゴロ転がっていけばね。

 投げられた時点で場外は確定していたけどさ。


「なんだか1人だけヒステリックに反則だとか喚いているのがいるわね」


 呆れを滲ませた表情でマイカが言ってきた。

 その言葉通り「反則だ!」を連呼している。

 まるで、それしか言葉を知らないかのようだ。


『ゴリ押しする気か』


 年端もいかない幼子が駄々をこねているようにしか見えない。

 常識が欠落しているのは誰の目にも明らかだというのに強硬に主張していた。

 もちろん、他の審判たちは必要ないだろうって顔をしている。

 

「あ、その人が真っ先にクレームをつけたのを見ましたよ」


 と証言したのはフェルトさんである。


「揉め事かー」


 面倒事の匂いがプンプン漂ってくるんですがね。

 全力回避させていただきたいんですが……



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、ウルメの勝ちは確定した。

 クレーマーはウルメが反則とされている魔法を使ったと主張し続けていたがね。

 その主張は覆らなかった訳だ。


 そりゃそうだ。

 魔法なんて使っていないんだし。


 まあ、初見の面々からすれば巴投げなんて魔法じみて見えたのかもしれないけど。

 生憎と試合会場は魔法を使うと感知してブザーが鳴る魔道具が設置されている。

 あれを誤魔化すのはミズホ組以外には無理だろう。


 とにかく魔法だ反則だと喚くだけのクレーマーは相手にされなくなって終了した。

 最終的には拘束されて強制的に排除されていたのは見苦しかったな。


 本当に神官かと思ったさ。

 何やら不正の匂いがしてきそうで気分はよろしくない。


 が、対戦相手が関わっているようには思えなかった。

 そもそもの話、相手はすんなり負けを認めていたしな。


 ウルメと握手して笑顔で激励までしていたし。

 試合が終われば爽やかな感じで去っていった。

 内心では物凄く悔しがっていたかもしれないがね。


 ただ、それがねじ曲がって噴出することはないように感じた。

 あれなら真面目に精進するだろう。

 10年後に再び武王大祭に出場するかは分からないが。


 なんにせよ、対戦相手からは嫌なものは感じなかった訳だ。

 一件落着と言いたかったのだが……

 どうしても嫌な予感が拭えなかった。


 クレーマーがネチっこい奴だったからな。

 対戦相手とは違ってドロドロしたイメージの気配すら漂わせていたし。

 神官であそこまで酷いのがいるとは思ってもみなかったさ。


「明後日からは、いよいよ本戦だな」


「頑張ります」


 ウルメに声を掛けると嬉しそうに応じてくれた。

 まだ試合の残っている出場者もいたが、ウルメは俺たちと合流している。

 本戦出場が確定したから問題はない。


 偵察しようというなら話は別だが、ウルメにそのつもりはないようだ。

 戦うだけじゃなくて祭りを満喫したいんだと。


 まあ、予選の全試合が終わった後じゃ人気の屋台も売り切れ続出だろうし。

 そんな訳で試合会場から出ようとしていた。


 審判団から忠告されたというのもあるそうだけど。

 面倒なことになる恐れがあるので早々に宿泊場所に引き上げるべきだと。

 それと1人では帰らない方がいいとも言われたらしい。


『どう考えてもトラブル待ったなしじゃないかよ』


 今回は俺の[トラブルサモナー]の称号が仕事をしたのではないと思いたい。

 おちおち応援もできないことになるもんな。


 ウルメもウルメである。

 そんな忠告をされているのに帰る振りをして堂々と遊ぼうとしているのだから。


 一応は忠告を守って集団行動をしているように見えるがね。

 それだって、皆で楽しんだ方が面白いに決まっているからというのが本音だ。


 で、試合会場の建物を出たところで囲まれましたよ。

 衛兵っぽい制服に身を包んだ連中に。


 奥の方には豪華な装飾の施された馬車が停まっている。

 実に悪趣味な馬車を見て嫌な予感が当たりそうだと直感したさ。


 さっそくトラブルの匂いがプンプンプンだ。

 向こうは向こうで大人数で来たことにギョッとしていたが。


「ウルメという奴は誰だ!?」


 やたら高圧的な調子で聞いてくる衛兵もどきのオッサン。

 見るからに胡散臭そうに見える。


 細身で糸目なのが、ずる賢そうなキツネっぽいイメージを与えるせいか。

 あるいは単に身に纏った雰囲気のためか。

 どっちもだと思う。


「ウルメという奴は誰かと聞いているのだっ!?」


「衛兵でもない奴に答える義理はない」


 ウルメが応じようとする前にツバイクが前に出た。


「なんだとぉー」


 ズルギツネが怯んだ。

 さすがは王子様だ。

 ズルギツネのように喚かなくても毅然とした態度だけで相手を圧倒している。


「───────────っ!」


 ギリギリと歯噛みするズルギツネ。

 衛兵ではないと認めているようなものだ。

 対するツバイクは余裕の表情である。


「なんなら本物の衛兵を呼びに行かせようか?」


「なっ」


「試合会場にも警備の衛兵が配置されているからな」


「ぐっ」


「紛らわしい格好で出場選手を拉致しようって魂胆なのは分かっているのだ」


 これという証拠はないが、おそらくはそうだろう。

 ツバイクもそれは承知の上であえて断言したみたいだな。


 ぶっちゃけ、鎌かけだ。


「ぐぬぬ」


 ズルギツネが悔しそうに唸る。

 この時、場にいた全員が思った。


『コイツは正真正銘のアホだ』


 部下らしき連中まで呆れた表情を見せていたからな。

 筋書き通りに進めば仕事ができるのかもしれない。


 だが、ひとつでも歯車が狂うと何もできなくなる。

 そういう輩なんだろう。


 いちいち相手をするのも面倒だ。


『シカトするって訳にはいかないんだろうなぁ……』


 さっさと遊びに行きたいんですがね。

 どうしたものか。


読んでくれてありがとう。

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