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150 賢者の予言ふたたび

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 ガンフォールが閉じていた目を見開き小さく嘆息した。


「その様子では深刻な被害が出るようじゃな」


 俺の表情から危機の深刻さを読み取ったようだ。

 誰かが不幸になる話など聞かせたくはないが……


「その件について、これから予言しよう」


「むう」


 滅多なことでは動じないドワーフの王が俺の言葉にたじろぎ呻く。


「ハマーやボルトから聞いてはいたが……」


 自分の耳で聞くことになるとは夢にも思わなかったのだろう。


「そうだな、あの2人もいた方がいい」


「どういうことじゃ?」


「証言をする証人は多い方がいいんだよ」


「なに?」


「ゲールウエザー王国の者に聞かせる必要があるのさ」


「なるほど。自明なことであったな」


「そういうことだから呼んでくれるか」


「わかった」


 それで呼び集められたのはこの国の王子であるガブローを加えた3名だった。


「いつぞやは済まない」


 ガンフォールたちに揺り椅子のことを白状させられたことを言っているのか。

 おそらく俺が来ていることを聞いて強引について来たのだろう。

 ハマーにその話を聞いて以来、会う機会がなかったからな。

 律儀なことだ。


「いいさ、気にしていない。ガンフォールとハマーには貸しにしてあるからな」


「それはそれは」


 苦笑いで返される。


「で、久しぶりなのに仏頂面なのはそのせいか?」


 ハマーに話を振ると「そんな訳あるか」と真顔で返された。


「お主の予言を聞かされる身にもなってみろ」


「えーっ、また予言ですか!?」


「予言? 何の話です?」


 どうやらハマーはある程度の話を聞かされた状態で来ているようだ。

 ボルトは単純に呼び出されただけだろう。

 ガブローは予言の話自体を知らないと。

 そこでボルトがブリーズの街で俺が予言したときの話をかいつまんで説明した。

 聞き終わったガブローは大きく溜め息をついて少しの間身動きできない様子だった。


「では、今回の予言だ」


 大事なことを伝えるべくそう宣言してから話し始めた。

 まず最初に干ばつで飢饉の被害が出ることからだ。

 場所はゲールウエザー王国の中部地域。

 放置すれば、この国の輸入食料にも影響が大きいこと。

 それだけの広い地域で穀物は壊滅的な被害を受けるであろうこと。

 などなど色々なことを話した。

 情報が追加されるごとに一同の顔色が悪くなっていくようだ。


「そこまで酷いとは思わなんだわ」


 ガンフォールが唸っている。


「嫌な予感がしたが、まさかこれほどとはな」


 ハマーも深刻そうである。

 ガブローはまだ予言を信じ切れないのか己の爺様と親戚の顔を見比べるようにキョロキョロしている。

 ボルトは茫然自失といった具合だな。


「これは食料の備蓄を早急に増やさねばなるまいて」


「しかし王よ、急に買い付ける量を増やせば市場に混乱をもたらしかねん」


「備蓄を用意する当てはある」


 俺のことなので頷いておく。


「問題はゲールウエザー王をどうやって支援するかじゃな」


 ハマーは呆気にとられて口まで開いてしまっている。


「爺様、備蓄の当てがあるとはどういうことだ」


 たまらずガブローが問いかける。


「知れたことよ。ハルトから買い付けるに決まっておるわ」


 ガンフォールの方を向いていた3人が一斉に振り向いた。


「そゆこと。だから心配無用」


「予言の規模の飢饉だとワシらだけでなく南部地域のドワーフが被害を受ける」


 その言葉に3人が再びガンフォールの方を向く。


「仕入れ価格の高騰では絶対に終わらん」


「向こうは備蓄を使っても凌げるかどうかになるということですか」


 探るような目でガブローが問いかける。


「そうじゃ」


「そんな! 如何にハルトでも南部すべてを賄う食料を用意することなど不可能だっ」


 ハマーが興奮気味に早口でまくし立てる。


「いや、可能」


 ハマーの主張などバッサリ切り捨てだ。


「なにっ!?」


「つーか、余裕だけど」


「なんと……」


「最低でも1年分なんだぞ」


「問題ない」


「下手をすれば数年単位の被害になる!」


「飢饉の後の年も生産量は減ったままだろうからな」


 そこは対処するけど。


「増産すればいいだけだ」


「簡単に言ってくれるじゃないか」


「1年分の食料なら既に持ってるからな」


「─────っ!?」


 とうとう声も出せなくなったらしい。

 ハマーの目が今にも飛び出さんばかりに見開かれている。

 王子もボルトも同様だ。

 そんなに刺激の強いことを言ったつもりはないんだがなぁ。


 現在、俺と妖精たちが倉庫に抱えている食材をすべて放出すれば何の問題もない。

 肉だって歪みを解消させるときに山ほど湧いた魔物を倒しまくったから有り余ってる。

 派手に始末したから革の品質は落ちるけど、食糧事情には関係ない話だし。

 うん、普通だ。


 なのに落ち着いているのはガンフォールのみ。

 さすがは一国の王と言うべきなんだろうね。


「もうひとつ問題がある」


 ガブローが告げてきたが、何かあったかな?


「水だ」


 ああ、それはゲールウエザーだけでなくジェダイト王国でも問題になる可能性があるか。


「今は雪解け水を溜めておくことで何とかなるだろうが、いつまで持ち堪えられるか」


「井戸を掘ればいいだろ」


「この辺りの地下水は飲めないんだ」


 鉱物資源が豊富なだけに、そういう面では厳しいようだな。

 それも想定済みだ。


「浄化の魔道具をつけるさ」


 ガブローが呆然とした面持ちで天井を見上げる。


「ならば、それも頼むとしよう」


 ガンフォールが引き継ぐように言ってきた。


「了解した」


「魔道具の代金は──」


「とりあえずは、いらないよ」


「そういうわけにはいかん!」


 ガンフォールなら、そう言うだろうと思ったけどさ。


「とりあえずと言ったんだよ。貸しってことだ」


「貸しじゃと?」


「飢饉になれば市場も混乱して収入が安定しない恐れがあるからな」


「ぬうっ」


 俺の指摘により先の状況を予測したのだろう。

 歯ぎしりしそうな渋面でガンフォールが唸った。


「だから魔道具を貸すから優先的に俺の方へ品物を回すようにしてくれるか」


「何じゃとっ?」


 意外な話を聞いたと言わんばかりに驚いている。


「もちろん対価は払うさ」


「それでは──」


 何か言いかけたガンフォールを無視して俺は話を続ける。


「俺らはそれを元に他所で商売をして稼がせてもらうつもりだ」


 その甲斐あってか、とりあえず文句は出てこない模様である。


「俺の故郷には困ったときにはお互い様という言葉がある」


 ミズホ国ではなく日本のことだから嘘は言っていない。

 あー、でもミズホの教科書にも採用するかな。


「ずいぶんとお人好しな発想だな」


 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら言ったのはハマーだった。

 大方、過去に騙された時のことを思い出しているのだろう。


「それだけドワーフを信用しているってことだ」


「信用するなら信用されたいとも思うもんだろ」


 異論を認める気はないので返事は待たない。


「少なくとも相手の弱みにつけ込んで利益を得るような真似はしたくない」


 クズ野郎が相手なら躊躇いなく見捨てるけどね。


「もし、今回のことを借りだと思うなら俺が困ったときに返してくれればいい」


「ひとつ聞いていいか」


 重苦しい雰囲気を漂わせてガンフォールが聞いてきた。


「いいよ」


「なぜ、そこまでする。ハルトに利するものは何だ」


 俺が思っている以上に過去の取引で信じて騙されたのが応えているらしい。


「利がどうとかじゃねえよ。友達は見捨てない、それだけだ」


 殺気が乗らないように注意しつつも少し怒声を出してみた。


「む」


 少し気圧されたようにたじろぐガンフォール。

 やり過ぎたのか他の面々はちょっとビビってるっぽい。

 加減が難しいな。


「すまぬ。友人の情合いを信じられぬとは情けない」


 そのお陰と言うとあれだが一気にトーンダウンしてしまった。


「あまり気に病むな。信じてくれりゃそれでいい」


「そうか」


 ガンフォールは返事をして静かに頷いた。


「いずれにせよ南部地域の王たちとも話をする必要があるのう」


「王よ、私が行こう」


 ハマーが名乗りを上げた。


「南部の王たちに事情を説明して回るなら半月はかかるからな」


 思ったほど距離が離れていないようだ。


「その間に姫さんが来るだろう」


 そっちにも話をしないといけないから王の代わりにと考えたのか。


「王が不在では、ハルトの予言の話をしても信用されるかどうか」


 突拍子もない話になるからね。


「万が一にも信用されなかった場合はゲールウエザー王国の対応が遅れることになる」


 そうなれば色々と厳しいものがあるのは事実だ。

 井戸を掘るのは何とかなっても干ばつに強い野菜の植える時期を逃してしまうからね。

 植生魔法を教えてもリカバリーできるとは思えないし俺たちが前面に出すぎるのもなぁ。


 もちろん植えるべき野菜の苗なんかは用意するさ。

 トマトとサツマイモは時間的な余裕がまだある。

 植え付けを急がねばならないのはカボチャとスイカだが、まだ間に合う。

 俺が指定する通りに動いてくれればの話だけど。


 賢者の話に聞く耳を持たせるのは骨が折れそうだ。


読んでくれてありがとう。

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