表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1497/1785

1484 武王大祭3日目

 翌日も予選だった。


 が、初日や2日目とは些か雰囲気が異なってきている。

 さすがに記念出場組は減りつつあるからな。

 中には実力の伴った記念出場者もいるので、見た目だけでは判断しきれないのだが。


 それでもウルメはあまり警戒されることがなかった。

 大半の出場者がウルメのことを運のいい奴と見なしていたからだ。


 例外的に警戒するような面子はブロックが違ったらしい。

 予選中に、かち合うことはないようだ。


『運がいいのか悪いのか』


 そういう相手を早々に潰せないのは運が悪いと言えるだろう。

 対戦が先送りになればなるほど観察されてしまうからな。


 それは対策されてしまうということに他ならない。

 だからこそウルメは手の内を見せないように先の3試合を戦った。


 ただ、そういう真似をすると見る者が見れば分かってしまう。

 誰よりも注意しておくべき相手であると。

 そうなってしまうと徹底マークされたりする訳だ。


 対策が練られない分、警戒度が上がってしまうのは当然のことであろう。

 いざ対戦するとなった場合に油断を誘うような戦い方はできない。


 それをやろうとすれば逆にピンチを招きかねない訳で……

 アニメや漫画で時折見られるシチュエーションだな。


「同じ手が何度も通用すると思うな!」


 という台詞などは誰しも一度は見聞きしたことがあるのではないだろうか。

 野球のアニメとかだと決め球のつもりで投げたボールで決めきれなかった場合に多い。


 バッターに食らい付かれてファールされたり。

 コースがシビアなため審判にボールを宣告されたり。

 そして同じコースへ同じ球種を投げてしまい、例の台詞と共に長打を許すと。


 ああいうのって精神的にガックリくるんだよな。

 ウルメもそういう目にあわなきゃいいんだけど。


 まあ、最初から警戒しているし。

 そのことに慢心した様子もない。

 おそらくは大丈夫だろう。


 それでも本戦に出場した場合は非常にやりづらくなるのは間違いない。

 ブロック違いということは、予選の間に潰せないということだ。


 しかも、ウルメを警戒している連中はすべてバラバラである。

 ほぼ間違いなく全員が本戦に勝ち上がってくるだろう。


 やりづらさが増したことだけは確かだ。

 予選を勝ち抜いても、そこから先が厳しい戦いとなる。

 ほとんどの対戦が予定されている相手に最上級で警戒されるからな。


 まあ、そのあたりはウルメが解決すべき問題か。

 俺たちがどうこう言ったとしても、ウルメが納得するとは限らないし。

 納得しなければ、どんなに優れたアイデアだったとしても実行はされないだろう。


 あるいは良い提案だからこそ拒むことだって無いとは言えない。

 自力で勝ち上がることにこそ意味と価値があるとか言い出したりしてさ。


『余計なことは言わないに限るな』


 で、口出ししないと決めたはいいのだが……


「おらあっ、もっと攻めろぉ!」


 荒々しく怒声を響かせながら拳を振り上げる剣士ランド。


「なんで今日もいるんだよ」


 嘆息混じりに呟いただけだったのだが、しっかり聞かれたらしい。

 クルリと振り返ってきた。


「そんな冷たいことを言わんでくれよぉ」


 いい年したオッサンが泣きそうな顔で訴えてくる。


『うわぁ……』


 一気に辟易させられるというものだ。

 子供じゃないんだからと思ったが……


「分かった、分かった」


 早々に諸手を挙げて降伏する。

 こう返事をしないと、余計に酷いものを見せられそうなのでね。


 涙でグショグショになったオッサンの顔なんて誰得なんだか。

 それ以前に、こんなことぐらいで泣くなよと言いたい。


 泣かなきゃいい話なんだが、あの顔は本気で泣く一歩手前だった。

 わざわざ確認したいとは思わない。

 何が嬉しくて、お祭りの最中に見たくもないものを強制的に見せられなきゃならんのだ。


 返事ひとつで天国か地獄か決まるなら、天国を選ぶに決まっている。

 俺はスリルなど求めない。


 ランドはというと、肯定する返事をしただけで必死な形相は何処へやら。


「うむうむ」


 御機嫌になって試合見物に戻っていく。


『やれやれ……』


 この国の宰相以下の面々が憐れになってきたよ。

 今日も剣士ランドになると言い出した時なんて今の俺と同じようになっていたからさ。


 いや、彼らの方がより酷いだろう。

 自分たちの王が駄々っ子みたいになるのは相当に堪えるのではないかと思う。


 そうしょっちゅうではないかもしれないが「またか」なんて顔をしてたらねえ。

 その心中は想像しきれるものではないし、したくもない。


 なんにせよ嫌でも送り出したくなっただろうさ。


『この調子で武王大祭の最終日まで通すつもりなのかもしれないな』


 この国の政は大丈夫なんだろうかと思ってしまう。

 特に外交は問題になるのではないか。

 仕事をほっぽり出して遊びほうけている王がいる国ってレッテルを貼られそうだもんな。


 え? ブーメランな発言だって?


 うちは歴史のある国とは違うからね。

 他国の評価なんて気にしないし。

 元から緩いので問題ないのだ。


 そんなこんなで3日目も剣士ランドに付き合うことになった。


 で、ウルメの試合は朝一番からだったのだが。

 相変わらずの待ちスタイル。

 今回は相手も真似をして睨み合いが続いた。


 しかしながら、にわか仕込みでは制限時間の半分も耐えられなかった。


「何やってんだぁ!」


「にらめっこを見に来たんじゃないんだぞぉ!」


「お前らは石像かぁ!」


 観客の罵声を浴び続けるのは計算外だったんだろうけど。


「うるせえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 耐性がなかったせいか、完全にキレて突進していた。

 で、怒濤のラッシュが始まった訳だ。


 ランドはこれに喜んで先の台詞で応援したんだよな。

 ウルメの活躍するところを見たいが故に対戦相手に発破をかけたとも言う。


 とはいえ、中途半端な相手なのはキレたことからも明白。

 攻めているように見えても、ことごとくを躱されてしまっていた。

 昨日までと同じパターンにはまり込んでいる。


 それが分かる観客は3試合すべてを見てきた我々だけかもしれないがな。


 とはいえ、この試合を見た者たちにも強く印象づけられるだろう。

 ネガティブな意味でだが。


 それでもウルメはまったく気にした様子がない。


 本来であれば勝利によって得られるであろう称賛など不要という訳だ。

 もちろん、名声もな。


「こういうのも必勝パターンと言えるのかな?」


 トモさんが苦笑している。


「そうじゃないの」


 投げ遣りに返事をするマイカ。


「これが格ゲーの大会だったら顰蹙ものね」


 もはや見飽きたと言わんばかりの顔をしていた。


「まあまあ」


 マイカをなだめにかかるミズキ。


「そうやって見てる人たちを、ウンザリさせるのが目的なんだから」


「そうなんですか?」


 ツバイクが俺に聞いてきた。


「ワンパターンだと強く認識させられれば、そういう評価が広まるだろう」


「でしょうね」


「そういうのは後で対戦する相手にも伝わるよな」


「あっ」


 説明の途中だったが、ツバイクがハッとしていた。


「相手を少しでも油断させるために……」


「そゆこと」


 などとやり取りをしている間に4試合目も終わった。

 怒濤のラッシュを去なされ続けたことでスタミナ切れを起こしたんじゃね。

 ウルメが素早く背後に回り込んで押し出すだけの簡単なお仕事です状態で終わらせた。


 まあ、あれは対戦相手が自滅したようなものだ。

 特筆すべきことは何もない。


 その次の試合は昼前に行われるようなので朝食の休憩を入れた。

 再び試合会場に戻ってきて5試合目の観戦となる。


「今度は最初から前に出るタイプか」


 腰を落とし気味にしてにじり寄っていく。

 手は出してこない。

 拳は握らず掴みかかるかのようなスタイルだ。


「珍しいですね。

 見たことのないタイプです」


 ツバイクが己の記憶を掘り下げながら言ってきた。


「殴るだけが相手を追い込む手段ではないってことだ」


 なんにせよ今までとは違った戦いが見られそうだ。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ