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1482 ウルメの予選・3試合目

「始めっ!」


 審判が鋭い声で試合開始を告げた。


 だが、サークル内の2人は動かない。

 ウルメは自然体で相手の出方をうかがっている。


 禿げさんは禿げさんで背中を丸めるように前傾姿勢で身構えるだけだ。

 自分から間合いを詰めようという意志があるようには見受けられない。

 ただただ下から覗き込むような姿勢を維持してウルメを睨みつけるのみである。


『禿げさんって何がなんでも下から見たいのかね』


 三白眼が固定されて上下に視線が動かせないとかは考えられないしな。

 グランダムに出てくる敵サイドのメタルサーヴァントじゃあるまいし。


 ついつい単眼式のカメラを左右に動かすシーンを思い出してしまった。

 続編の中で頭を吹っ飛ばされた機体にジャンクパーツを取り付けて出撃したシーン。

 信号の規格が合わないか何かで横の細長い範囲でしか視野を確保できていなかった。


 もちろん、禿げさんがそんな狭い視野な訳はないだろう。

 癖なのかポリシーでやっているのかは知らないが。


 いずれにせよ、下から目線が禿げさんにとっては基本なのだと思われる。

 そう考えると身構えるつもりすらなかったのかもしれない。


 独特の目線を維持するため前屈みになった結果のように思えてきた。

 種族的に背の低いドワーフ相手だと、どうしても前屈みになってしまう訳だ。


 だったら上から普通に見下ろせばいいのにとは言えない。

 赤の他人の主義主張に介入するつもりはないしな。


 まあ、この距離では普通に喋ったくらいじゃ届かないだろうけど。


「動かんな」


 つまらんとばかりに不平を漏らす剣士ランド。


「動きませんねえ」


 ツバイクも同じことを言っているが、こちらは特に不満があるようには見受けられない。

 こういう展開を予測していたものと思われる。


「ウルメは相手の出方を見て対応する待ちのスタイルを貫いているからな」


「相手のタイプが押せ押せでなければ意味がないだろう」


 俺の解説じみた言葉を受けて焦れったそうにランドが言った。


 言いたいことは分からなくもない。

 どちらも待ちのままでは制限時間を消費するだけだ。

 ランドはそれが無駄だと言いたいのだろう。


 が、決して無駄ではない。

 はた目には何の変化もないように見えても、駆け引きが行われている。

 目線や身じろぎの変化には敏感に反応するだろう。


 それがないのは、どちらも微動だにしないが故のこと。

 極度の緊張状態が維持されている。


 それは間近で見ている審判にも伝わるのだろう。

 ウルメも禿げさんも殺気を放っていないにもかかわらず腰が引けている。


 ただ、少し離れた場所にいる観客には伝わらないようだ。

 ランドもその口って訳だな。

 それでもウルメへの関心は失っていない。


 周りの観客は早々に2人の試合への興味をなくしていたけどね。

 他の予選試合を観戦する者たちが続出した。


「どう見ますか?」


 カーラが声を掛けてきた。

 この試合展開に好奇心を強く刺激されたらしい。


「しばらく我慢比べが続くだろうな」


 ウルメの方針は一貫している。

 もしかすると切り替えてくることも無いとは言えないが。


 そういう展開は、できれば避けたいはず。

 他の出場者たちから観察されていることを意識しているだろうし。

 そういう面々に、これがウルメのスタイルだと刷り込みをしている最中だからな。


 ブレなければ勘違いさせやすい。

 それは思い込みを誘発させ、対戦相手の隙となるだろう。

 引っ掛からない者も中にはいるとは思うがね。


 何にせよ色々と仕込んでおいて損はない。


「制限時間ギリギリまでということでしょうか?」


「さて、それは禿げさんしだいだ」


 一瞬たりと相手の隙を見逃すまいと睨み合うだけでも消耗するしな。


「なるほど、気力が持ちませんか」


 そのあたりはカーラもすぐに察したようだ。


「どうやら、そのようだぞ」


 ツバキが言ってくる。

 その言葉通り禿げさんが動いた。


 まだ制限時間の半分も経過してはいないのだが。

 とにかく禿げさんは慎重に歩を進め始めた。


 ゆっくりとした動作なのは一応は考えがあるらしい。

 突進だと勢いを利用してやられるということだけは確実に学習しているようだ。


 ただ、すり足ではないために不格好な接近の仕方になっている。

 こういう展開に慣れていないのだろう。

 間違ってもスマートとは言えない。


 あまりの不格好さに観客たちも気付く者が出てきたようだ。


「おい、アレ見ろよ」


「ん?」


「何だ、ありゃ?」


「ハハハ、変なの」


「受けるぅ」


 禿げさんの思惑に気付く者は皆無であったがな。

 それでも滑稽に見えて面白いらしく、徐々に注目が集まり始めた。


『面白ければ何でもいいのか』


 まあ、娯楽の少ない世界だからな。

 そのあたりは仕方ない。


 やがて、2人の間合いが拳のギリギリ届くかどうかの所まで禿げさんが接近した。

 それでもウルメは微動だにしない。

 対する禿げさんは上半身を左右に揺すり始めた。


「また、おかしなことを始めたぞ」


「ハハハ、ホントだな」


 歩みを止めた禿げさんに興味を失いかけていた観客が再び盛り上がり始める。


「ハルト殿、あの動きをどう見る?」


 ランドが聞いてきた。


「ウルメに的を絞らせたくないんだろう」


 動きを一定にしないだけでも的を散らすことができる。

 リズムを変えれば尚更だ。


「ほう、考えたものだな。

 確かに動けば目で追わねばならなくなる」


 ランドもそのあたりは理解しているようだ。


「攻撃されても急所を外しやすいというのもある」


「ふむ、なるほど」


 興味深そうに禿げさんの動きを見ている。


「ああすれば近接戦闘では致命傷を負いにくくなる訳か」


 参考になるとばかりに頷いている。

 両者に動きのなかったときは不満げだったランドが、今や上機嫌である。


『ウルメに注目していたんじゃなかったのか?』


 内心でだけツッコミを入れておく。

 リアルで入れてしまうと、失念していることに気付いてぼやかれそうだもんな。

 ウルメは対応しないのかとか言ってさ。


 面倒なので自力で気付くまで、その点に関しては何も言わないつもりだ。


「おっ、手を出し始めたか」


 禿げさんに注目していたランドが、その変化に声を上げた。

 右拳をシュシュッと2連打。


「むっ、なんだ?」


 怪訝な表情で首を捻るランド。


「やけに力のこもっていない拳だな」


 ボクシングのジャブを知らなければ、そう見えてしまうようだ。


「それにどうして攻撃の手を止めるのだ?」


「距離を測りましたね」


 カーラが言った。


「ああ」


「なにぃ?」


 首を巡らせ、こちらを見るランド。


「どうしてそんなことをする必要があるんだ」


「そりゃあ有効な一撃を入れるためには正確に距離を把握しておかなきゃな」


「そういうものか?」


「打撃が前後にズレるだけで威力は削がれるぞ。

 相手だって動かない的じゃないんだから場合によっては空振りすることもあるしな」


 そういうのを防ぐためにも彼我の距離を正確に把握することは大事だ。


「目測じゃいかんのか?」


「そういうのを誤魔化すテクニックがあるんだよ」


 禿げさんがランダムに上半身を動かすのもそのひとつと言える。


「ううむ」


 ランドが唸りながら試合の方へと目を向け直した。


「お? 動いたのか」


 ランドが振り向く前とは対戦する2人の立ち位置が変わっていた。

 禿げさんが横に回り込むように移動したからだ。


 そして、再び軽いパンチを今度は3連打した。

 更に横に回り込む。


 それに対してウルメは正面から向き合うように体の向きを変えるのみ。

 まだ禿げさんの拳が当たる距離ではないために躱す素振りも見せない。


「彼奴は、やる気があるのか?」


 今度はツバイクの方を見て問いかけるランド。


「そう言われましてもね」


 ツバイクは苦笑するだけだ。


「ウルメの戦い方は私では理解が及びませんよ。

 現に前の2試合は展開が読めませんでしたし」


「むう……」


 ツバイクの言葉にランドは返す言葉がないようだ。


「やる気がないようで、ちゃんと勝っているじゃないですか」


「それはそうだが……」


 たじたじになりながらも、ランドは消化不良だと言いたげな顔をしている。


「今回の相手に対しても落ち着いていますし、大丈夫だと思いますよ」


「ふむ」


 不平を残していたランドもツバイクの言葉に落ち着きを取り戻したようだ。


「普段通り対処しているだけということか」


 このまま落ち着いて見ていてほしいものである。

 勝負はまだまだこれからだからな。


読んでくれてありがとう。

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