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1479 ウルメの予選・2試合目

 ウルメの対戦相手を観察してみる。

 右、左、と交互に正拳突きを放ちながら前に出てくるスタイルだ。


「左をもっとコンパクトにして積極的に使わないと」


 ルーリアがダメ出しをしていた。


「そうだな、攻撃が単調すぎるし」


 同意しながら更なるダメ出しをしたのはリーシャだ。


「交互にパンチするだけじゃリズムまで単調で読まれやすいだろうにな」


 具体的なことを言うレオーネ。


「おまけに連打のスピードも残念な感じだよ」


 そして、リオンが続く。


 連打している割にボクシングのジャブという感じはしないから無理もない。

 どちらかというと空手家のイメージか。


 ただ、腰の入ったパンチは1発もないけどね。

 どうも本来のスタイルとは違うようだ。


 足捌きなどを見ると一撃必殺を信条とするようなタイプに思える。

 ルールの束縛があるから、それに合わせて戦い方を変えている訳だ。

 そうしなければならないのは窮屈な思いをしているのではないだろうか。


 が、そこは仕方あるまい。

 一撃必殺は狙えないからな。

 あばらなんかの折れやすい骨を折って反則負けになっては意味がない。


 しかしながら、対戦相手には余裕が感じられた。

 笑みを浮かべてすらいるのだ。

 あからさまな感じではないけれどな。


 それでも嫌みな雰囲気を感じ取る者もいそうだという程度。

 ウルメがひたすら躱し続けていることに焦りを感じているような様子は見られない。

 焦りを誤魔化すための芝居っぽさもない。


『ウルメがギリギリで見切って躱していることに気付いていないのか?』


 ワンパターンで読みやすい攻撃をしているという自覚はなさそうである。

 そのあたりはウルメが上手く誘導しているというのもあるだろう。

 ライン際にジワジワ追い込まれるような躱し方をしているからな。


 そして、ある程度ライン際に近づくと完全に横へ抜けてしまう。

 その瞬間だけ意図的に泥臭い動きをしていた。


『役者だねえ』


 本戦出場を果たすような選手に見られていることを想定しているのだろう。

 そこそこ回避はできるが足りないものがあると思わせたいようだ。


 この様子だと対戦相手のことは既に眼中にないのかもしれない。

 少なくとも目の前の対戦相手を同格以上とは見ていないはず。


 にもかかわらず対戦相手はすっかり騙されているようだ。

 ウルメが余裕で回避しているのを惜しかったと勘違いしているっぽい。

 連打していれば、いずれ場外に追い込めるとでも思っていそうだ。


「追い込み方が下手だ」


 ルーリアが「ダメだ、こりゃ」的な雰囲気を発しながら嘆息した。

 試合場が円形ということもあるからライン際に追い込むのは難しいものがある。

 ボクシングのようにコーナーに追い込むことはできないからな。


 そこを上手く利用しているのがウルメだ。

 このあたりは事前に特訓した成果が出ていると言っていいだろう。


 【教導】スキルで教え込んだ本来のスタイルではないがね。

 試合場に対する目配りの感覚を応用している訳だ。

 特訓を手伝ってもらったビルに徹底して叩き込まれていたからな。


 ちなみにビルはこの場にいない。

 単独行動中である。


「王族だらけの中に混じってたんじゃ楽しいはずの祭りも楽しめねえよ」


 とか言っていたな。

 だらけとビルが主張するほどだろうかとは思ったさ。

 ツバイクとハイラントだけだもんな。


 俺は色々ありすぎて感覚が麻痺しているから緊張せずに済むそうだけど。

 実に俺らしい評価のされ方だと思う。

 思わず苦笑が漏れそうになるほどに。


『っとぉ』


 どうにか【千両役者】スキルで歯止めをかけた。

 ニヤニヤしているところを誰かに気付かれて指摘なんかされたら恥ずかしいもんな。

 周囲の様子を【天眼・遠見】でチェックする。


『……………』


 どうやらセーフのようだ。

 ウルメの試合に集中するとしよう。


 そう、試合は終わっていないのだ。

 先程から同じことの繰り返しである。


 さすがに対戦相手の表情から余裕が消え始めていた。

 ウルメの方はというと、涼しい顔をしている。


「昨日と同じパターンだな」


「焦らして業を煮やしたところをガブリかい?」


 トモさんが聞いてきた。


「今のところは、そんな感じかな」


「あとは相手が思い通りに動くかどうかということか」


「時間切れになる可能性があるけどね」


「そっか、予選は小さめの砂時計で計測してるんだっけ」


「そゆこと」


「判定で相手の負けになりそうだね」


「どうかな」


 俺はトモさんの見立てに疑問を呈した。


「どゆこと?」


「攻める姿勢がないと判断されればウルメの負けになるだろう?」


「あー、そういう見方もできるかー」


「1発も当たっていないから余裕で去なし続けたという見方もできるけどね」


「うおーっ、どっちだぁ」


「さあ、それはあの審判のみぞ知るところだよ」


「そういう意味ではウルメさんは冷静ですね」


 フェルトが感心している。


「相手は焦り始めているのに表情ひとつ変えていませんよ」


「ウルメはあの若さで武術指南の補佐をしていますからね」


 ツバイクがちょっとドヤッた感じで言った。

 そう言えば特訓中にウルメ本人からそういう話を聞いたな。

 爺さんの後を継ぐために修行中であると。


「その割りに不格好な回避が目立ちますが」


 嘆息しながらツバイクが小さく頭を振った。

 ちょうど場外ライン際から抜け出すのにドタドタした躱し方をしていた。


「ああ、あれな」


「そうですよ。

 指南補佐が嘆かわしい……」


 肩を落としながらツバイクはふぅと溜め息を漏らした。


「ここにも騙されている人がいますね」


 エリスが苦笑していた。


「え?」


 ギョッとした表情でエリスの方を見るツバイク。


「どういうことですか?」


「彼はもう次の試合に目を向けているということですよ」


「はあ……」


 生返事になってしまっている。

 理解不能だったのだろう。


 助け船を出すとするか。


「本戦に出場するような者たちは偵察を怠らないぞ」


「あっ」


 どうやら、一言だけで気付いたようだ。


「じゃあ、早々に勝負を決めないのも意図的なものですか?」


「おそらくはそうだろうな。

 切り札的な技を持っていないと思わせる作戦なんだろう」


「ワシとしては、そういう試合展開は困るんだがなぁ」


 剣士ランドがションボリモードでぼやいた。


「もっと、こうバシーッとハルト殿の特訓の成果が見られるのを期待しておったんだが」


「それは対戦相手に言ってくれ。

 もっと気合いを入れて頑張れとな」


 まあ、気合いを入れたところで実力差を埋めることはできそうにないが。


「勝てば今日中に、もう1試合あるようだ。

 そっちに期待した方が良いかもしれないな」


「そうかもしれん、そうかもしれんが……」


 ランドがうんうんと唸り始めた。

 もはやウルメの試合はそっちのけである。


『おいおい……』


 呆れるほかはないのだが、見所のない試合を見ていても仕方がないのも事実ではある。


 その間も試合は続いたものの決定打にかける展開なのは変わらなかった。

 変わったのは対戦相手の表情くらいのものだろう。

 完全に余裕を失っている。


 こうまで躱し続けられるとは思っていなかったようだ。


「ダメなのが余計にダメになりましたね」


 リオンが苦笑いしながら俺の方を見た。

 もはや幼い子供の喧嘩なのかと言いたくなるような拳の繰り出し方である。


「スタミナ切れだろう」


 俺も苦笑しつつ返事をする。


「そうなんですか?」


 意外だと言わんばかりに目を見開いてリオンが対戦相手と俺を交互に見る。

 何故か引っ切りなしな感じでキョロキョロしている。


「落ち着きなさい」


 レオーネに言われて、ようやくキョロキョロが止まった。


「すべて空振りさせられてきたでしょ」


「あ、そっか。

 勝負の中で空振りが続くのは確かに厳しいかな」


 ミズホ組の面々だと、このあたりは大した負担にはならないのだが。

 標準的な冒険者っぽい対戦相手だと、この様である。


 結局、再びウルメをライン際に追い込んだ時の一撃で腕を取られたのが敗因となった。

 ウルメの仕上げは腕を引き込みながら体を入れ替えただけだ。

 その勢いのまま対戦相手は場外のラインを割り込んでいた。


 拍子抜けするほど呆気ない幕切れである。


読んでくれてありがとう。

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