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1478 ランド、祭りに翻弄される?

 結局、ランドは屋台の料理を買いそびれた。

 あと少しで買えるかなというところで俺たちが移動を初めたからだ。


 慌てて行列を抜けて追いかけてきたのは、どうかと思う。

 実に勿体ないことをしたものだ。


 一声かけなかったのは俺たちに非があるんだけど。


「買ってから追いかけてくればいいじゃんか」


「にゃにおーぅ」


 巻き舌で鼻息を荒くしてるオッサン。

 入れ込みすぎた競走馬じゃあるまいし。


「少しは冷静になれよ」


「慌てさせたのはどっちだっ」


 フンフンと聞こえてくる鼻息が鬱陶しい。


「そりゃ悪かった」


 一応程度ではあるが謝っておく。

 お互い勝手な行動をしたから一方のみが悪いとは言えない。


 ランドは勝手に飛び出したことを失念している。

 ただ、それを指摘したところで余計に揉めるだけだろう。

 だから一応とはいえ謝った。


 これ以上、興奮させると面倒なことになりかねないしな。

 本気で怒らせたい訳じゃないのだ。


 まあ、この程度で鎮静化するとは思っていない。

 現にランドの鼻息は荒いままだ。


 とりあえず悪化しなかっただけ良しとしておくべきだろう。

 あとはランドが落ち着くまで放置すれば時間が解決してくれるはず。

 一種の安全装置みたいなものだ。


 だから、ここでこの件に関して話を続けるのは微妙だと思う。

 思うのだが、俺は言葉を続けることにした。


 あまりにも勿体ないことをしてるから言いたくなってしまったんだよな。


「それはそうと列を抜ける時に状況判断はちゃんとしたか?」


「なに?」


 頭に血が上っているせいで思考が回っていないようだ。


『アンタ、王様だろう』


 ついつい内心でツッコミを入れてしまった。

 肩書きを忘れていられる時だから自分に制限をかけていなかったのかもしれないが。


 そんな調子でヘマをして正体がバレたらどうするつもりなのか。

 できる訳はないけれど、思わず問い詰めたくなったさ。


「自分の並んでいた位置を勿体ないと思わないのか?」


「勿体ないと思うから腹が立つんだっ」


 ランドがそう言うなり、ムプーと力強い鼻息が出てくる。


「だから状況判断したのかと聞いてるんだが?」


「む?」


 少しランドの勢いが削がれた気がする。

 怪訝な表情でこちらを見てくるだけで深く考えているようには見えないけどな。


「俺たちの目的はハッキリしてるだろう」


「屋台で買い食いすることだ」


「違ーよ、そっちはおまけだっつの。

 武王大祭の予選を観戦することだろうが」


「むう」


 渋い表情で唸るランド。


「思い出したか?」


「まあな」


 憮然とした表情で答えを返してきた。


「落ち着いて考えれば、何処へ行こうとしているのかも分かったはずだがな」


「……………」


 返事がない。


「誰の試合が目当てかもハッキリしてるだろう」


「ウルメという若者だな」


「それが分かっているなら俺たちの姿を見失っても合流できると思わないか?」


「うぬぬぬぬ」


 やり込められた感がタップリ込められた唸り声をランドが発した。


「子供じゃないんだ。

 状況判断してから行動しようぜ。

 俺たちに怒るのは後でもできることなんだからさ」


「ぐっ」


「あの屋台の料理は残念だったな」


 今日はもう食べられないだろう。

 再び最後尾から並ぶ気があるなら話も別だが。

 長らく待たされた状態を考えると気力が湧いてくるかは疑問である。


 それに加えて売り切れることも考慮しておかねばならない。

 無限に料理が出てくる訳じゃないからな。


「ううっ」


 ランドはガックリと肩を落とした。


「コレでも食べて元気出すニャ」


 ミーニャがラーメンもどきを差し出した。


「かたじけない」


 そう言ってラーメンもどきを受け取ったランドがもそもそと食べ始めた。


 すすって食べないのは、そういう習慣がないからだろう。

 他の西方人たちもそうだった。

 もちろんツバイクも含めてね。


 たったそれだけのことだが今更ながらにアウェー感がのし掛かってくる。


 まあ、俺たちの食べる姿を見て忌避されるような雰囲気にならなかっただけマシだけど。

 セールマールの世界だったらズルズル食べるのは日本以外じゃタブー視されるからな。


 ルベルスでは大丈夫なようだ。

 中には真似をしようとしていた者もいたくらいだし。


 上手くいかなくて首を傾げていたけどね。

 スースーという空気の音だけして麺が少しもすすれていないのは、何時か見た光景だ。


 ハッキリとは覚えていないが日本びいきの外国人がアップした動画だったと思う。

 麺がすすれるようになるまでの特訓風景だったか。


 だんだんと思い出してきたぞ。

 最初は上手くすすれなかったんだよな。


 それはラーメンもどきで挑戦していた者たちと同じだった。

 動画では毎日のように麺料理を食べていたので根性があるなと感心したものだ。

 そう簡単にはズルズルとすすれず失敗の連続だったけどな。


 ある日、なにかの拍子に上手くすすれた時の表情には笑ったさ。

 ズズッといった直後にギョッと目を見開くんだもんな。

 麺を食べてる途中で固まっているもんだから、なかなか面白い絵面になっていた。


 まあ、真剣に挑戦している相手には失礼かもしれないけど。


 その後はちゃんと麺をすすりきってから狂喜乱舞していた。

 なに言ってるか分かんねえ状態だったが、凄く喜んでいることだけは伝わってきたな。


 最後は「麺料理が3倍、美味しく食べられるようになりました」と締め括っていた。

 どうして3倍なのかが謎だったが、美味しいならノープロブレムだ。


「これは旨い!」


 そしてラーメンもどきはランドの口に合ったらしい。

 一言、発した後は黙々と食べていた。

 前を見て歩きながらだから、食べづらそうにはしていたけどな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 俺たちが予選会場に到着すると、ウルメが審判に呼ばれているところだった。


「いやぁ、ギリギリだったねえ」


 トモさんがハッハッハと声に出して笑った。


「途中で買い食いしようとするからギリギリなんですよ」


 反省してくださいとフェルトが頬を膨らませながら注意していた。


「まあまあ、いいじゃないの。

 こうして間に合ったんだからさ」


 珍しくマイカがトモさんの援護射撃に回っている。


「最初に買い食いに誘ったのはマイカちゃんじゃない」


 すかさずミズキにツッコミを入れられていたが。


「うへへ、バレたか」


 テヘペロ顔で誤魔化しにかかるマイカである。


「切っ掛けは確かにマイカだが、誰も文句は言えんだろうな」


「うっ……」


 ミズキがギクリと表情を強張らせた。


「せやな」


 アニスが同意する。


「皆も釣られて買い食いに走った」


 追撃するノエルさん。

 まあ、自爆行為でもあるのだけど。

 ノエルもドライフルーツを買い込んでいたからな。


 今も干し芋を飴をなめるような感じで味わいながら食べている。

 自爆しても気にならないらしい。

 間に合ったのだから問題なしと判断したのだろう。


 大半の面子はノエルのように開き直っているか気にしていないかだった。

 もしくはミズキのように気まずそうにしている流されて買い食いしてしまった者たち。

 リーシャとかマリアなんかがその口だった。


 文句を言っているのは道中で買い食いしなかったフェルトだけだ。

 そのフェルトも本気で怒っている訳じゃない。

 試合には間に合ったしな。


「おっ、始まった」


 試合開始の合図と共にウルメの対戦相手が動いた。

 両手で軽めのパンチを連打していく。


 ウルメはひたすら躱すのみだ。

 が、防戦一方という感じではない。


「速攻か」


 不意をつくというよりは主導権を握りたかったようだ。


「ほう、昨日よりも玄人好みの展開ではないか」


 剣士ランドが顎に手を当ててニヤリと笑う。

 確かに突進だけよりパンチを連打する方が相手を追い込むのは容易に思えるかもな。


 だが、ミズホ組の視線は冷ややかだった。

 一見すると対戦相手の方が圧倒しているように見えるが、そうではないからだ。

 見え見えの攻撃でウルメを場外のラインへと追い込もうとしている。


『そんな分かりやすい誘導で追い込める訳ないだろ』


 内心でツッコミを入れるまでもないのはウルメの対応を見れば分かる。

 ノーガードで回避しているからな。


 何の工夫もない左右の連打じゃ躱しやすくて当然だ。

 心理的なトラップを仕掛けているようにも見えないし。


 何がしたいのかと対戦相手を問い詰めたくなったさ。


読んでくれてありがとう。

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