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1473 突進オッサンと呼ばれる3人

「ねー、ハルー」


 怠そうな感じでマイカが声を掛けてきた。


「どうした?」


「ランドのオッサンが屋台に突進していったわよ」


 マイカの言う通りな状況だ。


 しばらくは田舎者丸出しな感じで周囲を見渡していた剣士ランド。

 まあ、このフュン王国の王ハイラントが扮した変装後の姿ではあるのだが。

 とにかくランドが何か強く興味を引く屋台を見つけたらしい。


 バビューンとか音が聞こえてきそうな勢いで突進していた。

 それこそ近寄る者がいれば弾き飛ばしてしまいそうな感じだ。

 ひとことで言い表すなら「まっしぐら」であろう。


 別にペット用の缶詰とは関係がないのだが。

 何故か思い出してしまったさ。


 まあ、こんなネタを話しても通じるかどうかは微妙なところだ。

 動画好きのうちの面子が相手でも、さすがにマニアックすぎるだろう。

 元日本人組でどうかなってくらいだ。


 なんにせよ、オッサンの突進ぶりは衛兵たちもギョッとしていたさ。

 泡を食って反射的に動きかけていたくらいだ。


 でなきゃマイカが俺にこの程度のことを報告してきたりはしない。

 テンション的には、たぶん大丈夫だと思うけどって感じだったが。

 万が一を想定して念のためということなんだろう。


 俺が気付いてなくてランドの正体が暴露されることになったらマズいもんな。

 保険をかけた訳だ。


 まあ、その点は心配ない。

 俺も【多重思考】スキルで呼び出したもう1人の俺たちで確認していたからさ。


 近場も離れた場所も徹底して監視してますよ。

 トラブル即解散だからな。


 全力で遊ぼうとしている時にそれは嫌すぎる。

 面倒事は徹底して回避だ。


 え? やりすぎ?

 抜かりがないと言ってほしいな。


 なにしろ[トラブルサモナー]の称号持ちなものでね。

 これがないなら確かにやりすぎだとは思うけど。


 とにかく、剣士ランドの突進は何のトラブルにもならなかった。

 場合によっては理力魔法で転ばせるとかして阻止するつもりだったが使わなかったし。


 衛兵たちもランドが行列の最後尾に並んだのを見て途中で動きを止めていた。

 同僚に向けて苦笑している衛兵もいたくらいだ。


「とんだ田舎者だな」


「その割りに行儀はいいみたいだぞ」


 なんて和んだ雰囲気で話していたし。


「変な奴だよなぁ」


 笑いながらそんなことを言う衛兵。

 蔑む感じじゃないけど、自分たちの王様だと知ったらどんな顔をするのだろうか。

 ちょっと暴露したい誘惑に駆られてしまった。


「ああいうのは根が真面目なのが多い」


「言えてる、言えてる」


 一応はちゃんと人物を見極めているようではあるが。


「自分から問題は起こさんだろう」


「だが、油断はできんぞ」


「そうかぁ?」


「カモにされてトラブルに巻き込まれることは充分に考えられる」


「あー、確かに悪さをする連中の格好の的になりそうだな」


「念のためにマークしておくか」


「いや、やめておこう」


 相棒の提案を否定する衛兵。


「いいのか?」


 訝しげな表情で聞き返す相棒。


「どうやら連れがいる」


 目線で衛兵が合図を送った。


「ほう」


 相棒もさり気ない動きで確認する。


「確かにいるな……

 腕利きの仲間が何人かってところか」


「それに護衛対象の商人」


「おいおい、護衛対象をほっぽり出して屋台の行列に並ぶなよ」


 相棒氏がたまらず失笑していた。

 派手に笑った訳ではないがね。


 それでも職業意識が働くのだろう。

 どうにか笑いを堪えようと手で口を塞いだりしていた。


 周囲から見れば挙動不審だったけどな。

 衛兵でなければ通報されていただろう。


 それはさておき、マイカの忠告に無言を貫く訳にもいくまい。

 俺は衛兵たちの方から視線をランドの方へ向けて口を開いた。


「衛兵は大丈夫みたいだぞ。

 本人も行列に並んだみたいだし」


 ということで放置しているのだが。


「ちょっ!? ……いいのかしらね?」


 焦った様子で本当にいいのかとマイカが確認してきた。

 目力が凄い。

 つい今し方の怠そうだった時の雰囲気とはまるで違う。


「いいのかって、何か問題あるか?」


 ランドが凄い勢いで並びにいったのは事実だが、それしかしていない。

 誰かを押し退けたというならトラブルになっていたとは思うがな。


 そんな真似をするオッサンじゃないのは分かっている。

 まあ、圧倒されたせいで一瞬だが並ぶのを躊躇した人は何人かいたみたいだけど。


 そういう人たちも普通に並んでいるランドを見て苦笑していたし。

 ランドには威圧感のある大剣を背負わせたがビビっている者の姿は見られない。


 行儀良く列の順番を守っているからだろう。

 中には微笑ましく見ている人もいた。


 これを問題視するのは、よほど神経質な者だけだと思うのだが。


 そういうのはマイカの性格からすると考えづらい。

 何か俺が気付いていない他の問題があるのだろう。


「ハルがいいって言うならいいけどさー」


 呆れた感じで小さく嘆息しながらマイカが言った。

 どうやら些細なことのようだ。

 人によって感じ方が違うっぽいけど。


「それだと待たされるわよ」


 本当にいいのかと言いたげな目で見てくるマイカ。


『あー、そういうことか』


「近場では一番人気の所に並んでるみたいだからねー」


 ミズキがマイカの懸念を補足してくる。

 確かに2人の言うような状況になっていた。


 まあ、そのあたりは仕方あるまい。

 個人で行動するなら好きに動けるけどな。


 今日は皆で団体行動すると決めているからこそのマイカの懸念だったようだ。

 でないとランドが想定外の動きをした時にフォローする面子が足りなくなりかねないし。


 もちろん、そういうデメリット的なことだけじゃない。


「団体行動にも良いことは色々あるんだよ」


「どういうことよ?」


「ランドが時間のかかる行動をするなら、俺たちもその時間を利用すればいい」


「そういうもの?」


「そういうものさ」


 そう返事をして俺は──


「黒猫さんチーム」


 黒猫3兄弟を呼んだ。

 ススッと3兄弟が俺のそばに寄ってくる。


「「「ははっ」」」


 畏まった様子で横一線に並び立った。

 これが広い場所ならしゃがんで片膝をついてるかもしれん。

 凄くやる気に満ちているんですが……


 この調子だと呼ばれただけで仕事だと思い込んでいる節があるな。

 ある意味、その通りなんだけど。


「今日はお祭りで遊ぶ日だから、堅苦しいのはなしな」


 周囲の目もあるし、と付け加えたら3人とも目を白黒させていた。


「「「もっ、もう──」」」


 申し訳ありませんと言おうとしていたのだろうが、止めた。


「だから、そういうのナッシングでね」


「「「はい……」」」


 ションボリと落ち込む3兄弟。

 堅苦しいのはなしと言われた直後にやらかしそうになったのでは無理もないか。

 役に立ちたい気持ちが先走りしているせいなんだろうけど。


「ちょっとお使いに行ってきてほしいんだが」


 この一言だけで3人ともパアッと表情を明るくさせていた。

 ショボーンと肩を落としていたのが身を乗り出さんばかりになっているからな。

 苦笑を禁じ得ない。


 俺だけじゃなくて周りの皆も。

 ついでに言えば、衛兵の何人かも。

 ちょっと注目されてしまったようだ。


 まあ、ランドのことで多少は目をつけられてしまったっぽい。

 要警戒って感じじゃなさそうなので、俺からは何もしない。


「そことそことそこの──」


 ひとつひとつ屋台を指差していく。


「屋台に並んで買ってきてほしいんだが」


 要するに使いっ走りだな。


「「「イエッサー」」」


 いい笑顔で返事をしてビシッと直立する3兄弟。

 これは先程までと違ってノリでやっているようなものだ。


 敬礼はしていないしな。

 おふざけのノリも感じられるので許容範囲ってことでいいだろう。

 簡単なお仕事レベルなのにやりたくて仕方ない感じでウズウズしている。


「よく売れているものを数人分ってとこかな。

 気になったものがあれば、それも買ってきてくれるか」


 そう言いながら3人にお金を手渡した。


「では、行くのだ」


「「「御意」」」


 返事に統一感がないのは御愛嬌。

 3兄弟のお遊びだからな。


「こういうタイミングを利用して人海戦術が取れると言いたいのね」


 マイカが溜め息をつきながら言った。


「そういうこと」


読んでくれてありがとう。

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