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1466 王様の変装は大迷惑

 ウルメは危なげなく予選で1勝目をあげた。

 他の参加者と違って勝ち誇るようなこともなく淡々と試合場を去る。


 試合に対する意気込みには、かなり熱いものがあったのだ。

 故に小さくガッツポーズくらいはするかと思っていたのだけれど、それもなかった。


『クールだねぇ』


 まだ先は長いからというのもあるのだろう。

 ひとつ勝ったくらいで本戦出場となりはしないし。


 あの様子では油断などしていないだろう。

 勝って兜の緒を締めよという心境なのかもしれない。


「この様子なら教えなくても勝ち進んだか」


 ウルメは何ひとつ教えたことを実践していなかったが、これは正しい選択だ。

 手の内を見せないのも勝ち進むコツと言えるからな。


 そういう作戦のようなものは何も教えてはいなかったのだが。

 本人が考えて行動しているってことだろう。

 それでいいと思う。


 これはウルメの戦いだ。

 誰かの言いなり状態で勝ち進めたのだとしても意味はないだろう。


「伝授したコツに頼ることなく勝ったようだな」


 俺の言葉からそれを察したハイラントは残念そうにしていた。


「そのあたりは次の対戦に期待しましょう」


 ツバイクがフォローする。

 が、その言葉を聞いてハイラントは逆にションボリと落ち込んでしまった。


「次は明日以降だ」


 もはや見所はないと言わんばかりである。

 地元の記念参加者ばかりだから無理もないんだけどね。


 大半がへっぽこな試合になるのは目に見えている。

 どちらかが実力者でもワンサイドゲームになるだけだし。


 実際、そういう試合展開ばかりであった。

 退屈である。

 明日は何としても屋台を楽しむぞ!


 え? 予選があるだろって?

 ウルメのだけチェックしておけばいいさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ウルメの予選1戦目が終わった翌日。

 俺の目の前に小汚い浮浪者風のオッサンがいた。


 髪はボサボサでヒゲは生やし放題。

 着ている服はボロボロで鼻をつく臭いすらした。


 そのくせ偉そうに胸を張って堂々としている。

 普通は滑稽に見えるものなんだが、変に威厳を感じてしまう。


「フハハハハ! これならば完璧だろう」


 浮浪者風のオッサンが言った。

 まあ、ハイラントなんだけどさ。


 普通は王城内にこんな小汚いオッサンがいたら侵入者として取っ捕まるに決まってる。

 運が悪ければ斬り捨て御免だ。

 そうなっていない時点で関係者なのは誰の目にも明らかだった。


 まあ、ツバイクなんかは──


「もしかしてフュン陛下ですか?」


 と半信半疑な感じで聞いていたがね。


 あの様子じゃ、場所が違えばハイラントだとは気付かなかっただろう。

 それだけ変装の完成度は高かった訳だ。


 ここまで徹底するとは予想外だったさ。

 完全にやりすぎだけどな。


 というより方向性を間違えている。

 TPOを考えろと小1時間は問い詰めたい気分だ。

 故に採点は容赦ナッシングで行く。


「0点」


 加点要素が何もないからな。

 変装が見事であるのは事実だ。


 だが、目的を完全に無視していては意味がない。

 独善的すぎるのだ。


 人の話を聞かないというか何というか。

 このオッサンが天然であるのは、このあたりが原因なんだと思う。


「ぬわんと!?」


 大袈裟な身振りつきでハイラントが驚いた。

 それだけ自信があったのだろう。


 が、他の皆はその自信のほどに驚かされていた。

 認識が食い違いすぎて話にならない。


「むしろ、マイナス100点と言いたいくらいだ」


「何故だっ!?」


 驚愕して吠えるハイラント。


『何故かだって?』


「「「「「坊やだからさ」」」」」


 元日本人組だけじゃなくミズホ組全員で言ったさ。

 クオリティはまちまちだが銘々が真似をしている。

 綺麗にそろっていたことでハイラントだけでなくツバイクも目を白黒させていた。


 まあ、元ネタを知らないんじゃ仕方あるまい。

 ミズホ国では定番となりつつあるけれど。


 まあ、身内ネタはお寒い状況を呼ぶだけだ。


「その格好を完璧という時点でお子様だと言ってるんだよ」


 故に適当な理由で誤魔化しておく。


「そんなバカな……」


 ハイラントが愕然とした表情で固まってしまった。

 ミズホ組全員から言われてしまうと、さすがに厳しいようだ。

 少々のことでは動じない天然系大雑把王も数で攻め込まれては抗しきれないみたい。


「そんな格好で人前に出たらどうなると思うんだ?」


「む?」


 その発想がなかったらしい。

 ハイラントは指摘されて初めて気付いたような顔をした。


 そして今更のように首を捻って考え始める。


「「「「「はあ─────っ……」」」」」


 皆で一斉に長い溜め息をついてしまった。


「いくら見た目を誤魔化せても、祭りの会場からつまみ出されるっての!」


「なんとっ!?」


 そんなことは予想だにしなかったとばかりに驚愕しているハイラント。


『ウソだろ……?』


 そこまで想像が及ばなかったとは信じ難いにも程がある。

 ハイラント以外の全員がそのことに驚いていた。


 フュン王国の面々ですら「マジで!?」って顔をしていたからな。

 俺たちを驚かせるための冗談か何かだと思っていたのかもしれない。


「汚い、臭い、みすぼらしい、の三拍子だぞ」


 皆が一斉に頷く。

 だが、ハイラントの眼中にはないらしい。


「完璧な変装ではないか」


 胸を張って堂々とこんなことを言うくらいだからな。


「変装が完璧でも祭りが楽しめなくなったら意味ねえだろうが」


「何故、楽しめない?」


 不思議そうに聞いてくる。


「─────っ!」


 これだから天然脳は厄介だ。

 今の質問だって本気で言ってるとしか思えない表情だし。


「鼻が曲がりそうになる臭気を漂わせている時点でアウトだ、アウト」


 ハイラントが呆気にとられている。


「どうしてだ?」


『マジで言ってるのか?』


 二度見の感覚でマジマジとハイラントを見てしまった。


 が、本人は大真面目である。

 本当に理解できないと顔に書いていた。


「この匂いがあるから視線を集めずに済む。

 見られなければ変装がバレることはないぞ」


 どうだ、完璧だろうとハイラントはまたしても胸を張った。


『うわぁ……

 マジだよ、この人』


 もはや呆れを通り越して感心すらしてしまう。


「大祭の会場は屋台もたくさん出ているだろうがっ」


「ん?」


 またしても首を捻って考え込むハイラント。


「おおっ」


 じきに理解したとばかりにポンと手を打ったのだが。


「この臭いでは屋台のものがマズくて食えんな。

 せっかく変装したのに楽しみが半減するではないか」


 ズドドドドッ


 皆が一斉にズッコケた。


『何処かズレてるんだよなぁ』


 意図的にボケてるのかと思うくらいだ。


「それ以前の問題だっ」


「え?」


「屋台のエリアには絶対に入れてもらえないからな」


「はて?」


 俺の返答にハイラントは意味が分からないとばかりに首を傾げた。


「その臭いは他人も嗅がされるんだぞ。

 誰も近寄りたいと思わんだろうがっ!」


 つい語気が強くなってしまったさ。


「いや、普通に近くにいるぞ」


 周囲を見渡すハイラント。

 俺たち以外にも護衛や使用人が控えてはいる。

 変装を手伝わされた面々には同情を禁じ得ない。


「アンタは王だろうがっ。

 離れたくても離れられんっての。

 仕事じゃなかったら逃げ出してるぞ」


 ここまで具体的に指摘して──


「おーっ、そうだったのかぁ!」


 ようやく納得したらしい。


『疲れるオッサンだぜ……』


 既に疲れている気がするんですがね。

 体力的なものはともかく、メンタルが大幅に削られたのだけは間違いない。


 これから遊びに行こうって時に、この仕打ち。

 ほとんど嫌がらせである。


 まあ、向こうにそんなつもりは微塵もないのだが……

 だからこそ質が悪いったらありゃしない。


『迷惑、極まりないぞぉ!』


読んでくれてありがとう。

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