表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1477/1785

1464 オッサンは面倒くさい

『ドウシテコウナッタ』


 ハイラントの隣に座って武王大祭の観戦ですよ。

 厳密に言うと、初日だから予選なんだけど。


 本戦で使われる円形舞台のような試合場は使われていない。

 その周囲に舞台よりも小さめの円が幾つも描かれた場所で予選が行われていた。

 舞台と違って落ちることはないので場外の判定が甘くなるのは仕方あるまい。


 が、そんなことは些細なことだ。

 気になるのはハイラントとは反対側にあるツバイクの席、でもない。


「いやあ、特等席ですね」


 俺と違ってツバイクは喜んでいる。

 まあ、特等席には違いあるまい。

 王族専用の観覧席なんだから。


 そこが俺としてはもっとも気になるところであった。

 そして、大いに不満だ。


「勘弁してくれ」


 物見櫓みたいに高い所から見下ろす格好になっているのがね。


「何がです?」


 ツバイクが不思議そうに聞いてきた。


「どう見たって注目の的だろうが」


 選手たちからも見物客からも丸見えである。

 元ぼっちの俺にとっては拷問でしかない。


「ハハハ、そこは仕方ありませんよ」


 ツバイクは平気そうにしていた。

 さすが生まれながらの王族は違う。

 大勢から見られることに慣れてらっしゃいますよ。


 不幸中の幸いなのは、他国の王族や代理がいないことぐらいか。

 初日は予選しかやらんからだろうな。

 退屈だと知れ渡っているから決勝だけ見に来るのが常態化しているみたい。


 それで付き合いの義理を果たそうって訳だ。

 興味のない者にはそれでも苦行なんだろう。

 ハイラントの話によれば、貧乏くじを引かされたって顔で観覧する者が多いらしい。


「ちょうど今のハルト殿のような顔をしておったわ」


 フハハハハと笑いながら言われてしまった。


「俺は不特定多数に注目されるって好きじゃないんだよ」


「そういう者もいるとは聞いたことがあったが、実際に出会えるとはな」


 ハイラントには何故か御機嫌な笑顔つきで言われてしまった。


「賢者ってのはそういうもんだ」


 自棄クソでうそぶいておいた。

 そしたらハイラントとツバイクの両名に呵々大笑された。


「だから目立ちたくないんだって言っただろう」


「今更だ、諦めろ」


「そうですよ、そのうち慣れます」


 ぼっちはぼっちを知ると言うが、逆もまた真なりだ。

 ぼっちでない者にぼっちの気持ちを知ることなどできないのである。


 言っても無駄なら実力行使あるのみだ。

 とはいうものの2人に喧嘩を吹っ掛ける訳じゃない。

 認識阻害の魔法を弱めに使って視線を向けてくる面々の意識を俺からそらしただけだ。


 熱心に見ようとする者は特にハイラントの方へ流す感じでやっておく。

 可変結界の応用だな。


「俺は皆と露店を回ったりとかしたかったんだが」


 一応は抗議もしておく。

 でないと翌日以降もここで観戦することになりそうだからな。


「あー、そういえば……」


 ツバイクが罪悪感を滲ませた表情になった。


「それを忘れていました」


 ションボリしているが、今更だ。


「明日以降は付き合わんぞ」


 ここで釘を刺しておく。

 まあ、付き合いもある訳だし妥協案だな。


 今日はツバイクの顔を立てる。

 ウルメの試合を見て話を聞きたいと言っていたハイラントも納得するはずだ。


 大したことを教えた訳じゃないから予選の試合を解説するだけで充分だろう。

 教えた内容を予選で使うかどうかは知らんがね。


 明日以降は俺が自由に行動する。

 これでウィンウィンだ。


 え? 予選は今日明日で終わらないし本戦も複数日程だから俺の方が勝ちすぎ?

 これ以上、目立ったらお祭りが楽しめなくなるだろ。

 露店を回ろうとしても波が引くように人が避けていくとか嫌すぎる。


 認識阻害の魔法を強めにかければ大丈夫という問題でもない。

 出場選手の隙につながる恐れがあるからな。


 絶対に視線を外させる規模でやってしまうと、試合結果につながりかねない訳だ。

 故に強度をそのままに範囲を狭めればいいというものでもない。


 ギリギリ俺だけ意識を外させるなんてできれば苦労はしないのだよ。

 スイッチのオンオフを切り替えるみたいにやると不自然さが際立ってしまうからな。


 そこから何故か意識が向けられない方向があることに気付かれかねないし。

 徐々に意識が外れるようにして違和感を出さないようにする必要がある。


 弱めに認識阻害をかける時は特にそうだ。

 そうなると必然的に俺の両隣にいるハイラントやツバイクにも影響が及んでしまう。

 バランスが難しくて面倒なんだよな。


 ハイラント王を一目でいいから見たいと熱望する者だっているだろうし。

 この国の人間にとっては俺やツバイクはおまけだ。

 変に注目されても困るので認識阻害の調整は入念にしたつもりである。


 この国で自由に歩き回れなくなるのは勘弁願いたいからな。

 俺は観光で来ているんだ。

 後からハイラントが迎える来賓のような客人扱いは不要。

 だから視線はそのうち来るであろう来賓へ向けてほしい。


 まあ、お願いしても逆効果なので認識阻害の魔法を頑張った訳だけど。

 ダンジョンで魔物を相手にする時より気を遣ったさ。


 なんにせよ今日のところはこれで乗り切るとしよう。

 そう思っていたのだが……


「露店巡りは面白そうだな」


 顎に手を当ててニヤリと笑うハイラント。


「アンタが同行したらお忍びどころじゃなくなるだろうが」


「フハハハハ!」


 大口を開けて大笑いするハイラント。

 咄嗟に幻影魔法で誤魔化しましたよ。

 これ以上、目立たれたら認識阻害を強めないといけなくなるからな。


「そのあたりは何とかしよう」


 自信満々に言ってのけるハイラント。

 付いて来る気、満々である。


「おい」


 速攻でツッコミを入れたくなった俺の気持ちが分かってもらえるだろうか。

 分かってもらえると思いたい。


「どうしたんだ?」


「俺には連れがいるんだ」


「だから?」


「ハイラントの相手をしている暇はない」


「それはないぜ、兄弟」


「誰が兄弟だ! 誰がっ!?」


 ツッコミが加速していくのを止められない。

 しょうがないので【多重思考】スキルでもう1人の俺を呼び出したさ。

 俺がヒートアップしたことで観客たちの視線を集めかねない状況になったからな。

 幻影魔法で誤魔化してもらう訳だ。


 そうでもしないとハイラントとの応対でヘマをしてしまいそうで気が気でない。

 向こうは意味が分からないと言わんばかりのキョトン顔だからな。

 人類はみなきょうだいとか言い出しかねない雰囲気である。


『オッサンの天然とか誰得だっ』


 もちろん、俺にそんな趣味はない。

 あんなこと言われるくらいならセニョールの方がマシだ。

 確かスペイン語とかポルトガル語でミスターとかを意味する言葉だったはずだからな。


「何時、何処でっ!」


「おや?」


 俺の突っ込みを受けてハイラントが本気で悩み始めた。

 親しく話したら、その気になるとかチョロインも真っ青だ。

 くれぐれも言っておくが、俺にそんな趣味はない。


「とにかく俺は俺の身内の世話で忙しい。

 今日は付き合うが、明日からは自由にさせてもらう」


「そこを何とかぁー」


 今度は嘘くさい泣き落としでかかってきた。


『どんだけフリーダムな性格をしてるんだよっ』


 後ろにいる護衛を見たが、気まずそうに視線をそらされた。

 どうやら、こういうことは茶飯事らしい。

 ストッパー役の宰相とかいそうな気もするんだが、誰も止めないし。


「だが、断る」


「OH NOOOooooo!」


 騒がしくて堪らん。

 端から見ている分には面白いんだろうが、応対するとなると面倒くさい。

 ツバイクに丸投げしたくなったくらいである。


 さすがにそれは不義理というものだろう。

 もちろん、ツバイクに対しての話だ。


「そもそも来賓の応対とかあるだろうが」


 後ろで護衛たちが頷いていた。


「そういうのは宰相に任せておけば問題ないのだ」


「んな訳ないだろぉ」


 またも護衛たちが頷いた。


「そんなこと言うなよぉ」


 ハイラントが捨て犬のようなションボリ顔で見てきた。

 またしても何処に需要があるんだと言いたくなる目をしている。

 馴れ馴れしいというか何というか……


『勘弁してくれ』


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ