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147 つくってみた『バイク』

改訂版です。

 臨時休業が終わって日常が戻ってくる。

 このタイミングで新国民組にも妖精組と同じ仕事を割り振ることにした。


「ダンジョンは潜らなくていいのか」


 レイナにしては珍しく不安そうに聞いてくる。

 ダンジョン攻略のために訓練して潜ってという生活サイクルがいきなりガラッと変わればなぁ。


「タイマンで亜竜を倒せる奴が初級ダンジョンで何をするって?」


「レイナの気持ちは分かるけど今まで通りやったらアカンちゅうことやな」


「うっ」


 アニスにまで指摘されたレイナはタジタジだ。

 とはいえ、こんなやり取りができるくらいだからダンジョンにトラウマ抱えてた状態からは抜け出せたんだろう。


「そのうち西方に行ってダンジョン攻略できるようにはするさ」


「ええの?」


「よほどの話でない限り俺は国民の声に耳を傾けようと思ってる」


 アニスだけでなくレイナまで呆気にとられている。

 そんなに驚くことだろうか。


「ところで、ハルトはん」


「ん?」


「今日は何すんの」


「当面は物作りだな。今まで我慢してきたあれやこれやを作る」


「あれやこれやて何つくるつもりなん」


「バイクとか車なんかの乗り物だな」


「ふーん。ホンマに好きなんやなぁ」


「まあな」


「ほな、うちらは畑に行ってくるわ」


「おう」


 そんな感じでアニスたちと別れた俺はツバキをともなって城の敷地に建てた格納庫兼用の開発棟に来た。

 ここはその気になればジャンボジェットが何機も余裕で入る大きさだ。

 故に現状はガラガラで寂しいものである。

 まあ、大型のものを作っても亜空間倉庫に入れるから同じかもしれないけどさ。


 この広さだから隅っこでバイク作りを始めると寂寥感が……

 おまけに上手くいかないせいで、余計にションボリしてしまう。


「やはりモーターだな」


 作っては実験を繰り返しているが、安定した出力が得られない。

 俺のじゃなくてツバキの作った方がね。

 国内限定での普及予定ではあるけど、将来的に国民が増えた時のことを考えると皆が作れるものにしないと。

 廃れちゃ意味ないので技術の継承も必要だろうし。

 国民が増える目処はお察しくださいな状態だけどさ。


「これほど難しいとは」


 ツバキが唸っているが嫌気がさしたようには見えない。

 むしろ、やる気をみなぎらせている。


「コイルを巻けば巻くほど出力が落ちるとは思わなかった」


 ツバキは巻く方向だの回数だのと気にして色々と試しているが、結果は芳しくない。

 着眼点が微妙に違うんだよなぁ。

 試行錯誤することは良いことなのでしばらく黙っていたけど、そろそろ頃合いかな。


「均一に巻けていないんだよ」


「なんと、これでか!?」


 一見すると綺麗に巻けているように見えるのだけれど微妙にムラがあるのだ。

 そのせいで魔力が綺麗に流れず出力もガタ落ちになる。


「つまり山ほど巻く練習をしないといけないということか」


 深く息を吐き出すと同時に肩を落としている。

 今日どころか数日でものになるものでないということを理解したからだろう。

 これも修行だ。

 明日から頑張ってもらうとしよう。

 今日のところは別の方法で仕上げることを優先するけどね。


「では、アプローチを変えようか」


「他に方法があるというのか」


 目を丸くさせるツバキ。


「あるよ。コイルレスモーターにすればいいんだ」


「最初からそれにすれば良かったのでは?」


 怪訝な表情で聞いてくるツバキ。


「今みたいに作ってみないと分からない諸々があるだろ」


「だとしても回りくどいであろう」


「単に作って終わりじゃないんだよ」


「どういうことか?」


「技術ってのは理解せずに形だけなぞらえても身につかない」


 ツバキが軽くハッとした顔をのぞかせた。

 つい今し方の自分に思い至ったか。


「試行錯誤することも研鑽を積むことも何ら無駄ではないんだよ」


 技術の継承にはそういうプロセスが必要だと俺は思う。


「深いな」


 しみじみした様子で小さく頷いているツバキだったが。


「主よ、アプローチを変えるとはどうするのだ?」


「要はコイルを巻いた時と同じように魔力が流れればいいんだよ」


「魔道具化してしまうのか」


「正解」


「術式の記述がかなり高度になるな」


 西方人が見よう見まねでレプリカを作ろうとしても動作しないくらいにはね。


「主が作れば恐ろしいものができそうだな」


「そこまでの物にはしないよ。直線番長なバイクを作るつもりないし」


 広大な塩湖の上で行われる某世界最高速度競技会に参加するなら話は別だけど。

 苦笑して作業に戻ろうとしたところで、ふと思いついた。


「いっそのことホイールそのものをモーターにしてしまおうか」


「言っている意味がよく分からないのだが?」


「主は最初にチェーンもシャフトも使わず動力ロスを無くすと言ったよな」


「言ったな」


「モーターをホイールに直結させるのは既定路線だったのではないのか」


「それだとハブの部分がモーターになるだろ」


「む」


「俺のアイデアだとハブは回転しない。あくまでホイールを回すんだ」


「伝達ロスが無くなるな」


「合理的だろ」


「だが、激しい挙動の時にハブへダメージが入りやすくなるのではないか」


「ホイールを浮かせるんだよ」


「は?」


 斬新すぎたせいか説明不足なせいかツバキが鳩豆な顔になった。

 そこで幻影魔法で簡略化したイラストを投影して説明する。


「スポークを描き忘れているぞ」


 ドーナツ状の円盤の中心に軸が通されて浮いているイラストだから、そう思うのも無理はない。


「ハブとホイールは接触させないから、これでいいんだ」


「それが浮かせるということか」


 と言いつつも眉間にしわが寄っている。

 どういう原理でそれを実現させるのかを今までに得た知識の中から懸命に探しているのだろう。

 やがて……


「磁石か」


 そう呟いた。


「惜しい。磁性は持たせないけど発想はそういうことだ」


「しかし、これだと魔力供給のロスが大きくないか?」


 ハブから魔力がホイール以外に放出されることを懸念したようだな。

 が、それは仕組みを完全には理解していない証拠だ。


「磁性は持たせないと言っただろう」


「強制的に魔力の流れを作って磁界のようなものを形成させるのか」


「そゆこと」


 実は普通の魔法でも同じようなことが起きている。

 火球を発動させても術者が発生した火の玉に熱を感じないのは、そのためだ。

 それをもっと高度に制御することでアイデアを実現させる。


「それでも直結させた方が良くはないか?」


「これには別の機能も持たせるんだよ」


「別の機能?」


「サスペンションだ」


 ツバキが大きく目を見開いた。

 目から鱗が落ちたかな。


「反発力を生じさせることで浮いているから衝撃や振動が吸収されるのか」


「軽量化できるだろ」


「確かに。デメリットよりメリットの方が大きくできるかもな」


「デメリットが魔力のロスのことなら制御術式でクリアできるぞ」


 ゼロではないが無視できるレベルだし漏出分もフェンダーで回収すれば実質ゼロになる。

 まあ、本来のフェンダーは泥よけなんだけど。


「むう」


 一声唸ったツバキは腕を組んで考え込み始めた。

 己の中で消化しつつ自分の能力での実現性をシミュレートしているっぽいな。

 ならば口出しせずに待つべきだろう。


 その間に俺は亜空間倉庫内で作成していた試作型の模型を完成に近づけていく。

 実はホイールをモーター化するアイデアを思いついた時から【多重思考】スキルを駆使して作成していたのだ。


 本体はオフロードでタイヤは凹凸のないスリックタイヤにしたバイクを同時進行で2台作成した。

 モタードと言われるタイプのバイクだな。


 模型2台の差は後輪駆動か全輪駆動かというだけで外見的な違いはほとんどない。

 まぎらわしいので赤と白で色は塗り分けたけど。


 データを取るため、これを模型サイズに合わせた自動人形に操縦させてみることにした。

 倉庫から引っ張り出して自動人形に念話で指示を出す。

 指示を聞き終えると彼女らは敬礼し試作バイクに跨がった。

 そしてバイクは走り始める。


 シュイーン

 シューン


 静まりかえった格納庫内だからこそ聞こえる走行音。

 この段階から、わずかながらも2台の差が出た。

 モーターの数が違うからね。

 それは走りの上では如実に表れる。

 加速は全輪駆動の方が上だ。

 が、小回りはパワースライドも使える後輪駆動だな。

 普通に走らせても後輪駆動に軍配が上がるけど。


 全輪駆動車をベースに術式制御で駆動方式を切り替えれば良いとこ取りにできそうだ。

 問題は航続距離か。


 そのうち全輪駆動車が戻ってきて完全停止。

 モーターに負担がかからない路面状況だったから大きな差が出そうだ。

 思った通り後輪駆動車はその後も走り続けている。

 ここぞという時だけ全輪駆動にした方が良さそうだな。

 オミットしてしまうのは砂地とかの走行だと怖い。


「主よ、赤い方は何か特別な仕掛けをしているのか」


 いつの間にか思考の海から帰還したツバキに問いかけられた。


「いいや。赤い方は前輪も駆動輪にしていただけだ」


「それで差が出たのか」


「これを実物大にして結果がどうなるかだな」


 車重の関係で航続距離の差は縮まると思うんだけど、どうなることやら。


「では、私はこのサイズのものを複製するところから始めるとしよう」


 ツバキはごく微量の魔力を流して構造を把握しながら丁寧に分解していく。


「なるほど。シンプルで合理的な構造だ」


 そんなことを言いながらある程度まで分解すると、今度はそのまま組み立て直し始めた。


「これなら私にも作れそうだ」


 雑談を交えながら素材を用意して部品を自作していくツバキ。

 多少時間はかかっているが、丁寧に仕上げている。

 問題はなさそうだな。


 俺も試作バージョン2を作るとしよう。

 今度は完全にオフロード車にした。

 この程度の変更だと【万象の匠】スキルが作業時間を短縮させてくれる。


「もう仕上がったのか?」


 ツバキが作業の手を止めてしまうほどか。


「模型で2台も作ったからな」


「我が主は相変わらず呆れた御仁よな」


「我が事ながら同感だ」


 スキル様々である。


読んでくれてありがとう。

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