1456 パートナー
「ん?」
気が付けば、唖然としているウルメがいた。
「どうした?」
「馬より早い先触れって誰がどうやって……」
ウルメが感じていた疑問を口にした。
どうにか声を絞り出した感じだったけどな。
「あー」
ウルメが考えていることが何となく分かった気がする。
先触れ=早馬という式が固定概念としてこびり付いてしまっている結果と言えるか。
「そちらの誰かを単独で行かせる訳じゃないぞ」
「そうなのですか?」
目を丸くさせてウルメが聞いてきた。
やはり想像した通りだったようだ。
「練習もなしに操作できるはずもないからな」
それ以前に練習させるつもりもない。
この状況で急がせると事故につながりかねないしな。
ならば運転手をこちらで用意して送っていく方がいいに決まっている。
「今回、同行しているうちの面子なら誰でもできることだが」
「はあ」
ウルメはピンと来ないのか生返事だった。
自分のところの面子が行かずに先触れを出しても意味はないだろうと思い込んでいるな。
「誰が単独で行かせると言った?」
「え?」
「要するに送っていくと言っているんだ」
「ああっ!」
パッとウルメの表情が曇りから晴れに変わった。
ようやく俺の言いたかったことが伝わったようだ。
「誰か先触れに相応しい者を選出してもらう必要はあるがな」
「そういうことでしたか」
合点がいったらしく、うんうんと頷いていた。
「ああ」
俺も頷きを返す。
「それに関してはツバイク王子たちに提案しているはずだ」
人差し指で上を指し示しながら言った。
「ということは我々の中から人選されることになると?」
「当然だな」
でなけりゃ先触れとして受け入れてもらえんだろう。
それこそ、さっきビルが言ったように混乱を招きかねないからな。
「案外、王子が自らってこともあるかもしれん」
「まさかっ!?」
飛び跳ねそうな勢いでウルメが驚いていた。
他のアカーツィエ組もだな。
「門番も王子様の御登場となれば、つべこべ言わんだろう?」
「そっ、それはそうですが」
「それにジェダイトシティに来る時は魔物と遭遇した時に先陣を切ったと聞いたぞ」
「「「「「うっ」」」」」
アカーツィエ組が一斉に呻いた。
相変わらずの全身耳状態である。
そして微妙にガクブル状態だ。
どうにか我慢しようとしているように見受けられるのだが。
これは、おそらく自分たちの王に聞かれるとマズいとか思っているのだろう。
特に護衛を務める武官の面々はな。
「まあ、王子が行くかどうかは上の判断だ。
それ以前に、俺たちはそこまで提案はしないがな」
何かトラブった時が面倒だからね。
「王子が自分で思いつくなら話は別だが。
それとも、こういう大胆な策があると提案してみるか?」
そんなことする訳ないとばかりにアカーツィエ組が全力で頭を振る。
まるで水を被った犬がブルブルと体を震わせて水気を飛ばすかのようだ。
『そんなにアカーツィエ王は怖いのか?』
とは思ったが聞かない方が良いだろう。
ここでアカーツィエ組が変に畏縮されてもな。
向こうに到着した時に俺が誤解されかねない。
それに聞くまでもなく何となく想像がつくし。
ガンフォールと同じタイプなんだと思う。
要するに怒らせると怖いってことだな。
「それはともかく、だ」
延々とこの話が続いても困るので切り替える。
ウルメがシャキッと佇まいを正した。
ビルもボーッとした気のない感じから戻ってきたようだ。
「どうせ出場するなら勝ち上がりたいだろう?」
俺の問いかけにウルメが意外なことを聞いたかのように目を見開いた。
「それは、もちろんです。
色んな相手と手合わせができるなら、それに越したことはありません」
「おや、必ずしも優勝が目的ではないと?」
「目標はそうでないと勝ち上がれないでしょうね。
相手も必死なはずですし。
まして自分は初参加で武王大祭のことを体感で知っている訳ではありません」
「経験者が相手だと分が悪いか」
「ルールが厳しいですからね」
消極的な発言とも受け取れるが、自分の足元をちゃんと見ている。
「では、武王大祭に合わせた戦い方ができると考えていいな?」
俺の問いかけにウルメは考え込む。
深い意味を込めたつもりはないのだがストレートには受け止められなかったようだ。
一方でビルはジト目で俺を見てくる。
「……………」
俺が何を目的としてウルメに紹介したのかに気付いたのだろう。
そして、それは確かめるまでもなく正解だと思う。
あの目が語っているもんな。
俺に仕事を押し付けやがって、と。
だから俺は「何のことやら」と肩をすくめて流しておいた。
「もしかして……」
ウルメが呟くように切り出した。
「何かな?」
「彼の指導を受けろということでしょうか?」
ビルの方を見ながらウルメが言った。
『ほう、見ただけで実力差に気付いたか』
ウルメは若いが自尊心に振り回されてはいないようだ。
まあ、俺の方が実年齢的には若いんだけど。
「指導というか模擬戦のパートナーだな」
そう言うと、ウルメの目付きが変わった。
本気モードに入ったようだ。
「よろしくお願いします」
ビシッとした姿勢になって頭を下げた。
まさに武人といった佇まいである。
「いいけど、あんまり期待しすぎないでくれよ」
そう言いながら俺の方をジト目で見てくるビル。
「俺は武王大祭に出場したことないんだからさ」
「そうなのですか?」
ウルメが目を丸くさせて聞いている。
「ヒガ陛下が武王大祭に合わせた戦い方と仰っていたので……」
「要するに、ルールに準じた模擬戦をして少しでも慣れておけってことだろう」
「なるほど!」
目を輝かせてビルの言葉に納得しているウルメ。
対してビルの方は浮かない表情だ。
その目が語っていた。
「パワーレベリングするつもりじゃないだろうな?」
といったところか。
何でもかんでも力技で解決すると思われるというのは心外だ。
「ウルメは反則負けを回避したいよな?」
俺が声を掛けると、ウルメは虚を衝かれたようになった。
意外なことを聞かれたと感じたようだ。
「えーっと、はい」
一瞬だが返事に戸惑っていたくらいだ。
「おいおい、賢者様」
疑惑に満ちた目で俺を見てくるビル。
「なーんか変なこと考えてねえか?」
「変なこととは言ってくれるじゃないか」
「散々振り回されてきたからな」
「そりゃ、どうも」
「褒めてねえよっ」
ガーッと噛みついてくるが、サラッと流す。
毎度のことだもんな。
「賢者様の普通とか大丈夫って言葉ほど当てにならねえもんはないからな」
「今回はそこまでハードなものではないぞ」
「自覚があるのかよっ」
「さあ、何のことだろう?」
「認めておいてそれかよぉ」
唇を尖らせてツッコミを入れてくるがスルーだ。
ウルメが俺たちの漫才的な会話に入ってこられないからな。
「とにかく時間は短いが対策はやっておいて損はないぞ」
「対策……ですか?」
ウルメが首を傾げる。
「身につけておくのは損ではない技術と言うべきかな」
「よろしいのですか?」
呆気にとられた状態でウルメが聞いてきた。
技術と聞いて門外不出とかそういう言葉がウルメの頭の中を駆け巡っているようだ。
ビルは気にした風もなく俺の方を見てくる。
とにかく説明を続けろと言わんばかりであった。
「構わねえだろ。
賢者様は対策と言ったんだ。
てことは、武王大祭だけでしか通用しないってことだろうよ」
ビルがなかなか深読みしてくれる。
「そうなのですか?」
おずおずとウルメが聞いてきた。
「ああ、可能な限り骨折と流血を避けることができる戦い方だ」
対戦相手のコンディションにもよるため絶対ではないがな。
「そんな都合のいい戦い方があるなら俺が教えてもらいたいね」
「何を言ってるんだ、ビル」
「は?」
「大本になった戦い方なら知ってるはずだぞ。
というより、アイデアはビルの話を聞いて思いついたからな」
「何だとぉっ!?」
ビックリ仰天の大目玉な顔でビルは叫んだ。
読んでくれてありがとう。




