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1452 身内に聞いてみた

「ヒガ陛下のお勧めは空を飛ぶ方ですか?」


 ツバイクが聞いてくる。


「山岳地帯を移動するなら、そうなるな」


「ふむふむ」


「特に急ぐ場合は飛行機の方が都合がいい」


「我々は特には急ぎませんよ」


 ツバイクに苦笑されてしまう。


「送っていただくという話にも恐縮しているのですが」


 普通に考えれば、そうだろうな。

 最初は不要だと断られたくらいだし。


「そちらの人員に面白い男がいてな」


「はあ」


 ツバイクがよく分からないと言いたげな顔で生返事をした。

 急に話が変われば、そういうことにもなるだろう。


「その男を連れて行ってみたい場所がある」


「行ってみたい場所ですか?」


「ああ」


 俺はおもむろに頷いた。


「武王大祭だ」


「おおっ、そう言えば今年は開催の年でしたね」


 ツバイクも一応は知っているようだ。

 武王大祭そのものへの興味はそれほどでもなさそうだが。

 返事をした直後にテンションが下がったからな。


「理由は分かりました。

 そういうことなら遠慮なく送っていただくことにします」


 穏やかな笑みを浮かべながらツバイクが言った。

 物わかりが良くて助かる王子様だと思ったのだが。


「ただ──」


 話は終わりではなく続くようだ。


「ん?」


 何かしら条件があるのかもしれない。


「飛行機というのをお勧めされる理由は聞いておきたいですね」


 想定とは違ったためか拍子抜けしてしまった。


「馬や馬車も積み込んで移動できるからだ」


「おおっ」


 ポンと手を打つツバイク。


「全員で一緒に帰ることができると?」


「そういうことだ。

 平地でなら馬や馬車も積み込んで移動できる大型の自動車を用意できるがな」


「はあー、それは凄いですね」


 ツバイクはちょっと唖然としている。

 馬車を積み込める車があるとは思ってもみなかったのだろうか。


 それを言うなら輸送機は積み込んだ上で空を飛ぶんだけどな。

 あるいは自動車にバリエーションがあったことで驚いたのかもしれない。


「大きすぎて大山脈での移動には適さない。

 故に今回の移動が自動車になっても用意することはないさ」


「なるほど、別々に帰ることになってしまう訳ですね」


 ツバイクが頷きながら言った。


「荷物も人もまとめて一緒に帰るなら空を飛ぶしかない、と」


 ブツブツと呟き始める。


「だからこそヒガ陛下は飛行機なる乗り物を勧められたのか」


 そう呟いてから唸って考え込む。


「無理にとは言わないぞ。

 これはあくまで提案だからな」


「ああ、いえ、そうじゃないんです」


 ツバイクが苦笑しながら言った。


「どういうことだ?」


 俺には何がサッパリなんだが。


「飛行機を選ぶと自動車に乗れないな、と」


「そういうことか……」


 どちらも乗りたかったというのだろう。


「なら、一緒に来るか?」


「武王大祭ですか?」


「ああ、国元には飛行機で帰る。

 武王大祭の観戦は自動車で向かう」


「おおっ、それは魅力的な提案ですっ」


 随分と乗り気な様子を見るに、最初から乗り気だったのかもしれない。

 フェチのスイッチが入るほどではなかったけれど。


 あるいは乗ってしまえば、新たなフェチが発動する恐れも無きにしも非ずだが。


「ただ、武王大祭は開催期間がそれなりにあるだろう」


 だから10年に1回のイベントになるのだ。

 ビッグイベントだけに設営が大変だからな。

 そうそうマンパワーを使っていられない。


 毎年なんてことになったら、逃げ出す者も出てくるだろう。

 というのがウルメから聞いた話だった。


『規模がでかすぎだろう』


 それで世間的にはマイナーというのが信じ難い。

 神殿関係者や一部の武術好きの者たちには熱狂的なファンが多いそうだが。


 ウルメの爺さんは熱狂的ファンの1人のようだ。

 会ったことはないけど、なんとなくウルメの話を聞いている間に想像できたさ。


 話の後で、皆に聞いて回ったけど知っている者は少なからずいた。

 思ったほどマイナーでもないみたいだと認識に修正をかけている最中である。

 どの程度なのかは現状では何とも言えないところだ。


 例えば、ガンフォールやハマーは見に行ったこともあると言った。

 年の功ってやつだな。

 長生きしていれば話に聞くこともある訳で。


 観戦に行くかどうかは興味を持った上でタイミングが合うか否かによるけれど。


「一度、見れば充分じゃったな」


「ワシも親父殿と同じ意見だ。

 場外負けというルールに興を削がれた」


「それよりも審判の反則の見極めじゃ」


「確かに、あれもシビアすぎて話になりませんでしたな」


「大昔の大祭で反則が横行したせいじゃ」


「へえ」


 そういう細かな経緯まで知っているとは驚きだ。


「近年は観客も減っておると聞いておる」


 興ざめするほどでは無理からぬところだろう。


「あるいは揺り戻しで反則の規定が緩くなるようなルール改正があるかもな」


「もし、そうであるなら見に行くことも吝かではないんじゃがな」


「そうですか?」


 ハマーは興味が湧かないようだ。


「自分は楽しめそうにないですな」


 よほど場外のルールが気に入らないのだろう。

 ノックアウトこそ格闘の醍醐味と言いたいのかもしれない。


 まあ、何を好むかは人それぞれである。


「フン」


 ガンフォールが不機嫌そうに鼻をならした。


「誰も貴様には頼んでおらぬわ」


 が、そう言っただけでバイオレンスな結末にはならなかった。

 個人的な好みの問題に関わる話だからだろう。


 そして、2人以外にも詳しく知っていた面子というとルーリアがいた。


「気絶はもちろん倒れて10を数える間に立てなければ負けとなる」


「KO負けってことだな」


「それと反則負けの細かなところだけど相手を骨折させても反則と聞いた」


「何だ、それ」


 疑わしいといちいち試合を止めて判定が行われるのか。

 それは白けるよな。


「過去の大祭の出場者から聞いただけだから」


「へえ」


 詳しく聞いてみたところ、まだ1人で旅を続けていた頃に手合わせした相手だそうだ。

 その時の結果は引き分けだったらしい。


 で、次の大祭に出場してはどうかと誘われて色々と話を聞くことになったんだとか。

 観戦経験がなくても詳しくなるのは道理である。


 ちなみに流血させても反則になるようだ。

 骨折と違って見えるから分かりやすいけどな。


 それでも観客としては盛り上がりに欠けると思う。

 対戦している者同士もか。


 故意でなくても、流血した時点ですぐに勝ち負けが決まってしまうんじゃあな。

 ハマーが興味を持てない訳だ。


 他の面子にも聞いてみるとエリスが知っていた。


「武王大祭ですか?」


「ああ」


「懐かしいですね」


「懐かしい?」


「前回の大祭を観戦したんですよ」


「ほう、それで?」


「迫力には欠けますね」


「そうなのか?」


「強い打撃は反則に結びつきやすいですから」


「あー、ルーリアに聞いた。

 骨折とか流血とかでも反則になるんだってな」


「あら、あの子も観戦していたんですか?」


 エリスが意外な話を聞いたと言わんばかりに目を見開いていた。

 そりゃ、そうか。

 10年前だとルーリアは9才だったはず。

 エリスでさえ17才だからな。


『おっと……』


 一瞬だけど背筋がゾクッとしたぞ。

 これ以上、年齢のことを考えるのは危険なようだ。


『怖い、怖い』


 エリスは妙に勘がいいからな。


「前回の参加者と手合わせする機会があったんだと。

 その時に次の大祭に出ないかと誘われて色々と詳しい話を聞いたそうだ」


「これはいけませんね」


 オホホと誤魔化すように笑うエリス。


「早とちりしてしまったようで」


「そこは仕方あるまい。

 何も知らなきゃ、そんな形で詳しい話を聞いたりするとか思わんだろう」


「そうですねー」


 よほど恥ずかしかったのかエリスの照れ笑いが続いている。

 こういう時は寒気を感じたりしないのでありがたい。


 ちょっとレアなものを見た気分だ。

 可愛いというか尊いというか、そんな感じである。

 それを本人に伝えると、更にレアなものを見ることになったさ。


 人、それをクーデレと言う。

 何というか、可愛かったですよ?


読んでくれてありがとう。

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