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1449 ブルツェル家最強伝説?

 武王大祭の話は続く。


「あとは開催される時期も人気のない理由かと」


「春だっけ?」


 確かウルメはそう言っていた。


「いえ、そちらではなく……」


 ウルメが言い淀む。


「ん?」


 聞き間違いをした覚えはないのだが。


「春先に行われるのは事実なのですが……」


 どうやら春に開催されるのは間違いないようだ。

 ウルメが伝えたいことは何か別のことらしい。

 言葉を探しているが適切なものが見つからないといったところか。


 時期と言っているからにはスケジュールがネックになっている訳ではないと思う。

 開催期間が長いために敬遠されるのかと思ったりもしたんだけどな。


 1ヶ月近くも行われる神事とかだったら敬遠されてもおかしくない。

 それとも、期間内ならいつでも行ける感覚が根付いてしまって人が集まらないとか。


『ん? いつでも?』


 俺は勝手に毎年開催されると思っていたが、そういう情報はない。


「もしかして、何年かに1回のようなペースでしか開催されないのか?」


「そうですっ」


 やや興奮した面持ちでウルメが返事をした。

 すぐに元の表情に戻ったけどな。


「武王大祭は10年に一度、春先に行われます」


「そのペースだと一般人は興味が持ちにくいかもな」


 実際にそういうことになっているようだし。

 人々の興味が薄くてマイナーだから【諸法の理】先生も情報を集めていなかった感じか。

 滅多に行われないお祭りだと、それなりに盛り上がりそうなものだが。


『神事だって言うからなぁ』


 全体の雰囲気からしてお堅い感じなのだろう。

 子供が喜ぶような祭りではないことだけは確かだと思われる。


「そうですね、残念なことですが……」


「せめて賭け事ができれば人も集まるんだろうが、神事じゃ無理があるな」


「一応、神殿主導のものはありますよ」


「へえ」


 ちょっと驚きだ。


 が、神殿関係者だって予算は必要だろう。

 神殿の建物だって維持費はかかるし神官だって食べなきゃ生きていけない。


「寄付が前提で1試合に賭けられる金額に上限がありますが」


 大金がつぎ込めないように工夫されているみたいだな。

 神殿がボロ儲けしていると批判されないためか。


 それと破産するようなのを出さないためだろう。

 神事で身を持ち崩す輩が続出したのでは信仰に関わってきかねない。

 神殿の体面以上にデリケートな話になってくる。

 賭け金の上限設定は当然だと言えた。


 おそらく何度も並んで購入しても大丈夫なくらいの額で収まるはずだ。

 で、顔を覚えられるほど並ぶと賭けを断られるようになると。


「神殿が主催するならそんなものだろう」


 ウルメは返事をする代わりに苦笑で応じた。


「で、その神事に参加したかった訳か」


 最後まで聞かなくても分かることだ。

 この男の足さばきを見れば実力のほどは見て取れるからな。


「はい」


 落ち着いた口調でウルメは返事をした。


「日程的に帰ってからだと参加は無理なんだろう?」


「ええ、今年は我が国から最寄りの国で開催されるのですが……」


 聞けば、武王大祭は6ヶ国の持ち回りで行われるらしい。

 今年はアカーツィエ王国から最短で行くことができるそうだが。

 今から国に帰っても参加はおろか、最終日の決勝を観戦するのさえ難しいという。


「子供の頃に見た感動が忘れられず参加したいと思っていたのですが」


 ウルメは残念そうに肩を落としていた。


「前回の武王大祭は見たんだな」


「ええ、そうです。

 その前だと私は乳飲み子でしたよ」


 何がおかしいのかウルメはクックと喉を鳴らして笑った。


「いえ、失礼しました。

 その時も祖父が連れて行くのだと言い張ったらしいのです。

 結局、怒り狂った母が自分の父親である祖父を殴りに殴って寝込ませたそうですが」


「おいおい、バイオレンスな母親だな」


 自分の父親とはいえタコ殴りにするなど物騒である。


「まあ、赤子を旅に連れ出そうという時点で無茶でしたからね。

 誰も咎め立てはしなかったそうです。

 周りから何度も注意されていたにもかかわらず強行しようとしたんだとか」


「爺さんも無茶するな」


 まだまだ冷えの厳しい時期に乳児を連れて何日も旅をするとか何を考えていたんだか。


「それで母がキレて、という訳です」


 要するに爺さんが注意されていたにもかかわらず暴走して娘にぶっ飛ばされたと。


「自業自得だな」


 それ以外に言えることは何もない。

 寝込むまでタコ殴りにされたのも無理からぬところである。


 むしろ、永遠の眠りにつくことにならなかっただけマシと言えるかもな。

 母は強しってことだ。


「そうですね」


 ウルメが苦笑する。


「そんなに可笑しいか?」


「ええ、この話には後日談がありまして」


「ほう?」


「回復までに時間のかかった祖父は、その年の武王大祭を見逃してしまったそうです」


「尚のこと自業自得だな」


「そうですね。

 皆からも散々に言われたそうです。

 母や祖母はもちろん、親戚中から非難の嵐だったとか」


「それは針のむしろだな」


 ここでウルメが首を傾げた。

 むしろが分からなかったようだ。


 無理もないというか当然の話である。

 惑星レーヌじゃ存在しないブツだからな。

 分かるというなら、エスパーかホラ吹きかってことだ。


「おっと、スマン。

 一時も心の安まらない状態を言い表すミズホ国の言葉だ」


「そういうことですか」


 軽く説明しただけで納得してもらえたので助かったけどな。


「とにかく、相当に厳しく非難されたと聞きました。

 特に身内の女性陣からは人でなしのように言われたみたいですよ」


「そりゃ、そうだろうなぁ」


「反論や愚痴を言おうものなら何倍も言い換えされたとか」


「そういう状況で言う方がおかしいな」


「それが何年も続いたと」


「……反省してないな」


「自分もそう思います」


 とは言うものの、ウルメは楽しそうに笑う。


「未だに許されていないと事あるごとに愚痴っていますよ」


「そして、反省が足りないと言われ続ける訳だな」


「そうです」


 堪えきれないとばかりにウルメは喉を鳴らして笑った。


「母が機嫌の悪い時などは愚痴り始めた途端に投げ飛ばされていますね」


「おいおい」


 おっかない母親もいたものである。

 瞬殺レベルで投げ技を決めるのは容易ではないと思うのだが。

 同等の強さなら易々と投げられたりはしないものだ。

 双方の実力差が相当に開いていないと考えられないだろう。


 娘が無茶苦茶な強さなのか。

 それとも爺さんが弱いのか。

 情報が少ないが故に判断の難しいところである。


 ウルメが俺の考えを汲み取ってくれたのか──


「祖父は若い頃から今も武術指南役をしていますので決して弱い訳ではないのです」


 そんな風に教えてくれた。

 弱くないどころか、かなり強いだろう。

 どうやらウルメの母親の強さは桁違いなようだ。


「つまり、ブルツェル家ではウルメの母親が最強なんだな」


「そうなりますね」


 楽しそうにウルメは笑った。


 が、すぐに表情を暗くする。

 真顔に戻るまでの一瞬のことだったけどね。

 そんなに分かりやすい反応をされれば瞬間的な反応といえど見逃したりはしないのだよ。


「その様子だと家族が観戦予定だったのか」


「っ!」


 俺の言葉にウルメが言葉を詰まらせる。

 図星ってことだな。


「仕事では仕方がありません。

 目の前のことを全力で成し遂げるのみです」


 ウルメは頭を振った。


『だから先に愚痴ではないと前置きしたのか』


 ツバイクやその側近あたりに変な形で話が伝わると、面倒なことになりかねないしな。


 不満を抱いているだけならまだしも。

 叛意があって色々と画策しているとかバカなことを言い出す輩がいないとも限らない。


 何処をどうねじ曲げて解釈すればそうなるのかって話だが。

 悪意のある輩がいれば、そういうことは平気でするからな。


 まあ、結界と幻影魔法でブロックしているから他の誰かに伝わる訳もないのだけれど。


読んでくれてありがとう。

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