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146 つくってみた『自転車』

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 ツバキが物作りの手伝いをしたいと言うから了承したんだが。


「そ、そうか。これで有意義な休日になるな」


 返事をするまでに妙な間があった。


「実に意義深いことだと思うぞ、うん」


 説明くさい台詞に加えて顔が少し赤い。

 何かを企んでいるのかと勘繰りたくなる。

 ドッキリとか勘弁してくれよ。


「それで何を作るのだ?」


「そろそろ自転車を作ろうと思ってな」


「おお、あの車輪が2つの乗り物か」


 ツバキにしてはわざとらしい反応だ。


「あれは実に興味深いな。自分の力で走れる乗り物というのが面白い」


 やけに饒舌で何かを誤魔化そうとしているのは見え見えだが、追求しても答えないだろう。

 何か起きたら、その時に対処するってことで。


「とりあえず移動するか」


「うむ、心得た」


 食堂で作るのはNGな代物だからな。

 俺たちが移動を始めると新国民組と何人かの妖精組がゾロゾロとついてきた。

 残った面子は既に将棋やトランプなどで遊んでいる。

 既に外出した者たちは日向ぼっこだったりボウリングだったりと様々な休日の過ごし方をしている。

 見事にバラバラなんだが満喫してくれるなら、それでいい。


「ねー、陛下ー」


 ちょこちょこと俺の前に回り込んできたミーニャ。


「ミーニャも自転車に乗れるかニャ」


「「「「乗りたーい」」」」


 ミーニャの言葉に反応して子供組がハモる。


「そうか。だったら試作品は子供組のサイズに合わせよう」


「「「「「やったーっ!」」」」」


 ただし、日本の児童用の自転車をコピーして作るのでは面白みがない。

 故にミニベロと呼ばれる小径自転車を作るつもりだ。

 サイズ調整の幅を大きく取って大人も乗れるようにする仕様でね。


 体格差が大きいとクランクの長さが違ってくるから魔道具化するか。

 サスペンションもだ。

 折りたたみ式は試作で様子を見てからかな。

 妖精組が試乗するとなると強度とか必要になってくるし。

 場合によっては、補強のために魔道具化することになるかもしれん。


 国外で普及させる時は魔道具化した部分は削るほかない。


「最初からデチューン前提は嫌だなぁ」


「何か問題でも?」


 横に並んで歩いているツバキが聞いてきた。


「どうせ作るなら普及させたいだろ」


「外国に売ると?」


「いずれだけどな」


「ふむ。そういうのは後回しで良かろう」


「だな」


 まずは作りたいものを作るのだ!


「で、どういう仕様にするつもりなのだ?」


「最初はミニベロだがリカンベントとかも作ってみたいな」


「あの地面すれすれに寝そべるような3輪車のことか?」


「リカンベントは2輪もあるし、そこまで極端なのは作らないって」


 足を前に投げ出す乗車姿勢は共通しているが座ったり寝そべったりと多様な車種がある。


「まあ、アンダーハンドルにはしようかなと思ってるけど」


「座席の下から両脇にハンドルが出てくるやつだな」


「ああ」


「小回りがきかんだろう」


「そうだな」


 それだけでなく悪路走行や登坂も苦手だ。

 デメリットだらけに思えるが空気抵抗が少ないという利点もあるにはある。


「主が作りたいなら好きにすればいい」


「最初から作る訳じゃないぞ」


「まずはミニベロであったな」


「そうそう。とりあえずダウンヒル仕様のゴツいのにしようかなって」


「試作であろう? そこまでする必要があるか?」


「少しでも衝撃を吸収する構造にしておきたいからな」


 問題になるのはサスペンションのストロークだが、魔道具化して対応する。


「ふむ、乗り手の問題か」


「まあな」


 壊すつもりがなくても乗っているうちに壊れたなんてことがあるかもしれないのでね。

 それ以上に問題なのがタイヤだ。

 こっちの世界で普及を前提に考えるとチューブタイヤにはできない。

 どういう状況でパンクするか分からないからだ。

 魔物や盗賊に襲われている時だったら目も当てられん。

 そうなるとエアレスタイヤにしてメンテナンスフリーを目指す必要がある。


 同じような理由でチェーン駆動もよろしくないだろう。

 重量的には不利だけどシャフトドライブにすればチェーンが切れたり外れたりする心配がない。


 ブレーキはディスクブレーキを考えている。

 これも魔道具化することになるかな。

 国外で普及させる場合は別の方式にして魔道具部分は削るつもりなんだけど。

 まずは試作なので好きなように作る。


 そんなこんなで細かな仕様をツバキと打ち合わせつつ庭に出てきた。


「それでは早速始めようか」


 倉庫から必要な資材を引っ張り出す。


「パイプだな。ということはフレームからか」


「正解。専門用語ではチューブというそうだ」


 フロントフォークを差し込むヘッドチューブ。

 ヘッドチューブからシートに向かうのがトップチューブ。

 この部分はママチャリとかだと省略されている。

 クランク方向に向かうのがダウンチューブ。

 それらの末端をつなぐのがシートチューブ。

 チューブと呼ぶのはここまで。


 後輪方向へつながる部分はシートステーとチェーンステーだ。

 何故、呼び方が変わるのかは俺も知らない。

 これらの解説をしながらフレームの作成を始める。

 助手がいるからね。

 職人なら目で見て技を盗めとか言う人もいるようだが、俺はそういう主義ではない。


「主よ、トップチューブとダウンチューブの断面がおかしなことになっていないか?」


 ギリシア文字のシータ型もしくは日の字の角を丸めた感じになっている。


「自転車は上下動の力が大きいからな」


 横からの力にも負けないようにパイプの厚みを変えた上で内部に補強を入れてある。


「ふむ、強度を上げるのが目的か」


「皆が乗っても大丈夫なようにしておく必要があるからな」


 西方に持って行くなら簡素化できるだろう。


「これでどうだろうか、主よ」


 俺の手本を見ながら真似してフレームを錬成魔法で形成させたツバキ。

 手に取って確かめてみた。

 見た目は特に問題なかったが、すぐ問題点があることに気付いた。

 完璧にコピーするのは難しいようだな。


「うん、全体的に均質にできているな。初回ならこんなものだろう」


「やはり重いか。難しいものだな」


 渋めの表情でそんなことを言っているが、すぐに修正に取り掛かる。

 そんなツバキを見て俺と出会った頃は金属加工なんてできなかったと誰が思うだろうか。

 レベルアップの恩恵により色々とできることが増えたからな。

 【木工】や【鍛冶】を初めとしたスキルは、その代表格と言えるだろう。


 錬成魔法で金属を扱うと【鍛冶】スキルの熟練度が上がっていくのが謎だけど。

 カンストはしていないが、すでに上級者の領域である。

 故に俺から返却された自作フレームを即座に修正してみせた。

 この調子なら今日も熟練度が上がりそうだね。


「これなら問題ないな」


 俺がオーケーを出すと安堵と喜びの混じったような笑みを見せた。


「そんなに焦ることはないだろ?」


 失敗から得られることだってあるんだし。


「一番弟子としては、うかうかしていられない状況なのでな」


「?」


 妙なことを言い出したツバキの言葉に振り返ってみると──


「なるほど……」


 ギャラリーとしてついて来たはずの一同が錬成魔法で一生懸命に作業中であった。

 これに付き合うと今日1日では自転車を完成させられそうにない。

 可哀相だが仕事じゃなくて遊びだから今日の所は置いてけぼりにさせてもらおう。

 それでも色々と解説しつつ作業を進めて自転車を完成させた。


「試作機1号、完成だ」


「「「「「やったーっ!」」」」」


 皆、我が事のように喜んでいる。


「横から見ると動画で見たのとなんか違うニャ」


 ミーニャが漠然とした疑問を口にする。

 シャフトドライブにすると修理中か未完成のように見えてしまうせいだろう。


「きっとチェーンがないからなの」


 ルーシーが疑問に答えている。


「変速のギアもないよ」


 シェリーが補足した。

 これもシャフトドライブの恩恵と言うべきかスプロケットは使ってないからね。

 変速のための部品は後輪の軸部分であるハブの内部に入れている。


「思っていたよりスマート」


 ノエルがそんな感想を漏らした。

 解説の時にダウンヒルバイクの映像を見せたから、そんな風に思うのだろう。


「よしっ、できた!」


 子供組の感想を聞いている間にツバキも完成させたようだ。

 問題のない出来に仕上がっているな。

 試走させても大丈夫だろう。


「ツバキの完成させた自転車は子供組以外でジャンケンして順番を決めろ」


「「「「「おーっ!」」」」」


 喜びに沸く一同を尻目に──


「「「「「ジャンケ~ン」」」」」


 ジャンケンを先に始める子供組。

 そっちも順番を決めてなかったのか。


「「「「「ポン!」」」」」


 まあ、いいけどさ。

 とりあえず肩の力を抜いて横を見ると、ツバキが別口でジャンケンを始めた一団の様子を眺めていた。


「どうだった?」


「物足りぬ気がする」


「言うじゃないか」


「これはこれで面白いとは思うのは確かなのだ。ただ、もっと作りたくなってきてな」


「そういうことか」


「そういうことだ」


 互いにニヤリと笑みを交わしたところで──


「勝ったです」


 子供組のトップバッターはチーか。

 もう一方はルーリアに決まったようだ。

 シートの高さを調整して乗り方を説明する。


「頑張るです」


 チワワなチーが健気なことを言っているが、そんな大層なことをする訳じゃないんだけどな。


「なにか見られていると緊張するな」


 とか言いつつ、そんな素振りを見せないルーリア。


 そして2人が走り始めた。

 とても初心者とは思えない軽快な走りを見せる。

 レベル3桁は伊達じゃないってね。


 風を切って走る感覚が気持ち良いらしく両名共に笑っている。

 俺も初めて自転車乗ったときはあんなだったのかな。


「行っくよぉ~!」


 不意にチーが急加速した。


「おいおい、そっちは壁だぞ」


 ツバキがチーを呼び止めている。

 確かに壁に向かってまっしぐらだな。


「とうっ!」


 ギリギリでターンとかするつもりだろうかとか思ったら壁の直前で大ジャンプ。

 姿勢を起こして壁に着地した。


「忍法、壁走りの術!」


 そのまま落下することなく走り始めるチー。

 自転車でやらなくてもいいでしょうに。


「「「「「うお───っ!」」」」」


 皆はやんやの喝采である。

 その後、順番の回ってきた全員が壁走りをやったのは言うまでもない。


読んでくれてありがとう。

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