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1439 王子さん、いらっしゃい

 アカーツィエの王子ツバイクの挨拶がようやく終わろうとしていた。


『1人で何分もよく喋れるな』


 感心するほど喋りっぱなしだった。

 よく覚えていられるなというのが正直な感想である。


 まあ、一字一句まで記憶したのではないのかもしれないが。

 詳細ではなく概要だけを決めていたとも考えられるし。


 その場合でも、やはり感心してしまうんだけど。

 アドリブ能力が高いってことだからな。


 現にトモさんが──


「アドリブ合戦をすると面白そうだ」


 とか呟いているし。


「何のアドリブなのよ。

 うちのテレビ番組でゲスト出演でもさせるつもり?」


 すかさずマイカにツッコミを入れられていたのはお約束である。


「悪くない」


 トモさんは本気かどうかも疑わしい呟きで押収するし。

 姉弟で呟き合うとか勝手にカオスな空間を作り出している。


『勘弁してくれよ』


 同席しているのに他人事のように振る舞うのはね。

 ツバイクにはバレないようにやってくれているのだけが救いである。


 とにかく、テキストログを【速読】スキルで一気に読み込んでいく。

 何分もかかった口上も数秒とかからず頭の中に入ってきた。

 【多重思考・高速思考】で情報を整理するのも込みでの話だ。


『……………』


 内容も把握できた。

 大半がアカーツィエ王国のことだ。

 気候風土から入って産業につなげていたのが上手いと思う。


 ここまでは確実に練り上げたのだと分かる。

 後半部分とは差があったからな。


 なんにせよツバイクが話したかったのは産業についてだ。


 こういうのが盛んであるとか。

 苦手な分野があるので協力してほしいだとか。

 王国だった頃のジェダイトシティとの違いも把握した上での情報を出してたけど。


 要するに営業活動な訳だな。


 情報が古めなのは仕方あるまい。

 ミズホ国になってからは情報が伝わりにくくなっているからね。


 それよりも出せる限りの情報を出そうという姿勢が良い。

 ウソはなく隠し事もないというのは好感が持てる。


 だから互いに助け合おうという趣旨の話になっても拒否感がなかった。

 嫌な感じはまったくしないどころか、前向きで考えられるというものだ。

 できれば書類で渡してほしかったけど。


 あとはジェダイト王国からミズホ国へと変わったことの祝辞か。

 これについては当たり障りの無いようにという配慮がうかがえた。


 情報が不足しているので下手なことは言えないってことだろう。

 内壁が思った以上に仕事をしていたようだ。


 総じて思い込みによる発言を控えていたのも好印象だった。

 話が長くなるのは勘弁してほしいけど。


「今後ともよろしくお願いします」


 ツバイクが挨拶を終えた。

 あれだけ喋ったのに疲れを見せるどころか満足げな顔をしている。

 まずは最初の一仕事を無事に終えたという安堵があるのだろう。


『こりゃ、話を途中で遮っていたら機嫌を悪くしていたかもしれないなぁ』


 とはいうものの、俺としては回避したかったけどね。


 こうしてログを確認してみると内容が重複していて無駄な部分がいくつかあるし。

 事前に推敲はしたことは、うかがえるんだけれど。

 それでも後半に行くに従って微妙な個所がチラホラと。


 長文であるが故のミスだな。

 旅の間にずっと考えていたものと思われる。


 従者に内容を聞かせたりロールプレイしたりもしたはずだ。

 でなければ立て板に水を流すように喋り続けることなどできなかったはずである。

 たとえアドリブ混じりだったとしてもね。


『ミスなく終えられれば満足もするか』


 本人が思うほど完璧ではないのだが、それを言うほど野暮じゃないつもりだ。

 こういうのも経験を積み重ねて洗練されていくものだろうし。

 千里の道も一歩からと言うしな。


 ただ、俺がとやかく言うことじゃない。

 自分で気付かなければ劇的な改善は見込めないだろうし。


 相応の自尊心だってあるはずだ。

 ツバイクは若いしな。


 下手に指摘すると向こうの面目を潰すことにもなりかねない。

 今後の関係性を鑑みれば良くないだろう。


 まあ、今の年齢は俺の方が若いんだけど。

 拡張現実で表示させてみたが、26才だった。


 ガブローと同い年である。

 生真面目なところも似ているようだし、馬が合うかもしれない。


 今は諸事情により紹介できないが。

 晩餐の時には間に合うと思う。

 たぶん……


 無理だったとしても明日がある。

 ジェダイトシティの案内を任せても良さそうだ。

 合わない相手だったとしても、そこは経験を積む機会ということにしておく。


 先方からWinWinな関係を持ちかけてきているのだ。

 ゲームの理論で考えれば望ましい展開である。

 より細かく言うなら囚人のジレンマだな。


 互いに黙秘すれば刑期は短くて済む。

 互いに相手を売れば刑期は長くなる。

 一方が裏切ると裏切り者は刑に服することがない。

 裏切られた方の刑期は最大となる。


 割と有名な話だと思うけど今回の場合は囚人というのは適切な例えではないな。

 商売に置き換えるといいか。

 互いに協力すれば利益が上がるが、そうでないなら損をするってところだろう。


 一方が裏切るというのは詐欺を働くのと同じだな。

 詐欺はその時は最大の利益を生むかもしれない。


 が、確実に信用を失う。

 中長期で考えると損をする考え方だ。


 ならば選ぶべきは互いに協力し合うことだろう。

 コツコツと利益を出し続ければ短期で詐欺を働くより遥かに儲けられるのだ。

 時間はかかるが、長期の安定ほどありがたいものはない。


 現実はこんなに分かりやすいものではないけどね。

 だが、相手が手の内を見せてくれている状況で将来的にマイナスの選択は悪手だ。

 誰からも信用されなくなることを選ぶなど、あり得ない。


 惑星レーヌを征服してしまおうというのなら信用されるか否かは関係ないかもだが。


 生憎と俺はすべてを支配したいんじゃない。

 欲しているのは家族や友人だ。

 このところは友人に喧嘩を売ってくるバカが続いていたけどな。


 せっかく隣国が友人になりましょうと言っているのに蹴ってしまうのは愚かである。

 ガブローには頑張ってもらうしかないだろう。


 まあ、今はこの謁見を先に進めて終わらせるのみだ。

 ガブローの側近が王子から受け取った書状を渡してきた。

 アカーツィエ王からの親書だな。


 時代劇に出てくるような畳み方をしてある。

 紙質も見るからに和紙そのものだ。


 まあ、ミズホ国では和紙ではなくミズホ紙だけど。

 しかしながら、この紙はミズホ紙ではない。

 アカーツィエ王国には紙を輸出していないからね。


 ゲールウエザー王国やエーベネラント王国にもミズホ紙はほとんど輸出していない。

 普通紙とザラ紙だけだ。


 となると、この和紙はアカーツィエ王国が独自の手法で作ったものだろう。

 手に取ると違いが分かる。

 表と裏では触れた時の感触が明確に違うからだ。


 ミズホ紙は魔法で仕上げているので表も裏も均質である。

 しかも透けにくいように処理してあるので両面が使えるのが特長だ。


 障子紙には向かないけどね。

 THE遮断って感じで光の透け具合に風情がなくなるのだ。

 おまけに貼り付けにくいし。


 そんな訳で障子紙はオーダーメイドしているような状況である。

 滅多に使われないから少量生産でも問題ないんだよな。


 そんなあれこれを考えながら親書を読んでいく。


 え? またしても不真面目だって?

 こうしないと、あっと言う間に読み終わってしまうのだよ。

 【速読】スキルに慣れてしまった弊害と言えるだろう。

 不可抗力なので勘弁してほしいところだ。


 こんな考え事をしながら読んでいてもツバイク王子は驚いているからな。

 内容は挨拶の口上とほぼ同じだった。


『親子で同じとはね』


 ちょっとモヤッとした。

 アカーツィエ王は息子に新書の内容を伝えておいてくれと言いたい。


 そうすれば少しは王子の口上も変わっていたはずだ。

 どういう方針かくらいは話していたのだろうけど充分ではなかったものと思われる。


 が、別の側面から考えれば収穫ありとも言えた。

 親子で考えが一致しているなら国の方針として安定していると考えられるからね。

 友好関係は長く続くと考えていいだろう。


読んでくれてありがとう。

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